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(2000年5月 〜 10月)

 


<2000年10月>

 

「キャラバン」 HIMALAYA - L'enfance d'un chef
Director: Eric Valli
Producer: Jacques Perrin
Writers: Eric Valli, Olivier Dazat
Music: Bruno Coulais
Cast: Thilen Lhondup (Tinle), Karma Wangiel (Passang), Lhapka Tsamchoe (Pema), Gurgon Kyap (Karma), Karma Tensing Nyima Lama (Norbou)
Review: 北ネパールの奥地に住む人々を描いたフランス・ネパール・イギリス・フランス合作映画。フランスの俳優で、コスタ=ガヴラス監督の「Z」のプロデューサーとしても知られるジャック・ペランが製作している。監督は写真家でもあるエリック・ヴァリで、標高5000メートルを超えるネパールの高山でのオールロケによる撮影が見事。主要な登場人物を演じているのは、大半が初めてカメラの前に立つ土地の人々だが、とても演技とは思えない自然な表情や動作がドキュメンタリー的な印象を残す。ヒマラヤの奥深い山中にあるドルポ地方では、厳しい冬を生き延びるためにヤクの背に塩をのせて運び、食糧となる麦と交換するためのキャラバンを繰り返さねばならない。永年の間村の指導者として人々の信頼を集めてきた長老は、自分を引き継ぐはずだった長男を事故で失ったことで、別の若者を後継者としようとする村人たちに反発し、自らキャラバン隊を率いて過酷な旅に出る。極めて素朴でシンプルなストーリーを淡々と描いたドラマだが、この映画を見ていて、ハワード・ホークス監督の「赤い河」という西部劇に設定がよく似ていることに気付いた。キャラバンの道中での、頑固で独裁的な老リーダーと彼を尊敬しながらも合理的な道を行こうとする若者の対立というドラマは、「赤い河」のジョン・ウェインとモンゴメリー・クリフトの関係と重なるものがある。監督のヴァリ自身、この映画を「チベット・ウエスタン」と呼んでいるので、少なからず意識しているのだろう。フランスの作曲家ブリューノ・クーレによる音楽は、オーケストラにラマ僧の朗唱するマントラを組み合わせたヒーリング系のメディテーション・ミュージックで、映像にはそれらしく合っているが、ドラマティック・アンダースコアではないと思う。
Rating: ★★1/2

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「X−メン」 X-MEN
Director: Bryan Singer
Writer: David Hayter
Music: Michael Kamen
Cast: Hugh Jackman(Logan/Wolverine), Patrick Stewart(Xavier), Ian McKellen(Magneto), Famke Janssen(Jean Grey), James Marsden(Cyclops), Halle Berry(Storm), Anna Paquin(Rogue), Tyler Mane(Sabretooth), Ray Park(Toad), Rebecca Romijn-Stamos(Mystique), Bruce Davison(Senator Kelly), Matthew Sharp(Henry Guyrich), Brett Morris(Young Magneto)
Review: 日本ではあまり知られていないがアメリカでは37年も前から続いている人気コミックスの映画化で、善と悪のミュータントたちの壮絶な闘いを描く。監督が「ユージュアル・サスペクツ」のブライアン・シンガーなので、単純なSFアクションにはならないだろうと思ったが、意外とひねりは少なく、「バットマン」シリーズのティム・バートンのような独特の世界観もあまり感じさせない。ただ、104分の上映時間内に各々特殊能力をもった善玉6人+悪玉4人=合計10人のミュータントを登場させる必要があるため、下手をすると各キャラクターの紹介だけで時間切れになってしまいそうなところを、シンガー監督はエグゼビアとマグニートーという強力なキャラクター同士の葛藤をストーリーのベースに据え、この2人にステュワートとマッケランというベテランのシェークスピア役者を配することで善悪の対立を明確にするとともに、互いに暗い過去をもつウルヴァリン(ジャックマン)とローグ(パキン)の関係を主軸に置くことで全体に1本筋の通ったドラマ性をもたせている。その分この4人以外のキャラクターはことごとく犠牲になっており、天候を操るストーム(ベリー)と変幻自在のミスティーク(ローミン=ステイモス)はそれなりに見せ場があるが、一応リーダー格のはずのサイクロップス(マースデン)とジーン・グレイ(ヤンセン)はほとんど印象に残らないし、悪役のセイバートゥースとトードにいたってはショッカーの怪人並み(喩えが古いが)の扱いになっている。個人的にはホラー/ファンタジー系美女のファムケ・ヤンセンにもっと活躍してほしかった(続編に期待?)。マイケル・ケイメンのスコアはいつもながらの重厚なオーケストラとシンセによる劇伴音楽だが、勇壮なエンドタイトルがサントラCDに収録されていないのが残念。
Rating: ★★★

