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(2002年10月 〜 2003年11月)

 


<2003年11月>

 

「タイムライン」 TIMELINE
Director: Richard Donner
Writers: Jeff Maguire, George Nolfi
Based on a novel by: Michael Crichton
Music: Brian Tyler
Cast: Paul Walker(Chris Johnston), Frances O'Connor(Kate Erickson), Gerard Butler(Andre Marek), Billy Connolly(Professor Edward Johnston), Ethan Embry(David Stern), Anna Friel(Lady Claire), Marton Csokas(Robert de Kere), Michael Sheen(Lord Oliver), Lambert Wilson(Lord Arnaut), Matt Craven(Kramer), David La Haye(Arnaut's Deputy), Rossif Sutherland(Francois), David Thewlis(Robert Doniger), Richard Zeman(Oliver's Lieutenant), Mike Chute(Victor Baretto), Neal McDonough(John Gordon), Stefanie Buxton(Tech #1), Marie-Josee D'Amours(Oliver's Wife), Howard Harris(Blacksmith), Christian Paul(Palmer), Patrick Sabongui(Jimmy Gomez), Amy Sloan(Undergrad #2), Martin Stone(Blacksmith), Ron Weeks(French Soldier)
Review: マイケル・クライトンの原作を職人リチャード・ドナーが映画化したSFサスペンス。フランス南西部ドルドーニュにある修道院の遺跡発掘現場で、14世紀の地層から現代のものと思われる眼鏡レンズと、“Help Me”と書かれたメモが発見される。遺跡発掘チームのメンバーは、この謎を究明するため、プロジェクトのスポンサーである巨大ハイテク企業ITCの研究所に召集されるが・・。私が好きな“時間旅行”テーマの話で、かなり強引かつご都合主義的な展開ではあるが、あまり深く考えなければB級SFサスペンス映画として楽しめる。主人公たちの目的は、過去にタイムスリップして行方不明になったある人物の救出なので、その人物と再会した時点でさっさと現代に戻ってくればいいと思うのだが、これがそうはいかないところがいかにもご都合主義で失笑してしまう(それで事が解決してしまうと話が30分で終わってしまうからだが・・)。それと、この手のタイムトラベルもののルールとして「過去の事実を変えてしまうと現状に矛盾が生じる」という原則があるのだが、この話はこれを全く無視して過去の事実を平気で変えまくっているのもちょっと安易。全体に地味なキャストだが、主役のポール・ウォーカーは記号的なキャラクターで全く印象に残らない。ヒロインのフランシス・オコナーも若い役柄の設定にしてはオバさん顔であまり魅力がない。「トゥームレイダー2」ではパっとしなかったジェラルド・バトラーが、ここでは非常に得な役をもらっており、いい味を出している。撮影監督がカレブ・デシャネルで、LAユニットの撮影がヴィルモス・ジグモンドと、撮影班が異常に豪華。ブライアン・タイラーのソリッドなサスペンス音楽も適当。クライマックスの英仏軍合戦シーンのテキパキとした演出がドナー監督らしくて面白かった。
Rating: ★★★

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<2003年9月>

 

「閉ざされた森」 BASIC
Director: John McTiernan
Writer: James Vanderbilt
Music: Klaus Badelt
Cast: John Travolta(Hardy), Connie Nielsen(Osborne), Samuel L. Jackson(West), Timothy Daly(Styles), Giovanni Ribisi(Kendall), Brian Van Holt(Dunbar), Taye Diggs(Pike), Dash Mihok(Mueller), Cristian de la Fuente(Castro), Roselyn Sanchez(Nunez), Harry Connick Jr.(Vilmer), Georgia Hausserman(Pilot), Margaret Travolta(Nurse #1), Dena Johnston(Nurse #2), Nick Loren(Helicopter Pilot), Cliff Fleming(Helicopter Pilot), Steven Maye(CID Officer), Jonathan Rau(G.I. on the Tarmac), Tait Ruppert(Jeep Driver), Timothy S. Wester(Doctor), Chris Byrne(MP), Curtis Ricks(MP), Charles L. Fails(MP)
Review: 「ローラーボール」では大いにがっかりさせられたジョン・マクティアナン監督の新作。ハリケーンによる暴風雨の中、密林での訓練に出た米軍レンジャー部隊が消息を絶つ。数時間後に生還した隊員2名は、教官のウエスト軍曹(サミュエル・L・ジャクソン)が訓練中に不可解な死を遂げたことを明かす。調査を担当することになったオズボーン大尉(コニー・ニールセン)と元レンジャー隊員のハーディ(ジョン・トラヴォルタ)は事件の真相を究明しようとするが、隊員2名の証言は「羅生門」のように食い違い、謎は深まっていく・・。個人的に好きな“謎解き”タイプのストーリーなので点が少し甘くなるのだが、なかなかよく練られた展開で楽しめるし、ラストも良い。ただ、登場するレンジャー隊員たちの名前と顔が一致しないので、映像なしにセリフだけで説明されると混乱するのと、雨の夜のシーンが多く、画面が全体に暗くて見づらいのが難点。オチがわかった上で考え直してみると、どの場面でも「騙している人物」と「騙されている人物」(観客以外に)がいることがわかるが、この手の脚本の盲点は、うっかりすると観客以外に騙されている人物がいない状況に陥ってしまうことである(そういう状況は当然あってはならない)。この映画でも、「このトリックは(観客以外に)誰を騙すためのものなのか?」と疑問を感じる箇所がいくつかある。そういうご都合主義的な部分はあるが、それでもなんとかして巧妙に観客を騙そうとするクリエーターたちの姿勢は評価できるし、観る側も「騙される快感」を楽しめる。同じトラヴォルタ主演の作品でも、いい加減極まりない「ソードフィッシュ」などよりは数段好感がもてる。コニー・ニールセンは「グラディエーター」等では良かったが、ここでは威勢のいい役の割りにはなぜか精彩がなく、魅力を感じない。彼女はこういう男勝りの役よりは女性的なキャラクターの方がかっこいい。原題名の「BASIC」というのもあまりピンとこない。邦題の「閉ざされた森」の方がミステリ風で良いと思う。
Rating: ★★★

