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(2005年3月 〜 2007年5月)

 


<2007年5月>

 

「題名のない子守唄」 LA SCONOSCIUTA  New001.gif (773 バイト)
Director/Writer: Giuseppe Tornatore
Music: Ennio Morricone
Cast: Xenia Rappoport(Irena / The unknown), Michele Placido(Muffa), Claudia Gerini(Valeria Adacher), Pierfrancesco Favino(Donato Adacher), Clara Dossena(Tea Adacher), Margherita Buy(Avvocatessa di Irena), Piera Degli Esposti(Gina), Alessandro Haber(Portiere), Angela Molina(Lucrezia), Pino Calabrese(Magistrate), Nicola Di Pinto(Irena's lover), Gisella Marengo(Agente di Polizia)
Review: 英語題名は「The Unknown」。「ニュー・シネマ・パラダイス」(1989)「みんな元気」(1990)「海の上のピアニスト」(1999)等のジュゼッペ・トルナトーレが「マレーナ」(2000)以来6年ぶりに監督した作品で、2006年10月に初開催されたローマ映画祭で上映された。ウクライナからイタリアにやって来た若い女性イレーナ(グゼニア・ラッポポルト)は、ある裕福な夫婦(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、クラウディア・ジェリーニ)とその娘テア(クララ・ドッセーナ)が住むマンションの向かいに部屋を借り、やがてその家の家政婦として働くようになる。イレーナは5歳のテアに強い関心を抱き、徐々に彼女との関係を深めていく。しかし、イレーナには暴力に満ちた暗い過去があり、やがてその恐怖が現在の彼女にも再び襲い掛かってくる……。基本的には愛のドラマなのだが、回想シーンのフラッシュバックを巧みに挿入して、ミステリ調のストーリーが展開していく。数奇な運命に翻弄される主人公の女性のドラマが強い印象を残すが、ラストは静かに感動させる。重く暗い話ではあるが、中盤のサスペンス演出も見事で、映画全体が最後まで張りつめたテンションに満ちている。出演者の演技も一様に素晴らしい。トルナトーレ監督作品の常連作曲家であるエンニオ・モリコーネの情感豊かで美しいスコアの効果も絶大。 イタリアのアカデミー賞であるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の最多12部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演女優賞、音楽賞、撮影賞の5部門を受賞。ジュゼッペ・トルナトーレ監督は、1995年の「明日を夢見て」、1999年の「海の上のピアニスト」に続き3度目の監督賞受賞、エンニオ・モリコーネは7度目の音楽賞受賞となっている。
Rating: ★★★1/2

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<2007年4月>

 

「プレステージ」 THE PRESTIGE 
Director: Christopher Nolan
Writers: Jonathan Nolan, Christopher Nolan
Based on a novel by: Christopher Priest
Music: David Julyan
Cast: Hugh Jackman(Robert Angier), Christian Bale(Alfred Borden), Michael Caine(Cutter), Piper Perabo(Julia McCullough), Rebecca Hall(Sarah), Scarlett Johansson(Olivia Wenscombe), Samantha Mahurin(Jess), David Bowie(Tesla), Andy Serkis(Alley), Daniel Davis(Judge), Jim Piddock(Prosecutor), Christopher Neame(Defender), Mark Ryan(Captain), Roger Rees(Owens), Jamie Harris(Sullen Warder), Monty Stuart(Stagecoach Driver), Ron Perkins(Hotel Manager), Ricky Jay(Milton), J. Paul Moore(Virgil), Anthony DeMarco(Boy), Chao-Li Chi(Chung Ling Soo), Gregory Humphreys(Policeman), John B. Crye(Voice), William Morgan Sheppard(Merrit), Sean Howse(Man), Julie Sanford(Elegant Lady), Ezra Buzzington(Ticket Hawker), James Lancaster(Moderator), Robert Arbogast(Leonard), Chris Cleveland(Will)
Review: 「メメント」(2000)「インソムニア」(2002)「バットマン ビギンズ」(2005)等のクリストファー・ノーラン監督が、クリストファー・プリーストの小説『奇術師』を映画化した作品。19世紀末のロンドン――元は友人だった2人のマジシャン、ロバート・アンジャー(ヒュー・ジャックマン)とアルフレッド・ボーデン(クリスチャン・ベール)は、ある事件をきっかけに互いに憎しみ合い、相手を破滅させようと激しく対立するようになる……。マジックの考案者でアンジャーの協力者であるカッターにマイケル・ケイン、アンジャーの助手オリヴィアにスカーレット・ヨハンソン、マジックの鍵を握る科学者ニコラ・テスラ(実在の人物)にデヴィッド・ボウイ、テスラの部下アレーにアンディ・サーキスと豪華なキャスト。非常に凝ったストーリーで、ミステリ好きには楽しめる展開だが、2人のマジシャンの対立がスポーツマンシップに則った技の競い合いではなく、そもそも復讐をベースとしたいがみ合いなので、全体的な雰囲気はじっとりと暗く陰湿。特にベールのキャラクターにはなかなか共感できないだろう。ラストのオチも(ネタバレになるので書けないが)ある理由から非常に居心地が悪い。しかし何と言ってもこれは俳優たちの名演技を楽しむ映画だと思う。主役のジャックマンとベールも良いが、ベテランマジシャン役のケインが実に素晴らしい。ボウイとサーキスの抑えた演技も見事。ヨハンソンも悪くないが、ちょっともったいない使い方。ハマー・フィルムの「ドラキュラ'72」で吸血鬼を演じたクリストファー・ニームがちらっと出て来る。最近のエンタテインメント系ハリウッド大作中では、久しぶりにしっかりした演技を見た気がする作品。
Rating: ★★★

