アンナと王様
ANNA AND THE KING 作曲・指揮:ジョージ・フェントン (米LaFace Records / 73008-26075-2) |
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1860年代に、シャム(タイ)の国王モンクットから皇太子の家庭教師として招かれたイギリス人女性アンナ・レオノーウェンズの手記に基づく実話の映画化。この題材は、過去に「アンナとシャム王」(1946)、そしてリチャード・ロジャース=オスカー・ハマーシュタイン二世による有名なミュージカル「王様と私」(1956)として2度映画化されている。
今回の作品はレオノーウェンズの手記を忠実に映画化したストレートなドラマで、監督はアンディ・テナント。出演はジョディ・フォスター、チョウ・ユンファ、バイ・リン、トム・フェントン、ジェフリー・パルマー、ランドール・デュック・キム、サイド・アルウィ、カイ・シウ・リム、メリッサ・キャンベル他。脚本はスティーヴ・ミーアソンとピーター・クライクスが担当。撮影はカレブ・デッシャネル。23人の妻と42人の妾を持つモンクット国王(ユンファ)と、気が強く聡明な家庭教師のアンナが、互いの文化の違いから対立しながらも、本音をぶつけ合ううちに次第に絆を深めていく様を描く。
音楽は、テナント監督の前作「エバー・アフター」(1998)でも組んだイギリスのベテラン、ジョージ・フェントンが担当しているが、これは最近の彼の作品中で最もスケールの大きいロマンティックなタッチのスコアである。映画の舞台が東南アジアなので、それにふさわしい楽器を使用したエスニック・フレーバーも加えられているが、全体のトーンは飽くまで正統派のドラマティック・スコアであり、ベテランらしい風格のあるシンフォニーを展開している。特に、メイン・テーマの「Arrival at the Palace」や、後半の「Anna Returns」、ラストの「I Have Danced with a King」でのエモーショナルなオーケストラの盛り上がりは、純粋に映画音楽的な響きを持っている。また、「Anniversary Polka」でのポルカや、「I Am King, I Shall Lead」でのワルツ等、優雅なタッチのダンス音楽や、「The Bridge」等でのサスペンス調のスコアも手堅い。冒頭に収録された主題歌「How Can I Not Love You」の作曲・作詞もフェントンで、ジョイ・エンリケが歌っている。
フェントンは、ここ数年、「娼婦ベロニカ」(1998)「私の愛情の対象」(1998)「ユー・ガット・メール」(1998)「マイ・ネーム・イズ・ジョー」(1998)「エバー・アフター」(1998)「ラブ・アンド・ウォー」(1996)「ヘブンズ・プリズナー」(1996)「ジキル&ハイド」(1996)「クローンズ」(1996)
「クルーシブル」(1996)「カルラの歌」(1996)「大地と自由」(1995)「英国万歳!」(1994)「永遠の愛に生きて」(1993)等、ラブストーリーを中心とした作品を多数手がけているが、それ以前の彼の作風と比べると小じんまりとした地味なスコアが多く、何となく物足りない印象があった。それでも、「永遠の愛に生きて」「ラブ・アンド・ウォー」「娼婦ベロニカ」等では大きめのオーケストラによるドラマティック・スコアを書いており、彼のファンとしては嬉しかったが、今回の「アンナと王様」は更にスケールアップした情感豊かなシンフォニック・スコアで、これまでの物足りなさに対する不満を解消させる傑作となっている。
(2000年2月)
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