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<2003年8月>

 

「陰陽師 U」
監督: 滝田洋二郎
脚本: 江良 至、夢枕 獏、滝田洋二郎
音楽: 梅林 茂
出演: 野村萬斎、伊藤英明、今井絵理子、中井貴一、深田恭子、古手川祐子、市原隼人、鈴木ヒロミツ、山田辰夫、伊武雅刀、他
Review: 興行収入32億円を記録した「陰陽師」の続編。今回は夜の闇にまぎれて人々を襲う鬼の謎がテーマになっているが、ストーリー自体は前作よりも工夫があり、少なからず改善されていると思う。しかし、やはり盛り上がらない。今回重要なキャラクターを演じている深田、市原や、前作からのレギュラーメンバーである伊藤、今井が相変わらず学芸会的な稚拙な演技を披露しているが、これは彼らの未熟さというより監督の手抜きとしか思えない。私は現場にいたわけではないので、どのような演出をしたのかわからないが、普通ならダメ出しをすべき演技がそのまま使われているということは、監督が適当なところで妥協してしまっているのではないのか。たとえ演技力のないアイドル俳優でも、何度もダメ出しをしてベストの演技を引き出してやるのが監督の務めではないのか。「大ヒットした映画の続編だから、同じようなキャストで、ほどほどの予算でスケジュール通りに仕上げれば、ビジネス的には成功間違いなし。だからとにかく最初から最後までストーリーが一応つながっていればよいのだ」という安易な態度が演出に見て取れ、非常に不愉快。これでは「職人監督」ですらなく、ただの「事務屋」である。こんな安易な仕事を「職人芸」と呼ぶと、ロバート・アルドリッチやドン・シーゲルといった本物の職人監督に対して失礼である。主役の野村萬斎や悪役の中井貴一はプロフェッショナルな仕事をしているのに、監督がこれでは彼らの努力が報われないだろう。
Rating: ★★

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<2003年7月>

 

「シンドバッド 7つの海の伝説」 SINBAD: LEGEND OF SEVEN SEAS
Directors: Patrick Gilmore, Tim Johnson
Writer: John Logan
Music: Harry Gregson-Williams
Cast(voice): Brad Pitt(Sinbad), Catherine Zeta-Jones(Marina), Michelle Pfeiffer(Eris), Joseph Fiennes(Prince Proteus), Dennis Haysbert(Kale, First Mate), Adriano Giannini(Rat), Timothy West(King Dymas), Raman Hui(Jin), Chung Chan(Li), Jim Cummings(Luca), Conrad Vernon(Jed), Andrew Birch(Grum/Chum), Chris Miller(Tower Guard)
Review: 地の果てのタルタルスに住むカオス(混乱)の女王エリスの策略により、世界の平和を司る「魔法の書」を盗んだ犯人にされてしまった海賊シンドバッドは、彼の無実を信じて身代わりとなった親友のプロテウス王子が処刑されてしまう前に、エリスから「魔法の書」を奪い返すべく、プロテウスの婚約者マリーナとともに冒険の旅に出る・・。シンドバッドというとレイ・ハリーハウゼンのダイナメーション特撮による一連のファンタジーアドベンチャー映画を思い出すが、このジェフリー・カッツェンバーグ/ドリームワークスによるアニメ版も冒険活劇のスピリットをうまく再現しており、ファミリーエンターテインメントとしては実に良く出来ていて感心させられる(見終わって何も残らないが・・)。子供が見たらきっと大喜びだろう。シンドバッド役のブラッド・ピット、ヒロインのマリーナ役のキャサリン=ゼタ・ジョーンズ、エリス役のミシェル・ファイファー、プロテウス役のジョセフ・ファイズ等のヴォイス・キャストも実に楽しそうに生き生きと演じていて良い(特に悪女役のファイファーが秀逸)。アニメーションの技術的には、2Dセル・アニメ調の人物たちと3DフルCGによる怪物たちが混在しているのがやや違和感があるのと、部分的に背景画の仕上がりが雑なのが気になるが、荒れ狂う海の表現やアクション・シーンの演出には迫力がある。Media Ventures一派のハリー・グレグソン=ウィリアムズによる派手な冒険活劇調スコアも適切。純粋なエンターテインメントとしては立派な出来。
Rating: ★★★

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「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」
監督: 本広克行
脚本: 君塚良一
音楽: 松本晃彦
出演: 織田裕二(青島俊作)、柳葉敏郎(室井慎次)、深津絵里(恩田すみれ)、水野美紀(柏木雪乃)、ユースケ・サンタマリア(真下正義)、北村総一朗(神田署長)、小野武彦(袴田健吾)、斉藤 暁(秋山副署長)、佐戸井けん太(魚住二郎)、小林すすむ(中西修)、甲本雅裕(緒方薫)、遠山俊也(森下孝治)、星野有香(山下圭子)、星川なぎね(渡辺葉子)、児玉多恵子(吉川妙子)、小泉孝太郎( 小池茂)、小西真奈美(江戸りつ子)、真矢みき(沖田仁美)、神山 繁(吉田敏明)、筧 利夫(新城賢太郎)、小木茂光(一倉正和)、高杉 亘(草壁中隊長)、岡村隆史(増田喜一)、いかりや長介(和久平八郎)
Review: 大ヒットした前作より5年、満を持してのパート2だが、個人的には前作の方がまだ単純に楽しめた(前作もTVドラマの延長という印象しかなく、さほど感心しなかったが)。湾岸署の“現場派”の主人公たちと“体制側”の警視庁との対立の図式は前作と同じだが、今回は体制側の立場を本部長として乗り込んできた女性管理官(真矢みき)のキャラクターに集約してしまっている点がストーリーの弱点だと思う。本来の悪役である犯人グループはほとんど記号的にしか登場しないし、それ以外のキャラクターは基本的に主人公の青島(織田)やすみれ(深津)たちの味方である。結果としてストーリー全体の中の“憎まれ役”をこの女性管理官が一手に引き受ける形となっているが、この人物が実に類型的な“イヤな女上司”キャラクターなので、話が一向に盛り上がらない。最後も「やっぱり女はダメか」的な安易な身の引き方となり、なんだか一人で損な役まわりを引き受けた彼女が気の毒になってしまう。このキャラクターの設定にもう少しひねりがあれば面白くなっただろう(あるいはもっと強烈なスター・バリューのある女優が演じていれば違ったかも)。捜査の対象となる連続殺人事件の真相も実に薄っぺらで、こんな事件にSAT(これは実在する)が出動するとは思えない。警察が導入しようとしているという監視カメラのギミックも、何十年も前から使い古されてきたアイデアで今さら何の新鮮味もない。ネゴシエーター役のユースケ・サンタマリアが、犯人からかかってきた電話にわざと出ずに「またかかってきますよ」とうそぶくところなど、まんま「ネゴシエーター」のケヴィン・スペイシーで苦笑してしまう。織田の演技は、おなじみの役のせいか「TRY」(これはゆるい映画だった)の時よりリラックスしていて良い。まあ、このシリーズのファンは楽しめるのだろう。
Rating: ★★1/2