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<2007年2月>

 

「バベル」 BABEL 
Director: Alejandro Gonzalez Inarritu
Writer: Guillermo Arriaga
Music: Gustavo Santaolalla
Cast: Brad Pitt(Richard), Cate Blanchett(Susan), Gael Garcia Bernal(Santiago), Koji Yakusho(Yasujiro), Adriana Barraza(Amelia), Rinko Kikuchi(Chieko), Elle Fanning(Debbie), Nathan Gamble(Mike), Boubker Ait El Caid(Yussef), Said Tarchani(Ahmed), Mohamed Akhzam(Anwar), Mustapha Rachidi(Abdullah), Satoshi Nikaido(Kenji), Kazunori Tozawa(Hamano), Shigemitsu Ogi(Dentist), Harriet Walter(Lilly), Trevor Martin(Douglas), Matyelok Gibbs(Elyse), Georges Bousquet(Robert), Claudine Acs(Jane), Andre Oumansky(Walter), Michael Maloney(James), Driss Roukhe(Alarid), Wahiba Sahmi(Zohra), Fadmael Ouali(Yasira), Zahra Ahkouk(Jamila), Abdelkader Bara(Hassan), Ehou Mama(Hassan's Wife), Salah Mezzi(Moroccan Police Officer), Mohamed Atkliss(Moroccan Police Officer)
Review: 「アモーレス・ペロス」「21グラム」のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の新作で、2006年度カンヌ国際映画祭の監督賞や、ゴールデン・グローブの作品賞等を受賞している話題作。タイトルの「バベル」は、旧約聖書の創世記11章に登場する街の名前で、“コミュニケーションの難しさ”というこの映画のテーマを象徴しており、「遥か昔、言葉は一つだったが、神に近付こうとする人間が天まで届く“バベルの塔”を建てようとしたことに怒った神は、言葉を乱し、世界をばらばらにした」というエピソードに由来している。物語は、モロッコを訪れたアメリカ人夫婦を突然襲う悲劇、その悲劇をもたらすライフル銃を手に入れたモロッコの山羊飼いの少年とその家族の悲劇、ライフル銃の所有者である日本人男性とその聾唖の娘の悲劇、そして両親の不在中に乳母に国境を越えてメキシコへと連れて行かれたアメリカ人夫婦の2人の子供たちの悲劇を、パラレルに描いていく。どのエピソードも、上述の通り「言葉が通じない、意志が伝わらない」といったコミュニケーションの分断がテーマになっているが、その悲劇を、夫婦や親子の愛情が克服していくというテーマも一貫している。脚本をイニャリトゥ監督の前作や、トミー・リー・ジョーンズ監督作品「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」のギジェルモ・アリアガが書いているが、メキシコ人の彼にとって身近なテーマである、アメリカとメキシコの国境を巡るエピソード(「メルキアデス……」も同様)が最もリアリティがあり、かつ恐ろしい。メキシコ人の乳母役のアドリアナ・バラザの自然な演技も見事(ゴールデン・グローブとオスカーの助演女優賞にノミネート)。モロッコのエピソードでの、過って見知らぬ人間を撃ってしまう、という悲劇のきっかけも「メルキアデス……」に通ずる。役所広司と菊地凛子が出演している日本でのエピソードが、残念ながら最も現実味がない。役所が演じる男の素性が殆ど描かれていない上に、娘との断絶のきっかけと考えられる妻の自殺の原因も不明で、どのキャラクターにも感情移入できない。ただ、この作品のように、日本人俳優が欧米の著名監督の映画にごく普通に出演するようになった傾向自体は喜ばしいことだと思う。
Rating: ★★★

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<2007年1月>

 

