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(2004年1月 〜 12月)

 


<2004年12月>

 

「マイ・ボディガード」 MAN ON FIRE
Director: Tony Scott
Writer: Brian Helgeland
Based on a novel by: A.J. Quinnell "Man on Fire"
Music: Harry Gregson-Williams
Cast: Denzel Washington(Creasy), Dakota Fanning(Pita), Marc Anthony(Samuel), Radha Mitchell(Lisa), Christopher Walken(Rayburn), Giancarlo Giannini(Manzano), Rachel Ticotin(Mariana), Jesus Ochoa(Fuentes), Mickey Rourke(Jordan), Angelina Pelaez(Sister Anna), Gustavo Sanchez Parra(Daniel Sanchez), Gero Camilo(Aurelio Sanchez), Rosa Maria Hernandez(Maria), Heriberto Del Castillo(Bruno), Mario Zaragoza(Jorge Ramirez), Javier Torres Zaragoza(Sandri), Iztel Navarro Vazquez(Sandri's Girl), Esteban De La Trinidad(Guardian One), Charles Paraventi(Guardian Two), Carmen Salinas(Guardian Three), Georgina Gonzalez(Rayburn's Wife), Abraham Sandoval(Rayburn's Kid), Jorge Picont(Piano Teacher), Hector Tagle(Mariana's Driver), Victor De Pascual(Arms Dealer), Jorge Guerrero(Priest)
Review: A・J・クィネル原作による元傭兵クリーシィを主人公にしたシリーズ第1作目「燃える男」の2度目の映画化。南米を舞台に(原作ではイタリア)、実業家の娘ピタ(ダコタ・ファニング)のボディガードとして雇われたクリーシィ(デンゼル・ワシントン)が、ピタを誘拐した犯罪組織を相手に単身戦いを挑む、というアクション作品。旧作(日本未公開)は1987年製作で、スコット・グレンがクリーシィを好演していた(共演はジョナサン・プライス、ダニー・アイエロ、ジョー・ペシ他)が、監督のエリ・シュラキの演出力不足のため凡庸な出来の作品だった(唯一素晴らしかったのはジョン・スコット作曲のエモーショナルなスコアで、これは彼のベストの1つ)。今回の映画化は監督のトニー・スコットが長年温めてきた企画であり、脚本も「L.A.コンフィデンシャル」「ペイバック」「ブラッドワーク」「ミスティック・リバー」等のブライアン・ヘルゲランドが担当しており、大いに期待して観た。結果として、やはり個人的には好きなタイプの映画で楽しめたが、ストーリーの原作からの大幅な改変には少なからず驚いた。詳しくはネタバレになるので書けないが、いかにもハリウッド的な変更で、原作のファンとしてはあまり感心しない。ただ、後半でクリーシィが犯罪組織のメンバーを次々と片付けていくシーンは原作と同様カタルシスがある。ワシントンの抑えた演技も良い。脇役のクリストファー・ウォーケン、ジャンカルロ・ジャンニーニ、レイチェル・ティコティン等も好演している。スコットのMTV調のチラチラした映像と編集が鬱陶しいのと、ちょっと長すぎる(146分)のが難点。南米風のフレーバーを帯びたハリー・グレグソン=ウィリアムスのスコアはあまり印象に残らなかった。旧作のプロデューサーだったアーノン・ミルチャンが、今回も製作にクレジットされているが、彼が原作の映画化権を押さえているのだろう。しかし、この日本題名のセンスの悪さには閉口する(「ボディガード」にあやかったヒットを狙ったのだろうが・・)。
Rating: ★★★1/2

