(未公開)吸血鬼ノスフェラトゥ NOSFERATU: EINE SYMPHONIE DES GRAUENS
作曲:クリストファー・ヤング
Composed by CHRISTOPHER YOUNG
指揮:フランク・シュトローベル
Conducted by FRANK STROBEL
演奏:チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
Performed by Tonhalle-Orchester Zürich
(ドイツWarner Classics /
5021732457929)
1922年ドイツ製作のサイレント映画(日本では劇場未公開でDVD発売・テレビ放映済/英語題名は「NOSFERATU:
A SYMPHONY OF HORROR」、日本でのDVD発売時に邦題は「吸血鬼ノスフェラートゥ
恐怖の交響曲」)。監督は「サタン」(1919)「ジェキル博士とハイド氏」(1920)「燃ゆる大地」(1922)「ファウスト」(1926)「都会の女」(1930)等のF・W・ムルナウ(フリードリヒ・ウィルヘルム・ムルナウ/1888〜1931)。出演はマックス・シュレック、グスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム、グレタ・シュレーダー、ゲオルク・H・シュネル、ルース・ランドスホーフ、グスタフ・ボーツ、アレクサンダー・グラナック、ヨハン・ゴットウト、マックス・ネメッツ、ヴォルフガング・ハインツ、アルベルト・ヴェノール、カール・エトリンガー、グイド・ヘルツフェルド、ハンス・ランサー=ルドルフ、ロニ・ネスト他。ブラム・ストーカー(1847〜1912)の原作『吸血鬼ドラキュラ』(1897)を基にヘンリック・ガレーンが脚本を執筆。撮影はフリッツ・アルノ・ヴァグナーとギュンター・クランフ。
1838年、北ドイツの港町ヴィスボルグに住むトーマス・ハッター(ヴァンゲンハイム)は、雇用主で不動産業者の怪しげな男ノック(グラナック)から、ヴィスボルグの家を買いたいというオルロック伯爵(シュレック)と会うように命じられ、彼の住むトランシルヴァニアへと向かう。ハッターは、心配する最愛の妻エレン(シュレーダー)を親友で海運業を営むハーディング(シュネル)と彼の妹ルース(ランドスホーフ)に託し、旅に出る。目的地であるカルパティア山脈に近づいたハッターが、食事のために立ち寄った宿屋で何気なくオルロックの名を出すと、店にいた地元民たちは怯えだし、道中には狼男が徘徊しているなどと言って警告するが、ハッターは無視する。迎えにきた馬車に乗せられて城に着いたハッターは、オルロックの歓待を受ける。夕食の席でハッターが誤って親指を切ると、すかさずオルロックがその垂れた血を舐めようとし、驚いたハッターは反射的に手を引く。翌朝、ハッターは城の一室で目を覚まし、首元に真新しい傷があることに気づくが……。本作はブラム・ストーカーの許諾を得ずに映画化されており、登場人物の名前をドイツのものに変更したり、結末を変えたりしているが、ストーカーの遺族はこの映画化に対して訴訟を起こし、裁判所は本作のすべてのネガとプリントを破棄するよう命じた。後に発見されたオリジナルの字幕入りの第二世代プリントをベースにレストレーションが行われ、その後のリバイバル上映が実現している。
このスコアは、本作の初上映から100年後の2023年2月にチューリッヒでリバイバル上映された際に演奏されたもので、「エルム街の悪夢2/フレディの復讐」(1985)「スペースインベーダー」(1986)「ヘル・レイザー」(1987)「屋根裏部屋の花たち」(1987)「ザ・フライ2/二世誕生」(1989)「スピーシーズ/種の起源」(1995)「ブレス・ザ・チャイルド」(2000)「THE
JUON/呪怨」(2004)「エミリー・ローズ」(2005)「ゴーストライダー」(2007)「スペル」(2009)「プリースト」(2011)「ペット・セメタリー」(2019)「オファリング
-悪魔の生贄-」(2022)といった多数のホラー映画を手がけているアメリカの作曲家クリストファー・ヤング(1954〜)が新たに作曲し、フランク・シュトローベル指揮チューリヒ・トーンハレ管弦楽団に、日本生まれのピアニスト・オルガニスト・クラヴシニスト、サヤ・ハシノによるパイプオルガンを加えた演奏となっている。
CD2枚組となっており、1枚目の冒頭「Overture」は、オーケストラとパイプオルガンによる荘厳かつダークでドラマティックな序曲。「Act
1 Episode 1: Dead Flowers / Hutter's Departure」「Act 3 Episode 2: Ellen by the
Sea」は、静かにドラマティックでメランコリックなタッチの曲。「Act 1 Episode 2: The Inn / Book
of Vampires」は、ダークで不吉な主題から後半重厚でダイナミックなタッチへ。「Act 1 Episode 3:
Land of Ghouls」は、パーカッシヴでダイナミックなサスペンス音楽。「Act 1 Episode 4:
Phantom Carriage」は、ビジーでダイナミックかつパワフルなサスペンス音楽。「Act 2 Episode 1:
The Dining Room / Night Shadows」は、抑制されたサスペンス音楽からダークでドラマティックなタッチへ。「Act
2 Episode 2: Ellen's Portrait / Sleepwalk」は、静かにドラマティックな主題からダークで不吉なタッチ、後半ビジーでダイナミックなサスペンス音楽へ。「Act
2 Episode 3: The Crypt」「Act 2 Episode 4: Escape from the Castle」は、ダイナミックでパーカッシヴなサスペンス音楽。「Act
3 Episode 1: Delirium / Blood Is Life」は、不気味なピアノを加えたダークで不吉なタッチ。「Act
3 Episode 3: A Dark and Watery Grave / The Captain's Demise」は、ダークで不吉な主題から後半ビジーでダイナミックなサスペンス音楽へ。
CD2枚目の冒頭「Act 4 Episode 1: Ship of Doom」は、重厚でパーカッシヴかつダイナミックなサスペンス音楽。「Act
4 Episode 2: The Master Is Near」は、ダークで不吉なタッチ。「Act 4 Episode 3:
The Plague」は、重厚かつドラマティックなタッチからダイナミックなマーチ調の主題へ。「Act 5 Episode 1:
Dead Town / Burials」は、チェロ・ソロを加えたダークで不吉なタッチから後半ダイナミックで不気味な主題へ。「Act
5 Episode 2: Knock's Flight」は、ダークで重厚かつドラマティックなタッチの曲。「Act 5
Episode 3: Possession」は、ダイナミックなサスペンス音楽。「Act 5 Episode 4:
Sacrifice and Finale」は、重厚でドラマティックなタッチのフィナーレ。
このジャンルのエキスパートであるクリストファー・ヤングの個性が強く出た重厚でドラマティックなホラー・スコアで、職人芸的な巧さ。
この「吸血鬼ノスフェラトゥ」が1922年に初上映された際にはハンス・エルドマン(1882〜1942)作曲のスコアが生演奏で付けられていたが、その後のリバイバル上映の際に多数の作曲家が新たなスコアを作曲・演奏しており、中でもハマー・フィルムによるホラー映画のスコアで知られるイギリスの作曲家ジェームズ・バーナード(1925〜2001)による1997年の新録音が有名。全14曲/約63分収録のCDがイギリスのSilva
Screenレーベルから出ている(Silva Screen FILMCD 192)。
(2025年2月)
Christopher Young
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