1969年にイギリスで製作された作品で、1940年9月の英国上空でのイギリス空軍(RAF)とドイツ空軍(Luftwaffe)の一騎打ち、いわゆる“英国の戦い(バトル・オブ・ブリテン)”を描いた大作である。
製作のハリー・サルツマン、監督のガイ・ハミルトンはともに007シリーズで有名な人物。キャストはイギリスの映画・演劇人総出演で、マイケル・ケイン、ロバート・ショー、エドワード・フォックス、クリストファー・プラマー(この人はカナダ人)、ローレンス・オリヴィエ、ラルフ・リチャードソン、マイケル・レッドグレーヴ、トレヴァー・ハワード、ハリー・アンドリュース、イアン・マクシェーン、ナイジェル・パトリック、ケネス・モア、パトリック・ワイマーク、マイケル・ベイツ、バリ・フォスター、スザンナ・ヨーク、クルト・ユルゲンス(この人はドイツ人でドイツ軍人役)他、と非常に豪華。
RAFのスピットファイア戦闘機と、Luftwaffeのメッサーシュミット戦闘機の実機が多数登場し、リアルな空中戦シーンを再現する。ミニチュアやSFXを一切使用せず、実機の撮影に徹したオーセンティックな戦闘シーンは、航空ファンによる評価も高く、この空中戦シーンの映像だけでも非常に貴重な記録となっている。
この映画の音楽は、当初、出演者の一人であるローレンス・オリヴィエの推薦で、彼が過去に監督・主演したシェークスピア映画(「ヘンリィ五世」「ハムレット」「リチャード三世」)にスコアを書いたイギリスを代表するクラシック音楽作曲家、ウィリアム・ウォルトンがアサインされていた。 ウォルトンはこれ以前に「(未公開)スピットファイアー」(The First of the Few)というイギリス映画の音楽も書いているが、これは「空軍大戦略」で活躍するイギリスの名機スピットファイアの設計者であるR.J.ミッチェルの生涯を描いた伝記映画だった。
ウォルトンは私が個人的に最も好きな映画音楽作曲家の一人であり、この「スピットファイアー」の音楽(コンサート用に「Spitfire Prelude and Fugue」としてアレンジされ、頻繁に演奏されている名曲)や、映画音楽ではないが、「Crown Imperial」や「Orb and Sceptre」といった独特の優雅なマーチは、イギリスの生んだ最上質の音楽の1つだと思う。 これらの楽曲については、以下のCDが推薦できる。
「Walton:Symphony No.1、Crown Imperial、Orb and Sceptre」
アンドレ・プレヴィン指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
(米Telarc / CD-80125)「Walton:Spitfire Prelude & Fugue他」
サー・チャールズ・グルーヴス指揮ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
(英EMI / CDM7633692)
また、「空軍大戦略」のウォルトンのスコアをコンサート用に編曲した組曲では、以下の名演奏がある。
「Walton:The Battle of Britain Suite他」
カール・デイヴィス指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
(英EMI / CDC7479442)
ここでのウォルトンのスコアは映画全体に付けるには短かすぎると判断され、新たにベテラン作曲家のロン・グッドウィンが雇われて音楽を全て作曲し直した。 このグッドウィンも私が大好きなイギリス人作曲家である。 「素晴らしきヒコーキ野郎」「モンテカルロ・ラリー」といったコメディや、「633爆撃隊」「荒鷲の要塞」「クロスボー作戦」「ナバロンの嵐」といった戦争映画に豪快なスコアを書いた名手で、この「空軍大戦略」のメイン・タイトルに流れる「ドイツ空軍のマーチ(Ace High March)」はグッドウィンの最高傑作の1つである。
今回RYKOレーベルからリリースされたサントラCDには、かつてのLP盤のグッドウィンによるスコアを全て含むと共に、これまで未発表だったウォルトンによるオリジナルのスコア全9曲が完全な形で収録されており、極めて貴重なリリースとなっている。 ウォルトン作曲の荘厳かつ優雅な「Battle of Britain March」と、グッドウィンによる豪快な「ドイツ空軍マーチ」の対比が実に面白い。 全く同じ映画に2人の作曲家が書いたマーチがここまで違うものかと驚かされる。 どちらも名曲である。
(1999年6月)
本CD(米RYKO盤)は廃盤となっているが、2004年に米Varese Sarabandeレーベルより異なるジャケットデザインにより再リリースされている。
(2004年6月)
2004年8月に20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパンからリリースされた日本盤DVD「空軍大戦略
アルティメット・エディション」は、ウィリアム・ウォルトン作曲のオリジナル・スコア付の音声(5.1chサラウンド)が選択できる仕様となっている。
(2004年8月)
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