タイム・アフター・タイム TIME AFTER TIME

作曲・指揮:ミクロス・ローザ
Composed and Conducted by MIKLOS ROZSA

(米Film Score Monthly / FSM Vol.12 No.3)

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1979年製作のアメリカ映画(日本公開は1981年8月)。監督は「スター・トレック2/カーンの逆襲」(1982)「ザ・デイ・アフター」(1983)「(未公開)デシーバーズ/暗黒の大地」(1988)「スター・トレックVI/未知の世界」(1991)「(TV)シシリアン/虐殺の地」(1999)等のニコラス・メイヤー。出演はマルコム・マクダウェル、デヴィッド・ワーナー、メアリー・スティーンバージェン、チャールズ・シオッフィ、ケント・ウィリアムス、アンドニア・カトサロス、パティ・ダーバンヴィル、ジェームズ・ギャレット、レオ・ルイス、キース・マッコネル、バイロン・ウェブスター、カリン・デ・ラ・ペーナ、ジェラルディン・バロン、ローリー・メイン、シェリー・ハック他。カール・アレクサンダーとスティーヴ・ヘイズの原案を基にニコラス・メイヤーとスティーヴ・ヘイズが脚本を執筆。撮影はポール・ローマン。SF小説の古典『タイム・マシン』の原作者H・G・ウェルズ(マクダウェル)は、実際に時間旅行ができるタイムマシンを発明するが、友人の医師スティーヴンソン(ワーナー)がそのマシンに乗って未来へと逃亡してしまう。スティーヴンソンの正体は猟奇殺人犯の“切り裂きジャック”だった。ウェルズはジャックを追って現代のサンフランシスコにたどり着き、銀行員のエイミー(スティーンバージェン)と知り合う……。監督のニコラス・メイヤーは、シャーロック・ホームズが実在の精神科医ジークムント・フロイト博士の治療を受けるという小説『シャーロック・ホームズの素敵な挑戦』で有名となり、この原作は彼自身の脚本により1976年に映画化もされているが、ここでは実在の小説家H・G・ウェルズと切り裂きジャックを組み合わせたストーリーを展開している。切り裂きジャック(Jack the Ripper)は、1888年8月31日〜11月9日の2ヶ月間にロンドンのイースト・エンド、ホワイトチャペル地区で少なくとも売春婦5人を殺害した実在の連続猟奇殺人犯で、結局逮捕されることなくその存在は謎に包まれたままとなっている。被害者はメスのような鋭利な刃物で喉を掻き切られた上に臓器を摘出されていることから、ジャックの正体は解剖学の知識を持った医師であるとの説があり、この映画でもその説が踏襲されている。この映画は、1980年度アボリアッツ・ファンタスティック映画祭でグランプリと黄金のアンテナ賞を受賞している。主演のマルコム・マクダウェルはこの作品で知り合ったメアリー・スティーンバージェンと1980年に結婚し、2人の子供をもうけている(1990年に離婚)。