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<2003年6月>

 

「ドラゴンヘッド」 DRAGONHEAD
監督: 飯田譲治
原作: 望月峯太郎
脚本: NAKA雅MURA、斉藤ひろし、飯田譲治
音楽: 池頼広
出演: 妻夫木聡(青木テル)、SAYAKA(瀬戸アコ)、山田孝之(高橋ノブオ)、藤木直人(仁村)、近藤芳正、奥貫薫、嶋田久作、根津甚八
Review: 「アルマゲドン」「ティープ・インパクト」「ザ・コア」といった“世界崩壊”テーマの日本版バリエーション。この手の映画の常套である“ヒーローが何らかの方法で壊滅的状況を打破する”というパターンを敢えてはずし、無力な主人公たちが廃墟と化した世界を徘徊する中で様々な狂気に遭遇するというストーリーになっているが、異常な事態になすすべもなくオロオロする主人公たちの“Passiveさ”がいかにも日本的でリアルではある。ただ、ここでの“狂気”の描き方は中途半端であまり説得力がない。中盤で登場する藤木直人等のキャラクターも「狂っている」というよりは、単に何がしたいのかわからない人々ばかりで、見終わって何の印象も残らない。最初の方で、いじめにあっていた生徒が、自分をいじめた相手やそれを見て見ぬふりをした教師に復讐する部分は、日本的な陰湿さがよく出ていてかえって説得力がある。映像的には、ウズベキスタン・ロケによる廃墟の表現がリアリスティックで、VFXもよく出来ている。ローソンが特別協賛しており、灰の中に埋もれたローソンから主人公たちがペットボトルのお茶を掘り出してきて喉の乾きを癒すというシーンには笑ってしまった。しかし、ここまでDepressingな世界をわざわざ金を払ってまで見たいと思うだろうかという疑問は残る。やはり、観客はラストでブルース・ウィリス(ヒラリー・スワンクも可)に世界を救ってもらいたいと思っているのではないだろうか?
Rating: ★★

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「ザ・コア」 THE CORE
Director: Jon Amiel
Writers: Cooper Layne, John Rogers
Music: Christopher Young
Cast: Aaron Eckhart(Dr.Joshua 'Josh' Keyes), Hilary Swank(Major Rebecca 'Beck' Childs), Stanley Tucci(Dr. Conrad Zimsky), Delroy Lindo(Dr. Ed 'Braz' Brazzelton), Tcheky Karyo(Dr. Serge Leveque), Richard Jenkins(General Thomas Purcell), Alfre Woodard(Talma Stickley), DJ Qualls(Taz 'Rat' Finch), Bruce Greenwood(Commander Robert 'Bob' Iverson), Dion Johnstone(Flight Engineer Timmins), Christopher Shyer(Dave Perry), Ray Galletti(Paul), Eileen Pedde(Lynne), Rekha Sharma(Danni), Tom Scholte(Acker)
Review: 日本では「マトリックス・リローデッド」と同日公開(6/7)となり、苦しい興行を強いられたであろう作品。地球の中心の核(コア)の異変が世界各地で異常現象をもたらすという“世界崩壊パニック映画”(?)のバリエーションだが、科学的な信憑性は非常に低いものの、B級アクション映画的ノリで最悪の事態をいかに回避するかというサスペンスに徹しており、娯楽映画としては良く出来ている(個人的には「マトリックス・・」より楽しめた)。大作映画にしては出演俳優がやけに地味なところもB級っぽい。ただ主人公たちが揃いも揃って自己犠牲の精神に満ちたヒーローばかりというのはちょっと設定がナイーブすぎる気がする(「そうあってほしい」という作者の気持ちはわかるが)。自己中心的でイヤな奴として描かれているキャラクターまでが、クライマックスでは全人類を救うために自らの命を捧げる。こういう異常事態発生時にたまたま運良く地球の中心部の高熱にも耐えうる特殊な物質がひそかに開発されていた等、ご都合主義的な展開には苦笑してしまうが、ノリがB級パニック映画なのであまり気にならない。クリストファー・ヤングのソリッドなサスペンス音楽も効果的。いかにもありがちな天才的ハッカーのキャラクター(一体世界に何人いるのか?)もストーリーの中でそれなりにうまく活かされている。個人的には“ベッソン組”のチェッキー・カリョにもう少し活躍してほしかった。
Rating: ★★★

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<2003年4月>

 