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「TAXI NY」 TAXI
Director: Tim Story
Writers: Robert Ben Garant, Thomas Lennon, Jim Kouf
Based on the film written by: Luc Besson
Music: Christophe Beck
Cast: Queen Latifah(Belle), Jimmy Fallon(Washburn), Henry Simmons(Jesse), Jennifer Esposito(Lt. Marta Robbins), Gisele Bundchen(Vanessa), Ana Cristina De Oliveira(Redhead), Ingrid Vandebosch(Third Robber), Magali Amadei(Fourth Robber), Ann-Margret(Washburn's Mom), Christian Kane(Agent Mullins), Boris McGiver(Franklin), Adrian Martinez(Brasilian man), Joe Lisi(Mr. Scalia), Bryna Weiss(Mrs. Scalia), GQ(Stopwatch Messenger), Joey Diaz(Freddy), Rick Overton(Man at Taxi Convention), John Rothman(Business Man), Mike Santana(Young Dealer), Herman Chavez(Undercover Domino Player), Lou Torres(Sweaty Dealer), Sixto Ramos(Twitchy Dealer), Mario Roberts(Third Dealer), Jamie Mahoney(Kid), Amanda Anka(Officer)
Review: リュック・ベッソン製作のフランス映画「TAXi」(監督:ジェラール・ピレス)のハリウッド版リメイク。リュックは以前にも監督作の「ニキータ」が「アサシン」として米国でリメイクされており、単なる焼き直しにすぎないリメイク版の監督(ジョン・バダム)を「あいつはJohn “BAD I AM”だ」とこきおろしていたのが可笑しかったが、今回の「TAXI NY」は彼自身がプロデューサーとして単独クレジットされており、一応は“原案者公認”のリメイクなのだろう(但し実際にはリュックはほとんど製作にタッチしておらず、冒頭のクレジットに出るEuropacorpもこの映画には出資していない)。ストーリーは基本的にオリジナル版と同じだが、主人公のタクシードライバー(クイーン・ラティファ)と銀行強盗団(ジゼル・ブンチェン他)を女性のキャラクターに変更しているところがハリウッドらしい。スーパーモデル然とした銀行強盗というのはあまりにもコミックブック的で、リアリティのかけらもないが、エンターテインメントとしてはこれもありなのだろう。ラティファは好感が持てるが、刑事役のジミー・ファロンがあまりに酷い。演技力は皆無な上に、とことん安っぽく、うざったい。オリジナルのエミリアン刑事役のフレデリック・ディーファンタルの方がはるかに愛すべきキャラクターだった。彼の上司も女警部補(ジェニファー・エスポジト)に変更されているが、オリジナルのベルナール・ファルシー演じるおバカ署長も捨てがたい(ハリウッド版ならレスリー・ニールセンか?)。NY市内で展開するカーチェイス・シーンは迫力があるが、今どきどんなすごいカー・スタントを見せても誰も驚かないだろう。しかし昨年5月の「TAXiB」が丸の内ルーブル/渋谷パンテオン/新宿ミラノ座を中核とする大規模公開だったのに対して、このハリウッド版がニュー東宝シネマというのはちょっと寂しい感じがする。メジャースタジオ(20世紀フォックス)からするとマイナーなB級アクションという扱いなのだろう。
Rating: ★★1/2

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<2004年11月>

 

「ゴジラ FINAL WARS」 GODZILLA: FINAL WARS
監督: 北村龍平
脚本: 三村 渉
音楽: キース・エマーソン
出演: 松岡昌宏(地球防衛軍兵士/尾崎真)、菊川 怜(分子生物学者/音無美雪)、宝田 明(国連事務総長/醍醐直太郎)、ケイン・コスギ(地球防衛軍兵士/風間勝範)、水野真紀(ジャーナリスト/音無杏奈)、北村一輝(X星人参謀/統制官)、ドン・フライ(地球防衛軍・轟天号艦長/ダグラス・ゴードン大佐)、船木誠勝(地球防衛軍M機関/熊坂教官)、水野久美(地球防衛軍司令官/波川玲子)、佐原健二(古代生物学者/神宮司八郎)、泉谷しげる(田口左門)、伊武雅刀(X星人司令官)、國村 隼(地球防衛軍・轟天号副艦長/小室少佐)、他
Review: 10月に北村監督と会う機会があったが、その際に彼は「『ゴジラ』のような歴史のあるシリーズもので僕の作家性が出せるのかと聞かれたことがあるが、それは十分出せているし、一方で『ゴジラ』の世界観を壊しているわけでもない。僕は、ここまで行くとカルト過ぎるぞとか、こうすると商業監督になってしまう、という押さえどころがよく分かっていて、そのバランス感覚が自分の一番の武器だと思う」と言っていた。実際に映画を見てみて「なるほど」と思った。見せ場の連続で畳み掛けるような展開は北村監督らしいし、怪獣同士のバトルにも工夫があり、登場人物の描き方にもこだわりを感じる(特に悪役がコミカルなのがいい)。一方で、これまでの『ゴジラ』シリーズの過去の作品と基本的なテイストは変わっていない。松岡、菊川、コスギといった若手キャストの演技が学芸会レベルだったり、脇の宝田、伊武、泉谷たちがオーバーアクト気味のくさい芝居をしているのも、このシリーズのお約束だったりする。中盤で挿入されるTVのトーク番組のパロディも実にわざとらしく、笑えない。また、これは北村監督の過去の作品でも感じたことだが、あまり強い必然性のない“アクションのためのアクション”のようなシーンがあり、こういう場面はいかに迫力ある演出をしても、そもそものエモーショナルレベルが低いので、どうしても退屈になってしまう。クライマックスでワイヤーアクションによるマーシャルアーツ・ファイトが延々と続くのも、同じことの繰り返しのようで若干食傷気味に感じる。ただ、何よりもストーリー展開がB級モンスター映画のノリなのが楽しい。監督の強い希望により参加したキース・エマーソンのスコアも映画のタッチによく合っていると思う。カイル・クーパーによるタイトルデザインもGood。
Rating: ★★★