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<2000年9月>

 

「マルコヴィッチの穴」 BEING JOHN MALKOVICH
Director: Spike Jonze
Writer: Charlie Kaufman
Music: Carter Burwell
Cast: John Cusack(Craig Schwartz), Cameron Diaz(Lotte Schwartz), Catherine Keener(Maxine), John Malkovich(John Horatio Malkovich), Orson Bean(Dr.Lester), Mary Kay Place(Floris), W.Earl Brown(First J.M.Inc.Customer), Carlos Jacott(Larry the Agent), Willie Garson(Guy in Restaurant), Bryne Piven(Captain Mertin), Charlie Sheene(Charlie), Sean Penn, Brad Pitt, Winona Ryder
Review: 極めてオリジナルなブラックコメディ。特に前半の、7と1/2階にあるやたらと天井の低いオフィスに行く部分や、壁に不思議な穴を発見するくだりの不条理なおかしさがたまらなくいい。売れない人形使いのクレイグは、「手先の器用な人求む」という求人広告を見て、とある会社にファイル係りとして就職するが、ある日キャビネットの裏に落とした書類を拾おうとして、壁に大きな穴を発見する。そこは俳優ジョン・マルコヴィッチの頭の中への入り口だった・・・。実に奇抜な設定で面白いのだが、大いに期待して見たので、正直言って少し肩すかしをくらった。導入部分は快調なのだが、その不条理さに説明をつけようとする後半がだんだんと理屈っぽくなってくる。出て来るキャラクターが変人ばかりで誰にも感情移入できないせいか、あまりストーリーに深くのめり込めない。主役のジョン・キューザックとキャメロン・ディアスは、共にいつもとかなり違うタイプの役を演じているが、いかにも「演じている」という不自然さがあまり感心しない。それに比べて本人(?)を演じるマルコヴィッチの絶妙の演技が素晴らしい。主人公が一目惚れするセクシーなOL役のキャスリーン・キーナーもいい(オスカーの助演女優賞にノミネート)。音楽はコーエン兄弟とのコラボレーションで知られるカーター・バーウェルで、いつもながらあまり強い印象はないが効果的なスコアを書いている。
Rating: ★★★

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「私が愛したギャングスター」 ORDINARY DECENT CRIMINAL
Director: Thaddeus O'Sullivan
Writers: Gerard Stembridge
Music: Damon Albarn
Cast: Kevin Spacey(Michael Lynch), Linda Fiorentino(Christine), Peter Mullan(Stevie), Stephen Dillane(Det.Sgt.Noel Quigley), Helen Baxendale(Lisa), David Hayman(Tony), Patrick Malahide(Commissioner Daly), Gerald McSorley(Harrison), Tim Loane(Jerome Higgins), Gary Lydon(Tom Rooney), Paul Ronan(Billy Lynch), Christoph Waltz(Peter), Bill Murphy(Barry)
Review: アイルランドに実在した伝説的強盗マーティン・カーヒルをモデルにしたアイルランド製犯罪映画。アメリカ人のケヴィン・スペイシーが、警察を出し抜きながらスマートに強盗を続けていく狡猾で憎めない主人公を好演している。盗むものの価値ではなく、いかに見事に犯罪をやってのけ世間をアッと言わせるか、ということにこだわる主人公と、彼を血眼になって追いつめるがいつも逃げられてしまう刑事、という設定は、どことなくルパン三世と銭形警部のCat & Mouseを思わせる。金塊や絵画を盗む過程や、ラストの銀行強盗のシーンでの展開は、スピーディで軽快なタッチがエンターテインメント性を感じさせる演出だが、主人公と彼の二人の妻(実の姉妹)や子供たち、相棒たちとの関係や、宿敵の刑事とのやりとり、彼を妨害しようとするIRAとの対決等は、極めて表面的で淡々とした描写で、あまり強いドラマ性がない。これがアイルランド映画のタッチなのかもしれないが、ハリウッド映画でよく見る顔のスペイシーが主役のせいか、ちょっと物足りない印象を受ける。が、全体としてはブラックユーモアを利かせた演出が小気味よく、見終った後の印象も良い。同じカーヒルの生涯を忠実にシリアスに描いた「(未公開)The General」というジョン・ブアマン監督による1998年製作の映画もあるらしい。イギリスのロックグループ、ブラーのリードヴォーカリストであるデイモン・アルバーン作曲のバウンシーなスコアが快調。
Rating: ★★★

