吸血鬼ドラキュラ DRACULA
フランケンシュタインの逆襲 THE CURSE OF FRANKENSTEIN

作曲:ジェームズ・バーナード
Composed by JAMES BERNARD

指揮:ニック・レイン
Conducted by NIC RAINE

演奏:プラハ市フィルハーモニー管弦楽団
Performed by the City of Prague Philharmonic Orchestra


(英Tadlow Music / TADLOW 032)

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イギリスのハマー・フィルム・プロダクションhttp://www.hammerfilms.com/)が1950年代に製作した2大傑作ホラー映画に、ハマーの常連作曲家ジェームズ・バーナード(1925〜2001)が作曲したコンプリート・スコアの新録音盤。スコアのリコンストラクションはリー・フィリップスが担当。


「フランケンシュタインの逆襲(THE CURSE OF FRANKENSTEIN)」は、1957年製作のイギリス映画。監督は「(未公開)バスカヴィル家の犬」(1959)「ミイラの幽霊」(1959)「シャーウッドの剣」(1960)「吸血狼男」(1961)「妖女ゴーゴン」(1964)「(未公開)悪魔の花嫁」(1968)等のハマーの常連テレンス・フィッシャー(1904〜1980)。出演はピーター・クッシング、ヘイゼル・コート、ロバート・アークハート、クリストファー・リー、メルヴィン・ヘイズ、ヴァレリー・ゴーント、ポール・ハートムス、フレッド・ジョンソン、ノエル・フッド、マイケル・マルカスター、アレックス・ガリアー、クロード・キングストン、アンドリュー・リー、アン・ブレイク、サリー・ウォルシュ他。メアリー・シェリー(1797〜1851)の原作『フランケンシュタイン』を基にジミー・サングスターが脚本を執筆。撮影はジャック・アッシャー。スイスの山間部。ヴィクター・フランケンシュタイン男爵(クッシング)は、彼の少年時代から家庭教師を務めていたポール・ケンプ(アークハート)を助手として、生命に関わる実験に取り組んでいた。死んだ子犬の蘇生に成功したヴィクターは、それに満足することなく生命の創造へと研究を進めていく。死体を集め、優秀な脳を入手するために殺人まで犯すようになる狂気のヴィクター。そして遂に人造人間(リー)が完成するが、作業の過程で損傷した脳を移植したため、凶暴な怪物として誕生してしまう……。
ホラー/ファンタジー映画界の2大名優ピーター・クッシング(1913〜1994)とクリストファー・リー(1922〜2015)のハマー・フィルム初共演作品で、リーはセリフのない怪物(クリーチャー)役を演じている。日本でテレビ放映された際の日本語吹替キャストは、ピーター・クッシング(千葉耕市)、ヘイゼル・コート(山崎左度子)、ロバート・アークハート(田中信夫)、メルヴィン・ヘイズ(小宮山清)、ポール・ハートムス(北村弘一)他。製作費は約65,000ポンド。その後クッシング主演でシリーズ化され、「フランケンシュタインの復讐」(1958)「フランケンシュタインの怒り」(1964)「フランケンシュタイン 死美人の復讐」(1967)「フランケンシュタイン 恐怖の生体実験」(1969)「フランケンシュタインと地獄の怪物」(1974)の全6作品が製作された。

ジェームズ・バーナードのスコアは、「Main Title from The Curse of Frankenstein」が、重厚かつ不吉でダークなメインの主題で、悲劇性を帯びたタッチが秀逸。「A Brilliant Intellect / It's Alive」「An Offer of Help / Goodnight Professor / The Professor's Brain」は、バロック調でジェントルかつ荘厳な主題からダークなタッチへ。「The Gibbet」は、サスペンス調のホラー音楽。「The Creature / He's Gone」は、メインの主題を織り込んだダイナミックなホラー音楽。「The Creature and the Blind Man / You Shoot Well / I'll Give You Life Again」「Justine's Fate」は、ダークで不吉なサスペンス音楽。「Get Up / Final Confrontation / The Guillotine」は、不吉なサスペンス調からメインの主題、アクション音楽、そしてダイナミックに盛り上がるフィナーレへと展開。


