アンナとシャム王 ANNA AND THE KING OF SIAM

作曲・指揮:バーナード・ハーマン
Composed and Conducted by BERNARD HERRMANN

(米Varese Sarabande / 302 066 091 2)
「Bernard Herrmann at Fox Vol.3」

cover
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ジョディ・フォスター主演の「アンナと王様」(1999)と同じ題材であるが、こちらは20世紀フォックスの大プロデューサー、ダリル・F・ザナックが1946年に製作した大作で、「人間の絆」「ゼンダ城の虜」等のジョン・クロムウェルが監督し、アイリーン・ダンレックス・ハリソン、リンダ・ダーネル、リー・J・コッブ、ゲイル・ソンダーガード、ミカイル・ラザムニー、デニス・ホーエィ、ティト・レナルド、リチャード・ライオン他が出演した。

19世紀にシャム(タイ)に訪れ、国王の67人の皇太子の家庭教師を務めた実在のイギリス人女性アンナ・レオノーウェンズ(この映画では名前がアンナ・L・オゥエンズになっている)を描いたドラマだが、レオノーウェンズ自身による2冊の自伝「The English Governess at the Siamese Court」(1870)「The Romance of the Harem」(1872)を、アメリカ人の作家マーガレット・ランドンが1冊に集約して1944年に出版した「Anna and the King of Siam」がベースになっており、この原作を基にタルボット・ジェニングズとサリー・ベンソンが脚本を執筆した(ランドンによるとレオノーウェンズの自伝は少なくとも1/4が作り話だという)。レックス・ハリソンは「マイ・フェア・レディ」等で有名なイギリス人俳優だが、これは彼のアメリカ映画初出演作で、東洋風のメイクアップによりシャム国王を演じている。

音楽はバーナード・ハーマンだが、フォックスの音楽監督アルフレッド・ニューマンからこの映画のスコアを依頼された時点で、彼は「市民ケーン」「偉大なるアンバーソン家の人々」「ジェーン・エア」等5本の映画音楽しか作曲していなかったという。従ってかなり初期の作品ということになるが、冒頭の「Prelude」から明らかにハーマン作曲と判る強烈な個性を感じさせるのはさすがである。この「Prelude」でフル・オーケストラにより演奏される「王のテーマ」が、全体を通して何度も登場するが、東洋の舞台設定を独特のオーケストレーション(特にミュート・トランペット、フルート、木琴、チャイム、ゴング等の楽器)によって表現したエスニック・フレーバーが実に巧く、西洋の作曲家が東洋を表現する時にありがちな(東洋人にとって)奇妙な感覚は全くない。むしろ、「シンドバッド7回目の航海」「アルゴ探検隊の大冒険」といったファンタジー映画にハーマンが作曲した華麗でダイナミックでワクワクさせるスコアに極めて印象が近い。全部で47曲もの短いパッセージの積み重ねであるが、全体を通して聴くとストーリーの流れに従って自然に繋がっており、ブツ切れの感覚はあまりない。最後に歌曲等のボーナス・トラックが4曲収録されている。50年以上も前の録音とはとても思えない明瞭なステレオ音質(一部モノラル)で、このCDのプロデューサーであるニック・レッドマンのこだわりを感じさせる好アルバムであり、ハーマンのフィルモグラフィーの中でも重要な作品の1つである。

この映画は、1946年度アカデミー賞の撮影賞と美術賞を受賞しているが、同時に脚本賞、助演女優賞(ソンダーガード)、作曲賞にもノミネートされている。ハーマンはハリウッドを代表する偉大な作曲家であり、1941年に「市民ケーン」「悪魔の金」でアカデミー賞の劇映画音楽賞にノミネートされ後者で既に受賞しているが、この1946年の「アンナとシャム王」でのノミネートから、1976年の「愛のメモリー」「タクシー・ドライバー」でのノミネートまでの30年間は、アカデミー賞から無視され続けた。この間に彼が手がけた代表作が、同じくアカデミー賞とは無縁だったアルフレッド・ヒッチコック監督とのコラボレーションや、そもそも作品賞受賞の対象とはならないようなレイ・ハリーハウゼン特撮によるSFファンタジー映画の一連の作品だったことを考えれば、無理もないだろう。
(2000年3月)

Bernard Herrmann

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