カール・デイヴィス映画音楽集
CARL DAVIS: "THE WORLD AT WAR", "PRIDE AND PREJUDICE" and Other Great Themes

作曲・指揮:カール・デイヴィス
Composed and Conducted by CARL DAVIS

演奏:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
Performed by the Royal Philharmonic Orchestra

(米Platinum / 2877)

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<収録曲>

1. (未公開/TV)秘録:第二次世界大戦 The World at War
2. (未公開/TV)愛と叛乱の大地 The Far Pavilions
3. (未公開/TV)高慢と偏見 Pride and Prejudice
4. フランス軍中尉の女 The French Lieutenant's Woman - Concert Suite
5. チャンピオンズ Champions
6. (未公開)Anne Frank Remembered
7. (未公開/TV)Destination America - Variations on a Polish Beggers Theme
8. (TV)ハリウッド Hollywood
9. ナポレオン Napoleon - Eagle of Destiny
10. スキャンダル Scandal
11. 肉体と悪魔 Flesh and the Devil - Waltz and Love Scene

 

これは、1996年にカール・デイヴィスがイギリスの名門ロイヤル・フィルを指揮して自作のフィルムスコアを録音したコンピレーションで、サントラ盤ではないがデイヴィスのこれまでの主要な作品を網羅している好アルバムである。特に、「Anne Frank Remembered」「Destination America」といったアルバム未収録曲や、「The World at War」「愛と叛乱の大地」「チャンピオンズ」「ハリウッド」といった、現時点(2000年5月)でCD化されていない音楽を含んでおり、ファンにとっては貴重なリリースだと思う。ロイヤル・フィルの端麗な演奏も見事である。

デイヴィスの書くフィルムスコアは、どれも非常にクラシック音楽的な響きを持っているが、これは彼が実際にクラシックの既製曲をアレンジしてスコアの中に組込んだりしているからであり、かといって没個性的な音楽になるかというと全く逆で、極めてエモーショナルなパワーを持った真に映画音楽的な興奮を感じさせるところが凄い。このコンピレーションにも収録された「チャンピオンズ」や、ケン・ラッセル監督の「レインボウ」等にデイヴィスが作曲したスコアは、重厚で華麗なオーケストレーションにより、これでもかとばかりにドラマティックな盛り上がりを見せる。この自作自演アルバムには、こういったデイヴィスのエモーショナルなフィルムスコアの魅力が凝縮されている。

1. (未公開/TV)秘録:第二次世界大戦 The World at War

ジェレミー・アイザックスが製作し、イギリスのテムズTVで放映された第二次世界大戦を描くドキュメンタリー・シリーズ(エミー賞を受賞)。重苦しく悲劇的なタッチのフルオーケストラで始まり、中盤でドイツ軍を描写した軽快なマーチをはさんで、最後は感動的に締めくくる力作。勇壮さよりは戦争の悲劇に視点を置いたシリアスな音楽。Deccaレーベルからこのスコアの1枚もののLPが出ていた。

2. (未公開/TV)愛と叛乱の大地 The Far Pavilions

19世紀インドを舞台にしたM・M・ケイの小説の映画化。デイヴィスのスコアもドラマの設定にふさわしい民族色を帯びているが、エキゾティシズムよりは流麗な美しさを強調したドラマティックな音楽。このスコアも過去にサントラLPが出ていた(Chrysalisレーベル)。

3. (未公開/TV)高慢と偏見 Pride and Prejudice (Martin Roscoe, Piano)

ジェーン・オースティンの小説を1995年にイギリスのBBC放送がドラマ化した作品(日本ではNHK衛星放送で放映)。監督はサイモン・ラントン。出演はコリン・ファース、ジェニファー・エール他。マーティン・ロスコーによるピアノ・ソロを中心とした、明るく軽快で非常にクラシカルな音楽。このスコアはEMIレーベルからサントラCDが出ている。

4. フランス軍中尉の女 The French Lieutenant's Woman - Concert Suite
     (Solo Quartet: Jonathan Carney, Raymond Ovens, Andrew Williams, Clive Greensmith)

カレル・ライス監督/メリル・ストリープ、ジェレミー・アイアンズ主演の恋愛ドラマ。元々はストリングスと2台のハープによるオーケストラ用に作曲されたスコアで、非常に繊細かつロマンティックな音楽。ここに収録されているのはメインテーマと劇中の幾つかの音楽から成るコンサート組曲で、主人公(ストリープ)の心情の変化を描写している。この作品はDRGレーベルよりサントラCDがリリースされている。

5. チャンピオンズ Champions

癌に苦しむ騎手ボブ・チャンピオンが、愛馬アルダニティと共に1982年のグランドナショナル障害物レースで優勝するまでを描いた実話に基づくドラマ。ピアノ・ソロからフルオーケストラへと盛り上がる極めてエモーショナルなメインタイトルで、デイヴィスの作品中でも最も「映画音楽的」な響きを持ったパワフルなスコア。この曲は実際のグランドナショナルレースで毎年演奏されているらしい。Islandレーベルより、デイヴィス指揮のフィルハーモニア管弦楽団の演奏によるサントラLPが出ていたが、これは早くCD化してほしい1枚。

6. (未公開)Anne Frank Remembered

「アンネの日記」で有名なアンネ・フランクの生涯を描いた、南アフリカ出身のジョン・ブレア監督によるドキュメンタリーで、1996年度アカデミー賞のドキュメンタリー賞を受賞している(ケネス・ブラナーがナレーション、グレン・クローズが日記の朗読を担当)。デイヴィスのスコアは悲劇性よりもアンネの不屈の精神を強調した静かで切実な音楽。

