海の上のピアニスト LA LEGGENDA DEL PIANISTA SULL'OCEANO(THE LEGEND OF 1900)

作曲・指揮:エンニオ・モリコーネ
Composed and Conducted by ENNIO MORRICONE

演奏:アカデミア・ムジカーレ・イタリアーナ
Performed by Accademia Musicale Italiana

(伊Sony Classical / SK60790)

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「ニュー・シネマ・パラダイス」「みんな元気」「明日を夢見て」等のジュゼッペ・トルナトーレ監督によるドラマ。出演はティム・ロス、ブルート・テイラー・ヴァンス、メラニー・ティエリー、クラレンス・ウィリアムス三世、ビル・ナン、ピーター・ヴォーン他。原作はイタリアのベストセラー作家アレッサンドロ・バリッコによる「1900(ノーヴェチエント)」。

世紀の変わり目の1900年に、大西洋を往復する豪華客船ヴァージニアン号で、生まれたての赤ん坊がダンスホールのピアノの上にレモン箱に入れられて置き去りにされていた。赤ん坊は、発見した黒人機関士によって、生まれた年にちなみ「ナインティーン・ハンドレッド(1900)」と名づけられる。一度も船を下りることなく船底で育ったナインティーン・ハンドレッド(ティム・ロス)は、やがて楽譜を読まずに即興でピアノを演奏する才能に目覚める……。ストーリーは、船上で主人公と知り合い、親友となったトランペッターのマックス(ブルート・テイラー・ヴァンス)が、さびれた楽器店で老店主(ピーター・ヴォーン)に語る回想の形で展開する。

音楽は、「ニュー・シネマ・パラダイス」以来トルナトーレ監督と組んでいるエンニオ・モリコーネである。トルナトーレは、この映画をモリコーネ以外の作曲家と作ることなど考えられず、脚本を書く以前の段階からまずモリコーネに相談した。トルナトーレからこの映画の話を聞いたモリコーネは、すぐにバリッコの原作を買って読み、翌朝8時前に「打ち合わせたい」とトルナトーレに電話をしてきたという。その日の午後には、モリコーネは自分のピアノでこの映画のための音楽をトルナトーレに弾いて聴かせていた。

「私たちが最初に組んだのは「ニュー・シネマ・パラダイス」だった」と、トルナトーレは語る。「それ以来、私の映画音楽は全てモリコーネがやっている。最初から、彼は撮影が始まる前にいつも音楽を渡してくれる。少なくともメインテーマはね。これは私にとって非常に重要なことなんだ。私は映画の音楽をオマケの要素とは決して考えないからね。つまり映画が出来上がった後に創られるものとは考えない。脚本を書き、映画の準備をし、撮影をして編集をしてから初めて音楽家にそれを見せて公開の一ヶ月前に作曲してもらうなんてやり方は、私には魅力はないし一度もやりたいと思ったことはないね。それよりも、私は脚本を書いている過程で、"作曲"というクリエイティブな部分と関わりを持ちたい。(中略)音楽はセリフの表現や身振りに影響を与えるものがある。しかし、何よりもカメラの動きに影響を与えるんだ」

ストーリーや脚本の段階から音楽を作曲するやり方というと、フランソワ・トリュフォージョルジュ・ドルリューの監督=作曲家コンビを思い出すが、トルナトーレの場合も「ニュー・シネマ・パラダイス」で映写技師のアルフレードを演じたフィリップ・ノワレは、予めモリコーネの作曲したメインテーマを聴いた上で、あの名演を見せたという。監督と作曲家の理想的なコラボレーションの形だと思う(但し、これはハリウッドの映画製作のシステムではなかなか実現できない)。

この「海の上のピアニスト」の主人公であるナインティーン・ハンドレッドは、音楽の教育を全く受けていないにもかかわらず、目の前に現れる様々な人生を背負ってきた人物を見ながら、即興で音楽を作曲するピアニストであり、映画音楽作曲家のモリコーネの姿がこれにかぶさる。この映画の中で、トランペッターのマックスから「一体どこからそんな旋律を思い浮かぶんだ?」と聞かれたナインティーン・ハンドレッドが、ダンスホールに集まった金持ちの中のひとりを指し、「あの女性を見てごらん。これが彼女だ」と言ってその人物のテーマをピアノで弾いて聴かせる部分がある。まさに作曲家モリコーネが、監督のトルナトーレに映画の中のキャラクターのテーマをピアノで弾いて聴かせている情景を連想させるシーンである。

この映画には映像的にも音楽的にも非常に印象的なシーンがいくつかあるが、中でも音楽の美しさが極めて感動的なのは、ナインティーン・ハンドレッドがピアノの演奏をレコードに録音する際に、船室の窓越しに突然現われた少女(メラニー・ティエリー)に心を奪われ、自然と彼女のテーマを即興で弾きはじめるシーンである。これが映画のメインテーマにもなっている「Playing Love」という曲で、モリコーネらしい心に染み入るような非常に美しい音楽である(曲想自体は、この作品の少し以前に書いたエイドリアン・ライン監督の「ロリータ」の主題に似ている)。

このシーン以外にも、マックスとナインティーン・ハンドレッドが初めて知り合った嵐の夜に、船の揺れのためにホールの床をぐるぐると動き回るピアノに座って演奏するシーンや、主人公の噂を聞きつけた「ジャズの創始者」ジェリー・ロール・モートン(実在の人物。クラレンス・ウィリアムス三世が演じる)とのピアノ対決のシーン等、常に「音楽」が映画の重要な要素となっており、音楽家としてのモリコーネのこの映画に対する並外れた熱意がスコアからも聴き取れる。サントラ・アルバムにはピアノ曲が中心に収録されており、上記のピアノ対決のシーンで主人公が猛烈な勢いで弾く複雑な曲や、三等船室で貧しい船客に囲まれて弾くタランテラ等、どの曲も非常に独創的(ピアノ・ソロはジルダ・ブッタ)。エンド・クレジットに流れる「Lost Boys Calling」のヴォーカルはロジャー・ウォーターズ

映画自体は、トルナトーレの出世作である「ニュー・シネマ・パラダイス」ほどのドラマティックな華麗さはなく、全体的には少し地味な印象を受けるが、何といってもモリコーネの情感豊かな音楽が素晴らしい。この映画の感動の多くの部分は彼のスコアによるものであると言っても過言ではないと思う。まさに監督と作曲家の理想的なコラボレーションである。
(1999年10月)

Ennio Morricone

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