「トーク・トゥ・ハー」 TALK TO HER
Director/Writer: Pedro Almodovar
Music: Alberto Iglesias
Cast: Leonor Watling(Alicia), Javier Camara(Benigno), Dario Grandinetti(Marco), Rosario Flores(Lydia), Geraldine Chaplin(Katerina), Paz Vega(Heroine of "Shrinking Lover"), Pina Bausch, Caetano Veloso
Review: 交通事故で昏睡状態になった若きバレリーナのアリシアと、彼女に4年間付き添い丹念に世話を続ける看護士のベニグノ。競技中の事故でやはり昏睡状態になった女闘牛士リディアと、彼女の傍で絶望にくれる恋人のマルコ。同じ病院で互いの境遇を知ったベニグノとマルコには、やがて固い友情が生まれるが・・。さほど強烈なドラマ性のあるストーリーではないと思うが、深く心を揺さぶられる作品。出演者の演技も一様に見事で、説得力がある。しかし、なんといってもこういう独創的なストーリーを思いつくアルモドヴァルに感心させられる。過去10年間に世界各地で実際に起きた様々な事件からヒントを得たらしく、これら事件の内容を知ると「なるほど」とは思うが、それにしてもこういうストーリーに昇華させられるところがすごい。アカデミー賞の脚本賞受賞も十分納得できる。ジェラルディン・チャップリンがバレエ教師役で出てくるが、もともと痩せぎすのせいかまるでミイラのようで驚いた(まだ60歳くらいのはずだが)。劇中に挿入される『縮みゆく恋人』という短いサイレント映画が、コミカルかつ奇想天外で楽しい。アルモドヴァル自身最も気に入っている部分らしいが、彼の個性を強く感じさせる。また、映画の冒頭と最後に登場するドイツの舞踏家・振付家ピナ・バウシュによる舞台劇、中盤に登場するブラジルの歌手カエターノ・ヴェローゾの歌と演奏が、非常に印象的なアクセントになっている。
Rating: ★★★

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<2003年3月>

 

「インファナル・アフェア」 INFERNAL AFFAIRS
Directors: Andrew Lau(Wai Keung Lau), Alan Mak(Siu Fai Mak)
Writers: Felix Chong, Alan Mak(Siu Fai Mak)
Music: Kwong Wing Chan
Cast: Andy Lau(Ming), Tony Leung Chiu Wai(Yan), Eric Tsang(Sam), Anthony Wong Chau-Sang(Superintendent Wong), Sammi Cheng(Ming's Ex-Girlfriend), Elva Hsiao(Yan's Ex-Girlfriend), Edison Chen(Young Ming), Shawn Yu(Young Yan), Kelly Chen
Review: 原題名の「無間道」は仏教の言葉で無限の地獄を指すらしい。香港では「英雄/ヒーロー」を上回る大ヒットとなり、2003年度香港アカデミー賞に主演男優賞を含む16部門がノミネートされた作品。アンディ・ラウ(劉徳華)が警察の中に入り込んだ犯罪組織のスパイを、トニー・レオン(梁朝偉)が犯罪組織の中に潜入した警察のスパイを演じる。警察と犯罪組織は、互いに自分たちの中にスパイがいると知り、それが誰かを突き止めようとするが・・。脚本の展開はかなり乱暴で若干わかりにくいが、全編を通して緊張感があり飽きずに最後まで見せきる。アクション・シーンはさほど激しいものではなく、むしろ“スパイ探し”のサスペンスと男同士の友情と裏切りのドラマに重点が置かれている。警察側のリーダーを演じるアンソニー・ウォン(黄秋生)はなかなか渋いが、犯罪組織のボスを演じるエリック・ツァン(曾志偉)がちょっとクサい。トニー・レオンと恋愛関係になる精神科医をケリー・チャン(陳慧琳)が演じている。Visual Consultantとしてクリストファー・ドイルが参加しており、彼は上記アカデミー賞にもノミネートされている。香港で大ヒットしたことに気を良くした映画会社は、主役2人の若い頃を描いた続編を、この映画にも出演しているエディソン・チャン(陳冠希)とショーン・ユー(余文楽)主演で製作するらしい。また、アメリカのメジャー・スタジオがこの映画のリメイク権を買ったというが、ハリウッド映画界はいまや完全なネタ不足で、日本やアジアを含む海外の作品のリメイク権を買い漁っている。
Rating: ★★★

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「シモーヌ」 S1M0NE
Director/Writer: Andrew Niccol
Music: Carter Burwell
Cast: Al Pacino(Viktor Taransky), Catherine Keener(Elaine Christian), Evan Rachel Wood(Lainey Christian), Rachel Roberts(Simone), Pruitt Taylor Vince(Max Sayer), Jason Schwartzman(Milton), Winona Ryder(Nicola Anders), Benjamin Salisbury(P.A.), Darnell Williams(Studio Executive), Jim Rash(Studio Executive), Ron Perkins(Studio Executive), Jay Mohr(Hal Sinclair), Jeffrey Pierce(Kent), Jeff Williams(Man in Suit), Jenni Blong(Jane), Susan Chuang(Lotus), Robert Musgrave(Mac), Deborah Rawlings(Coral), Christina Rydell(Claris), Rod Simmons(Hewlett), Rebecca Romijn-Stamos(Faith), Forest Whitaker(Mailman Delivering the Tape)
Review: アート系映画の監督で興行的失敗作を連発しているヴィクター(アル・パチーノ)は、新作映画の主演女優(ウイノナ・ライダー)が製作途中で降りてしまったことで窮地に立たされ、とあるコンピューター技術者から託されたソフトを使ってバーチャル・アクトレス“SIMONE”(= SIMulation ONE の略)を創造し、編集段階で主役の登場シーンに合成して映画を完成させる。SIMONEは一躍人気スターとなり、彼女が実在している思い込んだファンやレポーターはヴィクターを執拗に追い回すが・・。この映画の製作発表時に、主役のSIMONEはフルCGIにより作成され合成されると予告されたため、実際に主役を演じたレイチェル・ロバーツというカナダの女優(監督のアンドリュー・ニッコールの妻でもある)は、自分が主役を演じているということを口外しないとの守秘義務契約を製作会社と交わし、撮影現場ではANNA GREEN(合成に使用する ANAmorphic GREEN screen から取った名前)という偽名を使っていたという。ストーリー自体はありがちな話であまり工夫がないが、パチーノや彼の元妻を演じるキャサリン・キーナー等芸達者な俳優のおかげで楽しめる作品になっている。ヴィクターがSIMONEと別れを告げるシーンなどは結構しんみりとさせられる。SIMONEを追いかける雑誌レポーターを「海の上のピアニスト」のトランペッター役だったP・T・ヴァンスが演じているが、この人はなんか相変わらず目が泳いでいる。プロデューサーにダニー・デヴィートが参加している。
Rating: ★★★

