FILM MAKING IN L.A.: PART 5
(前回から続く)ホームズとワトソンがタイムスリップした場所は、ノーマンから救出するように依頼された女性、メアリーのアパートであった。ホームズたちがクロゼットに隠れていると、メアリー本人に続いて、第2の人物、ノーマンが部屋に乱入してくる。
ここで現れるノーマンは、この前のシーンでベーカー街にやって来くる前のノーマンである。というのは、彼らがベーカー街からメアリーのアパートにタイムトラベルする際に、ノーマンは(ホームズの提案で)彼のタイムマシンの目的地を自分が直前にいた時間の10分前にセットしたからで、要するにノーマンは(1)メアリーのアパート → (2)ベーカー街 → (3)メアリーのアパートと移動したことになる(この2回目のメアリーのアパートは最初のアパートの10分前である)。
そして、この2回目のタイムトラベルの際にノーマンは消滅してしまった。これは同じ時間内に同一人物は複数存在できないというタイムトラベルもののルールに従っている(と同時に、作っている側から言うと、ホームズとワトソンをノーマンの助けなしに事件を調査していかねばならないという困難な状況に追いやりたいという事情がある。主人公の置かれた状況をできるだけ困難なものにすることでドラマが生まれる、というのはストーリーテリングの基本である)。
話を戻して、メアリーは自分の部屋に突然乱入してきたノーマンの顔面に強烈なパンチをくらわせ、今すぐ出ていかないと警察を呼ぶと叫ぶ。ノーマンは自分がメアリーを救いに来たのだと告げ、小さな袋から腕時計のような物を取り出してメアリーの手首に付けようとする。
と、そこに今度は2人の大柄な男が乱入してきて、その内の1人、モーガンが手にした銃のような物でメアリーを撃つ。メアリーは催眠状態になってそのまま立ち尽くす。侵入者のもう1人の方、マシューズはノーマンの知り合いのようで、「お前の持っているモデル2をよこせ!」と迫る。モーガンがノーマンを催眠銃「スタナー」で撃つが、ノーマンには反応しない。スタナーは科学者であるノーマン自身が発明したもので、彼が手首に付けている腕時計のような装置(= アンチ・スタナー)は銃の効果を相殺するのだ。それではとマシューズはコルト・パイソン357マグナム拳銃を抜き、ノーマンに突きつける。ノーマンはポケットに忍ばせたタイムマシンのスイッチを入れ、アパートから姿を消す(ここでノーマンはピンチから脱出するために仕方なくタイムマシンを使ったわけだが、この時タイムマシンの行き先は100年前のベーカー街にセットされていたことが映画の最後の方で明らかになる)。ノーマンを取り逃がしたマシューズとモーガンは、催眠状態にあるメアリーを誘拐していく。一部始終をクロゼットの中から見ていたホームズとワトソンは、ノーマンが落としていった小さな袋を拾い上げ、男たちを追ってアパートを出ていく・・・・。
このシーンは実際の映画ではあっという間なのだが、タイムトラベルの要素が含まれているので文章で説明すると非常にややこしい。
ホームズとワトソンは男たちを追って建物から走り出てくるが、L.A.のダウンタウンの喧騒の中で呆然と立ち尽くしてしまう。その間に男たちはメアリーを連れて車で走り去る。仕方なく、ホームズたちはノーマンが残していった袋の中身を手がかりに調査していくことにする。袋の中には現代のL.A.の地図、鍵が1つ、そしてノーマンが手首に付けていたのと同じ「アンチ・スタナー」が入っている。地図にはノーマンが書いたらしい印が2つ付いており、1つはダウンタウン、つまりメアリーのアパート、もう1つはL.A.郊外のある場所を示している。そこで、ホームズたちはこの第2の場所に向かうことにする・・・。
