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(2002年3月 〜 9月)

 


<2002年9月>

 

「インソムニア」 INSOMNIA
Director: Christopher Nolan
Writer: Hillary Seitz
Music: David Julyan
Cast: Al Pacino(Detective Will Dormer), Robin Williams(Walter Finch), Hilary Swank(Detective Ellie Burr), Maura Tierney(Rachel Clement), Martin Donovan(Hap Eckhart), Nicky Katt(Fred Duggar), Paul Dooley(Chief Charles Nyback), Jonathan Jackson(Randy Stetz), Katharine Isabelle(Tanya Francke), Oliver 'Ole' Zemen(Pilot), Larry Holden(Farrell), Jay Brazeau(Francis), Lorne Cardinal(Rich), James Hutson(Officer #1), Andrew Campbell(Officer #2), Paula Shaw(Coroner), Crystal Lowe(Kay Connell), Tasha Simms(Mrs. Connell), Malcolm Boddington(Principal), Kerry Sandomirsky(Trish Eckhart), Chris Gauthier(Uniformed Officer), Ian Tracey(Warfield), Kate Robbins(Woman on the Road), Emily Perkins (Girl at Funeral), Dean Wray(Ticket Taker)
Review: 「メメント」のクリストファー・ノーラン監督の新作(1997年製作の同名のノルウェー映画のリメイク)。白夜のアラスカで起きた17歳の少女の殺人事件を捜査するためにロス警察から相棒とやってきたウィル・ドーマー刑事(アル・パチーノ)は、深い霧の中で犯人を追跡中に誤って相棒を射殺してしまう・・。いかにもやり手のベテラン刑事風に登場するパチーノがロビン・ウィリアムス扮する犯人を徐々に追いつめて行く普通の犯罪映画的な展開を想像したが、そこまで単純な話ではない。中盤からパチーノとウィリアムスのキャラクターが互いに善悪不明確なグレーな状態で駆け引きを繰り広げて行く設定がなかなか面白い。ミステリやサスペンスの要素はあまり強くないので、この映画の面白さはこの主役二人の設定のユニークさに尽きると思う。白夜と相棒を殺してしまった苦悩で不眠症(Insomnia)に陥ったパチーノの眠そうな演技は、見ているこっちまで疲れてしまうが、犯人役のウィリアムスの抑えた演技は非常にリアリスティック。顔は笑っているのに目だけ笑っていない冷酷さにぞっとさせられる。映像的にはパチーノの過去を表現したいかにも思わせぶりなフラッシュバックが入ったりするが、「メメント」の時ほど巧くはない。映画全体のトーンも暗く、後味もあまりよくない。プロデュースにスティーヴン・ソダーバーグとジョージ・クルーニーが参加している。
Rating: ★★★

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「OUT」
監督: 平山秀幸
原作: 桐野夏生
脚本: 鄭義信
音楽: 安川午朗
出演: 原田美枝子、倍賞美津子、室井滋、西田尚美、大森南朋、香川照之、小木茂光、間寛平、千石規子、他
Review: 桐野夏生のベストセラー小説の映画化。そもそも殺人にまつわるミステリやサスペンスの面白さに重点を置いたストーリーではない。コミュニケーションが途絶えて崩壊した家庭や、姑の介護、多額の借金、夫の暴力等ストレスフルな日常生活でブチ切れそうになっている女たち(原田、倍賞、室井、西田)が、あるきっかけから犯罪を犯し、それがどんどんとエスカレートしていく過程を描いた心理ドラマであり、彼女たちの現実逃避がテーマになっていることは、ラストの方で原田が言う「こんなにワクワクしたことは最近なかった」というセリフからも明らか。この徐々にのっぴきならない状況に陥って行く過程の描写はなかなか上手い。が、最初の部分で、西田の犯した殺人の処理に原田や倍賞が協力する理由にあまり説得力がないので、その後の展開にもいまひとつリアリティが感じられない。彼女たちが死体の切断処理をビジネスとしてはじめるという部分も、ストーリー展開に飛躍がありすぎて、にわかに信じ難い。これがブラックコメディならそれもありだと思うが、基本はシリアスなタッチなので、こういう安易な展開がちょっと気にかかる。また、個人的には、主人公たちが警察に追いつめられていくサスペンスがもっとあっていいと思うのだが、上述の通りその点は実にサラっと描かれている。ラストも中途半端で、「この後一体どうなるのか?」と欲求不満が残る。劇中登場する男性のキャラクターはろくでもない奴ばかりなのでどうでもよいのだが、主役4人に扮した女優たちは皆適役で、特に原田が好演している。あまり真実味のない行動をとるキャラクターなのに、彼女の演技力によってある程度説得力をもたせているのはさすがである。ただ、この映画を見ていて一番困ったのは、女たちが風呂場で死体を切断するシーンの描写で、これが純粋なホラー映画なら全く平気なのだが、こういう風に妙にシリアスに描かれるとどうしても生理的不快感を感じてしまう。やはり見終ってあまり後味の良いものではない。
Rating: ★★1/2

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<2002年8月>

 

