FILM MAKING IN L.A.: PART 4

 

「SHERLOCK HOLMES IN L.A.」は、19世紀末のベーカー街221Bでホームズが彼の天敵である「退屈」の苦しみを紛らそうと、ワトソンの行動から彼の考えを推理して言い当てているシーンから始まる。少し長くなるが、この部分の脚本を引用すると、こんな感じである・・・

 

INT. 221B BAKER ST. - NIGHT

DR.WATSON pours the contents of his GLASS into A BOTTLE OF SCOTCH.

HOLMES
(O.S.)

You are perfectly correct, my dear fellow. Conscience is indeed a strict warden, is it not?

WATSON

Surely, too strict...
(looks at HOLMES in astonishment)
Holmes! Again you've read my mind! Pray explain to me how.

HOLMES

It is all absurdly simple, Watson. I have been observing you since you came in. You took off your coat, went directly to the bar, took a bottle of Scotch and poured a healthy glassfull. Now, Watson, the stain of chalk between your left forefinger and thumb proves that you had played billiards in the club before you came home. Since you always drink Scotch when you play billiards, you must have drunk it tonight.

WATSON

As a matter of fact, yes.

HOLMES

When you were about to bring the glass to your mouth, an expression of remembrance came into your face, and you looked at to-day's paper on the desk. I know there is an article which attempts to prove that to resume drinking strong whisky within one hour is more injurious to the kidneys than to drink the same amount without intermission. Then you took out your watch, and gave it a glance. I understood that you were convinced that more than an hour had already passed since you had drunk in the club, for you nodded and took the glass again. You were about to drink it, and this time you looked at me. It was yesterday, if my memory is correct, that you censured me for habitually taking a seven-per-cent solution of cocaine, and I made a counterattack by condemning you for your excessive drinking of Scotch. You were playing with your glass for a while, and then at last poured the whisky back decisively into the bottle. It was then that I agreed that conscience was a strict warden.

 

という具合に、ホームズはワトソンがアパートに入ってきてからの行動を基に、彼が今「良心とは厳格な番人だ」と考えていることを推理するわけである。

因みに最初の「INT.」とうのは「INTERIOR」のことで、その場面が室内であることを表している。この逆はもちろん「EXTERIOR」で「EXT.」と略す。で、その次に場所を表す「221B BAKER ST.」が来て、その後に「- NIGHT」と続く。これは、日本映画の脚本でいう「柱」に相当するもので、「室内か屋外か」、「具体的な場所」、「昼か夜か」の順で表すのが普通である。

また、最初のホームズのセリフの「HOLMES」の下にある「O.S.」は「OFF SCREEN」の略で、このセリフを言うホームズは画面に写っていない(つまりワトソンのショットにホームズのセリフがかぶさる)という意味である。

 

話をホームズの映画に戻すが、冒頭のシーンではホームズとワトソンがいかにして現代のL.A.にタイムスリップしてくるかを描かねばならないので、どうしても説明的な台詞が多くなる。できるだけ簡略にしようとしたが話が複雑なので台詞をあまり削ると訳がわからなくなる。私は映画はできるだけ映像のみで全てを描くべきだと信じているので、台詞は少なければ少ない方がいいと思うが、このシーンは話の前提を説明するために結局台詞だらけになってしまった。

ホームズが退屈に苦しんでいるところに、アメリカ人の科学者ノーマンが現れる。彼は記憶を失っているが、服装からしてどう考えても19世紀末のイギリス人ではない。ホームズがノーマンの持ち物等から推理したところ、彼は自分の発明したタイムマシンを使って20世紀、つまり現代のL.A.からタイムスリップしてきたということがわかる。ホームズとワトソンはノーマンの依頼を受けて、ある女性を危機から救う為に20世紀のL.A.にタイムトラベルすることになる・・・。

 

このシーンは前回書いた建築家の家を借りて撮影したのだが、なんとこの時には俳優以外には私しかスタッフがいないという最悪の条件で、結局私が演出、撮影、録音、照明等の全てを自分でこなさねばならなかった。それでもこの時点で既に撮影を開始して数日経っており、私も俳優達とうち解けた雰囲気でリラックスして作業が進められたので結果的には非常に楽しい撮影であった。こういった台詞の多いシーンは俳優の気分が乗っていないと何度もNGが出てうまくいかないものである。特にホームズ役の俳優は、上記の脚本の抜粋の最後にある長いセリフを切れ目なしのワンショットで言う必要があったので、結構大変だった。別に機嫌をとる必要はないのだが、俳優からいかにベストの演技を引き出すかも演出の重要なポイントだと思う。ここはスクリプトにして8ページ程度の比較的長いシーンであったが(英語の脚本では普通1ページを1分と数える)、NGが少なかったので全てのショットを1日で撮り終えることができた。完成した映画のビデオテープを後ほど建築家に送付したことは言うまでもない。

 

L.A.にタイムスリップしたホームズとワトソンはあるアパートの1室に出現する。これはハリウッドにあるヒロイン役の女性のアパートをそのまま撮影に利用した。但しこのアパートはL.A.のダウンタウンにあるという設定なので、ホームズが窓から外を見るシーンの主観ショット(英語では「P.O.V. SHOT」というが、もちろん「Point Of View」の略である)だけは実際にダウンタウンで撮影して編集時に挿入した。

ホームズたちは一緒にタイムスリップしたはずのノーマンが消えていることに気付く。そこへアパートの住人が帰ってくる。ホームズたちはクロゼットに隠れて成り行きを見守る。入ってきたのはノーマンから命を救うように依頼された女性である。そこへ第2の人物がやってくるが・・。

TO BE CONTINUED

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