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「リターン・トゥ・センダー(原題)」 RETURN TO SENDER
Director: Bille August
Writers: Neal Purvis, Robert Wade
Music: Harry Gregson-Williams
Cast: Connie Nielsen(Charlotte Cory), Kelly Preston(Susan Kennan), Aidan Quinn(Frank Nitzche), Mark Holton(Joe Charbonic), Timothy Daly(Martin North), Randy Colton(Joe Hammond), Darryl Cox(Detective), Jay Michael Ferguson(Governor's Aide), Chris Freihofer(Reporter), Steven Judd(Paparazzi), Jules Loth(Reporter), Madison Mueller(Kirstie), Mark Ryan(Mark Slessinger), Brian Shoop(District Attorney)
Review: 「子供たちの城」(1983)「ペレ」(1987)「愛の風景」(1992)「愛と精霊の家」(1993)「エルサレム」(1996)「レ・ミゼラブル」(1998)等で知られるデンマークの名匠ビレ・アウグストが監督したウェルメイドなミステリドラマ。子供を誘拐し殺害した罪で死刑を宣告された女性シャーロット(コニー・ニールセン)と手紙のやりとりを通じて親しくなったフランク(エイダン・クイン)は、シャーロットの弁護士スーザン(ケリー・プレストン)と協力して事件の真相を再調査し、死刑執行までに彼女の無罪を証明しようとする・・。全体に抑制されたタッチの演出だが、よく練られた脚本、共感しやすいキャラクター、ひねりの効いた結末と、ミステリファンにも十分楽しめる佳作。脚本のニール・パーヴィスとロバート・ウエイドは、007シリーズの「ワールド・イズ・ノット・イナフ」「ダイ・アナザー・デイ」や「ジョニー・イングリッシュ」等を手がけているコンビだが、ここではシリアスな題材を緻密に脚色している。抑えた色彩の撮影は「マリアの泉」「淫夢」等のディルク・ブリュエル。キャストが地味なので商売的には難しい映画だと思うが、完成度は非常に高い。主人公の女性を例えばジョディ・フォスターが演じていれば興行的な価値は全く違ってくるだろう。ハリー・グレグソン=ウィリアムスの叙情的で静かなスコアも良い。
Rating: ★★★

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「ルパン」 ARSENE LUPIN
Director: Jean-Paul Salome
Writers: Jean-Paul Salome, Laurent Vachaud
Based on a novel by: Maurice Leblanc "La comtesse de Cagliostro"
Music: Debbie Wiseman
Cast: Romain Duris(Arsene Lupin/Raoul d'Andrezy), Kristin Scott Thomas(Josephine, comtesse de Cagliostro), Pascal Greggory(Beaumagnan), Eva Green(Clarisse de Dreux-Soubise), Robin Renucci(Duc de Dreux-Soubise), Patrick Toomey(Leonard), Mathieu Carriere(Duc d'Orleans), Philippe Magnan(Bonnetot), Philippe Lemaire(Cardinal d'Etigues), Marie Bunel(Henriette Lupin), Francoise Lepine(Duchesse), Jessica Boyde(Femme aux diamants), Gaelle Vincent(La metisse), Pierre Aussedat(Louis Desfontaines), Xavier Beauvois(Le medecin), Laurent Besancon(Le second du capitaine), Alain Cauchi(Capitaine paquebot), Gerard Chaillou(M. Kasselbach), Adele Crech(Clarisse enfant), Guillaume Huet(Arsene enfant), Nicky Naude(Theophraste Lupin), Aurelien Wiik(Jean Lupin), Sonia Dufeu(La soubrette)
Review: モーリス・ルブランが創造した、シャーロック・ホームズと並ぶ冒険活劇の古典的ヒーロー“怪盗ルパン”を「ルーヴルの怪人」(2001)等のジャン=ポール・サロメ監督が映画化した大作。このキャラクターを主人公にした映画は、1916年、1917年、1932年、1957年、1971年と過去に最低5回製作されており、フランスのTVシリーズもあった。今回のサロメ版のフランス映画は、豪華なセットや“インディ・ジョーンズ”ばりのアクションシーン等、娯楽映画としてはなかなかよく出来ているが、派手なシーンが連続する割には全体に独特のおっとりとしたフランス的なタッチなのが興味深い。アルセーヌ・ルパンを演じるロマン・デュリスの軽妙な雰囲気も良く、日本語吹替では故・山田康雄氏の声が合いそう(「ルパン三世」というより、若き日のジャン=ポール・ベルモンドのイメージ)。カリオストロ伯爵夫人役のクリスティン・スコット・トーマスや、悪役のパスカル・グレゴリー、ヒロインのクラリス役のエヴァ・グリーン等、脇のキャストも秀逸。ただ、ストーリーに色々と詰め込みすぎで、130分もあるのがいかにも長すぎる。もう少し簡潔にまとめるべきだっただろう。デビー・ワイズマンのドラマティックなオーケストラル・スコアも適切。
Rating: ★★★

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<2004年10月>

 

「スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー」 SKY CAPTAIN AND THE WORLD OF TOMORROW
Director/Writer: Kerry Conran
Music: Edward Shearmur
Cast: Gwyneth Paltrow(Polly Perkins), Jude Law(Joe 'Sky Captain' Sullivan), Giovanni Ribisi(Dex Dearborn), Michael Gambon(Editor Morris Paley), Bai Ling(Mysterious Woman, Omid Djalili(Kaji), Sir Laurence Olivier(Dr. Totenkopf), Angelina Jolie(Capt. Francesca 'Franky' Cook), Trevor Baxter(Dr. Walter Jennings), Julian Curry(Dr. Jorge Vargas), Peter Law(Dr. Kessler), Jon Rumney(German Scientist), Khan Bonfils(Creepy), Samta Gyatso(Scary), Louis Hilyer(Executive Officer), Mark Wells(Communications Engineer), James Cash(Uniformed Officer), Tenzin Bhagen(Kalacakra Priest), Thupten Tsondru(Dying Old Man), Matthew Grant(Crewman), Steve Morphew(Crewman), Nancy Crane(Receptionist)
Review: 独特の世界観を持ったちょっと不思議なアドベンチャー映画。セピア調を帯びたソフトフォーカス気味のレトロな映像も興味深い。監督・脚本のケリー・コンランはこの作品が長編映画デビューだが、自宅のガレージでPCを使って4年がかりで自主制作した6分間のデモ映像がプロデューサーの目にとまり、このチャンスを手にしたという。日本のアニメにも通ずるオタク的なコミックの世界を、人気スターと巨額の製作費を投じて映画化した大作という感じで、飽きずに最後まで見せるが、エモーショナル・レベルは非常に低いし、カタルシスもない。ジュード・ロウ扮するエースパイロット、グウィネス・パルトロウ扮する新聞記者、アンジェリーナ・ジョリー扮する女艦長等、コミックブック調の表層的なキャラクターばかりが登場し、全く深みがない。役者が演じている部分は全てブルースクリーンを背景に撮られたため、撮影はわずか26日間で終了したという(アンジェリーナ登場シーンの撮影はたったの3日)。イギリスの著名なシェイクスピア俳優で、「探偵・スルース」「マラソンマン」「ブラジルから来た少年」等の名演でも知られる故ローレンス・オリヴィエの過去のアーカイヴ映像をデジタル処理して、マッドサイエンティストとして登場させているところには監督のこだわりを感じる(私ならヴィンセント・プライスの映像を使うだろが・・)。「TAXiB」でセクシーな女ボスを演じていたバイ・リンが、セリフのない記号的な役を割り振られており、ちょっともったいない。エドワード・シャーマーの仰々しいオーケストラル・スコアが全編“Wall to Wall”という感じで鳴っているが、映像自体のエモーショナル・レベルが低いので、それをけたたましい音楽で補っているという印象がある。ジュード・ロウと、一時期彼と結婚していたサディ・フロストがプロデューサーとして名前を連ねている。
Rating: ★★★

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<2004年9月>

 

「笑の大学」 WARAI NO DAIGAKU
監督: 星 護
原作・脚本: 三谷幸喜
音楽: 本間勇輔
出演: 役所広司、稲垣吾郎、小松政夫、高橋昌也、他
Review: 昭和15年、警視庁保安課取調室を舞台に、劇団「笑の大学」の座付作家・椿 一(稲垣)と、台本の検閲を担当する検閲官・向坂睦夫(役所)の駆け引きを描いた、三谷幸喜原作の舞台劇の映画化(オリジナルは、1996年10月に青山円形劇場で初演された舞台で、西村雅彦が向坂、近藤芳正が椿を演じた)。戦時中の日本で「喜劇など上演する意味がない」と、上演禁止に持ち込むべく椿の書いた台本に敢えて無理難題を課していく向坂と、なんとか上演許可をもらおうと向坂の要求に応えて台本を手直ししていく椿が、やりとりを重ねていくうちに皮肉にも完璧なコメディを作り上げていく、という三谷のストーリーは、実にオリジナルで素晴らしいと思う。が、映画版はやはり舞台の時の新鮮さが失われ、全体にパワーダウンしている印象が否めない(市川 準が監督した「竜馬の妻とその夫と愛人」の時ほどの落胆はなかったが)。監督をTVドラマ「警部補・古畑任三郎」で三谷の脚本を演出した星 護が担当しており、ここでも全体に無難に仕上げてはいるが、演出的・映画的なひらめきはあまり感じさせない。監督本人も、(舞台版が傑作なので)そもそも映画化にはあまり乗り気ではなかったようだが、それでも敢えて映画化するのであれば、何らかの新しい要素を加える努力をすべきだと思う。「古畑任三郎」と同様、音楽がでしゃばりすぎで、うるさく感じるのも難点。特にラストは演出も音楽も陳腐なお涙頂戴に流されてしまっている。それでも121分の長さをあまり感じさせないのは元のストーリーが非常によく出来ているからだろう。クレジットの出し方がちょっと洒落ていて面白い。
Rating: ★★★

