針の眼 EYE OF THE NEEDLE

作曲・指揮:ミクロス・ローザ
Composed and Conducted by MIKLOS ROZSA

演奏:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(サントラ音源)、ニュルンベルク交響楽団(アルバム用新録音)
Performed by The Royal Philharmonic Orchestra (Soundtrack), The Nuremberg Symphony Orchestra (Album Recording)

(米Varese Sarabande / VCL 0624 1241)

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1981年製作のイギリス映画。監督は「レガシー」(1978)「スター・ウォーズ/ジェダイの復讐」(1983)「(未公開)9月まで抱きしめて」(1984)「白と黒のナイフ」(1985)等のリチャード・マーカンド(1937〜1987)。出演はドナルド・サザーランド、ケイト・ネリガン、イアン・バネン、クリストファー・カズノーヴ、スティーヴン・マッケンナ、フィリップ・マーティン・ブラウン、ジョージ・ベルビン、フェイス・ブルック、バーバラ・グレイリー、ジョージ・リー、アーサー・ラヴグローヴ、コリン・リックス、バーバラ・イーウィング、ジョン・ベネット、ビル・ナイ他。「(TV)レベッカへの鍵」(1985)「(TV)鷲の翼に乗って」(1986)「(TV)第三双生児」(1997)等のケン・フォレット(1949〜)の原作を基にスタンリー・マンが脚本を執筆。撮影はアラン・ヒューム。

ロンドンで鉄道操車係として働くヘンリー・フェイバー(サザーランド)は、実は“ニードル(Die Nadel/針)”と呼ばれるドイツのスパイだった。第二次大戦下の1944年。連合軍の上陸地点がノルマンディーかカレーかを探れとのヒトラーの指令を受けたフェイバーは、イースト・アングリアの基地に向かう。そこで、カレー進攻を目指す木製の爆撃機が配備されているのを見たフェイバーは、それが偽装であると見抜き、上陸地点はノルマンディーだと推測する。その証拠をカメラで撮影したフェイバーは、ヒトラーのもとへと急ぐが、その後を英国情報部員のパーシー・ゴッドリマン(バネン)たちが追う。スコットランドのオーバン海岸からUボートに向かったフェイバーの船は、途中嵐で転覆してしまい、彼は荒涼なストーム島の一軒家にたどり着く。そこには、新婚旅行途中の自動車事故で両足を失ったデヴィッド・ローズ(カズノーヴ)、その妻ルーシー(ネリガン)と3歳の息子が暮らしていた……。全世界興行収入は約1758万ドル。当時米国監督協会と揉めていたジョージ・ルーカスは、本作で複雑なプロジェクトをスケジュール通り・予算通りに仕上げたイギリス人リチャード・マーカンドの手腕を評価し、彼を「スター・ウォーズ/ジェダイの復讐」の監督に起用した。

音楽は「バグダッドの盗賊」(1940)「深夜の告白」(1944)「失われた週末」(1945)「白い恐怖」(1945)「殺人者」(1946)「クォ・ヴァディス」(1951)「黒騎士」(1952)「ジュリアス・シーザー」(1953)「ベン・ハー」(1959)「エル・シド」(1961)「プロビデンス」(1977)等のハリウッド黄金期の伝説的作曲家ミクロス・ローザ(1907〜1995)。これは彼がキャリアの最終期に手がけたスコア(翌年の「(未公開)スティーブ・マーティンの四つ数えろ」が遺作)。このスコアは、公開当時の1981年に米Varese Sarabandeレーベルから全13曲/約41分収録のサントラLP(Varese Sarabande STV 81133)が出ており、その後、1991年に同じVareseレーベルから、ローザが1979年に作曲した「(未公開)LAST EMBRACE」のスコアとカップリングになった1000枚限定プレスのCD(Varese Sarabande CD Club VCL 9101.9)、2012年にLPと同内容の1000枚限定プレスのCD(Varese Sarabande VCL 0512 1132)が出ているが、2024年7月に、やはりVareseレーベルがリリースした全36曲/約102分収録のこのCDは、2枚組となっており、1枚目にはこれまで未発表だったサントラ音源(全23曲)、2枚目にはLPと同じ内容を収録。2000枚限定プレス。いずれもローザ自身が指揮しているが、1枚目はロンドンのアビー・ロード・スタジオでロイヤル・フィルの演奏、2枚目はドイツでニュルンベルク響の演奏により録音されている。

CD1枚目(サントラ音源)の冒頭「Prelude from Eye of the Needle」は、ダイナミックで躍動的なフレーズからロマンティックでドラマティックな主題(フェイバーとルーシーのラヴ・テーマ)へと展開するクラシカルな前奏曲。クラシック・フィルムスコアの流れをくむタッチで、ローザにしか作曲できない曲だろう。「English Wedding (Film Version)」は、ジェントルかつ素朴で美しい曲。この主題は「Storm Island / The Blond Agent」「The Bedroom」「The Broken Heart / Revulsion (Film Version)」でも登場する。「The Boarding House / The Needle Strikes」は、抑制されたタッチからメインの主題を織り込んだダイナミックなサスペンス音楽へ。「Blondie's End / The Needle」は、抑制されたサスペンス音楽。「Camouflage / Pursuit」「Search on the Train / Confrontation」「Escape / The Boat」「The Axe / The Firebomb」は、重厚なサスペンス音楽。「The Meeting」「Love Scene / No Regrets」「Heartbreak / The Transmitter」「Passion (Film Version)」は、ラヴ・テーマを織り込んだ曲。「The Fight (Film Version)」は、メインの主題を織り込んだダイナミックなアクション音楽。「Frantic Drive (Film Version)」は、メインの主題のダイナミックでビジーなアレンジメント。「Despair / Realization」は、ドラマティックなサスペンス音楽。「Escape (Film Version)」は、重厚なサスペンス音楽から後半ダイナミックなアクション音楽へ。「The Gun」は、メインの主題を織り込んだサスペンス音楽。「The Hostage / The Lamp (Film Version)」は、重厚なサスペンス音楽から後半ラヴ・テーマへ。「Retribution (Film Version)」は、ダイナミックなアクション音楽からメインの主題、ラヴ・テーマへ。「Finale / Epilogue from Eye of the Needle」は、大らかでクラシカルなフィナーレから、ラヴ・テーマによるエピローグへと展開し、締めくくる。

当時は(演奏家に支払う再使用料が高額だったことから)サントラ音源をそのままアルバム化するより、全く新たにオーケストラを雇って再録音した方がコストが低かったため、ローザはアルバム用にニュルンベルク交響楽団を指揮してこのスコアを再録音しており、当初はこの録音がサントラ盤としてリリースされていた。ニュルンベルク交響楽団の元の名称はフランケンランド州立交響楽団(The Frankenland State Symphony Orchestra)で、ローザは1950年代にこのオーケストラといくつものアルバムを録音している。
(2024年9月)

Miklós Rózsa

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