このシーンはダウンタウンL.A.のウェスティン・ボナヴェンチャー・ホテルの近くで撮影した。L.A.で撮影するには、例え学生映画であろうと警察の許可が必要であり、しかもなにがしかの使用料を支払わねばならない。許可なしで撮影していて警察に見つかると逮捕はされないが、撮影を中止せざるを得なくなる。逆にちゃんと許可を取っていれば、警察は撮影に協力して交通整理とかやってくれるらしい。
ところで、メアリーを誘拐していく2人組の内、マシューズは冷静沈着な紳士タイプ、モーガンは残忍な殺し屋タイプで、ヒッチコックの「北北西に進路を取れ」に出てくるジェームズ・メイソンとマーティン・ランドーのような感じなのだが、このモーガン役の俳優は演技の方はもう1つ(か2つ)だが怪力である点は役柄ピッタリであり、撮影中にもいろんな物を破壊してくれた(一方、マシューズ役の俳優は抑えた演技でなかなか渋かった)。2人がメアリーを連れて逃げ去るシーンで車に乗り込むショットがあったのだが、モーガン役の彼が運転席に乗る際にとんでもない勢いでドアを閉めたものだから衝撃でガラスが木っ端みじんに吹っ飛んでしまい、おかげで素晴らしいショットが撮れたが残念ながら本編では(筋を変えないかぎり)使えないものであった。
ホームズとワトソンはタクシーを拾って目的地へ向かう。車中でホームズはこれまでの状況を基にした彼の推理をワトソンに説明する。ノーマンは自分の発明したタイムマシン「モデル2」で21世紀から現代にやって来て、メアリーを救おうとした。メアリーはノーマンに会ったことはないはずだが、何らかの関係があるに違いない。一方、マシューズとモーガンはノーマンと同様21世紀からやって来て、ノーマンのタイムマシンを奪おうとした。しかし、彼らも未来から来たのだから別のタイムマシンを持っているはず。では、なぜノーマンのタイムマシンを手に入れようとしているのか・・・。
このシーンは車中のホームズとワトソンの長い会話を全て1ショットで撮っているのだが、これを撮る時点でフィルムの残りが少なく、しかも俳優たちも次の予定の為にあまり時間がなく、要するに長廻しでありながらNGは絶対に許されないという厳しい状況であった。ところがホームズ役の俳優がどうしてもセリフを暗記できず、仕方なくカメラに写らないように手元に台本を持ってカンニングしながら撮影することにした。結果として1発でOKだったのだが(あたり前だ!)、知ってて見ると彼が時々手元をちらちら見ているのが歴然でなんともおかしい。どうせなら台本を車の窓に貼り付けてやればよかったと思う。そうすればそちらに目が行っても外の景色を見ているような感じになっただろう(こういうことはその場ではなかなか気付かないのだ)。
マシューズとモーガンはL.A.郊外のモーテルにメアリーを監禁し、モーガンが見張っている間にマシューズが未来に戻って上司に報告しに行こうとする。そこへホームズとワトソンがやって来る。マシューズはワトソンをスタナーで撃つが、ワトソンはノーマンの持っていたアンチ・スタナーを付けているので効き目がない。ホームズはモーガンを殴り倒してメアリーを奪還し、マシューズたちの車に乗り込んで逃げようとする。が、車のキーがない。マシューズは手にしたキーを遠くに放り投げてしまう。そこでホームズは、ノーマンの袋に入っていた鍵を運転席のメアリーに渡す。果たしてキーはピタリと合い、ホームズたちはマシューズを残して車で走り去っていく・・・。
この部分はSEPULVIDA通りにある「RED WOOD INN」というモーテルで撮影したが、このモーテルのロケ地探しには結構苦労した。あちこち回ったのだが、なかなか撮影を許可してくれる所がなく、ついに見つけたこのモーテルはオーナーが日本人であったせいか割に快く許可をくれた(それでも1泊分の料金は支払ったが)。
ホームズは車を運転しているメアリーに事の次第を説明する。それでも自分がこの話とどう関係があるのかわからないというメアリーに、ホームズは「あなたはノーマンの母親だ」と言う。つまり、ノーマンからタイムマシンを奪う為にマシューズたちは彼の母親であるメアリーを誘拐したのである。メアリーはこの説明を信じようとしない。
