(TV)第三帝国の興亡 THE RISE AND FALL OF THE THIRD REICH

作曲:ラロ・シフリン
Composed by LALO SCHIFRIN

指揮:ローレンス・フォスター
Conducted by LAWRENCE FOSTER

演奏:ロス・アンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団員、グレッグ・スミス・シンガーズ
Performed by members of the Los Angeles Philharmonic Orchestra, the Gregg Smith Singers

(米Dragon's Domain Records / DDR887)

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1968年製作のアメリカのテレビ映画(1968年3月にABCで放映/日本では1968年12月に劇場公開)。製作・監督はジャック・カウフマン(1931〜2021)。アメリカのジャーナリスト・現代史家であるウィリアム・L・シャイラー(1904〜1993)が1960年に発表した、ドイツ第三帝国の誕生から滅亡までを綴った歴史書『第三帝国の興亡(The Rise and Fall of the Third Reich)』を基にしたドキュメンタリー(1時間×3話)。ナレーション部分の脚本はジャック・カウフマン、アラン・ランズバーグ、セオドア・ストラウスとリチャード・ショッペルリーが執筆。国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)の党首となったアドルフ・ヒトラーが勢力を拡大していく1920年代に始まり、1933年の政権獲得を経て、1939年の第二次世界大戦開戦、そして1945年のドイツの敗北までを、ヒトラーの元側近等へのインタビューや記録映像により描く。ナレーションを「道」(1954)「カラマゾフの兄弟」(1957)「サタンバグ」(1964)「(TV)原子力潜水艦シービュー号」(1964〜1968)等のリチャード・ベイスハートが担当(日本公開版のナレーションは若山弦蔵)。

音楽は本年6月に他界したアルゼンチン出身の作曲家ラロ・シフリン(1932〜2025)で、これは彼が「(TV)スパイ大作戦」(1966〜1973)「暴力脱獄」(1967)「マンハッタン無宿」(1968)「ブリット」(1968)等のスコアを手がけていた頃の作品。シフリンがこのテレビ映画用に作曲したスコアは、弦楽器、金管楽器、木管楽器、スネアドラム、ピアノ、ハープ、ツィンバロムによる小編成のアンサンブルによる演奏だった。一方で、このスコアを基にしたシフリン作曲のカンタータ(器楽伴奏付の声楽曲)のコンサートが、80人編成のオーケストラと80人編成のコーラスの演奏により、テレビ放映8カ月前の1967年8月3日にハリウッド・ボウルで開催された。アルフレッド・ペリーが台本を執筆し、「アラモ」(1960)「影なき狙撃者」(1962)「暴行」(1963)等で知られるリトアニア出身の俳優ローレンス・ハーヴェイがナレーション、リリ・チューカシアン(コントラルト)とリチャード・キャッシリー(テノール)が独唱、グレッグ・スミス・シンガーズが合唱、ローレンス・フォスターがオーケストラの指揮を担当した。続く1967年8月4、5日に、同じ演奏家たちとナレーターによる録音がカルヴァー・シティで行われ、米MGMレーベルがLP盤(MGM Records S1E-12 ST)としてリリースした(LPのジャケットではMGMスタジオ交響楽団の演奏となっている)。米Dragon's Domainレーベルが2025年5月にリリースしたこのCDは、LPと同内容の全15曲/約46分を収録しているが、ローレンス・ハーヴェイによるナレーションは省略されている。

「Prologue」は、ダークかつサスペンスフルでアブストラクトなタッチの前奏曲。「The Teutonic Gods」は、オーケストラとコーラスによる不吉でサスペンスフルなタッチ。「A Pact with Satan」も、不吉なタッチからミリタリスティックなマーチ、テノールによるセリフと独唱へと続く。「The Devil's Spawn」は、おどけたタッチのマーチからアルトによる独唱、明るく軽快な主題、テノールの独唱、ダークでサスペンスフルなタッチへ展開。「Nazis March」は、オーケストラとコーラスによるアブストラクトなタッチのマーチ。「Mother Earth Mourns」は、アルトの独唱からダークでサスペンスフルなタッチをはさみ、メランコリックな独唱へ戻る。「Bonfires」は、テノールによるセリフと独唱にコーラスとアルトが加わり、ビジーでサスペンスフルなタッチの主題へ展開。「The War Begins」は、テノールの独唱によるアブストラクトなタッチ。「Destruction and Sorrow」は、不吉でサスペンスフルなタッチからアブストラクトなピアノ・ソロへ。「Madness and Murder」「The Allies Rally」は、オーケストラによる不吉なタッチの曲。「Innocent Victims」「Seventy Million Dead」は、オーケストラとコーラスによるダークで不気味なタッチの曲。「The Tide Turns」は、オーケストラとコーラスにテノールの独唱を加えたダイナミックなタッチの曲。「Epilogue」は、メランコリックなアルトの独唱から不吉なタッチ、ダイナミックな結末へと展開するエピローグ。オーケストラの部分は、シフリンが同時期に手がけていた「(TV)スパイ大作戦」のスコアに印象が近い。

アルフレッド・ペリーによるカンタータの台本は、第一次大戦の敗北に嘆く古代ゲルマン民族テウトネスの神々が、悪魔に助けを求め、ドイツの産業と金融を象徴するビジネスマンの姿をした悪魔(テノールが表現)が、彼らを救う条件としてドイツ総国民の魂を要求。これに対してドイツ国民の正気と理性を象徴する母なる大地(アルトが表現)が強く反発し、悪魔はこの闘争に打ち勝つためにアドルフ・ヒトラーを送り込み、ドイツ国民は彼を受け入れてしまう、という内容。

ラロ・シフリン自身は、このカンタータを失敗作と考えており、ペリーによる台本を嫌悪していたため、このアルバムが将来再発される際にはナレーションの削除を希望していた(よって、このCDにはナレーションが入っていない)。
(2025年9月)

Lalo Schifrin

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