ジャンヌ・ダルク THE MESSENGER: THE STORY OF JOAN OF ARC

作曲・指揮:エリック・セラ
Composed and Conducted by ERIC SERRA

演奏:ロンドン・セッション・オーケストラ & メトロ・ヴォイシーズ
Performed by the London Session Orchestra & The Metro Voices

(米Sony Classical/SK 66537)

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「レオン」「フィフス・エレメント」リュック・ベッソン監督によるスペクタクル。主役のジャンヌ・ダルクにはベッソンの前作「フィフス・エレメント」でもヒロインを演じたミラ・ジョヴォヴィッチが扮する。共演はジョン・マルコヴィッチ、フェイ・ダナウェイ、ダスティン・ホフマン、パスカル・グレゴリー、ヴァンサン・カッセル、チェッキー・カリョ、リチャード・ライディングス、デズモンド・ハリントン、マチュー・カソヴィッツ他。脚本はベッソンと「薔薇の名前」等のアンドリュー・バーキンが執筆。撮影は「ニキータ」「レオン」「フィフス・エレメント」でもベッソンと組んでいるティエリー・アルボガストが担当。

イギリスとの百年戦争の渦中にあった15世紀初頭のフランス。ドンレミ村で農民の娘として生まれたジャンヌ・ダルクは、17歳で神の声を受けてシノン城の王太子シャルル(マルコヴィッチ)を訪れ、彼こそがフランスの正統な君主であるとの神の意志を伝える。オルレアンの敵の包囲を解くために軍隊を率いることをシャルルから許されたジャンヌは、鎧に身を包み軍旗をひるがえして前線に向かい、劣勢だったフランス軍兵士たちを鼓舞してイギリス軍を撃退する。彼女がもたらした勝利は打ちひしがれていたフランス国民に希望の光を当てたが・・・。

映画の前半、少女のジャンヌが花畑で天上の声を聞き、不思議な幻影を見るシーンや、17歳になったジャンヌがオルレアンでフランス軍を率いてイギリス軍と激しい肉弾戦を繰り広げるシーンでは、いかにもベッソンらしいハイテンションな演出を展開している。特に戦闘シーンで、城壁を登ろうとしたジャンヌが梯子の途中で敵の矢を胸に受け、そのまま25メートル下の味方の兵士たちに向けて落下するシーンは、ワンショットのハイスピード撮影でジョヴォヴィッチがスタンドインなしで演じており、非常に鮮烈な映像となっている。全編を通してCGやマットペインティング等の「細工」をほとんど使わず、セット、小道具、衣装等全て忠実に再現された実物で撮影するというこだわりがこの監督らしい。オルレアンの解放から、ランスでのシャルル7世の戴冠式に至るジャンヌの活躍を描いた前半は、畳み掛けるようなタッチで一気に見せる。しかし、ここでベッソンはこの実在のヒロインの活躍に疑問を投げかける。彼のジャンヌに対する考え方はこうだ。

「ジャンヌが善良なキリスト教徒になりたかったのなら、善人になりたかったのなら、故国を解放しようという動機がいくら正しくても、虐殺に加わるのは間違っていた。汝、殺すなかれ、これは十戒に入っている。人を殺すのに正当な理由などない。自分のため、家族のため、子供のために戦うことはできるが、神のために戦うなんて。神の御名のもとに殺すことはできない。それは間違っている」

ジャンヌは保身を図るシャルル王とその重臣たちに売られ、イギリス軍と組んでいたブルゴーニュ派に囚われてしまう。異端審問にかけられることになったジャンヌは、法廷に何度も連れ出され延々と尋問を受ける。ここから映画は一転して重苦しいタッチとなるが、冗長になりがちな展開にアクセントを加えているのは、牢獄に囚われたジャンヌの前に現れる彼女の「良心」の象徴を演じるダスティン・ホフマンの存在である。

大作での初主役であるミラ・ジョヴォヴィッチは、執拗なクローズアップにも耐える表情の豊かさを見せ、「ニキータ」のアンヌ・パリローや「レオン」のナタリー・ポートマンに通ずるベッソン監督の強かなヒロイン像を好演している。脇を固める共演者も、上述のダスティン・ホフマンをはじめ、気弱なシャルル7世役のジョン・マルコヴィッチや、シャルルの義母ヨランド・ダラゴン役のフェイ・ダナウェイ、オルレアンでのフランス軍を率いるデュノワ伯役のチェッキー・カリョ、ジル・ド・レ男爵役のヴァンサン・カッセル等、個性的でカラフルなキャラクターが揃っている。映画は2時間40分近い長編だが、ベッソン監督のImaginativeな演出とキャストの魅力によって全く退屈することはない。

 

音楽は、ベッソン監督作品の常連エリック・セラで、ここでは大編成オーケストラと合唱団を使った大掛かりなスコアを書いている。

この「ジャンヌ・ダルク」のスコアは、シリアスなドラマティック・アンダースコアとしての映画音楽の支持者か否かを見極める格好のリトマス・テストだと思う。スコアの構成要素としては、大編成オーケストラに合唱にシンセサイザーと、この手のエピックスコアの常套手段を全て取り入れている。また、劇中の戦闘シーン(The Tourelles)や、ジャンヌの栄光がピークに達する戴冠式のシーン(The Miracle of Orleans)等では音楽は効果的に鳴っており、さすがにベッソンとの永年のコンビによる息の合ったところを見せている。しかし、映画から離れてアルバムとして単独で聴くと、最も激しい戦闘シーンのスコアもなぜか大掛かりなサウンドが虚ろに響くだけで、音楽自体に情熱や魂がこもっていない。同じような題材のスペクタクル史劇にジェリー・ゴールドスミスやジョン・スコットといったドラマティック・アンダースコアのエキスパートが書くスコアとは、根本的に映画音楽としてのエモーショナルなパワーが違う。

スコアの前半で、ジャンヌが神のお告げを聞き、シャルルのもとに呼び寄せられ、真の「Messenger of God」か否かを見極められる部分は、映像自体にあまり激しい動きがないためか、音楽も全体的にぼやっとした印象で、聴いていると極めて冗長に感じる。オルレアンでの勝利の後は、敵に囚われたジャンヌが異端者として裁判にかけられるシーンとなり、ここでも音楽はぼやっとした無機質な感じになる。ラストでジャンヌが火刑に処せられるシーンで音楽はオーケストラと合唱により激しく盛り上がるが(Angelus in medio ignis)、これはセラのオリジナルというより、この手の映画に実に安易に使われることの多いカルル・オルフ作曲の「カルミナ・ブラーナ」そのままの曲になっている。

「レオン」でのアラビックなタッチのスコアが極めて効果的だったセラだが、基本的にシンセサイザーとオーケストラの組合わせによるムード作りが主体の作曲家で、ドラマの中のエモーションを的確にサポートする劇伴音楽はあまり得意としていない(特にベッソンから離れて書いた007シリーズの「ゴールデンアイ」の音楽はほとんど印象に残らない退屈なスコアだった)。この「ジャンヌ・ダルク」の音楽は、これまでのベッソン=セラのコラボレーションの中でも最も大掛かりなスコアで、表面的な響きはそれらしいが、残念ながら「映画音楽」にはなりきっていないと思う。
('99年12月)

Eric Serra

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