と、行く手にマシューズとモーガンが別の車で待ち伏せしている(この車はマシューズがスタナーを使って何の罪もない男から盗んだのだ。この何の罪もない男は私の友人が演じてくれた)。メアリーは横道に逃げ込むが、その道は広場で行き止まりになっていて、ホームズたちは追いつめられてしまう。
マシューズとモーガンが拳銃を構えて車から降りてくる。ホームズとワトソンも車から降り、持っていた拳銃を地面に捨てる。モーガンはホームズたちの乗っていた車まで来て、メアリーを助手席に移動させ運転席に乗り込む。マシューズの説明では、ノーマンは政府に雇われた科学者で、マシューズがその上司であった。彼は政府の要請でタイムマシンを2種類開発したが、マシューズたちが利用している「モデル1」の方は旧式で機能が限られているのに対し、5年後に作られた「モデル2」の方は大幅に機能改善していた(この「モデル1」はホームズたちがマシューズから奪った車そのものであった)。ところがこの時点でノーマンは政府を裏切り、別の組織に「モデル2」を売ろうとした。そこで、マシューズたちはノーマンをおびき出す為に「モデル1」を使って現代にやって来てメアリーを誘拐したのだ。
と、そこまでマシューズが説明したところで突然ノーマンが現れる。このノーマンは最初の方でメアリーのアパートにタイムトラベルした際に一旦消滅してしまったノーマンで、彼はアパートに1時間遅れで出現したのだ。ノーマンは、自分が「モデル2」をマシューズたちに渡すことを拒否したのはそれがCIAに利用されることを知ったからで、マシューズたちはそのことを知ってしまったノーマンを消そうとしているのだと言う。
マシューズがノーマンに拳銃を向けると、ノーマンは「モデル2」を手に持ち、「ちょっとでも動くとこいつを破壊する」と脅す。慎重派のマシューズはしばらく考えた末に拳銃を地面に置く。が、無謀なモーガンは車のギアをローに入れ、メアリーを助手席に乗せたまま発進させる(このショットを撮影する際にモーガン役の彼は車のシフト・レバーを根元からブチ抜いてくれた・・。 やれやれ)。
マシューズが怯んだ隙にホームズは足元に捨てた拳銃を拾い上げて、マシューズの構えようとした銃を撃つ。ワトソンも自分の銃を取って運転席のモーガンを撃つが、あっさり射殺してしまい、車はメアリーを助手席に乗せたまま急な坂道を暴走し始める。ノーマンとホームズはマシューズたちの車に乗り込んでメアリーの車を追う・・・。
マシューズとワトソンは広場にとり残される。この広場のシーンは2箇所で撮影したのだが、その内の1つはスピルバーグが「E.T.」の撮影に使ったロケ地で、この場所は私が住んでいたアパートの近くにあった。
ここから先はクライマックスのカーチェイス・シーンである。息絶えたモーガンを運転席に乗せたまま曲がりくねった山道を暴走していくメアリーの車と、それを追うノーマン/ホームズの車。メアリーは助手席からハンドルを切って車を操作しなければならない。ギアをシフト・ダウンしてエンジン・ブレーキをかけようとするが、ギアは動かない。エンジンを切るが、車は坂道を下っており加速していくばかりだ。ノーマンはメアリーの車を追い越して前に回り込み、バンパーを接触させたままゆっくりブレーキをかけてメアリーの車を止めようとする。が、後の車の方が重量があり、ノーマンの車のブレーキは焼き切れてしまう。そこでホームズは・・・・
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… TO BE CONTINUED)Copyright (C) 1999 Hitoshi Sakagami. All Rights Reserved.