「ブラックブック」 ZWARTBOEK 
Director: Paul Verhoeven
Writers: Gerard Soeteman, Paul Verhoeven
Music: Anne Dudley
Cast: Carice van Houten(Rachel/Ellis), Sebastian Koch(Ludwig Muntze), Thom Hoffman(Hans Akkermans), Halina Reijn(Ronnie), Waldemar Kobus(Gunther Franken), Derek de Lint(Gerben Kuipers), Christian Berkel(General Kautner), Dolf de Vries(Notary Smaal), Peter Blok(Van Gein), Michiel Huisman(Rob), Ronald Armbrust(Tim Kuipers), Frank Lammers(Kees), Matthias Schoenaerts(Joop), Johnny de Mol(Theo), Xander Straat(Maarten), Diana Dobbelman(Mrs. Smaal), Rixt Leddy(Anny), Lidewij Mahler(Linda), Pieter Tiddens(Herman), Gijs Naber(Cas), Dirk Zeelenberg(Siem), Michiel de Jong(David), Jobst Schnibbe(Driver Muntze), Boris Saran(Joseph), Jack Vecht(Mr. Stein), Jacqueline Blom(Mrs. Stein), Seth Kamphuijs(Brother Max), Herman Boerman(Skipper Willi), Reinier Bulder(Farmer), Bert Luppes(Mr. Tjepkema), Marisa Van Eyle(Mrs. Tjepkema), Heleen Mineur(Stientje Tjepkema), Bas van der Horst(Jantje Tjepkema)
Review: 「ロボコップ」(1987)「トータル・リコール」(1990)「氷の微笑」(1992)「スターシップ・トゥルーパーズ」(1997)等のポール・ヴァーホーヴェン監督が、「4番目の男」以来23年ぶりに祖国オランダに戻って撮った新作で、第二次大戦中のオランダを舞台にした裏切りと復讐のドラマ。ユダヤ人歌手ラヘル(カリス・ファン・ハウテン)は、ドイツ軍から解放されたオランダ南部へ逃げようとするが、逃亡の過程で何者かの裏切りによって両親や弟をドイツ軍に殺されてしまう。復讐のために名前をエリスと変え、ブルネットの髪をブロンドに染め、レジスタンスのスパイとしてドイツ軍諜報部のトップである将校ムンツェ(セバスチャン・コッホ)に、その美貌と歌声を武器に近づいていくが、憎むべき敵であるはずのムンツェの優しさに触れ、彼女は次第に彼を愛するようになる……。かつてのヒッチコックやキャロル・リード監督作品のような上質のサスペンスと、誰が味方で誰が敵か最後までわからないミステリ調の凝ったストーリー展開が秀逸(史実をベースにした話らしいが)。主役のファン・ハウテンとコッホをはじめとしたオランダ/ドイツ人俳優が一様に素晴らしく、レジスタンスのリーダー役のデレク・デ・リントや、悪役のドイツ将校フランケン役のヴァルデマー・コブス等、脇に至るまで見事。ヴァーホーヴェンがハリウッドで撮った諸作品のような、グラフィックなヴァイオレンス描写やセックス描写は全体に控え目だが、ソリッドなサスペンス演出により、2時間24分を飽きさせずに見せきっている。反戦映画的なメッセージがないわけではないが、基本的には純粋なエンタテインメント作品。アン・ダッドリーによるドラマティックで重厚なスコアも良い。
Rating: ★★★1/2

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<2006年10月>

 