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<2003年2月>

 

「ボーン・アイデンティティー」 THE BOURNE IDENTITY
Director: Doug Liman
Writers: Tony Gilroy, William Blake Herron
Based on a novel by: Robert Ludlum
Music: John Powell
Cast: Matt Damon(Jason Bourne), Franka Potente(Marie Kreutz), Chris Cooper(Conklin), Clive Owen(The Professor), Brian Cox(Ward Abbott), Adewale Akinnuoye-Agbaje(Wombosi), Gabriel Mann(Zorn), Walt Goggins(Research Tech), Josh Hamilton(Research Tech), Julia Stiles(Nicolette), Orso Maria Guerrini(Giancarlo), Tim Dutton(Eamon), Denis Braccini(Picot), Nicky Naude(Castel), David Selburg(Marshall), Demetri Goritsas(Com Tech), Russel Levy(Manheim), Anthony Green(Security Chief), Hubert Saint-Macary(Morgue Boss), David Bamber(Consulate Clerk), Gwenael Clause(Deauvage)
Review: 故ロバート・ラドラム原作のサスペンス小説『暗殺者』の2度目の映画化(前作はTVムービーの『スナイパー/狙撃者』)。嵐の夜、イタリアの漁船に洋上から引き上げられた意識不明の若い男(マット・デイモン)。彼の背中には弾痕があり、身体にはスイスの銀行の口座番号が印されたマイクロカプセルが埋め込まれていた。男は記憶を失っており、やがて暗殺者たちに命を狙われ始める・・。この映画の面白さはラドラムの優れた原作小説に負うところが大きく、演出や脚本に特に際立ったところはないと思う。原作を知るものにとってはデイモンは明らかにミスキャストで、プロの暗殺者のストイシズムを全く感じさせない。前作『スナイパー/狙撃者』で同じキャラクターを演じたリチャード・チェンバーレンの方がそれらしかった。しかもこの前作は脇役もジャクリン・スミス、デンホルム・エリオット、アンソニー・クエイル、ピーター・ヴォーン等となかなか渋い。今回の映画ではポテンテが自由奔放なヒロインを好演している(美人とは言えないが・・)。主人公を狙う殺し屋役のクライヴ・オゥエンもいい味で、主役のデイモンよりも“プロの暗殺者”としての説得力がある。やはり問題は脚本の平凡さで、「原作はもっと面白かったのに・・」という印象が残る。中盤の見せ場であるカー・チェイスも、パリを舞台にしているところがハリウッド映画としては新鮮味があるのだろうが、同様にフランスで撮影したジョン・フランケンハイマー監督の『RONIN』やルイ・レテリエ監督の『トランスポーター』の方がスピード感がある。この手のスパイ・サスペンスは好きなジャンルなのだが、もう少し工夫がほしいところ。
Rating: ★★1/2

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<2003年1月>

 

「黄泉がえり」 YOMIGAERI
監督: 塩田明彦
原作: 梶尾真治『黄泉がえり』
脚本: 犬童一心、斉藤ひろし、塩田明彦
音楽: 千住 明
出演: 草なぎ剛(川田平太)、竹内結子(橘 葵)、石田ゆり子(玲子)、哀川 翔(周平)、山本圭壱(中島英也)、伊東美咲(幸子)、田中邦衛(斎藤医師)
Review: 一体何が言いたいのか?別に大仰なメッセージを映画に込める必要はないと思うが、「一度死んだ人がよみがえってきて、しばらくするとまたあの世に戻っていく」という(予告編を見ればわかってしまう)現象をただ描いて何かを感じろと言われても困ってしまう。主人公の草なぎが自分の親友と結ばれた竹内のことを実はずっと好きだった、という陳腐なメロドラマのようなラストの告白が描きたかっただけなのか? なぜ死んだ人間がよみがえってきたのか、なぜしばらくするとまたあの世に戻っていくのか、という理由を説明する必要はないと思うが(この映画でもその点についての説明は全くない)、「一度死に別れた人と再会し、また別れていく」という現象が人々にどのようなインパクトを与えるのか、人はそこから何を感じ、どのように変化するのか、という部分をもっときちんと描かないとドラマにもならないし、感動も生まれない。無駄なシーンが多すぎて全体が非常に長く感じるのも難点で、ラストのコンサートのシーンでヴォーカルを3曲も聞かされるのにはさすがにうんざりした(柴咲コウのPVじゃあるまいし)。126分もあるが、90分程度に十分まとめられる話だと思う。自殺した少年が自分の葬式に現れて皆が驚くシーンがあるが、これなどもっとドラマティックに描けそうなものなのに、全く工夫がない。全然関係ないが、『カプリコン1』というアメリカ映画で主人公が自分の葬式に現れる痛快無比なラストシーンをちょっと思い出してしまった。
Rating: ★★