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「漂流街」 THE HAZARD CITY
監督: 三池崇史
原作: 馳 星周
脚本: 龍 一郎
出演: TEAH、ミッシェル・リー、及川光博、パトリシア・マンテローラ、柄本 明、テレンス・イン、野村祐人、吉川晃司、奥野敦士、勝又ラシャ、大杉 漣、他。
音楽: 遠藤浩二
Review: 馳 星周による原作小説とは、主要な登場人物が共通なだけで全く異なるストーリーだが、脚本の第一稿を読んだ馳は、「ここまで話をぶち壊してもらった方が面白い」と快諾したらしい。日系ブラジル人のマーリオ(TEAH)と中国人のケイ(リー)が仲間と組んで、中国マフィアと日本のヤクザの麻薬取引の現場を襲撃し、麻薬を略奪したことで双方から追われることになる。吉川晃司がキレたヤクザを演じているが、演技や雰囲気にいまひとつパンチがない。それに比べて中国マフィアの首領を演じる及川光博の妖しい存在感が秀逸。三池監督の演出は、ストーリーテリングの妙味よりは、シーン毎の切れ味の良さと独特のケレン味で押し通している。マーリオがケイを奪還してヘリから歌舞伎町に飛び降りるオープニングや、闘鶏場でのCGIによる「マトリックス」再現シーン等での遊び心がすごくいい。ただ、馳の原作小説での、主人公が運命に弄ばれどんどんと奈落の底に落ちていく何ともいえない絶望感とストイシズム(コーネル・ウールリッチのサスペンス小説に通ずる)が、映画には欠落していたのが少し残念。
Rating: ★★1/2

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<2000年8月>

 

「U−571」 U-571
Director: Jonathan Mostow
Writers: Jonathan Mostow, Sam Montgomery, David Ayer
Music: Richard Marvin
Cast: Matthew McConaughey(Lt.Andrew Tyler), Bill Paxton(Lt.Commander Mike Dahlgren), Harvey Keitel(Chief Klough), Jon Bon Jovi(Lt.Pete Emmett), David Keith(Marine Major Coonan), Jake Weber(Lt.Hirsch), Matthew Settle(Ensign Larson), Erik Palladino(Mazzola), David Power(Tank), Thomas Guiry(Trigger), Jack Noseworthy(Wentz)
Review: 非常にオーソドックスな作りの第二次大戦潜水艦アクション映画。「ブレーキ・ダウン」でハイテンションなサスペンス演出を見せたジョナサン・モストウが監督しており、劇中何度か登場する海洋戦闘シーンの緊迫感とリアルな迫力はさすがに上手い。大西洋上で故障し停泊しているドイツ海軍のUボート「U-571」を奇襲し、搭載された暗号器「エニグマ」を奪還せよとの特命を受けた米国海軍潜水艦S-33クルーの活躍を描く。中盤でやむを得ず敵のU-571を操縦してドイツ軍に応戦することになった主人公たちが、潜水艦内部の構造がわからずに焦りまくるシーンが面白い(敵艦の構造くらい研究しておくべきだとは思うが・・)。非常によく出来た娯楽アクションではあるが、見終った後の余韻があまりないのは、主演俳優たちのインパクトの弱さに加え、人間VS人間の葛藤のドラマが欠落しているせいだと思う。例えば名作「眼下の敵」での米軍駆逐艦艦長ロバート・ミッチャムVS独軍潜水艦艦長クルト・ユルゲンスの騎士道精神溢れる虚々実々の駆け引きや、「クリムゾン・タイド」での艦長ジーン・ハックマンVS副官デンゼル・ワシントンの意地の張り合いのような人間同士の対立の図式がここにはない。また主役のマコノヒーにそもそもあまり強い存在感がない上に、ボン・ジョヴィをはじめとした若手クルーも全員同じような印象で、脇で出て来るパクストンまでインパクトが薄い。ベテランのカイテルはさすがに存在感があるが、実直な叩き上げ軍人といった感じの役柄であまり見せ場がない。リチャード・マーヴィンのスコアは、これでもかとばかりに勇壮に鳴り響くが、ちょっと出しゃばりすぎの感があり、もう少し抑えると丁度良いバランスになったと思う。・・と、少々不満はあるが、個人的には好きなタイプの映画である。
Rating: ★★★

