ウエスタン  C'ERA UNA VOLTA IL WEST (ONCE UPON A TIME IN THE WEST)

作曲・指揮: エンニオ・モリコーネ
Composed and Conducted by ENNIO MORRIONE

(伊RCA / 74321-66156-2)

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1968年製作。「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」等の世界的な大ヒットでイタリア製西部劇というジャンルを確立したセルジオ・レオーネ監督による一大オペラティック・ウエスタン。原案が「ラスト・エンペラー」等のベルナルド・ベルトルッチと「サスペリア」等のダリオ・アルジェントとセルジオ・レオーネの共作というところが凄い。これだけ強烈な個性が三つ集まってよく首尾一貫したストーリーになったものだと妙に感心してしまう。出演はチャールズ・ブロンソン、ヘンリー・フォンダ、クラウディア・カルディナーレ、ジェイソン・ロバーズ、ガブリエル・フェルゼッティ、ライオネル・スタンダー、キーナン・ウイン他。チャールズ・ブロンソンとヘンリー・フォンダが正義のガンマンと悪のガンマンを演じる。さて、どっちがどっちでしょう? なんと「アメリカの良心」ヘンリー・フォンダが冷酷な殺し屋役なのである。これが実にかっこいい。私は「怒りの葡萄」や「ミスタア・ロバーツ」の善良フォンダが大好きだが、この映画の黒ずくめの悪役フォンダも見事だと思う。

レオーネは「荒野の用心棒」を作った時に、当初フォンダを主役にキャストしたいと思っていたらしいが、いくらなんでもジョン・フォードの名作「荒野の決闘」でワイアット・アープを演じたハリウッドの大スターをイタリア製ウエスタンの主役に起用するのは無理だろうとあきらめて、若手のアメリカ人俳優でお茶を濁した。それが、当時TVの「ローハイド」で人気が出だした頃のクリント・イーストウッドだった。「ローハイド」で線の細い「やさ男」だったイーストウッドは、レオーネ監督の三部作(「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン])で、ゆったりとしたポンチョに無精ひげにシガー(イーストウッド自身はノン・スモーカー)といった「荒くれ者」的な風貌で登場し、その後に組んだドン・シーゲル監督の諸作品(「マンハッタン無宿」「荒野の死闘」「ダーティハリー」等)での「はみ出し者」的キャラクターで、大スターとしてのカリスマを確立した。彼がアカデミー監督賞を受賞した「許されざる者」では、エンド・クレジットに「セルジオとドンに捧げる」と、彼を男にしてくれた二人の恩人(その時点で二人とも故人)への謝意が表されている。

一方、フォンダは、親友のイーライ・ウォーラック(レオーネ監督の「続・夕陽のガンマン」に出演)に強く勧められて、この「ウエスタン」に出たらしいが、「飽くまで金のために出演した」と割り切っていながらも、その後レオーネのプロデュース(監督トニーノ・ヴァレリー)による「ミスター・ノーボディ」にベテラン・ガンマン役で再度出演していたりして、実は「ウェスタン」の悪役はまんざらでもなかったのかもしれない(フォンダは、それ以前にエドワード・ドミトリク監督の「ワーロック」でも、冷酷な保安官に扮している)。「ウエスタン」での悪役の為に持ち前のブルーの瞳に茶色のコンタクトレンズを付け、無精ひげをはやしてレオーネに会いにいったところ、レオーネは「私はフォンダの透き通るようなブルーの瞳がほしいんだ!」とイタリア語でわめきちらしたという。確かに、黒ずくめの衣装に銃身の長いコルト・シングルアクション、そしてブルーの瞳が実にかっこいい!

このレオーネ監督の「ウエスタン」は、冒頭の駅でのガンファイトからラストのブロンソン=フォンダの一騎打ちまで、長廻しとクロースアップとハイスピード撮影を駆使したレオーネ独特のオペラのような演出に酔う傑作である。冒頭、主人公の「ハーモニカの男」(ブロンソン)が駅に降り立つシーンでは、かつてのハリウッド西部劇の名脇役であるジャック・イーラムとウッディ・ストロードが、ブロンソンを迎え撃つ殺し屋役で登場する。ここでのブロンソンの登場シーン、その後の酒場でのジェイソン・ロバーズの登場シーンも、いかにもレオーネらしいもったいぶった演出で観るものを堪能させるが、何といっても映像と音楽に酔うのは、フォンダ扮する殺し屋フランクの登場シーンである。

大平原にぽつんと建った一軒家に慎ましく生活する一家を、物陰からライフルで次々と惨殺し、驚いて家から飛び出してきた幼い少年の前にゆっくりと歩みよるフォンダとその殺し屋一味。このフォンダ達を捉えたクレーン・ショットにエンニオ・モリコーネのハーモニカとコーラスとオーケストラによる非情なスコアがかぶさるシーンは、正に息を呑むような緊張感で、映像と音楽の完璧な融合を見せている。

レオーネ=モリコーネのコラボレーションは、この「ウエスタン」とイーストウッド主演の上記三部作の他に、ジェームズ・コバーン、ロッド・スタイガー主演の「夕陽のギャングたち」、ロバート・デ・ニーロ主演のギャング映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(レオーネの遺作)があるが、いずれも音楽はモリコーネのベスト・スコアに入る傑作ばかりである。個人的には、「夕陽のギャングたち」のメイン・テーマ、「続・夕陽のガンマン」の墓場のシーンの音楽(ゴールドのエクスタシー)、そして、「ウエスタン」のハーモニカの男のテーマが特に素晴らしいと思う。

この「ウエスタン」は、モリコーネ音楽の常連であるエッダ・デロルソのヴォーカルによる美しいメイン・テーマ、アレッサンドロ・アレッサンドローニの口笛による「シャイアン(ジェイソン・ロバーズ)のテーマ」、そしてフランコ・デ・ジェミニのハーモニカによる「ハーモニカの男のテーマ」等、モリコーネのウエスタン音楽の集大成的な仕上がりとなっているが、今回イタリアで発売されたアルバムは未発表曲を7曲含んでおり、モリコーネ・ファンとしては貴重なリリースだと思う。
(1999年7月)

Ennio Morricone

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