「スパイキッズ2/失われた夢の島」 SPYKIDS 2: THE ISLAND OF LOST DREAMS
Director/Writer/ Producer/D.P./P.D./ Editor: Robert Rodriguez
Music: Robert Rodriguez, John Debney
Cast: Antonio Banderas(Gregorio Cortez), Carla Gugino(Ingrid Cortez), Alexa Vega(Carmen Cortez), Daryl Sabara(Juni Cortez), Steve Buscemi(Romero), Mike Judge(Donnagon), Cheech Marin('Uncle' Felix Gumm), Ricardo Montalban(Grandpa Cortez), Holland Taylor(Grandma Cortez), Christopher McDonald(President), Danny Trejo(Uncle Isadore 'Machete' Cortez), Matthew O'Leary(Gary Giggles), Emily Osment(Gerti Giggles), Alan Cumming(Fegan Floop), Tony Shalhoub(Mr. Alexander Minion), Bill Paxton(Theme Park Owner)
Review: ロバート・ロドリゲスが監督・脚本・製作・撮影監督・プロダクションデザイン・編集・音楽を手がけているシリーズ第2作。前作で世界の危機を救い、OSS(戦略事務局)の“スパイキッズ”として活躍しているカルメン&ジュニ姉弟は、合衆国大統領の手から盗まれた秘密兵器トランスムッカーの行方を追って謎の島へと向かう・・。例によって実に他愛ないストーリーだが、ロドリゲス監督は心底子供好きなようで、作っている本人が一番楽しんでいるような印象を受ける。個人的に面白かったのは、謎の島で主人公たちが遭遇する骸骨戦士や巨大クリーチャーたちのSFXで、これがレイ・ハリーハウゼンの「シンドバッド7回目の航海」や「アルゴ探検隊の大冒険」へのオマージュになっている。現在のCGI技術を使えば極めてリアリスティックな表現が可能なところを、敢えてややぎこちない動きのストップモーションアニメの感覚を再現しているところなど、なかなかマニアック。ジョン・デブニーの劇伴スコアまでハリーハウゼン作品のバーナード・ハーマンの音楽に似せているという凝りようである(ただ、これらクリーチャーはスティーヴ・ブシェミ扮する科学者が色んな組合わせのミニ動物を創造し、誤って巨大化させてしまったという設定なので、骸骨戦士が襲ってくるのはちょっと変なのだが・・)。今回は(今回も?)主人公のスパイキッズたちの活躍が主体で、両親役のバンデラスとグギノはあまり出番がない。脇で出て来るブシェミやリカルド・モンタルバン、ダニー・トレホ、チーチ・マリン等も顔見せ程度の役だが、ファミリーピクチャーらしく皆楽しそうに演じている。冒頭のテーマパークのシーンでビル・パクストンがカメオ出演しているが、実にクサい。主人公たちのライバルとして登場するエミリー・オスメントが兄のハーレイ・ジョエル・オスメントそっくりなのには笑ってしまった。
Rating: ★★1/2

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「トータル・フィアーズ」 THE SUM OF ALL FEARS
Director: Phil Alden Robinson
Writers: Paul Attanasio, Daniel Pyne
Based on the novel by: Tom Clancy
Music: Jerry Goldsmith
Cast: Ben Affleck(Jack Ryan), Morgan Freeman(William Cabot), James Cromwell(President Fowler), Liev Schreiber(John Clerk), Alan Bates(Dressler), Philip Baker Hall(Defence Secretary Becker), Ron Rifkin(Secretary of State Owens), Bruce McGill(National Security Adviser Revell), Ciaran Hinds(President Nemerov), Bridget Moynahan(Dr.Cathy Muller), Michael Byrne(Anatoli Grushkov)
Review: トム・クランシー原作の“ジャック・ライアン”シリーズの『恐怖の総和』の映画化。第三帝国再建を企てるネオ・ナチの実業家の陰謀によりもたらされた、アメリカ=ロシア核戦争突入の危機を回避しようとするCIA情報担当官ライアン(アフレック)の活躍を描くサスペンス。この映画を見てまず気になるのは、核爆弾による被害の描写の“甘さ”である(映画の中盤に米国本土で核爆発が起こるシーンがある)。あれだけ爆心地に近い場所にいた主人公のアフレックやヒロインのモイナハンが、顔に擦り傷程度の怪我ですみ、どこにも火傷すらないというのは、原爆の恐怖を直接的には知らない若い世代でさえも「そんなわけない」と感じるだろう。だいいち主人公たちへの放射能の影響はどうなっているのか? また、アラン・ベイツ扮する悪役(原作ではアラブ・テロリストだったが、ここではネオ・ナチに変更されている)の狙いが「アメリカとロシアを戦争に追い込み、互いに自滅させてその後の世界を支配する」というところも、なんだか一昔前の007シリーズの悪役“スペクター”みたいな発想でちょっと笑ってしまう(途中で寝返った仲間を皆の前で見せしめとして抹殺するシーンも“スペクター”っぽい)。「アメリカ本土で核爆発が起これば、それがそのままロシアとの核戦争の引き金になるに違いない」と信じるのもちょっと安易だし(なんとこの映画では実際にそうなりかけるのだが)、全面核戦争によって焼け野原になり何百年も放射能に汚染されてしまった世界を支配して一体何が嬉しいのだろう? と、ストーリーの設定そのものに色々と疑問が残るが、単純に娯楽サスペンス映画として見た場合、これはシリーズ中でも割とよく出来きたエントリーだと思う。007シリーズだと、ジェームズ・ボンドがスペクターと直接対決してやっつけてしまい、世界を危機から救うわけだが、この映画の主役のライアンは“情報”という武器を使ってアメリカとロシアのトップを説得し、戦争突入を回避しようとする。ここでは、ライアンがいかにも頼りなさそうな若者なので、「はたして危機を回避できるのか」というサスペンスが効果的に盛り上がる仕組みになっている。これがボンドだと(あるいはハリソン・フォードだと)「回避できないわけがない」と観客が思ってしまうので、あまり強いサスペンスは生じないわけである。その意味でこの映画のアフレックのキャスティングは成功していると思う。ゴールドスミスのスコアも例によって職人的にテンションを高めている。
Rating: ★★1/2

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<2002年7月>

 