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「タイタス」 TITUS
Director/Writer: Julie Taymor
Based on: The Play "Titus Andronicus" by William Shakespeare
Music: Elliot Goldenthal
Cast: Anthony Hopkins(Titus Andronicus), Jessica Lange(Tamora), Alan Cumming(Saturninus), Colm Feore(Marcus), James Frain(Bassianus), Jonathan Rhys-Meyers(Chiron), Matthew Rhys(Demetrius), Harry J. Lennix(Aaron), Angus MacFadyen(Lucius), Osheen Jones(Young Lucius), Kenny Doughty(Quintus), Blake Ritson(Mutius), Raz Degan(Alarbus), Ettore Geri(Priest)
Review: シェークスピアの戯曲中でも、最も暴力的で残虐な内容と言われている「タイタス・アンドロニカス」を、舞台「ライオン・キング」の演出家ジュリー・テイモアが映画化した作品。最初から最後まで血で血を洗う復讐の連続のストーリーで、クライマックスは有名な「子供の死体をパイに練りこんで母親に食らわせる」カニバリズム描写となる。が、やっていることの内容の激しさのわりには全体的におとなしい暴力表現で、さほど残虐な印象は受けない。テイモアは古代ローマの世界に、「自動車に乗ってマイクで選挙演説してまわる皇帝候補者」とか「ウォークマンを聴きながらビリヤードやビデオゲームで遊ぶ若者」といった描写を加えて斬新なタッチを出そうとしているが、なぜかそういう部分がかえって平凡で、むしろ普通に古代ローマを描いた部分の方が良い。出演者の仰々しい台詞まわしや、画面に向かっての思わせぶりな独白はいかにも舞台的な演出だが、これがホプキンスのような名優ならともかく、脇役にまでやられるとさすがにつらいものがある。エリオット・ゴールデンサルの音楽も全編に仰々しく鳴り響くが、あまり魂がこもっていない虚ろなスコアで、耳にうるさく感じる。非常にアンビシャスな映画だとは思うが、2時間42分はやはり長い。
Rating: ★★1/2

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「オーロラの彼方へ」 FREQUENCY
Director: Gregory Hoblit
Writer: Toby Emmerich
Music: Michael Kamen, J. Peter Robinson
Cast: Dennis Quaid(Frank Sullivan), Shawn Doyle(Jack Shepard), Elizabeth Mitchell(Julia), Andre Braugher(Satch), James Caviezel(John Sullivan), Noah Emmerich(Gordo), Melissa Errico(Samantha), Daniel Henson(John), Jordan Bridges(Graham), Stephen Joffe(Gordo)
Review: 私が個人的に好きな題材である時間旅行テーマのファンタジー。但しこの場合は主人公が過去や未来に移動するのではなく、無線機を通じて過去と未来が交信できるというアイデア。この手の映画はストーリーをひねればひねるほど細かい矛盾が気になってくるが、この映画はそういった矛盾がほとんどなく、実にエレガントに話が展開するのに非常に感心した。なんでもコロンビア大学の物理学者ブレーン・グリーン教授なる人物がこの脚本の時間理論の部分を監修しているらしく、同教授は本人役で劇中にも登場する。夜空にオーロラが浮かぶ夜、NYの消防士(クエイド)は自宅の真空管無線機で30年後の息子(カヴィーゼル)と交信できるようになるが、息子は父親がとある倉庫の火災時に殉職することを知っており、彼に警告して命を救おうとする。父親が本来死ぬはずだった事故から一命を取りとめたことで、その後の歴史に様々な変化が生じる・・・、というストーリー。これに連続殺人のサスペンスと、父子の愛情というドラマの要素を加え、極めて良質の娯楽作品として職人的に仕上げている(監督は「悪魔を憐れむ歌」「真実の行方」等のグレゴリー・ホブリット)。全体に派手さがなく、キャストもスタッフも地味なので、大ヒットにはなりにくいと思うが、見終わった後の満足度は非常に高く、個人的にはひとりでも多くの人に見てもらいたい作品である(12月中旬日本公開予定)。音楽はマイケル・ケイメンが例によって「縁の下の力持ち」的アンダースコアを提供しているが、何故か冒頭のアクションシーンのみJ・P・ロビンソンが書いている。
Rating: ★★★1/2