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「ギャング・オブ・ニューヨーク」 GANGS OF NEW YORK
Director: Martin Scorsese
Writers: Jay Cocks, Steven Zaillian, Kenneth Lonergan
Music: Howard Shore
Cast: Leonardo DiCaprio(Amsterdam Vallon), Daniel Day-Lewis(William 'Bill the Butcher' Cutting), Cameron Diaz(Jenny Everdeane), Jim Broadbent(William 'Boss' Tweed), John C. Reilly(Happy Jack), Henry Thomas(Johnny Sirocco), Brendan Gleeson(Monk McGinn), Liam Neeson(Priest Vallon), David Hemmings(Mr. Schermerhorn), Roger Ashton-Griffiths(P.T. Barnum), Salvatore Billa(Native), Barbara Bouchet(Mrs. Schermerhorn), Lucy Davenport(Miss Schermerhorn), Gerry Robert Byrne(Draft Official), Brennan Caitlin(Hot Corn Girl), Liam Carney(Fuzzy), Cara Seymour(Hellcat Maggie), Martin Scorsese(Wealthy Homeowner)
Review: 19世紀半ばニューヨークを舞台に、アイルランド移民の組織“デッド・ラビッツ”のリーダーである父親(リーアム・ニーソン)を、対立する組織“ネイティブズ”のリーダー、ビリー(ダニエル・デイ=ルイス)に目の前で殺されたアムステルダム(レオナルド・ディカプリオ)は、15年を経て復讐のために素性を隠しビリーに近づいていくが・・。巨額の製作費をかけ偉大な映画を作ろうとする監督の意気込みはわかるが、登場人物の誰にも感情移入できないのでドラマが極めて虚ろで、全編を通してエモーショナル・レベルが非常に低い。単に血に飢えた犯罪者たちが血で血を洗う復讐合戦を繰り返しているだけのストーリーで、グラフィックに醜く残虐なシーンの連続を見せられて「どうだ、まいったか」と言われても何の感慨もない。ディカプリオとキャメロン・ディアスのラブストーリーの部分も、役者は熱演しているがやはりキャラクターに同化できないのでいまひとつ盛り上がりに欠ける。ラストでディカプリオ率いるギャングが宿敵のデイ=ルイスとの対決に向かうシーンでも、例えば「ワイルドバンチ」のラストでウィリアム・ホールデン率いる4人の無法者たちが仲間を救うために捨て身の襲撃に向かうシーンのような、血沸き肉躍る感覚が全くない。あまりにも長すぎる上映時間をカットしようとするミラマックスのプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインと監督のスコセッシとの間の確執が話題になっていたが、確かにかなりカットされた後があり(それでも依然として長いが)、ショットのつながりがおかしいところがいくつもあった。ラストのニューヨークのツイン・タワーのショットが妙に印象的。
Rating: ★★

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<2002年12月>

 

「007/ダイ・アナザー・デイ」 DIE ANOTHER DAY
Director: Lee Tamahori
Writers: Neal Purvis, Robert Wade
Music: David Arnold
Cast: Pierce Brosnan(Commander James Bond, Agent 007), Halle Berry(Jinx), Toby Stephens(Gustav Graves), Rosamund Pike(Miranda Frost), Rick Yune(Zao), John Cleese(Q), Judi Dench(M), Michael Madsen(Agent Damian Falco), Will Yun Lee(Colonel Moon), Samantha Bond(Miss Moneypenny), Colin Salmon(Charles Robinson, Chief of Staff), Lawrence Makoare(Mr. Kil), Emilio Echevarría(Raoul), Rachel Grant(Peaceful), Anna Edwards(Scorpion Girl), Kenneth Tsang(General Moon), Mikhail Gorevoy(Vladamir Popov), Thomas Ho(Korean Guard), Simón Andreu(Dr. Alvarez), Deborah Moore(Air Hostess), Madonna(Verity)
Review: 007シリーズの最新作。例によってかなり無理のあるストーリー展開だが、冒頭の北朝鮮を舞台にした派手なチェイスシーンから、輸送機上のクライマックスまで物量とスピードで畳み掛けており、それなりに楽しめる(少なくとも前作の「World Is Not Enough」よりはよく出来ていると感じた)。ピアース・ブロスナンはボンド役が定着してきたが、どうも彼にはショーン・コネリーやロジャー・ムーアのような“余裕”や“遊び”が感じられない。ハル・ベリーがボンドと共に闘う重要な役で出てくる(このキャラクターを主役にしたベリー主演のスピン・オフ映画が企画中らしい)が、なぜかここでは今ひとつ魅力に欠ける(「ソードフィッシュ」の時の方がセクシーだった)。むしろ脇役のイギリス女優ロザムンド・パイクのクール・ビューティさが非常に良い。主題歌(全く印象に残らない)を歌っているマドンナがフェンシングのインストラクター役でカメオ出演しているが、単に意地悪なおばさんみたいで老けたもんである。最大の問題点は悪役に迫力がないことで、特にヒュー・グラントが傲慢になっただけみたいなトビー・スティーブンスはまるでチンピラである (彼はビリー・ワイルダー監督の「シャーロック・ホームズの冒険」でホームズを演じた俳優のロバート・スティーブンスと女優マギー・スミスとの間の二世俳優らしい)。最後の方のマネペニーのギャグはちょっと笑える。デヴィッド・アーノルドのスコアはいつもの騒々しいロック調で、これまた印象に残らない。例によって内容とほとんど無関係な、何のことかよくわからないタイトルにも困ったものである。
Rating: ★★★

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<2002年11月>

 