7. (未公開/TV)Destination America - Variations on a Polish Beggar's Theme
     (Jonathan Carney, Violin)

この「Variations on a Polish Beggar's Theme」は、デイヴィスが1988年にサーシャ・ラッサーソンのヴァイオリン・コンクール用に作曲を依頼されたもので、過去にテムズTVが製作したドキュメンタリーシリーズ「Destination America」の最初のエピソード用に彼が書いた音楽を、ヴァイオリン協奏曲にアレンジしたものである。この曲は、貧しいポーランド移民が、どん底からよじ登ってニューヨークにたどり着き、ラブシーンから感動的なフィナーレへと展開するというシナリオを想定して作曲されているという。ジョナサン・カーネィのヴァイオリン・ソロで始まり、途中で様々な表情を見せ、舞踏音楽風のフィナーレへと展開する。

8. (TV)ハリウッド Hollywood

ケヴィン・ブラウンロー著「The Parade's Gone By」をベースに、ハリウッドのサイレント映画の歴史を描いたテムズTV製作のシリーズ。古き良き時代のティンセルタウンを想わせる優雅で美しいワルツが非常にチャーミング。このスコアは、EMIレーベルよりサントラLPが出ていたが、メインテーマ以外に「バクダッドの盗賊」「ベン・ハー」といった幾つかのサイレント映画を描写したオリジナル音楽も収録されており、これが後にデイヴィスが多数手がけることになる過去のサイレント映画への新たなオリジナルスコア作曲のきっかけとなった。

9. ナポレオン Napoleon - Eagle of Destiny

上述のサイレント映画へのオリジナルスコア作曲シリーズの1つで、アベル・ガンス監督によるクラシック大作をケヴィン・ブラウンローがリコンストラクトし、1980年にリバイバル上映した際の音楽。ベートーヴェン等のクラシック音楽を効果的に組込んだスコアだが、このメインテーマ「Eagle of Destiny」はデイヴィスのオリジナルで、栄光に満ちた格調高い音楽。Silva Screenレーベルよりデイヴィス指揮レン管弦楽団による素晴らしい演奏のCDがリリースされている。

10. スキャンダル Scandal

1962年にイギリスの政界を揺るがした一大セックス・スキャンダル「プロフューモ事件」を、マイケル・ケイトン=ジョーンズ監督/ジョン・ハート主演により1989年に映画化した作品。デイヴィスの音楽は、トラジックなトーンの美しいスコア。これはEMIレーベルよりサントラCDが出ていた。

11. 肉体と悪魔 Flesh and the Devil - Waltz and Love Scene

1925年製作のクラレンス・ブラウン監督/グレタ・ガルボ主演サイレント映画にデイヴィスが作曲したスコア。華麗なワルツから、ガルボとジョン・ギルバートによるラブシーンを描写した繊細で美しいテーマへと続き、最後は力強く締めくくる。

 

カール・デイヴィスは、そのフィルモグラフィーや作風からイギリスの作曲家という印象があるが、実際には1936年ニューヨーク州ブルックリン生まれで、ポール・ノードフとヒューゴ・コーダーに作曲を学んだ。彼は映画やTVの音楽だけでなく、演劇(Royal Shakespeare Company、National Theatre等)、舞踏音楽(London Contemporary Dance Theatre、Northern Ballet Theatre等)、コンサート音楽(交響曲、クラリネット協奏曲等)でも数多くの傑作を残している。また、1991年にはポール・マッカートニーとのコラボレーションにより「Liverpool Oratorio」をプロデュースし、世界中で上演している。デイヴィスの映画・TV音楽を集めた自作自演コンピレーションには、このCD以外にも以下のようなアルバムがある。

「コマンディング・シー THE COMMANDING SEA」
作曲・指揮:カール・デイヴィス
Composed and Conducted by Carl Davis (英EMI / EMC3361) LP 1981
  The Commanding Sea (未公開)
  Fair Stood the Wind for France (未公開)
  Oppenheimer (未公開)
  The Old Curiosity Shop (未公開)

「カール・デイヴィス TV映画音楽集 CARL DAVIS: MUSIC FOR TELEVISION」
作曲・指揮:カール・デイヴィス
Composed and Conducted by Carl Davis (英EMI / INS 3021) LP
演奏:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
Performed by the Royal Philharmonic Orchestra
  The Snow Goose (未公開)スノー・グース
  Our Mutual Friend (未公開)
  Wuthering Heights (未公開)嵐ヶ丘
  The Mayor of Casterbridge (未公開)
  Marie Curie (未公開)キューリー夫人
  The Long Search (未公開)

「サイレンツ THE SILENTS」
作曲・指揮:カール・デイヴィス
Composed and Conducted by Carl Davis (英Virgin / VC7 90785-2) CD 1988
演奏:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
Performed by the London Philharmonic Orchestra
  Napoleon ナポレオン
  The Crowd 群衆
  Flesh and the Devil 肉体と悪魔
  Show People (未公開)
  Broken Blossom 散り行く花
  The Wind 風
  The Thief of Bagdad バクダッドの盗賊
  The Big Parade ビッグ・パレード
  The Greed グリード
  Old Heidelberg 思ひ出
(デイヴィスがサイレント映画に作曲したスコアを集めたもの)

(2000年5月)

Carl Davis

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