「それでもボクはやってない」 
監督・脚本: 周防正行
音楽: 周防義和
出演: 加瀬 亮(金子徹平)、瀬戸朝香(須藤莉子)、山本耕史(斉藤達雄)、もたいまさこ(金子豊子)、田中哲司(浜田 明)、光石 研(佐田 満)、尾美としのり(新崎孝三)、小日向文世(室山省吾)、高橋長英(板谷得治)、役所広司(荒川正義)、大森南朋(山田好二)、鈴木蘭々(土居陽子)、唯野未歩子(市村美津子)、柳生みゆ(古川俊子)、野間口 徹(小倉 繁)、山本浩司(北尾 哲)、正名僕蔵(大森光明)、益岡 徹(田村精一郎)、北見敏之(宮本 孝)、田山涼成(和田精二)、大谷亮介(大谷吉史)、石井洋祐(平山敬三)、大和田伸也(広安敏夫)、田口浩正(月田一郎)徳井 優(西村青児)、清水美砂(佐田清子)、本田博太郎(三井秀男)、竹中直人(青木富夫)、他
Review: 周防正行が、「Shall we ダンス?」以来11年ぶりに監督した作品。就職活動中の金子徹平は、会社面接に向う満員電車で痴漢に間違えられて、現行犯逮捕される。警察署の取調べで容疑を否認し無実を主張するが、担当刑事に自白を迫られ、留置場に拘留されてしまう……。痴漢冤罪事件による「裁判」がテーマになっており、中盤からは公判のシーンが繰り返されるが、ミステリ的な要素はあまりない。自称痴漢被害者と目撃者がグルになっており、無実の人から示談金を騙し取る手口があるようだが、この映画では主人公がそのように意図的に嵌められたという設定にはなっていない(その場合は、騙した相手の悪事をいかに暴くか、というミステリ面を強調したストーリーになるのだろう)。善良な一般市民が、身に覚えのない罪で突然逮捕され、警察署の取調べで刑事に罵倒され、あげくの果てに留置場に拘留されてしまうという不条理な恐怖を、この映画はリアリスティックに描写している。主人公は、最初に相談した当番弁護士から「例え本当は無実でも、容疑を認めてしまえば罰金を払ってすぐに釈放される。否認を続ければ、刑事事件として起訴され、長く辛い裁判の末に99.9%の確率で有罪となる」と、現実を突きつけられる。この矛盾こそが、監督の伝えたかったことだと思う。日本の警察による「自白強要」や「冤罪」といったテーマは、昔からよく小説や映画に取り上げられているが、現在の日本でもこのような不条理な状況が続いているという事実には慄然とさせられる。これまでの周防監督作品よりは重いテーマであり、いつものようなユーモアや軽妙なタッチは控え目だが、畳み掛けるような演出で2時間23分を一気に見せきっている。出演俳優たちが脇に至るまで信憑性のある演技をしているのは、監督の演出力に負うところが大きいだろう(誰とは言わないが、他の監督の作品では酷い演技をしている俳優も、この映画ではきちんと芝居をしているので)。この映画の試写会では、上映後に主人公が有罪か無罪かを観た人が判断して投票する、という趣向があった。司法改革の一環として2009年より実施される裁判員制度を意識したものだったが、現実に有罪か無罪かの判決を下すとなった場合、「この主人公はなぜ痴漢と間違われたのだろう」という疑問が残る。自称被害者の女子学生は、主人公に個人的な恨みがあるとは思えないので、意図的に嘘をついているとは考えにくい。他に真犯人がいた、という可能性も、この映画では不明確なまま終わっている。色々と考えさせられる映画である。
Rating: ★★★1/2

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<2006年3月>

 

「ナイロビの蜂」 THE CONSTANT GARDENER 
Director: Fernando Meirelles
Writer: Jeffrey Caine
Based on a novel by: John le Carre
Music: Alberto Iglesias
Cast: Ralph Fiennes(Justin Quayle), Rachel Weisz(Tessa Quayle), Hubert Kounde(Arnold Bluhm), Danny Huston(Sandy Woodrow), Daniele Harford(Miriam), Packson Ngugi(Officer in Morgue), Damaris Itenyo Agweyu(Jomo's Wife), Bernard Otieno Oduor(Jomo), Bill Nighy(Sir Bernard Pellegrin), Keith Pearson(Porter Coleridge), John Sibi-Okumu(Dr. Joshua Ngaba), Donald Sumpter(Tim Donohue), Archie Panjabi(Ghita Pearson), Nick Reding(Crick), Gerard McSorley(Sir Kenneth "Kenny" Curtiss), Juliet Aubrey(Gloria Woodrow), Jacqueline Maribe(Wanza Kiluhu), Donald Apiyo(Kioko Kilulu), Pete Postlethwaite(Dr. Lorbeer aka Dr. Brandt), Samuel Otage(Mustafa), Anneke Kim Sarnau(Birgit), Mumbi Kaigwa(Grace Makanga), John Moller(Athletic Unshaven Man), Andre Leenheer(Shaven-Headed Man), Lydia M. Manyasi(Kenyan Newsreader), Jeffrey Caine(Club Servant)
Review: スパイ小説で有名なジョン・ル・カレの原作『ナイロビの蜂』を、「シティ・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレレス監督が映画化した作品。ケニアのナイロビに駐在するイギリス外務省一等書記官ジャスティン・クエイル(レイフ・ファインズ)に、ある日突然、妻テッサ(レイチェル・ワイズ)の死の知らせが届く。現地の警察はありきたりな殺人事件として処理しようとするが、疑念にかられたジャスティンは妻の死の真相を独自に調べはじめる……。前作「シティ・オブ・ゴッド」では、ドキュメンタリー的な手法でブラジルの貧民地区の実態を生々しく鋭く描いたメイレレス監督が、多額の製作予算とハリウッド・スター、ベストセラーの原作という恵まれた条件の中で、どのような作品を撮るのか非常に興味があった(しかもこれは彼自身の企画ではなく、彼は監督として雇われた立場である)。そして、ここでもドキュメンタリー的なスタイルとエッジを維持した畳み掛けるような“メイレレス・タッチ”の演出を見せていることに感心した(ル・カレの原作はフィクションだが、テッサのキャラクターは実在の女性がモデルになっている)。この映画でオスカーの助演女優賞を受賞したワイズをはじめ、苦悩する主人公を演じるファインズや、爬虫類的な悪役のビル・ナイ等、役者も一様に好演している。悪に独り立ち向かっていく主人公というモチーフも、「シティ・オブ・ゴッド」に通ずるものがある。後半に砂漠を舞台にしたアクション・シーンがあるが、こういうスペクタクル演出は彼に向いていないらしく、何が起きているのかわかりにくい。冒険活劇的なカタルシスはあまりないが、非常に緊張感のある作品。
Rating: ★★★1/2