「13階段」 THE THIRTEEN STEPS
監督: 長澤雅彦
原作: 高野和明
脚本: 森下 直
音楽: ニック・ウッド
出演: 反町隆史(三上純一)、山崎 努(南郷正二)、田中麗奈(南郷杏子)、笑福亭鶴瓶(杉浦弁護士)、宮藤官九郎(樹原 亮)、別所哲也(中森検事)、大杉 漣(安藤紀夫)、井川比佐志(佐村光男)、石橋蓮司(阿部所長)、崔 洋一(武藤所長)、木内晶子(木下友里)、寺島 進(岡崎刑務官)、螢 雪次郎(藤本巡査部長)深水三章(三上俊男)、水橋研二(佐村恭介)、川原さぶ(室戸英彦)、西田尚美(三上和子)大滝秀治(久保)
Review: 私の友人の高野和明氏が執筆し、第47回江戸川乱歩賞を受賞したミステリ小説の映画化。喧嘩相手を死に至らしめ仮出所中の三上純一(反町)は、刑務官の南郷(山崎)から、ある死刑確定囚(宮藤)の冤罪を晴らすための調査に誘われる・・。江戸川乱歩賞を受賞した作品は自動的に講談社から単行本が出版され、フジテレビが映像化権を取得することになっている。かといって必ず映像化されるとは限らず、また、映像化されてもテレビの2時間ドラマになるケースが多く、今回のように劇場用映画が製作されるのは稀なようである。高野氏は本来映画監督志望で、長年プロの脚本家としてのキャリアを積んできている(「セブンズ フェイス」ご参照)ので、この『13階段』も映像化に向いた作品と判断されたのだろう(彼自身は「映画にならない題材だからこそ小説にした」と言っているのだが・・)。小説を読んだ人が映画を見ればすぐにわかるが、映画版はかなり重要な部分を変更している。詳細を書くとネタバレになるので省略するが、私自身もかなり首をかしげてしまう変更内容だったので、原作者としては相当不本意だろうと想像する。なんといっても緻密なサスペンス・ミステリだった原作が、映画では安易な“お涙頂戴”パターンになってしまっているのが残念。彼はこれに懲りて2作目の『グレイヴディッガー』以降は自分自身で映像化権を留保することにした。もちろんその目的は他人に勝手に内容を変更されてしまわないよう、自分で脚本を書き、自分で監督するためである。高野氏の映画監督デビューに期待したい。
Rating: ★★1/2

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「トリプルX」 XXX
Director: Rob Cohen
Writer: Rich Wilkes
Music: Randy Edelman
Cast: Vin Diesel(Xander Cage), Asia Argento(Yelena), Marton Csokas(Yorgi), Samuel L. Jackson(Agent Augustus Gibbons), Danny Trejo(El Jefe), Michael Roof(Agent Toby Lee Shavers), Tom Everett(Senator Dick Hotchkiss), Richy Muller(Milan Sova), Werner Dahn(Kirill), Petr Jakl(Kolya), Jan Pavel Filipensky(Viktor), Thomas Ian Griffith(Agent Jim McGrath), Eve(J.J.), Leila Arcieri(Jordan King), William Hope(Agent Roger Donnan), Ted Maynard(James Tannick), David Asman(Agent Polk), Joe Bucaro III(Virg), Chris Gann(T.J.), Martin Hub(Ivan Podrov)
Review: 命がけのスポーツ“Xゲーム”で若者たちにその名を知られるカリスマ的存在のザンダー・ケイジは、米国国家安全保障局から特殊工作員に任命され、チェコの犯罪組織“アナーキー99”へと潜入する・・。「ドラゴンハート」等ではオリジナリティを感じさせたロブ・コーエン監督が、ここでは“どこかで見たことがあるシーン”と“どこかで聞いたことがあるセリフ”を連発するクリシェまみれのアクション映画を作っており、なんともがっかりさせられた。そもそも札付きのワルをつかまえてきて特赦をエサに特殊任務につかせるというアイデアは、ロバート・アルドリッチ監督が『特攻大作戦』で何十年も前にやっているし(これは大傑作だった)、細菌兵器を使って世界征服を企む悪党一味という設定など一昔前の『007』シリーズのスペクター並みの古さで、何の新鮮味もない。ヴィン・ディーゼルのキャラクターはワルにしてはやたらと正義感が強く、彼に比べればタランティーノの映画に出てくる“普通の”人間の方がはるかにダーティでワイルドに思える。途中で主人公の正体が何者かの密告によって悪党一味にバレるシーンがあるが、誰が密告したのか結局最後まで説明のないまま終わってしまう。こんな重要なポイントをうやむやにするなど、脚本があまりにいい加減すぎる。聞いているこっちが恥ずかしくなるセリフの数々もなんとかしてほしい。「あの時わたしが言った言葉を覚えている?」「○○○?」「あれはウソよ」などという、これまでに何百回聞かされたかわからないような陳腐なセリフを嬉々として書くこの脚本家は単なる“アクション映画ファン”のレベルだろう。唯一健闘しているのは、コーエン監督の常連コラボレーターである作曲家のランディ・エデルマンで、全編にわたりハイテンションでパワフルなアクションスコアを提供している。エンドタイトルの音楽が実にかっこいい。
Rating: ★★1/2

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<2002年10月>

 

「マイノリティ・リポート」 MINORITY REPORT
Director: Steven Spielberg
Writers: Scott Frank, Jon Cohen
Based on the short story by: Philip K. Dick "Minority Report"
Music: John Williams
Cast: Tom Cruise(Chief John Anderton), Colin Farrell(Danny Witwer), Samantha Morton(Agatha), Max Von Sydow(Director Lamar Burgess), Lois Smith(Dr.Iris Hineman), Peter Stormare(Dr.Eddie Solomon), Tim Blake Nelson(Gideon), Steve Harris(Jad), Kathryn Morris(Lara Clarke), Mike Binder(Leo Crow), Daniel London(Wally the Caretaker), Spencer Treat Clark(Sean at Nine), Neal McDonough(Fletcher), Jessica Capshaw(Evanna), Patrick Kilpatrick(Knott), Jessica Harper(Anne Lively), Ashley Crow(Sarah Marks), Arye Gross(Howard Marks)
Review: 映画におけるストーリー・テリングの一つの極致だと思う。ここまで複雑なプロットを理路整然とサスペンスフルに演出できる映画監督は、現存する人間ではスピルバーグ以外にはいないのではないだろうか。他の監督が撮っていれば訳がわからなくなってしまっただろう。フィリップ・K・ディックが1956年に書いた短編小説自体にも卓越したアイデアが凝縮されているが、この2時間25分の映画版はそれをさらに発展させたもので、ものすごい情報量がつめこまれている。アッセンブリー・ロボットが動き回る工場でのクリエイティヴなアクション演出や、“スパイダー”と呼ばれる不気味な探知ロボットが主人公を探し回るシーンのサスペンス演出も見事としか言いようがない。フィルムの現像段階でカラーの彩度を落とす“ブリーチ・バイパス”処理を施したモノクロっぽいざらついた映像は、最近よく見かける手法で「またか」と思わせるが、この映画のフィルム・ノワール的な作品世界にはうまくマッチしている。主人公が逃亡する過程の中盤が少しダレるのと、結末がある程度予測できてしまう点が少しマイナスで、★★★1/2 のRatingとしたが、限りなく ★★★★ に近い作品である。スピルバーグのベスト作とは言わないまでも、明らかにベストの1つだろう。
Rating: ★★★1/2