ニコラス・メイヤーは映画音楽ファンでもあり、この映画のスコアを「ベン・ハー」等で知られるハリウッド黄金期の大作曲家ミクロス・ローザに依頼した。20年以上前になるが、私がL.A.留学中にUCLAで受けた映画音楽に関する公開講座にメイヤーがやって来て、この映画でのローザのスコアについて語ったことがあった(1987年2月10日)。彼はローザの大ファンで、最初の打合せの際に自分が保有しているローザのサントラLPのコレクションを持参してその全てにサインしてもらったという。冒頭の「Warner Bros. Logo / Prelude」は、マックス・スタイナー作曲のワーナー・ブラザースのロゴ音楽から、タイムマシンの主題によるダイナミックでパワフルなプレリュードへと展開。このスタイナー作曲の往年のロゴ音楽ではじめるのはメイヤーのアイデア。続く「Jack! / L'Aio de Rotso」は、ダークなタッチの切り裂きジャックの主題によるサスペンス音楽から、ジャックの懐中時計のオルゴール風の曲へ。これは「Chants d'Auvergne」という古いフランスの曲の流用。「Farewell」は、ウェルズがスティーヴンスを含む友人たちにタイムマシンを紹介するシーンの曲で、ウェルズの主題によるミステリアスなタッチ。「The Vaporising Equaliser」は、タイムマシンに乗った者を蒸発させてしまう特殊な装置を描写したサスペンス音楽。「Search for the Ripper」も、サスペンス調。「The Time Machine」は、ミステリアスなタイムマシンの主題から、後半はスティーヴンソンが奪ったタイムマシンが地下室に戻ってくるシーンの躍動的なフレーズへ。「Decision」は、ミステリアスなウェルズの主題。「Taking Off / Time Travel」は、タイムマシンによる時間旅行を描写した躍動的なフレーズで、時間が加速していく様の表現が見事。「Man Before His Time」は、タイムマシンの主題からウェルズの主題へと展開する抑制されたサスペンス音楽。「First Bank Montage / Second Bank Montage」は、現代のサンフランシスコにやって来たウェルズが、スティーヴンソンを見つけるために彼がイギリスの貨幣を換金した銀行を探して歩くシーンの明るく躍動的な曲。「Utopia / Car Ride」は、ウェルズの主題から、ロンドン銀行を発見するシーンの「ルール・ブリタニア」の短いフレーズへ。銀行でエイミーに会ったウェルズはスティーヴンソンが泊まっているホテルを聞き出し、タクシーでそこへ向う(暴走タクシーに乗るシーンのビジーな主題は映画では未使用)。「Cartoon / War」は、スティーヴンソンがホテルの部屋で現代がいかに暴力的かをウェルズに悟らせるためにテレビを見せるシーンのダイナミックでビジーな短いフレーズ(一部未使用)。「The Ripper / Pursuit」は、逃走したスティーヴンソンをウェルズが追跡するシーンのダイナミックなアクション音楽。「The Time Machine Waltz」は、回転展望レストランでエイミーとウェルズがランチするシーンのバックに流れるピアノとストリングスによるジェントルなワルツ。メイヤーはこのシーンでローザ作曲の「白い恐怖」の主題を使うことを希望し、ローザも同意したが、権利がクリアできなかったために新しい主題を作曲してもらったという。「The Redwoods」は、エイミーとウェルズのラヴテーマ。実にロマンティックで美しい。「Palace of Fine Arts / The Dinner / Search for a Victim」は、ミステリアスな切り裂きジャックの主題とラヴテーマが交互に登場する。「A New Victim / Frightened」は、ロンドン銀行へ戻ってきたスティーヴンソンが、エイミーがウェルズに彼の泊まっているホテルを教えたと悟るシーンのサスペンス音楽。「The Telephone Book / The Envelope」は、ジャックの主題によるサスペンス音楽。「Decision for Murder / Murder」は、オルゴールの主題とジャックの主題による殺人シーンのサスペンス音楽。「The Prism Pin / The Fifth Victim」は、ウェルズが博物館に置かれたタイムマシンにエイミーを乗せて、自分が過去から来たことを証明してみせるシーンの音楽で、上述のUCLAの講座ではメイヤー自身がこのシーンのビデオを見せながらスコアの説明をしてくれた。エイミーが新聞の日付を見てウェルズが真実を語っていることを知ったときの喜びの描写(ラヴテーマ)から、同じ新聞に自分の殺害記事を見つけてショックを受ける過程への音楽の展開が見事。「The Last Victim / Aftermath」は、ウェルズの主題とジャックの主題によるサスペンス音楽。「Valium / H.G. Arrested」は、ウェルズが警察に逮捕されるシーンの音楽から後半はアクション音楽へ。「3:20 P.M. / Nocturnal Visitor」は、ウェルズが警察で事情聴取を受けるシーンとジャックがエイミーを殺そうと迫るシーンがインターカットする部分の音楽。「Despair」は、エイミーがジャックに殺されたと考えたウェルズが落胆するシーンのダークな音楽(映画では未使用)。「Dangerous Drive」は、エイミーを誘拐しウェルズからタイムマシンのキーを奪ったスティーヴンソンをウェルズが車で追跡するシーンのビジーなアクション音楽。「The Journey's End / Finale」は、オルゴールの主題からラヴテーマ、壮大なフィナーレへと展開。「The Time Machine Waltz」は、ピアノによる「タイムマシン・ワルツ」のリプライズ。

このスコアは、1979年に米Entr'ActeレーベルからLPがリリースされ、その後1987年にSouthern CrossレーベルによりCD化されているが、これはメイヤーとジョン・スティーヴン・レイシャーのプロデュースによりローザ自身がロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して再録音したもの。今回米Film Score MonthlyレーベルがリリースしたCDはサントラ音源の初アルバム化で、1979年に約60人編成のオーケストラによりバーバンクで録音されたもの。メイヤーのライナーノーツによると、スタジオ側からローザのスコアを「よりモダンな」音楽にリプレースするためにビル・コンティを起用するように指示されたメイヤーは、それを阻止するためにプロデューサーのハーヴ・ジャッフェと共同でヴァラエティ誌にローザの音楽に謝意を表する全面広告を出した。後にローザは「自分の長いキャリアの中で、あのような謝意の広告を出してもらったのは初めてだ」とメイヤーに語ったという。
(2009年3月)

Miklos Rozsa

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