白い恐怖 SPELLBOUND 作曲:ミクロス・ローザ 指揮:アラン・ウィルソン 演奏:スロヴァク放送交響楽団 (米Intrada / MAF7100) |
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1945年製作のアメリカ映画(日本での初公開は1951年)。監督は「裏窓」(1954)「めまい」(1958)「北北西に進路を取れ」(1959)「サイコ」(1960)「鳥」(1963)等の巨匠アルフレッド・ヒッチコック。出演はイングリッド・バーグマン、グレゴリー・ペック、マイケル・チェコフ、レオ・G・キャロル、ロンダ・フレミング、ジョン・エメリー、ノーマン・ロイド、ビル・グッドウィン、スティーヴン・ゲレイ、ドナルド・カーティス、ウォーレス・フォード、アート・ベイカー、レジス・トゥーミイ、ポール・ハーヴェイ他。製作はデヴィッド・O・セルズニック。フランシス・ビーディング(ジョン・パルマーとヒラリー・セント・ジョージ・サンダース)の原作『エドワーズ博士の家』を基にアンガス・マクファイルとベン・ヘクトが脚本を執筆。撮影はジョージ・バーンズ。グリーン・マナーズ精神病院の院長マーチソン博士(キャロル)の引退に伴い、若い後任のアンソニー・エドワーズ博士(ペック)が着任するが、彼には白地に縞の模様を見ると発作を起こすという奇癖があった。彼に想いを寄せる女医のコンスタンス・ピーターセン博士(バーグマン)は、発作の謎を解こうとするが、やがて彼は偽者であることが判明し、本物のエドワーズ博士を殺害した容疑者との嫌疑がかけられる……。「風と共に去りぬ」等で知られる大プロデューサーのデヴィッド・O・セルズニックは、1940年代初頭より重い精神病に苦しんでおり、妻の薦めで精神分析学者のメイ・ロームの診察を受け、その結果彼は仕事に復帰できるほど回復した。セルズニックは、この自身の経験を基に、ヒッチコックに精神病の治癒をテーマとした映画の製作を持ちかけ、ヒッチコックは『エドワーズ博士の家』の映画化を提案したという。メイ・ロームはこの映画に「精神病医学アドバイザー(Psychiatric Advisor)」としてクレジットされている。また、主人公が見る夢のシーンのデザインは画家のサルヴァドール・ダリが提供している。1945年度アカデミー賞の作品賞、監督賞、助演男優賞(マイケル・チェコフ)、撮影賞(白黒)、特殊効果賞にノミネートされ、劇・喜劇映画音楽賞を受賞。
音楽はミクロス・ローザが作曲しており、上述の通り彼はこのスコアでアカデミー賞を受賞している。これまでにもコンサート用に編曲された組曲等のアルバムは出ているが、この2007年リリースの米Intrada盤は、ローザの生誕100周年を記念して、セルズニック財団保有のオリジナル原稿とダニエル・ロビンスがリコンストラクトしたスコアを基に新録音された初の完全盤となっている。「Main
Title; Foreward」は、セルズニック・ロゴの短いファンファーレから、セリア・シーン演奏のテルミンによる悪夢の主題、ロマンティックなメインの主題、ジェントルな主題へと展開するメインタイトル。このメインの主題は、ローザが作曲した数多いラヴ・テーマ中でも最も美しい主題の1つで、後に独立したピアノ協奏曲「Spellbound
Concerto」として何度も演奏・録音されている。この主題は「The Picnic」「The Awakening; Love Scene;
The Dressing Gown;The Imposter - Parts 1 & 2;The Cigarette Case」「Honeymoon At
Brulov's; The White Coverlet;The Razor - Parts 1 & 2; Constance Is Afraid」等で繰り返し登場する。「Green
Manors」「First Meeting」は、ジェントルなタッチ。「The Empire Hotel」「The Burned Hand -
Parts 1 & 2」「The Penn Station」等はサスペンス音楽。「Railway Carriage」は、ビジーでダイナミックなタッチ。「Constance
And Brulov - Parts 1 & 2」は、メインの主題からロマンティックな主題(これも美しい)へと展開。「Gambling
Dream; Mad Proprietors Dream;Roof-Top Dreams」は、不気味なテルミンをフィーチャーした夢のシーンのサスペンス音楽。「Dream
Interpretation - Parts 1 & 2; The Decision」は、夢の解釈のシーンからメインの主題へ展開。「Train
To Gabriel Valley」は、躍動的なサスペンス音楽。「Ski Run; Mountain Lodge」は、スキーのシーンのダイナミックなタッチから、ロマンティックな主題へ展開。「Defeat」「Contance's
Discovery」は、ドラマティックな曲。「The Revolver」は、真犯人が明らかになるシーンのサスペンス音楽。「The
End」は、メインの主題のリプライズからエンディングへと展開し締めくくる。最後にボーナストラックとして、実際には使用されなかった、より短いエンディング用の「End
Title - Short」を収録。これはローザがヒッチコック監督作品に作曲した唯一のスコアであり、ヒッチ自身はあまり気に入っていなかったようだが、私個人的にはバーナード・ハーマン作曲の一連のヒッチ作品の傑作スコアに匹敵する優れた音楽だと思う。
(2007年6月)
Miklos Rozsa
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