「吸血鬼ドラキュラ(DRACULA)」は、1958年製作のイギリス映画(アメリカでの公開題名は「HORROR OF DRACULA」)。監督はテレンス・フィッシャー。出演はピーター・クッシング、クリストファー・リー、マイケル・ゴーフ、メリッサ・ストリブリング、キャロル・マーシュ、オルガ・ディッキー、ジョン・ヴァン・アイセン、ヴァレリー・ゴーント、ジャニーナ・フェイ、バーバラ・アーチャー、チャールズ・ロイド・パック、ジョージ・メリット、ジョージ・ベンソン、マイルズ・メイルソン、ジェフリー・ベイルドン他。ブラム・ストーカー(1847〜1912)の原作『吸血鬼ドラキュラ』を基にジミー・サングスターが脚本を執筆。撮影はジャック・アッシャー。戦前にベラ・ルゴシ主演の「魔人ドラキュラ」(1931)としても映画化されているブラム・ストーカー原作の初のカラー映画化で、ハマー・フィルムが前年の「フランケンシュタインの逆襲」の成功に引き続き、同じ監督・主演・主要スタッフにより製作した傑作。人里離れた城に住むドラキュラ伯爵(リー)に司書として雇われたジョナサン・ハーカー(アイセン)の真の目的は、人間の生き血を吸うドラキュラの正体を暴き、その息の根を止めることだった。広間で妖しい美女(ゴーント)に救いを求められたハーカーは、油断した隙に、吸血鬼と化していた女に首筋を噛まれてしまう。意識を回復した彼は、城の地下の石棺に横たわる女と伯爵を発見する。先端を尖らせた鉄棒を女の心臓に打ち込むことで、ハーカーは彼女を吸血鬼の魔力から解放し、永遠の安息を与えるが、それに気づいた伯爵によって命を絶たれてしまう。ハーカーの死体と日記を発見した医師ヴァン・ヘルシング(クッシング)は、親友だった彼の婚約者ルーシー・ホームウッド(マーシュ)を訪れるが、既に彼女もドラキュラの毒牙に犯されつつあった……。

クッシングとリーの格調高い演技、タイトでダイナミックなフィッシャーの演出、スピーディーなストーリー展開、ゴシック調の美しい様式美に満ちた美術・撮影による、ホラー映画史上屈指の名作。本作の大ヒットにより、ハマー・フィルムはホラー映画のスタジオとしての知名度を確立し、クッシングとリーはホラー映画における国際的な大スターとなった。製作費は約81,000ポンド。日本でテレビ放映された際の日本語吹替キャストは、ピーター・クッシング(横森久)、クリストファー・リー(松宮五郎)、マイケル・ゴーフ(外山高士)、メリッサ・ストリブリング(能瀬礼子)、ジョン・ヴァン・アイセン(矢島正明)、オルガ・ディッキー(麻生美代子)、チャールズ・ロイド・パック(辻村真人)、ヴァレリー・ゴーント(来宮良子)、ジョージ・メリット(大宮悌二)他。その後シリーズ化され、「吸血鬼ドラキュラの花嫁」(1960)「凶人ドラキュラ」(1966)「帰って来たドラキュラ」(1968)「ドラキュラ血の味」(1970)「(未公開)血のエクソシズム/ドラキュラの復活」(1970)「ドラキュラ'72」(1972)「新ドラキュラ/悪魔の儀式」(1973)「ドラゴンvs7人の吸血鬼」(1973)の全9作品が製作されているが、リーとクッシングが共演しているのは1作目の「吸血鬼ドラキュラ」と、7作目「ドラキュラ'72」、8作目「新ドラキュラ/悪魔の儀式」の3本のみ。