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「デビルマン」 DEVILMAN
監督: 那須博之
脚本: 那須真知子
原作: 永井 豪
音楽: 安川午朗
出演: 伊崎央登、伊崎右典、酒井彩名、渋谷飛鳥、冨永 愛、宇崎竜童、阿木耀子、染谷将太、ボブ・サップ、他
Review: (※ネタバレあり)
日本の漫画をベースに実写映画化された最近の邦画作品(「CASSHERN」「忍者ハットリくん・ザ・ムービー」「鉄人28号」等)の中では最も監督の作家性を感じさせる作品。単純なアクション・ヒーローものではなく、永井 豪の原作の“人類の終焉”的なダークな世界観がうまく表現されていると思う。後半にヒーローの不動 明がヒロイン牧村美樹の切断された生首を抱えて廃墟を歩いていくシーンがあるが、これなどハリウッドのメジャースタジオ製作のヒーローものではあり得ない描写だろう。本当に残酷なのはデーモンたちではなく、集団パニック状態に陥った人間たちである、という視点も印象的。東映の実写技術と東映アニメのアニメーション技術を融合した“T-Visual”なるVFX映像も迫力があるが、「ロード・オブ・ザ・リング」「ハリー・ポッター」等の洋画で最先端のCG映像をさんざん見せられている日本の観客は、もはやどんな技術にも驚かなくなっていると思う。きちんと出来ていて“当然”で、作りが少しでもチャチだと、その欠陥ばかりが目立ってしまう。むしろ、上記のようなユニークな描写や視点が見終わって印象に残るし、海外に輸出した際にも評価される点だろう。少し残念なのは、冨永 愛扮するシレーヌの登場シーンが非常に短く、もっとバトルアクションを披露してほしかったことと、本来親友である主役の2人(不動 明と飛鳥 了)の葛藤に今ひとつ説得力がなく、ラストのデビルマンとサタンの対決があまり盛り上がらないこと(ただ、この2人に扮した双子の伊崎兄弟はなかなかいい味を出しており、披露試写での関西弁まる出しの舞台挨拶も好感が持てた)。那須監督が製作に3年を費やした力作で、是非劇場で見てもらいたい作品。
Rating: ★★★1/2

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<2004年6月>

 

「ヴァン・ヘルシング」 VAN HELSING
Director/Writer: Stephen Sommers
Music: Alan Silvestri
Cast: Hugh Jackman(Van Helsing), Kate Beckinsale(Anna Valerious), Richard Roxburgh(Count Vladislaus Dracula), David Wenham(Carl), Shuler Hensley(Frankenstein's Monster), Elena Anaya(Aleera), Will Kemp(Velkan), Kevin J. O'Connor(Igor), Alun Armstrong(Cardinal Jinette), Silvia Colloca(Verona), Josie Maran(Marishka), Tom Fisher(Top Hat), Samuel West(Dr. Victor Frankenstein), Robbie Coltrane(Mr. Hyde), Stephen H. Fisher(Dr. Jekyll), Dana Moravkova(Barmaid), Zuzana Durdinova(Opera Singer), Jaroslav Vizner(Gendarme), Marek Vasut(Villager), Samantha Sommers(Vampire Child), Dorel Mois(Dracula's Ball Performer), Marianna Mois(Dracula's Ball Performer), Laurence Racine(Dracula's Ball Performer), Patrice Wojciechowski(Dracula's Ball Performer), Kacie Borrowman(Dwerger), Martin Klebba(Dwerger), Allison Queal(Dwerger)
Review: 「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」でユニヴァーサルの古典ホラー「ミイラ再生」をリメイクしたスティーブン・ソマーズが、ブラム・ストーカーの怪奇小説「吸血鬼ドラキュラ」に登場するヴァンパイア・ハンター、ヴァン・ヘルシングを主役に、ユニヴァーサルのホラー映画のモンスター(ドラキュラ伯爵、フランケンシュタインの怪物、狼男、ジキル博士とハイド氏、等)を集結させたホラー・アクションで、監督のこのジャンルに対する思い入れを感じる。多額の製作費を投入した大作ではあるが、中身はB級娯楽アクション的なスピリットに満ちており、個人的には楽しめた。単にヴァン・ヘルシングが上記モンスターを次々と倒していくという話ではなく、各々のモンスターの設定が互いに関連しあっているところに工夫がある。フランケンシュタインの怪物がオリジナル通りに善良なキャラクターとして描かれているところも良い。主役のヒュー・ジャックマンはダークサイドを秘めたヒーローを演じていい味を出しているが、ヒロインのケイト・ベッキンセールは相変わらず演技がぎこちない。ドラキュラ伯爵役のリチャード・ロックスバーグは、全然怖くないし、貴族的な品格を感じさせない(やはりクリストファー・リーは偉大である)。クライマックスのモンスターの闘いがCG然としているのもちょっと興醒め(これは「ハムナプトラ」シリーズも同様だったが)。アラン・シルヴェストリのパワフルなスコアも良い。
Rating: ★★★

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<2004年4月>

 

