FILM MAKING IN L.A.: PART 1

 

私がロサンゼルスに映画留学した際には、合計3本の自主映画を製作したが、その内の1本は、カリフォルニア州立大学ラジオ・テレビ・フィルム学科の授業の課題として他の学生と共同で作った16ミリの短編で、これは指定されたある映画のワン・シーンを自分なりにアレンジして再現するというものだった。 セリフよりもアクションの多いシーンの方が撮影や編集が面白いと思ったのだが、幾つかオプションがあったもののどれもアクションの少ない映画で、結局私のグループはウッディ・アレンの「マンハッタン」のラスト・シーンを選んだ(最後に主人公が延々と走る部分があったので)。

実際の映画ではウッディ・アレンとマリエル・ヘミングウェイが登場するシーンだったが、これをもっと若い男女のカップルに変えて、友達の友達に俳優として出演してもらって撮影した。

主人公が走るシーンをハリウッドのメルローズ通りで車を使って移動撮影したのだが、この通りは建物のファサードにサイケデリックな色彩の絵が描いてあったりして、いかにもハリウッドらしいバックグラウンドが面白い。 アレンが彼の愛するマンハッタンの街を見事にカメラで捉えたように我々のヴァージョンではこのハリウッドの雰囲気を作品のベースに利用したわけである。 ここは映像的にも凝れるシーンなので、多めのCOVERAGE(= 編集を行う際の材料となるショットのことで、撮影時にできるだけ多くのCOVERAGEを確保しておかないと編集時の可能性が限定されてしまう)を得ようと様々なパターンで何度も撮影したら、延々と走り続けた俳優は最後にはヨロヨロになってしまった。 本当はまだその日の撮影スケジュールを消化しきっていなかったのですぐに次のシーンに移りたかったのだが、プロの俳優でもない友達に好意で出演してもらっているのだから、そんな無理は言えたものではない。 この辺が自主製作映画の難しいところで、正式に契約して金を払っているプロの俳優ではないのだから、単なる出演者ではなく、映画製作に参加している「スタッフ」の一員として一緒に作り上げていくという意識を持ってもらわないとなかなか上手くいかないものだ。

こんな時、ヒッチコックなら「俳優は家畜だ!」などと言って過酷な指示を出すのだろうが、こういう発言は(たとえ冗談でも)自主映画では禁物である。

この「マンハッタン」は短編ではあったが、色々と撮影や編集の実験ができて面白かったし、完成作品のクラスでの評価も悪くなかった。 

 

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授業での映画製作だけでは物足りないし、L.A.で映画を勉強している米国人学生ともできるだけ多く知り合いたかったので、学内の映画製作クラブに入部することにした。 当初は得体の知れぬ東洋人ということで殆ど相手にされなかったが、真剣に映画を作りたいと思っている事と、自分がどれ位の技術を持っているかをアピールする為に日本で過去に監督した作品を幾つか見せたところ、とたんに態度が変わって一緒に作ろうという連中がすぐに集まった。 口先だけでなく実績を見せよというわけだ。 私が彼らに見せた映画はアクション・シーンが多かったのでセリフが日本語でさっぱり分からなくても技術はアピールできたのであろう。

その中でも特に気の合った友人と2人でストーリーを練り始めた。 私はアーサー・コナン・ドイル原作のシャーロック・ホームズのファンで、この機会にホームズの映画をオリジナルの脚本で作りたいと思っていたので、それをベースに原案を考えていったのだが、19世紀当時のイギリスを舞台にした話となるとセットや小道具にお金がかかるし、せっかくL.A.にいるのだからそのロケーションも使いたいという発想で、ホームズとワトソンの2人が現代のL.A.にタイムスリップしてきてスパイがらみの事件に巻き込まれるというストーリーにした。

大体のシノプシスができた段階で脚本の執筆に入る前に、過去に作られたホームズ映画や、タイムトラベルを題材にしたSF映画を観たりして色々と研究したのだが、これをあまりやると無意識のうちにこれらを模倣してしまうものだ(ということが完成した映画を観て判明した)。

脚本を書き始めたのはいいが、オープニング・シーンをどうするかでいきなり行き詰まってしまった。 私はオープニングだけはホームズとワトソンが19世紀ロンドンのベーカー街221番地B話しているところから始めたかったのだが、そうなるとそれなりの部屋が必要となる。 セットを組むのは大変なので、それらしき部屋を提供してくれる知り合いを探すしかなかったのだが、そう都合良くそんな知り合いがいるものではない。 適当な部屋を使って顔のアップの連続でごまかすという手もあったが、そうするとB級マカロニ・ウエスタンの決闘シーンみたいになってしまうので、それもやめた。

というわけでそれなりの部屋が見つからない場合はオープニング・シーンから変更しなければならないという状況だったが、そこで悩んでいては話が先に進まないので、部屋はその内に見つかるであろうという大胆な仮定を基に脚本を書き進んでいったのである。

ところが・・・

TO BE CONTINUED

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