「レイズ・ザ・タイタニック」 RAISE THE TITANIC!

作曲:ジョン・バリー
Composed by JOHN BARRY

指揮:ニック・レイン
Conducted by NIC RAINE

演奏:プラハ市フィルハーモニー管弦楽団
Performed by the City of Prague Philharmonic Orchestra

(英Silva Screen/FILMCD 319)

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サントラ盤が存在しないジョン・バリーの旧作('80年製作映画)スコアを、完全な形で新たに録音し直したもの。このスコアはバリーのUnreleased Scoreの中でも人気があり、今回の新録音盤はファンにとっては待望のリリースといったところ。

映画の方は、冒険小説作家として有名なクライブ・カッスラーによる「ダーク・ピット」シリーズの代表作「タイタニックを引き揚げろ」を、アダム・ケネディとエリック・ヒューズが脚色したもので、「カサンドラ・クロス」等のイギリスの名プロデューサー、サー・リュー・グレイド(ロード・グレイド)等が製作し、ジェリー・ジェームスンが監督した作品。

ジェームスンはTV畑のベテランで、単発ものでは'66年にテキサスで実際に起きたライフル乱射事件を題材にした「パニック・イン・テキサスタワー」(The Deadly Tower / '75)が有名だが、シリーズものでも「警部マクロード」「ダラス」「600万ドルの男」「ジェシカおばさんの事件簿」等人気番組のエピソードを多数手がけている。ただ、劇場用映画についてはあまり実績がなく、メジャーなのはこの「レイズ・ザ・タイタニック」と「エアポート'77/バミューダからの脱出」(Airport'77)くらいである。

キャストは、主人公のダーク・ピット役がリチャード・ジョーダンで、その他にジェイソン・ロバーズ、アン・アーチャー、アレック・ギネス、デヴィッド・セルビー、J・D・キャノン他が出演。
米国の防衛システムの鍵となる特殊な鉱石が沈没したタイタニックの中に眠ることを突き止めた米国軍部が、タイタニックを引き揚げるというストーリーで、クライマックスの沈没船引き揚げシーン(SFXは「エイリアン2」「スターシップ・トゥルーパーズ」等のジョン・リチャードソン)が見せ場となっている。ただ、キャスティングが地味(特に主役のリチャード・ジョーダンがカリスマ性に欠ける)だったのと、平坦な脚本、監督の演出力不足のために結果としては凡庸な出来で、公開当時の批評も芳しくなく、興行的にも失敗した。このせいか、その後クライブ・カッスラーのダーク・ピットものは1本も映画化されていない。

ジョン・バリーの音楽は、今回はじめてCompleteな形で聴くことができたわけだが、アドヴェンチャーもののジャンルでは非常に完成度の高い傑作スコアであることを再認識した。

冒頭の「Prelude」は、ホルンの壮大な響きがいかにもバリーらしく、彼が「ブラック・ホール」に書いたスコアを少し想起させる。続く「Main Title」は、これまたバリー独特の重く引きずるようなタッチが印象的な音楽で、このフレーズは全編を通して様々なアレンジで何度も繰り返され、耳にこびりついて離れなくなる(バリーのスコアによく起こる現象)。全体を通してバリーの陽の部分と陰の部分が混在した深みのあるスコアになっており、冒険小説を題材にしていても、ハリウッドの若手作曲家が書くような単純なアクション・スコアになっていないところがさすがである。

指揮を担当しているニック・レインは、バリーやカール・デイヴィスのスコアのオーケストレーションを手がけており、Silva Screenレーベルから出ているいくつかのスコア盤の指揮もしているフィルムスコアのエキスパートで、ここでもバリーのタッチを的確に再現している。
プラハ市フィルハーモニー管弦楽団は、アルバムをリリースする際に演奏家に支払う手数料(いわゆるRe-use Fee)が、L.A.等のオーケストラより安いことで、この手の新録音の際には重宝されているオーケストラだが、既に数多くのフィルムスコアの新録音を手がけており、メジャーなオーケストラと比べても遜色のない立派な演奏を聴かせている。

最近Varese Sarabandeレーベルが、ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団の演奏による過去のフィルムスコアの新録音アルバムを多数リリースしているが、これらのスコアにはちゃんとしたサントラ盤や、優秀な新録音盤が既に存在しているものが多く、これを更に新たに録音し直す必要性が本当にあるのか疑問を感じてしまう(ただ、新譜がどんどんリリースされているところを見ると、ビジネスとしては成功しているのだろう)。今回のように映画が興行的に失敗したためにサントラがリリースされなかった優れたスコアを、完全な形で新たに録音し直したアルバムこそ最も意義があり、歓迎されるべきプロジェクトだと思う。
('99年8月)

John Barry

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