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「ブリスター!」 BLISTER
監督: 須賀大観
脚本: 猪爪慎一
出演: 伊藤英明、真田麻垂美、山崎裕太、櫻田宗久、関川陽子、岩永ヒカル、鮎貝 健、大塚明夫、他。
Review: この映画の製作プロダクションである小椋事務所からのお誘いで見たもの。全世界に3体しか存在しない「ヘルバンカー」というキャラクターの激レアなフィギュアを追い求めるコレクターに伊藤英明が扮しているが、基礎的な演技力はともかく、役柄としては「クロスファイア」での彼よりもこっちの方が輝いているし、ハマリ役だと思う(本人もフィギュアのファンらしい)。吹替洋画ファンとしては、声優の大塚明夫氏が役者として出演していたのが楽しかった(どうせなら大塚周夫氏と親子共演してほしかった)。いかにもマニアックな作りで、ミュージックビデオ的な細かいカッティングによるモンタージュや、アメコミ風の映像や、砂漠を舞台にしたB級アメリカ映画的なアクションシーンなんかが出て来て、この手の題材のファンにとってはおもちゃ箱をブチまけたような映画である。低予算のせいかどうしても自主映画的でチープな作りが気になるが、マニアックな演出に徹底することで開き直っている感じがある。万人向けではないが憎めない作品。小椋事務所のK氏がチョイ役で出演していたのには笑ってしまった(内輪ネタ)。
Rating: ★★1/2

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<2000年7月>

 

「五条霊戦記」 GOJOE
監督: 石井聰亙
プロデューサー: 仙頭武則
脚本: 中島吾郎、石井聰亙
出演: 浅野忠信、永瀬正敏、隆 大介、岸部一徳、勅使河原三郎、船木誠勝、細山田隆人、内藤武敏、他。
Review: 「高校大パニック」「逆噴射家族」等の石井聰亙監督が、源 義経と弁慶の死闘を独特のダークな世界観とスピーディなアクション演出で描いた異色時代劇。クールな義経を浅野、パワフルな弁慶を隆が好演しているが、永瀬のキャラクターが少し弱い。「鬼」と化して平家武者を片っ端から殺戮していく義経と、彼を倒すことで光明を得よとの不動明王の啓示に従い義経に立ち向かう弁慶との闘い、というシンプルなストーリーだが、これに密教の要素を加え超自然的なタッチで描いているところがこの監督らしい。2時間17分の長さはさすがに少しダレかかるが、退屈しそうになるとアクションシーンになるので最後まで飽きずに見せきっている。剣劇のシーンは細かいカット割と盛大に火花を散らす刀の描写が秀逸だが、画面が全体的に暗いのと、アップにしすぎるのと、ハンドカメラで画面がシェイキーなのとで、何をやっているのかよくわからないところが難点。ラストの五条橋での義経と弁慶との対決は、まるでナパーム弾が炸裂したような橋の炎上シーンが迫力あり。痛快娯楽アクションではあるが、かなりマニアックな印象があるのは、喩えるならジェームズ・キャメロンではなくジョン・カーペンターの世界、といったところか。これは「萌の朱雀」等で海外での評価が高いサンセントシネマワークス(WOWOWの子会社)の仙頭プロデューサーの製作作品だが、全世界配給エージェントとしてフランスのカナル・プリュスと契約する等、海外での展開を意識している。
Rating: ★★★