「スター・ウォーズ エピソード2 クローンの攻撃」 STAR WARS: EPISODE II - ATTACK OF THE CLONES
Director: George Lucas
Writers: George Lucas, Jonathan Hales
Music: John Williams
Cast: Ewan McGregor(Obi-Wan Kenobi), Natalie Portman(Padme), Hayden Christensen(Anakin Skywalker), Christopher Lee(Count Dooku), Samuel L. Jackson(Mace Windu), Frank Oz(Yoda), Ian McDiarmid(Supreme Chancellor Palpatine), Pernilla August(Shimi Skywalker), Temuera Morrison(Jango Fett), Jimmy Smits(Senator Bail Organa), Jack Thompson(Cliegg Lars), Leeanna Walsman(Zam Wesell), Ahmed Best(Jar Jar Binks), Rose Byrne(Dorme), Oliver Ford Davies(Sio Bibble), Ronald Falk(Dexter Jettster), Jay Laga' Aia(Captain Typho), Andrew Secombe(Watto), Anthony Daniels(C-3PO), Silas Carson(Ki-Adi-Mundi & Nute Gunray), Ayesha Dharker(Queen Jamillia), Daniel Logan(Boba Fett), Joel Edgerton(Owen Lars), Bonnie Maree Piesse(Beru), Kenny Baker(R2-D2)
Review: 「スター・ウォーズ」シリーズの第2エピソードで、作品としては5作目。ジョージ・ルーカスはもともと映画監督としての力量はあまりない人なので、この映画もストーリー・テリングや演出の面では実に平凡である。むしろ彼は「スター・ウォーズ」という一大プロジェクトを、マーチャンダイジング・ビジネスや特撮工房のILMも含めて総合的に成功させた優秀な“企画マン”と言える。この「エピソード2」も純粋に映画としての完成度を評価した場合あまり出来はよくないが、私のように1977年の1作目(エピソード4)からリアルタイムで見ているファンにとっては数年に一度のお祭りみたいな位置づけになっており、少々出来が悪くても「これはこれでいいんじゃないの(監督はルーカスだし・・)」と変に納得してしまう。そう思わせてしまうところがルーカスの企画マンとしての才能(?)なのかもしれない。ただ、今回のエピソードの明らかなプラス面は、ドゥーク伯爵役のクリストファー・リーの存在である(ルーカスは2001年に刊行されたリーの「Authorized Screen History」という本に序文を提供し、彼に敬意を表している)。私が個人的にリーのファンであるということを割り引いて見ても、善悪全ての登場人物中で最も威厳のある魅力的なキャラクターであり、語り口や身のこなしにも風格があるし、何といっても圧倒的に強い。彼の前ではユアン・マクレガーなど“ひょっこ”同然だし、サミュエル・L・ジャクソンすらも“10年早いぜ”といった感じである(リーは今年80歳で映画俳優として半世紀以上のキャリアがあるので正確には“30年早いぜ”かもしれないが)。映画としての派手な見せ場は「エピソード1」よりも多いが、チェイスシーンや戦闘シーンのSFXが複雑すぎて逆にメリハリがないし、コンベイヤーベルトのシーンでのサスペンス演出などはスピルバーグがやればもっと巧く撮るだろう。ジョン・ウィリアムスの音楽が何をトチ狂ったのかと思うくらい鳴りまくるのも難点。でも、これはこれでいいんじゃないでしょうかねぇ・・。
Rating: ★★★

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「Returner リターナー」
監督: 山崎 貴
脚本: 山崎 貴、平田研也
音楽: 松本晃彦
出演: 金城 武、鈴木 杏、樹木希林、岸谷五朗、他
Review: 依頼者からの情報をもとに闇の取引現場に潜入し、足のつかないブラックマネーを強奪して依頼者にその金を送り戻す“リターナー”ミヤモト(金城)。彼は、2084年の未来からある任務を負ってやってきた謎の少女ミリ(鈴木)を助けるはめになるが、彼らの行く手には宿敵の溝口(岸谷)が待ち構えていた・・。ストーリーのアイデアは「ターミネーター」、ハイスピード撮影によるアクションシーンは「マトリックス」、エイリアンとの戦闘シーンは「スターシップ・トゥルーパーズ」と、過去の洋画作品からのパクリだらけで、オリジナリティはほとんどない(エイリアンや宇宙船のデザインも全てどこかで見たことがあるような・・)。主役二人の演技は学芸会レベルだし、悪役の岸谷はそのキレたキャラクターも演技も実にクサい。中国マフィアのボス役で出て来る高橋昌也は中国語のアフレコが明らかで、セリフと口の動きがシンクロしていない。と、色々とつっこみたい部分はあるが、これは最近の日本製エンターテインメント作品としてはかなりよく出来ている。脚本もよく練ってあるし、アクション演出や編集、特撮、音楽も悪くない。上述のようにオリジナリティはないが、そもそもこういうてんこ盛りの娯楽作品を作ろうとする志の高さに共感を覚える。監督・脚本・VFXを担当しているのは「ジュブナイル」の山崎 貴だが、特撮分野から監督に出世するパターンはジェームズ・キャメロンやジョー・ジョンストンと同じで、山崎監督の今後の作品にも期待したい。ところで、どうでもいいことだが“Return”は“借りていたものを返す”という意味なので、他人のために他人の金を奪ってくる人間を“Returner”と呼ぶのはちょっとおかしい気がする。むしろここでは別の意味でミリのキャラクターを指すのだろう。
Rating: ★★★

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「猫の恩返し / ギブリーズ episode2」
監督: 森田宏幸(猫の・・)、百瀬義行(ギブリーズ)
脚本: 吉田玲子(猫の・・)、百瀬義行(ギブリーズ)
原作: 柊あおい『バロン―猫の男爵』(猫の・・)
音楽: 野見祐二(猫の・・)、渡野辺マント(ギブリーズ)
声の出演: 「猫の恩返し」:池脇千鶴(ハル)、袴田吉彦(バロン)、山田孝之(ルーン)、前田亜季(ユキ)、佐藤仁美(ひろみ)、佐戸井けん太(ナトリ)、濱田マリ(ナトル)、渡辺 哲(ムタ)、斉藤洋介(トト)、岡江久美子(ハルの母)、丹波哲郎(猫王)、他。「ギブリーズ episode2」:西村雅彦(野中くん)、鈴木京香(ゆかりさん)、古田新太(奥ちゃん)、斉藤 暁(徳さん)、篠原ともえ(螢ちゃん)、今田耕司(米ちゃん)、小林 薫(トシちゃん)、他
Review: スタジオジブリ製作のアニメ2本立て。「猫の恩返し」は、ジブリ作品「耳をすませば」(監督:近藤喜文)の原作者でもある漫画家・柊あおいの『バロン―猫の男爵』を基に、偶然猫の国の王子を助けたことから不思議な事件に巻き込まれていく女子高校生ハルの冒険を描くファンタジー。監督の森田宏幸は「ホーホケキョ となりの山田くん」等の原画を担当した新鋭(1964年生まれ)。ストーリーの基本的なモチーフは、“平凡な少女が不思議な国で冒険し、少し成長して戻って来る”という、宮崎監督の「千と千尋の神隠し」と同じパターンであまり新鮮味はない。監督は(年齢的には)若返っているものの、映像も演出も妙にこじんまりとまとまっており、むしろ宮崎監督の過去の作品よりパワーダウンしている。“新鋭”といっても38歳でアニメーターとしてのキャリアは長く、既に少し枯れかかっているのかもしれない。宮崎作品のような“毒”がない分、子供には楽しみやすい作品だろう。
「ギブリーズ episode2」は、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが周囲の人々を描いた似顔絵を基に、架空のアニメーション制作会社「スタジオギブリ」で働く人々“ギブリーズ”の面々の日常を綴った上映時間25分のオムニバス。「カレーなる勝負」「初恋」「お昼」「ダンス」「美女と野中(やじゅう)」「エピローグ」の6つの短いエピソードから成る。監督の百瀬義行(1953年生まれ)は高畑監督作品の絵コンテや「もののけ姫」のCGを担当したアニメーター。最初のエピソード「カレーなる勝負」は結構笑えるが、その他の話は実に他愛なく、短い作品にもかかわらずこれでは大人も子供も退屈してしまうだろう。某テレビ局の某氏がモデルという“奥ちゃん”のキャラクターが可笑しい。
Rating: ★★1/2