「キル・ビル」 KILL BILL Vol.1 / Vol.2
Director/Writer: Quentin Tarantino
Music: The RZA, Robert Rodriguez
Cast: = Vol. 1 =
Uma Thurman(The Bride/Black Mamba), Lucy Liu(O-Ren Ishii/Cottonmouth), Vivica A. Fox(Vernita Green/Copperhead), Daryl Hannah(Elle Driver/California Mountain Snake), David Carradine(Bill), Michael Madsen(Budd/Sidewinder), Julie Dreyfus(Sofie Fatale), Chiaki Kuriyama(Gogo Yubari), Sonny Chiba(Hattori Hanzo), Gordon Liu(Johnny Mo), Michael Parks(Earl McGraw), Michael Bowen(Buck), Jun Kunimura(Boss Tanaka), Kenji Oba(Bald Guy), Yuki Kazamatsuri(Proprietor), James Parks(Edgar McGraw), Sakichi Sato(Charlie Brown), Jonathan Loughran(Trucker), Yoshiyuki Morishita(Tokyo Business Man), Akaji Maro(Boss Ozawah), Goro Daimon(Boss Honda), Shun Sugata(Boss Benta), Zhang Jin Zhan(Boss Orgami)
= Vol. 2 =
Uma Thurman(Beatrix Kiddo/The Bride/Black Mamba), David Carradine(Bill/Snake Charmer), Michael Madsen(Budd/Sidewinder), Daryl Hannah(Elle Driver/California Mountain Snake), Gordon Liu(Pai Mei), Michael Parks(Esteban Vihaio), Perla Haney-Jardine(B.B.), Chris Nelson(Tommy Plympton), Bo Svenson(Reverend Harmony), Jeannie Epper(Mrs. Harmony), Claire Smithies(Clarita), Clark Middleton(Ernie), Laura Cayouette(Rocket), Larry Bishop(Larry Gomez), Sid Haig(Jay the Bartender), Reda Beebe(Lucky), Samuel L. Jackson(Rufus), Caitlin Keats(Janeen)
Review: タランティーノが映画オタクの本領を発揮してやりたい放題に監督し、それでいて興行的にも大ヒットさせた映画。そもそも作っているうちにあまりにも長くなってしまったので映画会社(ミラマックス)に2部に分けて公開させるということ自体がわがままの極致のように思えるが(普通の監督なら1回の上映に収まるようにカットされてしまうはず)、それだけ好き放題に作っても、きちんとヒットさせているのだから大したものである。作家性と商業性が見事に両立している珍しい例だろう。あまりにもオタクな内容なので、一般の観客は好き嫌いが分かれると思うが、個人的にはB級娯楽映画スピリット満載の展開が大いに楽しめた。ただ、純粋なアクション映画として見ると、カンフー・ファイトやスウォード・ファイトの切れ味が今ひとつ。名手ユエン・ウーピンが振付けているが、タランティーノのアクション演出が平凡なのと、役者の動きが大味なので、あまり迫力がない。Vol.1でProduction I.G.が受託したアニメ部分が一番Bloodyで迫力があったりする。ユマ・サーマンとルーシー・リューがけったいな日本語でやりとりする部分や、ルーシーがやくざの親分連中相手に啖呵をきるシーンで「ここから先は英語で話します」と断って、ジュリー・ドレイファスが通訳しはじめる部分など、日本人にとっては意図せぬ笑い(unintentional laugh)の部分が多い。ちょっと気になったのは、千葉真一が何度かセリフをトチっているのに(日本語のわからない)タランティーノがそれに気づかずに(?)そのまま使っていることで、トチったことを自己申告して撮り直しを要求しない千葉はUnprofessionalだと感じる。ラストのVol.2へのつなぎ方も上手い。一方、Vol.2の方は、相変わらずアクション・シーンの演出はさほど上手くないが、そもそもアクションにあまり重点を置いていないせいか、Vol.1よりタランティーノの個性が良く出ているように感じる。カンフーの修行シーンはもっと面白くできたように思う。デヴィッド・キャラディーンが渋いが、この役を演じるにはちょっと年を取りすぎでは?最後の方の回想シーンでの女殺し屋カレンとユマとの対決シーンが笑える。モリコーネのスパゲティ・ウエスタンの有名曲を使いまくっているのが、学生映画みたい。タランティーノの次回作は「荒鷲の要塞」や「特攻大作戦」のようなタッチの戦争映画らしいが、今から楽しみである。
Rating: ★★★

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<2004年3月>

 

「ゴッドセンド(原題)」 GODSEND
Director: Nick Hamm
Writer: Mark Bomback
Music: Brian Tyler
Cast: Greg Kinnear(Paul Duncan), Rebecca Romijn-Stamos(Jessie Duncan), Robert De Niro(Dr. Richard Wells), Cameron Bright(Adam Duncan), Jenny Levine(Sandra Shaw), Deborah Odell(Tanya), Janet Bailey(Cora), Marcia Bennett(Principal Hersch), Raoul Bhaneja(Samir Miklat), Devon Bostick(Zachary), Christopher Britton(Dr. Lieber), Andrew Chalmers(Student #2), Leslie Ann Coles(Patricia Foist), Elle Downs(Clara Sandler), Sava Drayton(Young Thug #2), Ann Holloway(Clerk), Tracey Hoyt(Delivery Nurse), Edie Inksetter(Footlocker Cashier), Merwin Mondesir(Maurice), Zoie Palmer(Susan Pierce), Jake Simons(Dan Sandler), Melanie Tonello(School Kid #5)
Review: 8歳の息子アダムをその誕生日に交通事故で失ったポール(グレッグ・キニアー)とジェシー(レベッカ・ローミン=ステイモス)夫婦は、その悲報を知って彼らにアプローチしてきた遺伝学の専門医ウェルズ(ロバート・デ・ニーロ)から、クローン技術によりアダムと瓜二つの子供を創造することを提案される・・。ここまでは医学サスペンス的な展開だが、実際にクローンの子供が誕生し、8歳まで成長した時点で、ストーリーは超自然ホラーの世界に入っていく。どこかで聞いたことがあるような話だが、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの常連監督だったニック・ハムの地に足が着いたサスペンス演出により、飽きさせずに最後まで見せきっている。ただ、ラストが中途半端で釈然としないのが最大の難点で、見終わった後の満足度が大幅に低下する(やはりラストは重要である)。レベッカは、これまでの彼女のキャリアで一番シリアスな“子を愛する母”の役を一生懸命熱演していて好感がもてる。デ・ニーロは相変わらず上手いが、ここではあまり共感できない損な役回り。ブライアン・タイラーのハイ・テンションなサスペンス音楽も効果的。
Rating: ★★1/2