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<2006年1月>

 

「ブロークン・フラワーズ」 BROKEN FLOWERS 
Director/Writer: Jim Jarmusch
Cast: Bill Murray(Don Johnston), Julie Delpy(Sherry), Heather Alicia Simms(Mona), Brea Frazier(Rita), Jarry Fall(Winston and Mona's Kid), Korka Fall(Winston and Mona's Kid), Saul Holland(Winston and Mona's Kid), Mark Webber(The Kid), Zakira Holland(Winston and Mona's Kid), Niles Lee Wilson(Winston and Mona's Kid), Jeffrey Wright(Winston), Meredith Patterson(Flight Attendant), Jennifer Rapp(Girl on Bus), Nicole Abisinio(Girl on Bus), Ryan Donowho(Young Man on Bus), Alexis Dziena(Lolita), Sharon Stone(Laura Daniels Miller), Frances Conroy(Dora Anderson), Christopher McDonald(Ron), Dared Wright(Man with Rabbit), Chloe Sevigny(Carmen's Assistant), Suzanne Hevner(Mrs. Dorston), Jessica Lange(Dr. Carmen Markowski), Brian F. McPeck(Guy in SUV), Matthew McAuley(Guy in SUV), Chris Bauer(Dan), Larry Fessenden(Will), Tilda Swinton(Penny), Pell James(Sun Green), Homer Murray(Kid in Car)
Review: 2005年度カンヌ国際映画祭のグランプリを受賞したジム・ジャームッシュ監督の新作。一緒に暮らしていたシェリー(ジュリー・デルピー)に出て行かれてしまった中年男ドン・ジョンストン(ビル・マーレイ)に、差出人不明の一通の手紙が届く。そこには彼がその存在を知らなかった19歳の息子が、彼を訪ねてくるだろうと書かれている。この手紙の差出人をつきとめるため、ドンは20年前の恋人たち(シャロン・ストーン、フランセス・コンロイ、ジェシカ・ラング、ティルダ・スウィントン)を訪ねる旅に出る……。ジム・ジャームッシュは、もともとビル・マーレイと複数の女性との関係を描いた全く別のストーリーを映画化しようとしており、その時の彼の脚本のタイトルは「Three Moons in the Sky」だった。まだ製作会社が決まっていなかった時期に、リュック・ベッソンのEuropaCorpにも持ち込まれたことがあり、リュックが製作してジムが監督するという可能性もあったが、結局この企画は成立せず、同じマーレイ主演の別のストーリーとして完成した。ただ、以前のストーリーの際の共演女優の候補リストにも、ストーンやラングが含まれていたと思う。いつもジャージを着てゴロゴロしているさえない中年男のマーレイが、実は凄いプレイボーイだったという設定がそもそも可笑しい。旅行の手配を勝手にやってしまうおせっかいな隣人(ジェフリー・ライト)の存在も効いている。ジムが各々の女優を想定して脚本を書いたという過去の恋人たちの様々なキャラクターも興味深い。ジムが「この映画のテーマは?」と訊かれて「物事の答えを出す作品ではない」と答えているように、強いテーマ性やドラマ性を持った作品ではないが、彼独特の視点から、独特のリラックスしたペースで描いた“人生の断片(Slice of Life)”であり、個人的には非常に楽しめた。
Rating: ★★★1/2

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<2005年12月>

 