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<2002年6月>

 

「竜馬の妻とその夫と愛人」
監督: 市川 準
原作・脚本: 三谷幸喜
音楽: 谷川賢作
出演: 木梨憲武、中井貴一、鈴木京香、江口洋介、橋爪 功、小林聡美、嶋田久作、他
Review: 三谷幸喜が2000年に劇団東京ヴォードヴィルショーに書き下ろした舞台劇を、CM等の演出で知られる市川準が映画化したもの。坂本竜馬が暗殺されて13年後、竜馬の十三回忌に招待すべく新政府の役人(中井)が竜馬の妻(鈴木)を訪ねてくるが、彼女はみすぼらしい的屋の夫(木梨)と貧乏生活を送っており、さらに愛人(江口)との駆け落ちを企てていた・・。いかにも三谷らしい設定で、最後の方の“竜馬の妻とその夫と愛人”+役人の4人の掛け合いには彼独特のひらめきを感じさせるが、全体としては残念ながら三谷の戯曲の面白さが市川準のもったいぶったテンポの悪い演出で完全に台無しにされている。出演者について言えば、木梨は彼のために書かれたような役柄を活き活きとこなしているし、江口も(セリフ回しにぎこちなさがあるものの)彼らしい役を楽しそうに演じている。問題はストーリーテリングの主体ともいえる重要な役柄の中井で、この役者は根が真面目でユーモアのセンスがあまりないせいか、どんなにコミカルな演技をしても見ていて全くおかしくない。むしろ大袈裟な演技がだんだんと鼻についてくるし、声に深みがないので大声で叫ぶと耳にうるさく感じるのが困りものである。また、邦画の出演作が多い鈴木も“どんな役をやっても同じ”という印象があり、あまり新鮮味がない。しかし何よりも市川の“映画監督”としての才能のなさを痛感させられる作品で、三谷が自分で監督しなかったのがなんとも残念。彼自身が1シーンでチラっと顔を出しているのはご愛嬌だが・・。
Rating: ★★

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「ザ・プロフェッショナル」 HEIST
Director/Writer: David Mamet
Music: Theodore Shapiro
Cast: Gene Hackman(Joe Moore), Danny DeVito(Bergman), Delroy Lindo(Bobby Blane), Sam Rockwell(Jimmy Silk), Rebecca Pidgeon(Fran Moore), Ricky Jay(Don 'Pinky' Pincus), Alan Bilzerian(Fast food customer), Richard L. Freidman(Counterman), Robert Lussier(Fast food cook), Mark Camacho(Jewellery store guard), Michelle Sweeney(Waitress), Elyzabeth Walling(Jewellery saleswoman), Mike Tsarouchas(Coffee cart man), Jim Frangione(D.A. Freccia), Christopher Kaldor(Laszlo), Danny Blanco(Bartender), Patti LuPone(Betty Croft), Andreas Apergis(Trooper), Tony Calabretta(Coffeeman), Ted Whittall(Customs officer), Guy Sprung(Pilot), Richard Zeman(Co-pilot)
Review: 「アンタッチャブル」「評決」等の脚本家で、「スパニッシュ・プリズナー」等の監督でもあるデヴィッド・マメットの新作。宝石や金塊の強奪を周到な計画により実行するプロフェッショナル達を描いたストーリーで、個人的にこの手のツイストの効いたクライム・フィルムは好きなジャンルなのでどうしても評価は甘くなる。ハックマン、デヴィート、リンドーといった芸達者な役者たちの競演も楽しい。ただ、この映画は前作「スパニッシュ・プリズナー」ほどは楽しめなかった。例によってどんでん返しの連続なのだが、その設定にあまり論理的な説得力がなく、いまひとつ「やられた!」感がないし、最後の方はストーリーの先が読めてしまう。冒頭、ハックマン扮する主人公が宝石店強盗の際にマスクを付け忘れて警備カメラに素顔を撮られてしまったことが、その先の展開の伏線になっている(と思わせる)が、そもそもプロがそんな単純なヘマをすること自体がちょっと信じ難いし、「顔が割れて指名手配されている」ことのサスペンスがストーリーの中であまり活かされていない。また、これは「スパニッシュ・・」でも感じたことだが、マメットの脚本は凝りに凝ったストーリー展開で飽きさせない反面、全体に非常に冷たく残酷な印象がある。それは“アイロニカル”というのとは少し違い、単に“コールド”なだけで、作品自体がどうしてもあまり好きになれない。私はヘンリー・スレッサーというアメリカのミステリ作家が大好きなのだが、彼の書く短編小説には“洒落たツイスト”+“意表をつくストーリー展開”に加えて、“ユーモアのセンス”と“人間的な温かみ”があるのに対し、マメットの脚本にはこれらが欠けているような気がする。もう一つ、マメットの監督作品の大きな問題点(?)は、彼の実生活での妻でもあるレベッカ・ピジョンが常に重要なヒロイン役で登場することである。この女優にスターとしての魅力も大した演技力もないことは、彼女がマメット作品以外にほとんど出演作がないことからも明らかで、この映画の彼女の役をもっと実力のある名の通った女優が演じていれば、作品全体の魅力がもっと増していたことだろう・・(かつてチャールズ・ブロンソンの主演作品にジル・アイアランドがオマケのように必ず出ていたことを思い出させる)。
Rating: ★★★