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「ブルーベリー」 BLUEBERRY
Director: Jan Kounen
Writers: Matt Alexander, Gerard Brach, Jan Kounen
Based on a comic book by: Jean-Michel Charlier, Jean Giraud
Music: Jean-Jacques Hertz
Cast: Vincent Cassel(Mike S. Blueberry), Michael Madsen(Wallace Sebastian Blount), Juliette Lewis(Maria), Temuera Morrison(Runi), Nichole Hiltz(Lola), Colm Meaney(Jimmy McLure), Eddie Izzard(Baron Werner Amadeus von Luckner/Prosit), Djimon Hounsou(Woodhead), Tcheky Karyo(The Uncle), Dominique Bettenfeld(Scarecrow), Ernest Borgnine(Rolling Star), Karl Braun(Posse member Charlie), Vahina Giocante(Madeleine), Richard Jones(Escort), Jan Kounen(Billy), Francois Levantal(Pete), Geoffrey Lewis(Sullivan), William Lightning(Young Runi), Antonio Monroy(Julio), Hugh O'Conor(Young Mike S. Blueberry), Kateri Walker(Clara Von Luckner) Marc Fayolle(Marcel), Jean-Marie Lamour(Franck), Mireille Mosse(Marsel's Daughter)
Review: 「ドーベルマン」等のヤン・クーネンがフランスの人気コミック(バンド・デシネ)をベースに実写映画化したウエスタン大作(英語作品)。ヴァンサン・カッセル扮する主人公のシェリフ、マイケル・マドセン扮する宿敵の悪党、ジュリエット・ルイス扮する勝気なヒロインに、脇を固めるアーネスト・ボーグナイン、チェッキー・カリョ、ジェフリー・ルイス(ジュリエットの実の父親)といった曲者ベテラン俳優たちと、いかにも面白くなりそうな監督・キャストの布陣なのに、いつまでたっても一向に面白くならない。活劇に発展しそうな部分で、いきなりスーパーナチュラルな世界に突入し、抽象的なSFX映像を延々と見せられるのには正直まいった。この程度のCG映像では今どき誰も驚かないだろう。出てくる俳優たちも一様に精彩を欠き、特にジュリエット・ルイスはなんだかとてもくたびれている。映画のメインヴィジュアルやキャストから期待させられる“痛快アクション”的な内容からは程遠い出来で、大金をかけて作った自主映画みたいな作品。ここまで見る前の想像と実際の中身の落差が激しかった映画は最近では珍らしい。クーネン自身、もはやこの映画の製作に対する興味を失っていたが、契約上の義務として監督せざるを得なかったという。そんな風に厭々作った映画を見せられる観客の方は、たまったものではない。クーネンにはフランスの若手監督として期待していたので、非常に残念。「YAMAKASI ヤマカシ」の監督アリエル・ゼトゥンがプロデューサーの1人として参加している。
Rating: BOMB!

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<2004年2月>

 

「スイミング・プール」 SWIMMING POOL
Director: Francois Ozon
Writers: Francois Ozon, Emmanuelle Bernheim
Music: Philippe Rombi
Cast: Charlotte Rampling(Sarah Morton), Ludivine Sagnier(Julie), Charles Dance(John Bosload), Marc Fayolle(Marcel), Jean-Marie Lamour(Franck), Mireille Mosse(Marsel's Daughter)
Review: フランソワ・オゾンのミステリ趣味(『8人の女たち』の原作が「罠」で有名なロベール・トマだったのには驚いた)がよく出ているが、ミステリの要素は飽くまでストーリー上のスパイスで、基本的には女性心理を描いた映画だと思う。その意味で、シャーロット・ランプリングとリュディヴィーヌ・サニエという2人の主演女優のキャスティングは絶妙。正に彼女たちを前提に書き下ろされた脚本であり、出来合いの脚本に商業的な都合で当てはめられたキャスティングとは、役者の“成りきり”度が違う。ランプリング扮するミステリ作家が書いた小説「スイミング・プール」の内容を、観客の想像に委ねてしまうところも上手い(オゾン自身はこの小説の中身を正確に想定していたのだろうが)。映画の宣伝的には、オゾン著作によるこの「スイミング・プール」(脚本のノベライズではなく、劇中の小説そのもの)を出版するというのも面白いだろう。この映画を見た人の大半は小説を読んでみたいと思うに違いない。“英国の女流ミステリ作家”役のランプリングというキャスティングも、非常に説得力がある(“ミステリ作家=不機嫌な変人”という設定はあまりにも類型的で、必ずしも真実ではないと思うが・・)。ただ、映画の結末は観客を惑わせようというクリエーター側の意図が見て取れて、ちょっとあざとい印象がある。フィリップ・ロンビ作曲のスコアはごくオーソドックスな劇伴音楽だった。
Rating: ★★★