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「ロード・トゥ・パーディション」 ROAD TO PERDITION
Director: Sam Mendes
Writer: David Sell
Based on the graphic novel by: Max Allan Collins
Music: Thomas Newman
Cast: Tom Hanks(Michael Sullivan), Paul Newman(John Rooney), Jude Law(Maguire), Jennifer Jason Leigh(Annie Sullivan), Stanley Tucci(Frank Nitti), Daniel Craig(Connor Rooney), Tyler Hoechlin(Michael Sullivan,Jr.), Liam Aiken(Peter Sullivan), Ciaran Hinds(Finn McGovern), David Darlow(Jack Kelly), Dylan Baker(Alexander Rance), Kevin Chamberlin(Frank the Bouncer), Doug Spinuzza(Calvino), Daine Dorsey(Aunt Sarah), Peggy Roeder(Farmer Virginia), James Greene(Farmer Bill)
Review: ジャン=ピエール・メルヴィルの犯罪映画を想起させるスタイリッシュで深みのある作品で、非常に感銘を受けた。ストーリーはごく単純である。禁酒法時代のアメリカを舞台に、アイルランド系犯罪組織のヒットマン、マイケル・サリヴァン(トム・ハンクス)が、とある事件をきっかけに家族を惨殺され、唯一生き残った息子を引き連れて組織に復讐していく・・。登場人物は少ないが、それぞれのキャラクターが実によく描き込まれている。特に、組織のボスに扮したポール・ニューマンと、殺人現場の写真を撮るために人を殺すカメラマン兼殺し屋に扮したジュード・ロウが秀逸。主役のハンクスは彼のこれまでのキャリアを考えるとちょっとミスキャストのような気がするが、ここではストイックなキャラクターを見事に演じている。監督のサム・メンデスは1965年生まれの37歳で、これが「アメリカン・ビューティー」に次ぐ2作目だが、舞台の演出でキャリアを積んでいるためか既に大ベテランのような風格を感じさせる。「明日に向かって撃て!」「マラソンマン」等の名手コンラッド・L・ホールによる絵画のような撮影も素晴らしい。トーマス・ニューマンのスコアも劇中では実に雄弁にドラマを盛り上げている。最近のハリウッドのメジャースタジオ製作による映画の中では完成度の高さが際立っている作品。
Rating: ★★★1/2

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「チェンジング・レーン」 CHANGING LANES
Director: Roger Michell
Writers: Chap Taylor, Michael Tolkin
Music: David Arnold
Cast: Ben Affleck(Gavin Banek), Samuel L. Jackson(Doyle Gipson), Kim Staunton(Valerie Gipson), Toni Collette(Michelle), William Hurt(Sponsor), Dylan Baker(Finch), Amanda Peet(Cynthia Banek), Sydney Pollack(Stephen Delano), Tina Sloan(Mrs. Delano), Richard Jenkins(Walter Arnell), Akil Walker(Stephen Gipson), Cole Hawkins(Danny Gipson), Ileen Getz(Ellen), Jennifer Dundas Lowe(Mina Dunne), Matt Malloy(Ron Cabot), Myra Lucretia Taylor(Judge Abarbanel), Bruce Altman(Joe Kaufman), Joe Grifasi(Judge Cosell), Lisa LeGuillou(Gina Gugliotta), Angela Goethals(Sarah Windsor), Kevin Sussman(Tyler Cohen), Susan Varon(Sheryl Buckburg), Noel Wilson(Bartender at Arlo's), Michael Patrick McGrath(Seavers), John Benjamin Hickey(Carlyle), Ray Bokhour(Willard)
Review: 裁判所に重要な証拠文書を届けようと急ぐ若い弁護士(ベン・アフレック)の車と、子供の養育権を巡る公聴会のために法廷へと急ぐ保険のセールスマン(サミュエル・L・ジャクソン)の車が、弁護士側の無理な車線変更のために高速道路で接触事故を起こしてしまう。セールスマンの車は破損して立ち往生し、彼は公聴会に遅刻、子供と一緒に住む権利を失う。一方、弁護士は証拠文書のファイルを事故現場に落としてきたことに裁判所で気付き、窮地に立たされる。その日の内に証拠文書を提出せよと判事から命じられた弁護士は、セールスマンがその文書を事故現場で拾って持っていることを知り、何とか取り戻そうと必死になるが、弁護士のせいで公聴会に遅刻してしまったセールスマンは文書を渡そうとしない。かくして、事故により偶然巡り会ってしまった二人の男は、互いを破滅させようと憎悪に満ちた攻撃の応酬を繰り広げる・・。ストーリーのアイデアは良いと思うが、主人公二人の対立が思ったほど深まらないうちに何となく和解してしまうので、あまりテンションが盛り上がらない。互いに攻撃を繰り返すにつれ「人生にとって一番大事なものは何か」ということを認識していく、という妙に教訓的なトーンがかえって鼻に付く。全くの他人があるきっかけで偶然知り合い、徐々に生死をかけた危険な関係に発展していくという物語のモチーフは、ヒッチコックの「見知らぬ乗客」(1951)を思い起こさせるが、最初に二人が出会うまでの映像的な表現や、二人の対照的なキャラクター描写、独創的なサスペンス演出等、やはりヒッチのクラシックの方が数段優れた傑作だったと改めて感じる。この新作も主役のアフレックとジャクソンはなかなか好演しているが、全体としては標準的な出来である。デヴィッド・アーノルドのシンセによるスコアは、アクションやサスペンスの部分だけやかましく鳴るが、後は全く印象に残らない。これでは誰が書いても同じである。
Rating: ★★1/2

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