(未公開)シェークスピア連続殺人!! 血と復讐の舞台 THEATRE OF BLOOD

作曲・指揮:マイケル・J・ルイス
Composed and Conducted by MICHAEL J. LEWIS

(Promotional)


1973年製作のイギリス映画(日本では劇場未公開でTV放映済)。監督は「ブラニガン」(1975)「スカイ・ライダーズ」(1976)「(未公開/TV)シャーロック・ホームズ/バスカヴィル家の犬」(1983)等のダグラス・ヒコックス。脚本はアンソニー・グレヴィル=ベル。撮影はウォルフガング・サシツキー。出演はヴィンセント・プライス、ダイアナ・リグ、ロバート・モーレイ、イアン・ヘンドリー、ハリー・アンドリュース、 コラール・ブラウン、ロバート・クート、マイケル・ホーダーン、ジャック・ホーキンス、ダイアナ・ドース、デニス・プライス、マイロ・オシア、ルネ・アシャーソン、マデリン・スミス他。「虐殺のカーテンコール」の邦題で劇場公開される計画があったという。ロジャー・コーマン監督によるエドガー・アラン・ポー原作の映画化シリーズ等で知られるホラー映画の名優ヴィンセント・プライスが、シェークスピア俳優を演じた殺人ミステリで、一部批評家からは彼のベスト作と考えられている。映画のタッチはシリアスなのだが、ストーリーは壮大なジョークになっていて、演出、演技、音楽とも、エンターテインメントとしては一級の出来である。プライス自身もお気に入りの自演映画の1つだったようで、あるインタビューで次のように語っている。

「私はこの映画の中で、合計8つのシェークスピア劇の役柄を演じたが、これはアメリカ人の俳優にとっては、その生涯においてめったにできることではない。この映画は私が個人的に最も気に入っている出演作の1つだが、その理由は沢山あって、1つには物語の設定がとんでもなく可笑しいことなんだ。私が演じたシェークスピア俳優は、自分こそが批評家賞を受賞するにふさわしいと思っていたのに、批評家たちはその賞をマーロン・ブランドみたいにもごもごしゃべるような役者にあげてしまう。で、私はその批評家全員を殺すことにするが、その殺人は全てシェークスピア劇の通りに行われるんだ。この批評家たちを演じたキャストが実に際立っていて、彼らは皆イギリスの著名な俳優ばかりだった。ジャック・ホーキンス、ロバート・モーレイ、アーサー・ロウ(彼は偉大なコメディアンだ)、それにイアン・ヘンドリーといった人々だ。(中略)とても素晴らしい経験だったが、少し戸惑う点もあった。というのも、彼らは皆シェークスピア劇を一つ残らず舞台で演じたことがあるベテランだったからで、例えばハリー・アンドリュースは、おそらくシェークスピア劇では最も偉大な助演俳優だ。私は彼がジョン・ギールガッドの「ハムレット」でラーテス役を演じた遠い昔からよく知っている」

ここでプライスが語っている通り、この映画の共演者は実に豪華で、プライスの娘役に「おしゃれ(秘)探偵」や「女王陛下の007」のダイアナ・リグ(彼女はプライスの後継者として、アメリカのPBSで放映されていた「Mystery!」というTVシリーズのホストを担当した)、プライスに命を狙われる批評家たちにイアン・ヘンドリー、ハリー・アンドリュース、コラール・ブラウン(この映画での共演をきっかけに実生活でプライスの妻となった)、ロバート・クート、ジャック・ホーキンス、マイケル・ホーダーン、アーサー・ロウ、ロバート・モーレイといったイギリスのベテラン演劇俳優たち、事件を捜査するブート警部役にマイロ・オシアといった具合に、脇にいたるまでベテラン俳優で固めてある。