「THE 有頂天ホテル」
監督・脚本: 三谷幸喜
音楽: 本間勇輔
出演: 役所広司(副支配人・新堂平吉)、松たか子(客室係・竹本ハナ)、佐藤浩市(国会議員・武藤田勝利)、香取慎吾(ベルボーイ・只野憲二)、篠原涼子(コールガール・ヨーコ)、戸田恵子(アシスタントマネージャー・矢部登紀子)、生瀬勝久(副支配人・瀬尾高志)、麻生久美子(憲二の幼馴染・小原なおみ)、YOU(シンガー・桜チェリー)、オダギリジョー(筆耕係・右近)、角野卓造(堀田 衛)、寺島 進(スパニッシュマジシャン・ホセ河内)、浅野和之(武藤田の秘書・神保 保)、近藤芳正(板東の息子・板東直正)、川平慈英(ウェイター・丹下)、堀内敬子(客室係・野間睦子)、梶原 善(徳川の付き人・尾藤)、石井正則(ホテル探偵・蔵人)、榎木兵衛(腹話術師・坂田万之丞)、奈良崎まどか(ホセのアシスタント・ボニータ)、原田美枝子(堀田由美)、唐沢寿明(芸能プロ社長・赤丸寿一)、津川雅彦(会社社長・板東健治)、伊東四朗(総支配人)、西田敏行(大物演歌歌手・徳川膳武)、他
Review: 「ラヂオの時間」(1997)「みんなのいえ」(2001)に続く三谷幸喜の監督第3作。年越しカウントダウンパーティまであと2時間あまりとなった大晦日の夜。都内の高級ホテル“ホテルアバンティ”を舞台に、ホテルマンたちと訳ありの宿泊客たちが織り成す様々なエピソードを“グランド・ホテル形式”で描く。限られた時間と空間の中で様々なキャラクターによる複数のエピソードが同時進行するストーリーの形式をこう呼ぶが、その語源となった1932年製作のアメリカ映画「グランド・ホテル」へのオマージュともなっている。更に、舞台となるホテルアバンティの“Avanti”はビリー・ワイルダー監督の「お熱い夜をあなたに」の原題でもあり、ワイルダー流のシチュエーションコメディを再現した作品でもある。これだけの数のキャラクターを登場させて、各々にエピソードを描きこみ、更に各エピソードが複雑に絡み合うという凝りに凝った内容となっており、正に三谷にしか書けない脚本だろう。ただ、各々のエピソードの持ち時間が必然的に限られているため、そのどれもがいまひとつ発展することなく、消化不良状態で終わってしまっている。全てのエピソードが「自分に嘘をつかず、本当にやりたいことをやろう」という、実にありきたりなテーマで統一されているようで、作品全体の印象が非常に浅い。「ラヂオの時間」では、登場人物全員が「ラジオドラマをなんとか成立させる」というひとつのゴールに向って一致団結して突き進むというドラマティックなパワーがあったが、ここでは各々のキャラクターがたまたま同じ時間に同じホテルに居合わせたというだけで、最後のカウントダウンパーティで全員集合するエンディングもとってつけたような印象がある。ドラマ性、笑い、サスペンスのどれをとっても特に際立ったものはないが、それでも2時間16分の上映時間を飽きさせずに最後まで見せきる演出・脚本は大したもので、三谷の職人芸を楽しむ作品と言える。
Rating: ★★★

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<2005年11月>

 

「ナイト・オブ・ザ・スカイ」 LES CHEVALIERS DU CIEL
Director: Gerard Pires
Writer: Gilles Malencon
Based on a comic book by: Jean-Michel Charlier, Albert Uderzo "Tanguy et Laverdure"
Music: Chris Corner
Cast: Benoit Magimel(Capitaine Antoine "Walk'n" Marchelli), Clovis Cornillac(Capitaine Sebastien 'Fahrenheit' Vallois), Geraldine Pailhas(Maelle Coste), Philippe Torreton(Bertrand), Rey Reyes(Stardust), Alice Taglioni(Capitaine Estelle 'Pitbull' Kass), Jean-Baptiste Puech(Ipod), Christophe Reymond(Stan), Cedric Chevalme(Bandit), Frederic Cherboeuf(Tala), Yannick Laurent(Grizzly), Alexandre de Seze(Bunker), Axel Kiener(L'Ankou), Mathieu Delarive(Wanai), Simon Buret(Jackpot), Vincent Cappello(Jeff), Eric Poulain(Capitaine Kleber), Laurent Jumeaucourt(Lt Boutier), Philippe Herisson(Colonel esbly), Jean-Michel Tinivelli(Colonel Farje), Olivier Rabourdin(General Commission), Sidney Wernicke(Lavigne), Jean-Yves Chilot(Houdon), Pierre Poirot(De seze), Omar Berdouni(Aziz Al Zawhari), Peter Hudson(General Buchanan), Herve Berty(Roger), Jean-Raoul Lacote(A Fighter Pilot)
Review: 「TAXi」(1997)「スティール」(2002)のジェラール・ピレス監督による空軍アクション(フランス語の原題名は「空の騎士たち」)。ファーンボローの航空ショーでデモンストレーション中のミラージュ2000戦闘機が突然行方をくらます。偵察飛行中だったフランス空軍のエース・パイロット、マルチェリ大尉(ブノワ・マジメル)とヴァロワ大尉(クロヴィ・コルニヤック)は、ジェット旅客機の真下に隠れていたミラージュ2000を発見し、接近するが、本部より直ちに追跡を中止せよとの指令を受ける。が、逃走中のミラージュは突然ヴァロワに攻撃を仕掛けようとし、それを阻止するため、マルチェリは咄嗟の判断でミラージュを撃墜してしまう……。実機を使ったスピーディで迫力あるエリアル・アクション・シーンと二転三転するストーリー展開が楽しめる娯楽作。色々な要素を詰め込みすぎで、話がやや分かりにくいのと、脇で登場する悪役等のキャラクターが極めて類型的なのが難点だが、プログラム・ピクチャー的な楽しさに溢れており、あまり深く考えずに見れば最後まで飽きることはない。主役の2人も好演している。原作はコミックだが、脚本を担当しているジル・マランソンは、同様にコミックが原作の「ミシェル・ヴァイヨン」の脚本も手がけている。ハリウッドを意識したこの手のフランス製アクション映画にありがちな“おっとり感”があまりないのが面白い。
Rating: ★★★