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「リプリー」 THE TALENTED MR.RIPLEY
Director/Writer: Anthony Minghella
Based on the Novel by: Patricia Highsmith
Music: Gabriel Yared
Cast: Cast: Matt Damon(Tom Ripley), Jude Law(Dickie Greenleaf), Gwyneth Paltrow(Marge Sherwood), Cate Blanchett(Meredith Logue), Philip Seymour Hoffman(Freddie Miles), Jack Davenport(Peter Smith-Kingsley), James Rebhorn(Herbert Greenleaf), Sergio Rubini(Inspector Roverini), Philip Baker Hall(Alvin MacCarron), Celia Weston(Aunt Joan), Fiorello(Fausto), Stefania Rocca(Silvana), Lisa Eichhorn(Emily Greenleaf)
Review: ヒッチコックの「見知らぬ乗客」の原作で知られる女流ミステリ作家パトリシア・ハイスミスの小説の映画化で、ルネ・クレマン監督がアラン・ドロン主演で撮った「太陽がいっぱい」のリメイクでもある。前作でドロンの演じた役にマット・デイモン、モーリス・ロネの演じた役にジュード・ロウがキャストされているが、2人ともここでは存在感ある名演を見せている。女優陣は98年度のアカデミー主演女優賞を競い合ったパルトロウとブランシェットの共演だが、主役2人の輝きには及ばない。原作はミステリだが、知的なサスペンス・ミステリ映画を期待して見ると拍子抜けする。ストーリーの後半で、ロウに成りすましたデイモンの正体が何度もバレそうになる部分があるが、こういうシーンはいくらでもサスペンスを盛り上げられそうなのに、ミンゲラ監督は実に淡白にサラっと演出しており、何となく物足りない感じがする。主人公のリプリーも、クレマン監督版のドロンはもっと狡猾で知的な印象があったが、ここでのデイモンはなんだか行き当たりばったりで行動している。ラストが極めて中途半端なのも不満が残る。ただ、この作品は「My Funny Valentine」をはじめとした劇中の挿入歌の使い方が非常に上手いし、ガブリエル・ヤレによるアンダースコアも素晴らしい。ナポリ、ローマ、ヴェニスといったイタリアの観光都市の映像も美しい。「イングリッシュ・ペイシェント」でオスカーを受賞したことで「名匠」と評価されているミンゲラ監督だが、私にはどうも個性がはっきりしないという印象がある。
Rating: ★★1/2

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「M:I-2」 MISSION: IMPOSSIBLE 2
Director: John Woo
Writer: Robert Towne
Music: Hans Zimmer
Cast: Tom Cruise(Ethan Hunt), Dougray Scott(Sean Ambrose), Thandie Newton(Nyah Nordolf-Hall), Richard Roxburgh(Hugh Stamp), John Polson(Billy Baird), Brendan Gleeson(McCloy), Rade Sherbedgia(Dr.Nekhorvich), Ving Rhames(Luther Stickell), William Mapother(Wallis), Dominic Purcell(Ulrich), Christian Manon(Dr.Gradsky), Anthony Hopkins(Swanbeck, unbilled)
Review: これが本当に「チャイナタウン」でオスカーを受賞した名脚本家ロバート・タウンによるスクリプトなのかと疑いたくなるほど平凡なストーリー展開(彼は1作目にも共同脚本家としてクレジットされていて、おそらく手直しを手伝っただけだろうが、今回は単独クレジット)。恐るべき威力を持つ細菌をテーマにしたサスペンス映画は過去にもいくつかあるが、このストーリーはその設定に何のひねりも工夫もない。途中で変装オチが繰り返し使われているが全部予想通りなので苦笑してしまう。昔のTVの「スパイ大作戦」でのコン・ゲーム的な頭脳プレーが懐かしい。元々このTVシリーズは組織VS組織の知的な駆け引きがベースになっていたが、この映画ではクルーズVSスコットの男同士の執念の対決がベースになっており、いかにもジョン・ウー監督らしい設定である(逆にこの話ならM:I-2である必要がない)。彼のトレードマークである「横っ飛び二挺拳銃ハイスピード撮影」もふんだんにあり、トム・クルーズも体当たり演技で頑張ってはいるが、アクション自体に必然性がなく、見ていてエモーショナルに入り込めない。激しいカーチェイス・シーンやガン・アクションも、彼が香港で撮った「狼・男たちの挽歌 最終章」等での壮絶なバイオレンス演出と比べると大味でシャープさに欠ける。ヒロインのナイア役でジンバブエ出身のサンディ・ニュートンは美人だがちょっと幼いイメージがあり、大の男が二人して狂ったように奪い合うような妖しい魅力はあまり感じさせない。ハンス・ジマーのスコアはサントラを単独で聴いた時は、ラロ・シフリン作曲の有名なテーマ以外は殆ど印象に残らなかったが、映画と一緒に聴くとなかなか効果的なスコアで感心した。色々文句を書いたが、きっと大ヒットするのでしょう・・・。
Rating: ★★

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<2000年6月>

 