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「バイオハザード」 RESIDENT EVIL
Director/Writer: Paul W.S. Anderson
Based upon: Capcom's videogame "Resident Evil (Biohazard)"
Music: Marco Beltrami, Marilyn Manson
Cast: Milla Jovovich(Alice/Janus Prospero), Michelle Rodriguez(Rain Ocampo), Eric Mabius(Matt Addison), James Purefoy(Spencer Parks), Martin Crewes(Chad Kaplan), Pasquale Aleardi(J.D. Salinas), Colin Salmon(James 'One' Shade), Heike Makatsch(Dr.Lisa Addison), Liz May Brice(Medic), Jaymes Butler(Clarence), Michaela Dicker(Red Queen), Stephen Billington(Mr. White), Anna Bolt(Dr. Green), Joseph May(Dr. Blue), Marc Logan-Black(Commando 2), Fiona Glascott(Ms. Gold), Torsten Jerabek(Commando 1), Ryan McCluskey(Mr. Grey), Oscar Pearce(Mr. Red), Robert Tannion(Dr. Brown), Jamie Harding(Mail Boy)
Review: 全世界で2000万本以上が売れているカプコンのビデオゲーム『バイオハザード』をベースに、このゲームのファンを自称する監督、出演者が集まって映画化したホラー+アクション作品。閉鎖された空間の中で“死んでも死なない”ゾンビどもと延々闘う主人公たちを描いた話で、中身は完全にB級ゾンビ映画。ただ、この手の映画のツボはそこそこ押さえているので、最初からB級と割り切って見ればそれなりに楽しめるだろう。次々と襲ってくるゾンビたちの描写には何となく懐かしさを覚えてしまう(つまり何の工夫も新鮮味もない)が、コンピュータの自己防御システムが狭い通路で特殊作戦部隊員を襲うシーンや、主人公がゾンビ犬と対峙するシーン等はよくできている。ミラ・ジョヴォヴィッチにとっては「ジャンヌ・ダルク」以降初めての比較的メジャーな主演作品だが、彼女は一種独特の現実ばなれした(?)風貌をしているので、この手のジャンルの映画にはうまくハマっていると思う。ミシェル・ロドリゲスは「エイリアン2」のジェネット・ゴールドステインを思わせるタフな女戦闘員を演じているが、まだまだ幼いイメージがある。彼女たちに比べると男優陣は非常にインパクトが弱い。この映画はプロデューサーがドイツ人で、ほとんどの撮影をドイツで行っており、スタッフにもドイツ人が多数含まれているのが興味深い。高騰するハリウッドでの製作コストを回避するために外国で撮影を行う“Runaway Production”の流れに乗ったものだろう。監督はオリジナルのビデオゲームのファンらしいが、映画も単なる暇つぶしのゲーム的な印象があり、非常に無機的な演出でエモーショナルな盛り上がりは全くなく、見終った後に何の感慨も残らない。同じ“恐怖”を題材にした映画でも、直前に見たアレハンドロ・アメナーバル監督の「アザーズ」とは対照的(これは傑作)。音楽はマルコ・ベルトラミとマリリン・マンソンの共同作業となっているが、どこからどこまでがどっちなのかよくわからない。総じて音楽がうるさい印象があり、アンダースコアとしては二流。
Rating: ★★1/2

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<2002年5月>

 

「模倣犯」 MOHOUHAN
監督・脚本: 森田芳光
原作: 宮部みゆき 『模倣犯』
音楽: 大島ミチル
出演: 中居正広、藤井 隆、津田寛治、木村佳乃、山崎 努、伊東美咲、田口淳之介、藤田陽子、寺脇康文、平泉 成、モロ師岡、吉田 朝、桂 憲一、佐藤二朗、中村久美、小林茂光、由紀さおり、村井克行、佐藤恒治、小池栄子、角田ともみ、城戸真亜子、磯部 弘、阪田マサノブ、小林麻子、菅原大吉、太田 光、田中裕二、他
Review: 宮部みゆき原作のミステリ小説の映画化。TVのワイドショーやインターネット、携帯電話等のメディアを利用して犯行予告を繰り返す連続女性誘拐殺人犯と、犯人を追う警察、娘を失った父親(山崎)、事件を取材するルポライター(木村)、事件の第一発見者(田口)等を描くドラマ。原作を読んでいないので映画がどこまで忠実なのか不明だが、一見斬新そうに見えて、話の設定も展開もキャラクターも実に平凡な作品。カメラワークやカット割等の演出上の小手先だけで新しさを出そうとしているが全て空回りしている。本来狡猾であるべき犯人が実は隙だらけなので、彼らを逮捕できない警察はいよいよもって間抜けに見えてしまうし、犯人によるメディアの使い方にも特に新鮮味はない。犯人像もメディアも現実の方がもっと先を行っているような気がする。何よりもストーリー展開のテンポが悪く、見ていて退屈で眠くなってしまうのが困りものである。結末もすっきりしない。中居、津田の稚拙な演技は見ているこっちが恥ずかしくなってしまうが、ベテランの山崎の抑えた演技は評価に値する。大島ミチルの音楽は70年代アメリカ犯罪映画風で面白かった。
Rating: ★★

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「ハリウッド・エンディング」 HOLLYWOOD ENDING
Director/Writer: Woody Allen
Cast: Woody Allen(Val), George Hamilton(Ed), Tea Leoni(Ellie), Debra Messing(Lori), Mark Rydell(Al), Tiffani-Amber Thiessen(Sharon Bates), Treat Williams(Hal), Yu Lu(Cameraman), Barney Cheng(Translator), Neal Huff(Commercial A.D.), Stephanie Roth(Barbeque Guest), Roxanne Perry(Barbeque Guest), Barbara Carrol(Pianist at Carlyle), Peter Van Wagner(Balthazar Couple), Judy Toma(Balthazar Couple), Sarah Polen(Seder Guest), Amanda Jacobi(Seder Guest), Robert Lloyd Wolchok(Seder Guest), Reiko Takahashi(Movie Extra), Fred Melamed(Pappas), Jeff Mazzola(Prop Man), Erica Leerhsen(Actress), Mark Webber(Tony Waxman)
Review: 最近では「セレブリティ」(1998)「ギター弾きの恋」(1999)「おいしい生活」(2000)等を手がけているウッディ・アレン監督の新作コメディで、今年のカンヌ映画祭のオープニングとして上映された作品。70〜80年代に“アート系映画の巨匠”として有名だった監督のヴァル・ワックスマン(アレン)は、今ではカナダの雪山でテレビCMの撮影をするほど落ちぶれているが、彼の前妻である女性プロデューサー(レオーニ)からメジャー映画のオファーが入り、彼は映画監督としての再起をかけてこの新作に取り組む・・、というストーリー。この後彼に予期せぬ事態が起こり、それが全ての笑いのベースになっているのだが、それ自体があまり斬新なアイデアとは言えない上に、延々と続くアレンのわざとらしい演技に正直うんざりさせられてしまう。容易に想像がつくエンディングもあざとい印象があり、ユーモアとは言えフランス人を馬鹿にしていることに違いはなく、これをカンヌのオープニングに上映すること自体にちょっと首をかしげてしまう(上映後のフランスでの批評もボロボロだった)。アレンは米国映画界ではおそらく望む俳優は誰でも使える立場にいる監督の一人だろうが、にもかかわらず、ティア・レオーニ、トリート・ウィリアムズ、ジョージ・ハミルトンというあまりパっとしない俳優(しかも特に演技派というわけでもない)ばかりをキャストしているのが不可解な感じがする。36歳のレオーニが68歳のアレンの妻という設定もちょっと・・。でもハーレイ・ジョエル・オスメント絡みのジョークは笑えた。
Rating: ★★1/2