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<2005年7月>

 

「シン・シティ」 SIN CITY
Directors: Frank Miller, Robert Rodriguez, Quentin Tarantino(special guest director)
Based on graphic novels by: Frank Miller
Music: John Debney, Graeme Revell, Robert Rodriguez
Cast: Jessica Alba(Nancy Callahan), Devon Aoki(Miho), Alexis Bledel(Becky), Powers Boothe(Senator Roark), Rosario Dawson(Gail), Benicio Del Toro(Jackie Boy), Michael Clarke Duncan(Manute), Carla Gugino(Lucille), Josh Hartnett(The Man), Rutger Hauer(Cardinal Roark), Jaime King(Goldie/Wendy), Michael Madsen(Bob), Brittany Murphy(Shellie), Clive Owen(Dwight), Mickey Rourke(Marv), Nick Stahl(Roark Jr./Yellow Bastard), Bruce Willis(Hartigan), Elijah Wood(Kevin), Marley Shelton(The Customer), Jude Ciccolella(Commissioner Liebowitz), Jesse De Luna(Corporal Rivera), Tommy Flanagan(Brian), Christina Frankenfeild(Judge), Rick Gomez(Klump), David H. Hickey(Juicer), Evelyn Hurley(Josie), Greg Ingram(Bouncer), Nicky Katt(Stuka), Helen Kirk(Maeve), Makenzie Vega(Nancy, Age 11), Frank Miller(Priest)
Review: フランク・ミラーが、映画化を拒否しつづけてきた自作のグラフィック・ノヴェルを、原作の熱狂的なファンだったロバート・ロドリゲスに説得され、自らも共同監督として参加して実写映画化した作品(ロドリゲスはミラーを共同監督としてクレジットするために「1本の映画に1人の監督」との規程があるディレクターズ・ギルド・オブ・アメリカをわざわざ脱退した。その結果メジャースタジオでの仕事ができなくなり、パラマウント製作のSF大作「John Carter of Mars」の監督を降板せざるを得なくなった)。劇画の映画化で、特殊メイクによりデフォルメされたキャラクターが登場する映画というと、ウォーレン・ベイティが監督・主演した「ディック・トレイシー」を思い出すが、この「シン・シティ」はロドリゲスのマニア度/オタク度がずっと高いため、より作家性を感じさせる作りになっている。原作を忠実に再現するために、劇画のコマそのものを絵コンテとして使い、俳優は全てグリーンスクリーンの前で撮影して、背景には原作の絵からCG処理した映像をはめ込むという懲りよう。ブルース・ウィリス、ミッキー・ローク、クライヴ・オーウェンの各々が主役の3つのフィルム・ノワール調エピソードが微妙に重なりながら展開するが、ロークが主人公のエピソードが一番面白いし、彼にとっても近年で最もいい役だろう。数多く登場するヒロインたちの中では、ウィリスのエピソードに登場するジェシカ・アルバが抜群に魅力的だが、ロークのエピソードに脇役で登場するカーラ・グギノ(スパイ・キッズのママ)も印象的。ブチ切れたベニチオ・デル・トロや、冷酷なイライジャ・ウッド、とことん強いデヴォン青木等のサイドキャラクターも秀逸。クエンティン・タランティーノがオーウェンとデル・トロが絡む1シーンをゲスト監督として演出している。マニア受けするタイプの映画だろうが、製作者たちの作品に対する愛情を感じる。
Rating: ★★★

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<2005年5月>

 