「電話で抱きしめて」 HANGING UP
Director: Diane Keaton
Writers: Delia Ephron, Nora Ephron
Music: David Hirschfelder
Cast: Meg Ryan(Eve), Diane Keaton(Georgia), Lisa Kudrow(Maddy), Walter Matthau(Lou), Adam Arkin(Joe), Duke Moosekian(Omar Kunundar), Ann Bortolotti(Ogmed Kunundar), Cloris Leachman(Pat), Maree Cheatham(Angie), Myndy Crist(Dr. Kelly), Libby Hudson(Georgia's Assistant), Jesse James(Jesse), Edie McClurg(Esther)
Review: デリア・エフロンが自身の体験を基に書いた原作を、デリアとノーラのエフロン姉妹が脚色し、ダイアン・キートンが監督したドラマ(ノーラ・エフロンはメグ・ライアン主演の「めぐり逢えたら」「ユー・ガット・メール」の監督として知られる)。雑誌の編集長、パーティのコーディネーター、ソープオペラ女優といったそれぞれの生活を送るキートン、メグ・ライアン、リサ・クードローの3姉妹が、父親(ウォルター・マッソー)の入院をきっかけに姉妹としての絆を取り戻すというストーリーで、お話よりはライアン、キートン、クードロー、マッソーといった輝きを持つスター達の存在感で見せる映画。キートンが監督しているが主役はライアンで、病気でボケていく父親と彼女との関係が全体の主軸となっている。ただ、その描写がさほどシリアスでなく、かといってコメディタッチでもないのでとても中途半端な印象を受ける。ラスト近くで3姉妹が本音をさらけ出して猛烈な早口で口論するシーンは圧巻。ボケ老人役のマッソーと、彼を捨てた母親役のクロリス・リーチマンが脇で渋い名演を見せている。マッソー扮する父親が病院で息を引き取る場面は、彼自身の死(7/1)と重なって哀しいものがある。
Rating: ★★1/2

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「ホワイトアウト」 WHITEOUT
プロデューサー: 小滝祥平
監督: 若松節朗
原作: 真保裕一
脚本: 真保裕一、長谷川康夫、飯田健三郎
出演: 織田裕二、松嶋菜々子、佐藤浩市、石黒 賢、吹越 満、古尾谷雅人、平田 満、中村嘉葎雄、他。
音楽: ケンイシイ、住友紀人
Review: 真保裕一の原作小説を読んだときに、これはかなり映像化を意識して書いた小説だなと感じたので、プロデューサーの小滝氏から映画化の話を聞いた時には「やはり」と思った。ただ、ダムを占拠したテロリスト集団と孤立無援で戦う男を描いた「ダイ・ハード」ばりのストーリーなので、これをきちんと映像化するには邦画としては破格の製作費がかかるのは明らかで、出資者の獲得に小滝氏は随分と苦労されたと思う。途中、別のプロデューサーが高倉 健主演で映画化するという話や、「踊る大捜査線」の本広=織田の監督=主演コンビで製作する話等があったが、最終的にTV畑の若松監督で、織田・松嶋・佐藤という人気俳優の出演により映画化された。ストーリーは原作にほぼ忠実だが、ラストに「泣き」の部分が入るのはいかにも日本映画的。「ダイ・ハード」での主人公と悪役のやりとりのようなCat & Mouseの頭脳戦や、荒唐無稽でアクロバティックなアクションシーン等はあまりなく、むしろ男の友情・信念といったストイックな部分が強調された演出となっており、それはそれでなかなか見ごたえがある。場面の位置関係が説明不足でよくわからなかったり、アクション演出にクリエイティビティがなかったり、クライマックスの対決シーンも割と淡白で粘りがなかったりと、エンターテインメントとしての作りには色々と不満はあるが、邦画では希にみる活劇大作であることには違いない。何よりもこの大作を完成までこぎつけたプロデューサーの小滝氏の執念に拍手を送りたい。
Rating: ★★★