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<2002年4月>

 

「ラッキー・ブレイク」 LUCKY BREAK
Director: Peter Cattaneo
Writer: Ronan Bennett
Music: Anne Dudley
Cast: James Nesbitt(Jimmy), Olivia Williams(Annabel), Timothy Spal(Cliff), Bill Nighy(Roger), Lennie James(Rudy), Ron Cook(Perry), Frank Harper(John Toombes), Raymond Waring(Darren), Christopher Plummer(Graham Mortimer), Julian Barratt(Paul), Peter Wight(Officer George Barratt), Celia Imrie(Amy), Pete Mcnamara(Ward), Andy Linden(Kenny), John Holder(Old Bill), John Pierce Jones(Mad Lenny), Des Macnamara(Arthur)
Review: 「フル・モンティ」のピーター・カッタネオ監督が5年ぶりに撮った新作。刑務所の囚人たちが更正プログラムの一環としてミュージカル公演を行い、そのどさくさに紛れて脱走を試みるというストーリー。「フル・モンティ」はよく出来た英国製コメディだったが個人的にはさほど好きな映画ではなかったので、この新作もあまり期待せずに見たところ、これが意外と良く、「フル・モンティ」よりもずっと楽しめた。コメディといってもイギリス流のブラックユーモアなので大爆笑するわけではないが、全体に乾いたタッチながらも、結構しんみりとさせる部分もあり、そのバランスが絶妙にうまい(特にティモシー・スポール演じる囚人のエピソードが泣かせる)。ストーリーの詳細については触れないが、何といっても見終った後が非常に爽快なのが良い。役者も主人公のジェームズ・ネスビット、カウンセラー役のオリヴィア・ウィリアムス(「シックス・センス」でブルース・ウィリスの妻を演じたイギリス女優)をはじめとして、脇に至るまで見事なキャスティングで、キャラクターの描き込みもしっかりしている。クリストファー・プラマーがミュージカル好きの刑務所長役で出て来るのが実にいい(彼は「サウンド・オブ・ミュージック」のフォン・トラップ大佐役や、舞台の「シラノ」でのシラノ・ド・ベルジュラック役等、ミュージカルでも有名な役者である)。アン・ダッドリーが映画のアンダースコアと共に、劇中のミュージカル「ネルソン提督」(プラマー所長作という設定)の歌曲も作曲しているが、これがまた“ロジャース=ハマーシュタイン”風の伝統的なタッチで面白い。ストーリーのアイデア自体は特に新鮮味のあるものではないと思うが、演出・キャスティング・音楽等全体的な映画の作りが見事で非常に楽しめた。
Rating: ★★★1/2

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「シッピング・ニュース」 THE SHIPPING NEWS
Director: Lasse Hallstrom
Writer: Robert Nelson Jacobs
Based on a novel by: E. Annie Proulx
Music: Christopher Young
Cast: Kevin Spacey(Quoyle), Julianne Moore(Wavey Prowse), Judi Dench(Agnis Hamm), Cate Blanchett(Petal Bear), Pete Postlethwaite(Tert X. Card), Rhys Ifans(Beaufield Nutbeem), Gordon Pinsent(Billy Pretty), Scott Glenn(Jack Buggit), Jason Behr(Dennis Buggit), Alyssa Gainer(Bunny Quoyle), Kaitlyn Gainer(Bunny Quoyle), Lauren Gainer(Bunny Quoyle), Jeanetta Arnette(Silver Melville), Larry Pine(Bayonet Melville), Robert Joy(EMS Officer), John Dunsworth(Guy Quoyle), Anthony Cipriano(Young Quoyle), Kyle Timothy Smith(Young Quoyle Age 12), Ken James(Newspaper Boss), Roman Podhora(Muscular Man), Luke Fisher(Barfly), Terry Daly(Hunky Guy), Gary Levert( Newspaper Employee), Stephen Morgan(Bartender Dave), Katherine Moennig(Grace Moosup), Daniel Kash(Detective Danzig), Will McAllister(Herry Prowse), Marc Lawrence(Cousin Nolan), Kathryn Fraser(Daycare Mom), Nancy Beatty(Mavis Bangs), R.D. Reid(Alvin Yark)
Review: ピュリッツァー賞と全米図書賞を受賞したE・アニー・プルーのベストセラー小説の映画化。父親の厳しい躾がトラウマとなって自分の殻に閉じこもる孤独な男となってしまったクオイルは、妻を交通事故で亡くし絶望の淵に沈む。彼は人生をやり直すため、娘を連れて父の故郷であるニューファンドランド島へと移り住み、小さな漁港で新聞記者として働きながら徐々に自らを取り戻していく・・。芸達者な俳優で脇までを固めたヒューマンドラマで、主演のケヴィン・スペイシーは相変わらず上手いし、ジュリアン・ムーアやジュディ・デンチの演技にも文句のつけようがない(主人公の妻を演じるケイト・ブランシェットはなぜか薄っぺらい役で出番も少ないが、インパクトだけはある)。ただ、スペイシー扮する主人公が何をやってもダメな男なのに実は新聞のコラムニストとしての優れた才能があった、という設定はちょっと説得力がない。また、個人的にムーアはいつ見ても女優としての輝きに乏しいという気がするし、デンチおばさんは単純に顔を見飽きた気がする。むしろ、「燃える男」等B級娯楽映画系のスコット・グレンなんかが脇でいい味を出している。ラッセ・ハルストレムは文学作品を好んで映画化する監督だが、この作品もベストセラー小説を淡々と映像化したという感じで、あまり映画的な感動はない。ただ、吹雪の中をロープで家を引っ張って動かすシーンは、クリストファー・ヤングの民族色を帯びた情感豊かなオーケストラルスコアの効果もあり、印象に残る。物語の最後の方でスペイシー扮する主人公やスコット・グレンを襲う出来事はちょっと唐突で違和感がある。
Rating: ★★★

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<2002年3月>

 