「ゲーム・オブ・ゼア・ライヴス(原題)」 THE GAME OF THEIR LIVES
Director: David Anspaugh
Writer: Angelo Pizzo
Based on the book by: Geoffrey Douglas
Music: William Ross
Cast: Gerard Butler(Frank Borghi), Wes Bentley(Walter Bahr), Patrick Stewart(Dent McSkimming), John Rhys-Davies(Bill Jeffrey), Jay Rodan(Frank 'Pee Wee' Wallace), Gavin Rossdale(Stanley Mortenson), Terry Kinney(Dent), Richard Jenik(Joe Maca), Mike Bacarella(Silvio Capiello), Maria Bertrand(Rosemary Borghi), Zachery Ty Bryan(Harry Keough), Marilyn Dodds Frank(Fara Borghi), Brooke Edwards(Fiora Abruzzo), Joe Erker(Chubby Lyons), Julie Granata(Janet Capiello), Craig Hawksley(Walter Giesler), Jimmy Jean-Louis(Joe Gatjaens), Louis Mandylor(Virginio Pariani), Stephen Milton(Spike), Nelson Vargas(John 'Clarkie' Souza), Tom Brainard(Lt. Austin), Mike Nussbaum(Mr abruzzo)
Review: 「勝利への旅立ち」(1986)ではバスケットボール、「ルディ/涙のウイニング・ラン」(1993)ではアメリカン・フットボールを題材に、実話をベースにしたスポーツ感動ドラマを作り続けてきたデヴィッド・アンスポー(監督)とアンジェロ・ピッツォ(脚本)のチームが、ここではフットボール(サッカー)を題材に、やはり実話を基にしたドラマを展開。アンスポーは「ムーンライト&ヴァレンチノ」(1995)「ワイズ・ガールズ」(2002)等の監督作もあるが、彼の原点は自らの出身地インディアナ州に伝わる実話を同郷のピッツォと共に映画化した「勝利への旅立ち」であり、ここまで“実話スポーツもの”にこだわる人もちょっと珍しい。彼の映画には、平凡な、どちらかといえば負け犬的キャラな人々が偉業を残す、という一貫したテーマがあるが、ここでは第二次大戦後、ワールドカップ大会に初めて参加することになったアメリカの寄せ集めチームが、1950年6月19日のブラジルでの試合で強敵イギリス・チームに奇跡的に勝利するまでの実話を描く。「オペラ座の怪人」のジェラルド・バトラーがチームのリーダー的存在のゴールキーパーを、「Xメン」シリーズのパトリック・ステュワートがストーリーの語り手となるジャーナリストを、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのジョン・リス=デイヴィスがコーチを演じている。アンスポーの演出は、いつもながら手堅いが、前2作に比べると地味なタッチで、ラストの試合も今ひとつ盛り上がらない。「勝利への旅立ち」と「ルディ/涙のウイニング・ラン」ではジェリー・ゴールドスミスが、いずれも彼のベストスコアの1つの入る傑作を提供していたが、ジェリー亡き後、この映画のスコアはウィリアム・ロスが担当している。前2作でのジェリーの音楽を少なからず意識したドラマティックなアメリカーナを展開しているが、肝心の主題があまり印象に残らないのが残念。
Rating: ★★★

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<2005年3月>

 

「エターナル・サンシャイン」 ETERNAL SUNSHINE OF THE SPOTLESS MIND
Director: Michel Gondry
Writer: Charlie Kaufman
Music: Jon Brion
Cast: Jim Carrey(Joel Barish), Kate Winslet(Clementine Kruczynski), Gerry Robert Byrne(Train Conductor), Elijah Wood(Patrick), Thomas Jay Ryan(Frank), Mark Ruffalo(Stan), Jane Adams(Carrie), David Cross(Rob), Kirsten Dunst(Mary), Tom Wilkinson(Dr. Howard Mierzwiak), Ryan Whitney(Young Joel), Debbon Ayer(Joel's Mother), Amir Ali Said(Young Bully), Brian Price(Young Bully), Paul Litowsky(Young Bully), Josh Flitter(Young Bully), Lola Daehler(Young Clementine), Deirdre O'Connell(Hollis), Lauren Adler(Rollerblader)
Review: 「ヒューマンネイチュア」の監督/脚本コンビであるミシェル・ゴンドリーとチャーリー・カウフマンによる、実にオリジナルなラブストーリー。恋人のクレメンタイン(ケイト・ウインスレット)と喧嘩別れしたばかりのジョエル(ジム・キャリー)は、ある日不思議な手紙を受け取る。ラクーナと呼ばれる会社からのその手紙には、クレメンタインがジョエルとの記憶を全て消し去ったので、今後彼女の過去について絶対触れないように、と書かれていた。彼女と仲直りしようとしていたジョエルはひどく落胆し、ラクーナ社を訪れて自分も彼女との記憶を消そうとする……。“脳の中の特定の記憶だけを消去する技術”という点が、ちょっとファンタジー的だが、それは飽くまで“きっかけ”であって、ファンタジーの要素はあまり強調されていない。原案にクレジットされているアーティストのピエール・ビスマスがレストランでの会話で何気なく語った「郵便受けの中に、あなたのガールフレンドはあなたとの記憶を消去しました、という通達が入っていたらどうする?」という一言から、ゴンドリーはこの映画のアイデアを一気に膨らませたという。まさにワン・アイデア・ストーリーと言える。主人公の記憶がどんどんと消えていく過程の描写は、悪夢を見ているような感覚を上手く表現している。ジム・キャリーとケイト・ウインスレットは、いつもの彼らの役柄を逆転させたようなキャラクターを演じていて面白い。脇役も一様に良く、特に、情けないことこの上ない役のイライジャ・ウッドや、ワケのわからないセリフをワケ知り顔でしゃべりまくる女役のキルスティン・ダンストが秀逸。奇抜で不思議な印象の映画だが、なぜか感動はあまりない。
Rating: ★★★

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