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「ザ・ハリケーン」 THE HURRICANE
Director: Norman Jewison
Writer: Armyan Bernstein, Dan Gordon
Cast: Denzel Washington(Rubin "Hurricane" Carter), Vicellous Reon Shannon(Lesra), Deborah Kara Unger(Lisa), Liev Schreiber(Sam), John Hannah(Terry), Dan Hedaya(Della Pesca), Debbi Morgan(Mae Thelma), Clancy Brown(Lt. Jimmy Williams), David Paymer(Myron Beldock), Harris Yulin(Leon Friedman), Rod Steiger(Judge Sarokin)
Review: 「夜の大捜査線」等の社会派監督ノーマン・ジュイソンらしい骨太のドラマ。「ハリケーン」の異名をもつ名プロボクサーでありながら、そのキャリアの絶頂期に殺人の冤罪で終身刑を宣告されたルービン・カーターを描く実話に基づく感動作。カーター役のデンゼル・ワシントンは、オスカーの主演男優賞ノミネートにふさわしいリアリスティックな名演を見せる。逆にカーターの無実を証明しようとする黒人少年やカナダ人の男女等の脇役にあまりインパクトがない。唯一カーターを理解する看守役のクランシー・ブラウン(アクション映画でよく顔を見かける役者)がいい味を出している。また、「夜の大捜査線」で人種偏見に満ちた白人警官を演じたロッド・スタイガーが、ラストに重要な役で登場するが、ベテランらしい重厚な演技で全体を締めている。上映時間2時間25分は少し長い気がするが、ジュイソン監督らしい手堅い1本。
Rating: ★★★

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<2000年5月>

 

「TAXiA」 TAXi 2
Producer/Writer: Luc Besson
Director: Gerard Krawczyk
Cast: Samy Naceri(Daniel), Frederic Diefenthal(Emilien), Emma Sjoberg(Petra), Bernard Farcy(Chief Inspector Gibert), Marion Cotillard(Lilly), Jean-Christophe Bouvet(General Bertineau)
Review: この映画については製作時の裏話をひとつ。私の勤務する会社はこの映画の買付けに一部お金を出しているのだが、私はここで三菱の車が悪役で登場するのに間接的に関与している。「レオン」公開時に来日したリュック・ベッソンと話していて、彼がカーレーシングに凝っていることを知ったので、私が自分の会社と同じ企業グループの三菱自動車のFTOのカタログを、宿泊先のホテルまで持っていって彼に渡したのである。ベッソンがプロデュースした「TAXi」の1作目は、舞台がマルセイユで、主人公の車がプジョー、悪役の車がメルセデスだった。今回の続編では、パリを舞台にプジョー VS 日本車で撮りたいと言い出し、その時ベッソンの頭に浮かんだのが三菱の車だった(映画で使った車は黒のランサー・エボリューションVIで、三菱自動車提供のもの)。映画の方は、前作がとにかくカーチェイスの迫力で押しまくり、ストーリーは学芸会レベルだったのに対し、今回の続編は、日本からフランスにやってきた防衛庁長官を警察が護衛するという設定で、前作よりもストーリー展開に少し工夫があり、個人的には楽しめた。ただ、ストーリーを膨らました分、カーチェイス・シーンは前作より少な目になっているので、そこに期待している人にはやや不満が残るかもしれない。日本人役で出て来る俳優が一応皆日本人なので、外国映画にありがちな奇妙な日本語は聞かずに済んだ。
Rating: ★★★(関係者なのでちょっと甘め)

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「アメリカン・パイ」 AMERICAN PIE
Director: Paul Weitz
Writer: Adam Herz
Cast: Jason Biggs(Jim), Chris Klein(Chris "Oz" Ostreicher), Thomas Ian Nicholas(Kevin), Eddie Kaye Thomas(Paul Finch), Mena Suvari(Heather), Tara Reid(Victoria "Vicky" Lathum), Alyson Hannigan(Michelle), Shannon Elizabeth(Nadia), Natasha Lyonne(Jessica), Eugene Levy(Jim's Dad)
Review: アメリカでは大ヒットしたらしい学園コメディ。監督のポール・ウェイツは「アンツ」の脚本家として知られる。要するにハイスクールを卒業するまでに童貞を捨てるべくあらゆる手段を講じる4人組みの男の子を描いた話で、ただそれだけのことなのだが、この単純な話をここまでEntertainingに仕上げるのはさすがハリウッド映画である。こういう映画は、ストーリーの概要だけを書いた企画書の段階では、とてつもなくくだらないだろうから、これだけを読んで製作にGoをかけるプロデューサーの勇気は大したものだと思う。主人公の男の子が、目当ての女の子とのベッドシーンをインターネット経由で動画配信するところがおかしい。彼と父親との対話の繰り返しジョークも笑える。「アメリカン・ビューティ」のミーナ・スヴァーリが、主人公たちの一人と恋に落ちる女の子を好演している。他愛ないけど気軽に楽しめる映画。
Rating: ★★1/2

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