「ローラーボール」 ROLLERBALL
Director: John McTiernan
Writer: Larry Ferguson, John Pogueing
Based on a short story and screenplay by: William Harrison "Roller Ball Murders"
Music: Eric Serra
Cast: Chris Klein(Jonathan Cross), Jean Reno(Petrovich), LL Cool J(Marcus Ridley), Rebecca Romijn-Stamos(Aurora), Oleg Taktarov(Denekin), Naveen Andrews(Sanjay), David Hemblen(Serokin), Janet Wright(Coach Olga), Andrew Bryniarski(Halloran), Alice Poon(Red Team: #7), Lucia Rijker(Red Team: #9), Melissa R. Stubbs(Red Team: #12), Paul Wu(Red Team: U Chow - #16), Yolanda Hughes-Heying(Red Team: #28), Jay Mahin(Red Team: Toba - #39), Simon Girard(Red Team: Rabbit - #68), Pink(Herself), Michael Tadross(Starter), Amy Whitmore(Photographer), Shaun Austin-Olsen(Foreign Guest), Flint Eagle(Eskimo), Steven P. Park(Gold Team Thug), Eugene Lipinski(Yuri Kotlev), Paul Heyman(English Sports Announcer), Jean Brassard(French Sports Announcer), Toshihiro Ito(Japanese Announcer)
Review: ウィリアム・ハリソンの短編小説をノーマン・ジュイスン監督がジェームズ・カーン主演で映画化した「ローラーボール」(1975)のリメイク。トラック内をインラインスケートとバイクで走り鉄球を奪い合うという暴力的な見世物(スポーツではない)を描いた近未来SFだが、今回のリメイクでは舞台がなぜかアジア諸国になっている。ジュイスン監督のオリジナルもあまり好きな映画ではないが、このリメイクは更に内容が浅く、オリジナルには少し感じられた社会性や、映画的な緊張感・カタルシスが全くない。単にミュージッククリップ的なケバケバしい映像と騒々しいロックミュージックで全編を敷き詰めただけの極めて表面的な作りで、これが「ダイ・ハード」「レッド・オクトーバーを追え!」等のソリッドでハイテンションなアクション映画を撮ったジョン・マクティアナン監督の演出によるものとは到底思えない(この監督は「ラスト・アクション・ヒーロー」の時にもずっこけたが、これは更にひどい)。主演のクリス・クラインは「アメリカン・パイ」の学生の印象が抜けず、アクション・ヒーローというインパクトがない(風貌や声がキアヌ・リーヴスの弟分みたい)。ジャン・レノはここでは徹底してスリージーな悪役を嫌味に演じている(本人はいい人)が、ゲームの中で意図的に血を見せて視聴率を稼ぐことだけを考えている悪徳プロデューサーというのは、まるでマンガの悪役並みの単純さで呆れてしまう。ヒロインのレベッカ・ローミン=ステイモスはセクシーで存在感があるが、これまた演じようのない薄っぺらい役で気の毒(「X-メン」で全身がウロコのミスティークを演じたレベッカは、共演者のハル・ベリー、ファムケ・ヤンセンと一緒にファンション雑誌の表紙を飾っていたが、素顔の彼女は3人の中で一番美形だった)。エリック・セラがスコアを担当しているが、全編がロックびっしりの映画なので彼の音楽がどこにあるのかよくわからなかった。尚、この映画はR指定を避けるために暴力シーン等をかなりカットしたらしく97分しかないが、いずれDirector's CutのDVDとか出るのだろう。
Rating: ★★

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「ビューティフル・マインド」 A BEAUTIFUL MIND
Director: Ron Howard
Writer: Akiva Goldsman
Based on a book by: Sylvia Nasar
Music: James Horner
Cast: Russell Crowe(John Forbes Nash, Jr.), Ed Harris(William Parcher), Jennifer Connelly(Alicia Nash), Christopher Plummer(Dr. Rosen), Paul Bettany(Charles Herman), Adam Goldberg(Richard Sol), Josh Lucas(Martin Hansen), Vivien Cardone(Marcee), Anthony Rapp(Bender), Jason Gray-Stanford(Ainsley), Judd Hirsch(Professor Helinger), Austin Pendleton(Thomas King), Victor Steinbach(Professor Horner), Tanya Clarke(Becky), Thomas F. Walsh(Captain), Jesse Doran(General), Kent Cassella(Analyst), Patrick Blindauer(MIT Student), John Blaylock(Photographer), Roy Thinnes(Governor)
Review: 本年度アカデミー賞の作品賞、助演女優賞(ジェニファー・コネリー)、監督賞(ロン・ハワード)、脚色賞(アキヴァ・ゴールズマン)の4部門を受賞した作品(第59回ゴールデン・グローブの作品賞、男優賞、助演女優賞、脚本賞も受賞している)。集団における個人の意志決定メカニズムを定式化した“ゲーム理論”を構築し、1994年にノーベル経済学賞を受賞した実在の天才数学者ジョン・ナッシュの数奇な人生を描くドラマ。ラッセル・クロウが、プリンストン大学院数学科の学生時代から、結婚後に精神分裂症に苦しむ中年の時期、そして晩年にノーベル賞を受賞するまでの数十年間にわたる主人公の生涯をリアリスティックに演じている。ナッシュの献身的な妻を演じるコネリー、脇で登場するエド・ハリス、クリストファー・プラマー(この人は本当に息の長い役者である)も好演している。ナッシュが政府の極秘任務を受け、暗号を解読するシーンのちょっとしたケレン味のある演出をのぞけば、実に淡々と主人公の生涯を描いたドラマで、映画的な話術や技法よりは、実話の持つパワーで最後までストレートに見せきっている感じである。中盤で主人公の精神病の描写が延々と続くが、この辺りの演出は平坦で、あまりインパクトがない。これで主人公が最後にノーベル賞を受賞しなければ話に収拾がつかなくなるし、もしこれがフィクションだとしてラストでノーベル賞を受賞すると、いかにもとってつけたようなハッピーエンドとなる。つまり実話だからこそドラマになるのであって、フィクションとしては成立し得ないストーリーだと思う。学生時代に一番嫌味なライバルだった学友が晩年になって主人公を助ける部分や、主人公が大学で万年筆をもらうシーン等は、ちょっと作り話っぽいが、単純に感動させる。ハワード監督とのコラボレーションが多いジェームズ・ホーナーがスコアを書いているが、あまり印象には残らないものの劇中ではそれなりに効果的な音楽を提供している。
Rating: ★★★