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「ディボース・ショウ」 INTOLERABLE CRUELTY
Directors: Joel Coen, Ethan Coen
Writers: Robert Ramsey, Matthew Stone, Ethan Coen, Joel Coen
Music: Carter Burwell
Cast: George Clooney(Miles Massey), Catherine Zeta-Jones(Marylin Rexroth), Geoffrey Rush(Donovan Donaly), Cedric the Entertainer(Gus Petch), Edward Herrmann(Rex Rexroth), Paul Adelstein(Wrigley), Richard Jenkins(Freddy Bender), Billy Bob Thornton(Howard D. Doyle), Julia Duffy(Sarah Sorkin), Jonathan Hadary(Heinz, the Baron Krauss von Espy), Tom Aldredge(Herb Myerson), Stacey Travis(Bonnie Donaly), Jack Kyle(Ollie Olerud), Irwin Keyes(Wheezy Joe), Judith Drake(Mrs. Gutman), Royce D. Applegate(Mr. Gutman), George Ives(Mr. Gutman's Lawyer), Booth Colman(Gutman Trial Judge), Kristin Dattilo(Rex's Young Woman), Bruce Campbell(Soap opera actor on TV)
Review: 敏腕の離婚裁判弁護士マイルズ・マッシー(ジョージ・クルーニー)と、金持ちと結婚しては離婚して巨万の富を相手からもぎとってくる美女マリリン(キャサリン=ゼタ・ジョーンズ)との駆け引きとロマンスを描くコメディ。コーエン兄弟が監督しているが、彼らの作品にしてはアイロニーや毒が全くない、実にゆるーいラブコメになっている。いつもと違う軽いタッチの映画に挑戦してみたかったのかもしれないが、残念ながら成功しているとは言えない。ジョークも笑えないし、題材的にも過去に見たことがあるような話で、あまりオリジナリティを感じさせない。とってつけたようなハッピーエンディングもいただけない。唯一の見所は悪女を演じているゼタ=ジョーンズのカリスマ的な魅力だろう。クルーニーも彼のために書かれたような役を楽しそうに演じているが、ゼタ=ジョーンズと共演しているシーンでは、彼女の魅力に圧倒されている印象がある。カメオ的に登場するジェフリー・ラッシュとビリー・ボブ・ソーントンの怪演も楽しい。音楽はコーエン兄弟作品の常連カーター・バーウェルだが、あまり印象に残らなかった。
Rating: ★★

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<2004年1月>

 

「ミスティック・リバー」 MYSTIC RIVER
Director: Clint Eastwood
Writers: Brian Helgeland
Based on a novel by: Dennis Lehane
Music: Clint Eastwood
Cast: Sean Penn(Jimmy Markham), Tim Robbins(Dave Boyle), Kevin Bacon(Sean Devine), Laurence Fishburne(Whitey Powers), Marcia Gay Harden(Celeste Boyle), Laura Linney(Annabeth Markham), Kevin Chapman(Val Savage), Tom Guiry(Brendan Harris), Emmy Rossum(Katie Markham), Spencer Treat Clark(Silent Ray Harris), Matty Blake(State Trooper), Andrew Blesser(Sibling), Douglass Bowen Flynn(Cop at Barricade), Celine du Tertre(Nadine Markham), Robert Wahlberg(Kevin Savage), Jillian Wheeler(Sara Markham), Cameron Bowen(Young Dave Boyle), Jason Kelly(Young Jimmy), Connor Paolo(Young Sean), Adam Nelson(Nick Savage), Eli Wallach(Liquor Store Owner)
Review: 2003年のカンヌ映画祭のコンペティションに出品され話題になっていたミステリ・ドラマ。ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケヴィン・ベーコン扮する幼馴染みの3人の男が、ある殺人事件をきっかけに25年ぶりに再会したことで、悲劇がはじまる・・。ミステリとしてはさほど凝ったストーリーではないが、イーストウッドのケレン味を排した重厚で淡々とした演出や、芸達者な俳優たちのソリッドな演技により深くドラマに引き込まれる。女性のキャラクターに存在感があるのも良い。イーストウッドの監督する映画は、常にダークでシニカルで、犯罪や暴力の要素を含んでいる(そうではないコメディやラブストーリーもあるが、あまり成功していない)。これは、彼が俳優として組んだセルジオ・レオーネとドン・シーゲルという2人の監督の影響が大きいと思う。イーストウッドはレオーネのスパゲッティ・ウエスタン3部作(「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」)でスターとなり、シーゲルの「ダーティハリー」でアンチ・ヒーロー的な個性を確立した。シーゲルとは「ダーティハリー」の他に「マンハッタン無宿」「真昼の死闘」「白い肌の異常な夜」「アルカトラズからの脱出」でも組んでおり、初監督作品の「恐怖のメロディ」にはシーゲルが役者として出演している。この「ミスティック・リバー」は、少年時代の関係が大人なって悲劇へと発展していく構成がレオーネの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」に似ているが、淡々とした演出のタッチや、性的変質者の描写等はシーゲルの影響が強いと思う。「続・夕陽のガンマン」でイーストウッドが共演したベテランのイーライ・ウォラックが酒屋の主人役でチラっと登場するのも、レオーネへのオマージュのように思えた。
Rating: ★★★1/2

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