ストーリーは、プライスのコメントの通り、彼が演じるベテランのシェークスピア俳優エドワード・リオンハルトが、愛娘のエドウィナ(リグ)の助けを得て、彼を侮辱し自殺未遂に追い込んだ批評家たちを一人ずつ殺して行くというもので、その殺人はリオンハルトが最後の出演シーズンに演じたシェークスピア劇のそれぞれに登場する場面を引用して実行される。ある者はナイフでずたずたに刺され、ある者は矢で胸を射られて馬に引きずられ、ある者は巨大なワイン樽の中に落とし込められ、ある者は頭に高圧電流を流され焼き殺される、といったように、殺人の方法は極めて残虐なのだが、それぞれの場面でプライスがシェークスピア劇のセリフを引用しながら、コミカルなタッチで演じているので、それほど陰惨な印象は受けない。ラストは、エドウィナを殺されてしまったリオンハルトが、愛娘の遺体を抱きかかえて燃えさかる建物の屋上に上り、「リア王」のセリフとともに壮絶な最後をとげるが、ここでは悪役のはずのリオンハルトに観る者が完全に感情移入しているので、プライスの悲痛な演技は極めて感動的である。因みに、この映画を日本でTV放映した際には、クリストファー・リーやピーター・クッシング等ホラー系の吹替えで有名な千葉耕市氏がプライス役で、劇中に多数登場するシェークスピア劇のセリフ(「生きるか、死ぬか、それが疑問だ……」等)を渋いタッチで見事に演じていた。

この映画にシリアスで悲劇的なタッチを更に加えているのは、マイケル・J・ルイスのクラシカルな音楽である。彼はこの映画を単なるホラーやミステリではなく、偉大な舞台俳優の悲劇としてとらえ、極めてドラマティックなスコアを付けている。シェークスピア劇の舞台の場面を背景にしたセピア調のメインタイトルに流れる、切なく美しい「Main Title」や、リオンハルトが舞台でセリフを朗読するシーンの格調高い音楽「Friends, Romans, Coutrymen」、疾走する馬に死体が引きずられて行くシーンでの活劇調の音楽「The Trojan Trail」、リオンハルトとヘンドリー扮する批評家が激しいフェンシングの闘いを繰り広げるシーンでのスワッシュバックリング調の「Alive in Triumph」〜「Fugato」、美しい「Edwina's Theme」、クライマックスのアクション音楽「Come Fire, Consume This Petty World」、そして感動的なエンドタイトル「He Did Know How to Make an Exit」と、非常にエモーショナルで風格のあるドラマティック・スコアを展開している。いかにもルイスらしい上質な映画音楽。このCDは例によって作曲家のPromotional盤で、黒地に白と赤のレタリングで題名と曲名を記載しただけのそっけないジャケット。
(2000年2月)

= 2010年6月追記 =

米La-La Landレーベルより下記内容の正規盤がリリースされている。1200枚限定プレス。

THEATER OF BLOOD
Composed and Conducted by MICHAEL J. LEWIS
(米La-La Land / LLLCD 1136)

★TOWER.JPで購入

1. Main Theme (2:42)
2. Ides of March (3:28)
3. Oh Pardon Me, Thou Bleeding Piece of Earth (0:50)
4. Friends, Romans, Countrymen / The Dragon Wing of Night / The Trojan Trail (4:54)
5. Master of the Killing Phrase / Fear No More the Heat of the Sun (1:59)
6. Cymbeline (3:47)
7. Sexy Lips & Swinging Hips / A Pound of Flesh / To Be or Not To Be / Now Is the Winter of Our Discontent (5:58)
8. Here Clarence Comes / Drown in a Butt of Wine (2:26)
9. Partita of Blood / Alive in Triumph (4:45)
10. Fugato (1:30)
11. I'm So Glad You've Come (3:18)
12. Flame with Ash Highlights (3:13)
13. Edwina's Theme (2:23)
14. Where Are My Doggy Woggies? / Come Fire, Consume This Petty World (9:12)
15. He Did Know How to Make an Exit (2:12)

Michael J. Lewis

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