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「スパイダー」 ALONG CAME A SPIDER
Director: Lee Tamahori
Writer: Marc Moss
Based on a novel by: James Patterson
Music: Jerry Goldsmith
Cast: Morgan Freeman(Alex Cross), Monica Potter(Jezzie Flannigan), Michael Wincott(Gary Soneji), Dylan Baker(Ollie McArthur), Mika Boorem(Megan Rose), Anton Yelchin(Dimitri Starodubov), Kimberly Hawthorne(Agent Hickley), Jay O. Sanders(Kyle Craig), Billy Burke(Ben Devine), Michael Moriarty(Senator Hank Rose), Penelope Ann Miller(Elizabeth Rose), Anna Maria Horsford(Vickie), Scott Heindl(Floyd the Fisherman), Christopher Shyer(Jim Cahony), Jill Teed(Officer Tracie Fisher), Ian Marsh(Sam), Raoul Ganeev(Bodyguard), Samantha Ferris(Mrs. Hume), Ocean Hellman(Amy Masterson), Mila Dobrozdravich(Hannah), Aaron Joseph(Kennedy), Ravil Issyanov(Lermontov)
Review: 「コレクター」('97)に続いて、モーガン・フリーマンがワシントン市警の犯罪心理捜査官アレックス・クロスを演じるサスペンス/ミステリ。チャールズ・リンドバーグの息子の誘拐事件をモデルにして、周到な計画により上院議員の娘を拉致した犯人を、クロスとシークレットサービスの女性(モニカ・ポッター)が追う。前半は狡猾な犯人(マイケル・ウィンコット)とクロス達とのCat & Mouseを描き、「ダーティハリー」とそっくりな公衆電話を利用した“市中引き回し身代金受け渡しシーン”もあるが、後半は意外な方向に話が展開していく。ネタバレになってしまうので詳しくは説明できないが、ストーリー展開に「なるほど!」と思わせる見事な部分と、どう考えても論理的におかしい部分の両方が存在する。個人的には好きなジャンルの映画なので結構楽しめたが、やはりどうしてもご都合主義的な部分が気にかかる。誘拐された少女が、ジェームズ・ボンドでも思い付かないような脱出方法を駆使して犯人のウラをかくのはある意味痛快だが、これでは犯人が一見狡猾そうに見えて実はまるで間抜けのように思えてくる。クロスが犯人を追いつめるきっかけもあまりにも安易で苦笑してしまう(犯人との会話からヒントを得てパスワードを割り出し、犯人のPCに入り込んで動機から居場所まで突き止めてしまう、というのは30年前のスパイ映画ならともかく今さらそりゃないでしょうと言いたくなる)。と、不満は色々あるが、やはりフリーマン(ここでは製作総指揮としてもクレジットされている)の圧倒的な存在感と説得力のある演技で、これらの欠点をあまり気にさせず最後まで見せきっている。ポッターは「マーサ・ミーツ・ボーイズ」のヒロイン役が印象的だったが、“ジュリア・ロバーツそっくり”という評価はいかがなものだろうか?リー・タマホリ監督と「ザ・ワイルド」でも組んでいるゴールドスミスの音楽は例によってツボを心得たアンダースコアだが、エンドクレジットに明確なメロディラインのない彼のオーケストラルスコアが延々と流れる映画を久しぶりに見たような気がする。
Rating: ★★★

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「セレンディピティ」 SERENDIPITY
Director: Peter Chelsom
Writer: Marc Klein
Music: Alan Silvestri
Cast: John Cusack(Jonathan Trager), Kate Beckinsale(Sara Thomas), Jeremy Piven(Dean), Molly Shannon(Eve), John Corbett(Lars Hammond), Bridget Moynahan(Halley Buchanan), Eugene Levy(Macall Polay), Lucy Gordon(Caroline Mitchell), Kate Blumberg(Courtney), Mike Benitez(Superintendent), Pamela Redfern(Flight Attendant), Brenda Logan(Hair Stylist), Colleen Williams(Hippie Woman), Stephen Bruce(Host at Serendipity), Aron Tager(Janitor), Christopher Baker(Lars' Band Member #1), Neil Claxton(Lars' Band Member #2), Murray McRae(Priest), Evan Neumann(Kenny), Kevin Rice(Kip), Leo Fitzpatrick(Leasing Office Temp), Ron Payne(Louis Trager), John Ellison Conlee(Artie), Victor A. Young(Mr. Buchanan), Eve Crawford(Mrs. Buchanan), Marcia Bennett(Mrs. Trager), James Goodwin(Nick Roberts)
Review: クリスマスのニューヨーク。とあるデパートで偶然同じ手袋を買おうとして手に取ったジョナサン(ジョン・キューザック)とサラ(ケイト・ベッキンセール)は、話をするうちにたちまち意気投合し、食事を共にする。しかし、互いに別の恋人がいる二人は、運命の偶然がもう一度彼らをめぐり逢わせることを信じて、男は自分の電話番号を5ドル札に書き、女は自分の電話番号を古本のトビラに書いて、それぞれ新聞の売店と古本屋で手放す。これら5ドル札と古本が巡り巡って相手のもとにたどり着けば、その“偶然”は本物だというわけである。二人は互いに相手の連絡先を知らずに別れ、数年が経って互いに別の婚約者との結婚を目前にするようになるが・・。発端のアイデア自体は悪くない“運命の偶然”テーマのロマンティックコメディだが、展開がいかにも安易で先がすぐに読めてしまう。日本のテレビドラマの方がまだストーリーに工夫があるような気がする。キューザックはなかなか好感が持てるが、ベッキンセールはあまりにも普通の女の子すぎて、女優としての魅力もユーモアのセンスもなく、いかにもミスキャストである。こういう内容の浅い恋愛ドラマは、主演の役者たちの魅力によって出来が大きく左右されると思うが、残念ながらこの映画はキャスティングの時点で既に失敗している。「アメリカン・パイ」で主人公の青年の父親を演じていたユージン・レヴィが、エキセントリックなデパートの店員役で出て来る。都会的なコメディを得意とするアラン・シルヴェストリが音楽を担当しているが、なぜかほとんど印象に残らなかった。ベッキンセールの婚約者のミュージシャンが奇妙なアラブミュージックを演奏するのだが、これが実に平凡なつまらない音楽で、この部分もシルヴェストリだとすると、わざと平凡に聞こえるように作曲したとしか思えない。
Rating: ★★

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