ジェームズ・バーナードのスコアは、冒頭の「Main Title from Dracula」が湧き上がるようなイントロから重厚なドラキュラの主題へと展開するメインタイトルで、“ドラ=キュ=ラ”のシラブルと呼応した主題になっているところがすごい。「Arrival at Castle Dracula」は、静かにややメランコリックなジョナサン・ハーカーの主題から徐々に不吉なタッチに展開し、最後に伯爵が登場するシーンでドラキュラの主題が鳴り響く。「Plan Revealed / Plea for Help / Dracula's Rage」は、ドラキュラの主題を織り込んだサスペンス音楽から、後半ダイナミックなホラーアクション音楽へ。「The Mausoleum / Harker Stakes the Bride / Empty Casket」は、不吉なサスペンス調から、メランコリックなタッチの“生ける屍”の主題、ドラキュラの主題を織り込んだダイナミックなタッチへと展開。「The Diary / Van Helsing Finds Harker」は、不吉なサスペンス音楽から生ける屍の主題へ。「Sleep Well / Dracula Seduces Lucy」は、ジェントルで荘厳なタッチから、幻想的な“誘惑”の主題、不吉なサスペンス音楽へと展開。「Lucy's Second Encounter / Garlic Flowers」は、ドラキュラの主題から誘惑の主題、不吉なサスペンス音楽へ。「Aunt Lucy / Lucy Is Released」は、生ける屍の主題から不吉なサスペンス音楽、最後はジェントルなタッチへ。「Mina Ensnared / It Was There」は、生ける屍の主題から不吉なサスペンス音楽へ。「Allergic Reaction / Mina's Submission」は、ドラキュラの主題から不吉なサスペンス音楽、誘惑の主題へ展開。「Bloodstained Mina / The Cellar」「The Final Battle」は、ビジーなアクション音楽から、クライマックスのヴァン・ヘルシングとドラキュラの死闘のシーンの音楽へと展開し、最後は生ける屍の主題からドラマティックなドラキュラの主題によるエンドクレジットで締めくくる。
ジェームズ・バーナードの代表作であるゴシック・ホラー調の傑作スコアで、映画の成功にも大きく貢献している。聴けばすぐにバーナード作曲とわかる強烈な個性も素晴らしい。
最後にボーナストラックとして、リー・フィリップスがドラキュラの主題をソロ・ヴァイオリンとツィンバロムの演奏用にアレンジした「Rhapsody for Lucy (Lucie)」を収録。ヴァイオリン・ソロはルーシー・スウェローヴァ。


尚、ピーター・クッシングクリストファー・リーは、上記2本を含めて以下の20作品で共演している。

1.「ハムレット(Hamlet)」(1948)
2.「赤い風車(Moulin Rouge)」(1952)
3.「フランケンシュタインの逆襲(The Curse of Frankenstein)」(1957)
4.「吸血鬼ドラキュラ(Dracula)」(1957)
5.「ミイラの幽霊(The Mummy)」(1959)
6.「(未公開)バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles」(1959)
7.「妖女ゴーゴン(The Gorgon)」(1964)
8.「テラー博士の恐怖(Dr.Terror's House of Horrors)」(1964)
9.「炎の女(She)」(1965)
10.「がい骨(The Skull)」(1965)
11.「(未公開)高熱怪物の恐怖(Night of the Big Heat)」(1967)
12.「(未公開)バンパイアキラーの謎(Scream and Scream Again)」(1970)
13.「(未公開)ブラッド・ゾーン(The House That Dripped Blood)」(1971)
14.「ドラキュラ'72(Dracula A.D.1972)」(1971)
15.「(未公開)怪奇!二つの顔の男(I, Monster)」(1971)
16.「(未公開)デビル・ナイト(Nothing But the Night)」(1972)
17.「(未公開)ゾンビ特急“地獄”行(Horror Express)」(1972)
18.「新ドラキュラ/悪魔の儀式(The Satanic Rites of Dracula)」(1972)
19.「(未公開)魔人館(House of the Long Shadows)」(1983)
20.「(TV)ハマー ホラー&SF映画大全(Flesh & Blood: The Hammer Heritage of Horror)」(1994)


これらの内、初期の「ハムレット」(監督・主演:ローレンス・オリヴィエ)と「赤い風車」(監督:ジョン・ヒューストン)では、クッシング、リーとも脇役で同じ画面には登場しない。最後の「ハマー ホラー&SF映画大全」はハマー・フィルムに関するTVドキュメンタリー(日本ではDVDで発売)で、クッシングとリーはナレーターとして出演しているが、クッシングはこの収録のすぐ後に亡くなっている。

(2019年12月)

James Bernard

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