弾丸を噛め BITE THE BULLET
作曲・指揮:アレックス・ノース
Composed and Conducted by ALEX NORTH
(ベルギー Prometheus / PCR 504)
「暴力教室」(1955)「エルマー・ガントリー/魅せられた男」(1960)「プロフェッショナル」(1966)「冷血」(1967)「バンクジャック」(1971)「ミスター・グッドバーを探して」(1977)等、リアリスティックで骨太な演出で知られる名匠リチャード・ブルックスが、製作・監督・脚本を手がけた1975年製作の西部劇。出演はジーン・ハックマン、キャンディス・バーゲン、ジェームズ・コバーン、ベン・ジョンソン、ジャン=マイケル・ヴィンセント、サリー・カークランド、イアン・バネン、ロバート・ドナー、ポール・ステュワート、ジーン・ウィルス、マリオ・アルティーガ、ダブニー・コールマン、ロバート・F・ホイ他。撮影はハリー・ストラドリング, Jr.が担当。
20世紀初頭のアメリカ西部を舞台に、賞金目当てで600マイル西部横断ホースレースに参加した様々なキャラクター(ハックマン、コバーン、バーゲン等)の葛藤を豪快に描くアドヴェンチャー映画。リチャード・ブルックス監督というと、リー・マーヴィン、ロバート・ライアン、バート・ランカスター、ウッディ・ストロードといった個性派俳優が、様々な分野のプロに扮した異色西部劇「プロフェッショナル」(音楽はモーリス・ジャール)や、ドイツの銀行を舞台に、銀行員(ウォーレン・ベイティ)による大金強奪をスリリングに描いた「バンクジャック」(音楽はクィンシー・ジョーンズ)が第一級のエンターテインメントとして印象に残っているが、この「弾丸を噛め」もこれらと並ぶ力強い傑作。過酷なレースを続けるうちにライバルのハックマンとコバーンとの間に固い友情が生まれるエンディングが特に良い。原題名の「Bite the Bullet」は、激しい痛みに耐えるために銃の弾丸を噛んで踏ん張ることを指している。
ベテランのアレックス・ノースによる音楽は、オーソドックスな西部劇調に、メキシカン・フレーバーを少し加えた豪快なアドヴェンチャー・スコア。明るく軽快なタッチの「Overture」や「The Race」は、様々な短いフレーズの素早い積み重ねによる複雑な構成がいかにもノースらしい。サスペンス調の「Badlands」「Bite the Bullet」「The Winner」、よりコミカルなタッチの「Fun Rides」「Carbo & Luke」等、幾つかのバリエーションによるアンダースコアが楽しめる。アルバムの最後にメキシコ民謡(一部ノース作曲のオリジナルを含む)のソース音楽5曲と、マーチの既製曲4曲(内、1曲はノース作曲)がボーナストラック的に収録されている。このノースのスコアは、アルフレッド・ニューマンやエルマー・バーンステインの書く古典的な西部劇音楽とは少し異なる独特の作風だが、後輩のジェリー・ゴールドスミスやジョン・ウィリアムスのウェスタン・スコアには多大な影響を与えていることがわかる。アレックス・ノースは、このスコアで1975年度アカデミー賞の作曲賞にノミネートされた。
ところで、このスコアのサントラ盤は、かつてPooというBootlegのレーベルからLPがリリースされていたが、このレーベルはBootlegにしてはやけに立派なジャケットで、裏面のライナーノーツは何故か無関係な映画の日本語による解説が印刷されていたりしておかしかった(おそらく日本からの輸入盤に見せかけて海賊盤であることを誤魔化そうとしたのだろう)。このレーベルからは「弾丸を噛め」以外にも、ジェリー・ゴールドスミスの「軍用列車
Breakheart Pass」、エンニオ・モリコーネの「要塞 Hornet's
Nest」「帰って来たガンマン The Hills Run Red」、ジョン・バリーの「美しき冒険旅行
Walkabout」といったBootlegアルバムがリリースされていたが、いずれも(当然ながら)音質の悪いものばかりだった。今回ベルギーのLuc
Van de Ven氏が主宰するPrometheusレーベルからリリースされたこの正規盤サントラCDは、かつてのBootleg
LPより遥かに音質が良く、収録時間も約63分、曲数も18曲(+ソース音楽5曲、マーチ組曲4曲)と増えて、ノースの傑作スコアの全貌が堪能できる好アルバムとなっている(2500枚の限定プレス)。
(2000年2月)
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