(未公開)囁く砂 SOMETHING TO HIDE
(未公開)新ドミノ・ターゲット/恐るべき相互殺人 THE INTERNECINE PROJECT
(未公開)フォックス・バット/NATO CODE NAME MIG-25 FOXBAT
ロイ・バッドの映画音楽を執念(としか思えない)でリリースし続けているイギリスのCinephileレーベルによるコンピレーション。私がLPアルバムを持っているバッドのサントラで、まだCD化されていないのは「(未公開)Le chainon manquant」というアニメーション映画(演奏はナショナル・フィル)、「(未公開)Mama Dracula」というホラー・コメディ、それに「(未公開)Commando (The Final Option)」「ワイルド・ギース2 Wild Geese II」のアクション映画2本くらい(この2作品はBootleg CDに収録されている)だが、LPにすらなっていないスコアもまだ残されているので、このCinephileによるリリースは音源が尽きるまで続けてもらいたい。いまだに新譜が出るということは、これまでに出したCDがよく売れて採算が取れているということだろう。今回のコンピレーションに収録されている音楽は、「囁く砂」以外は初出だが、いずれもバッドの卓越した音楽センスを感じさせる優れたドラマティック・スコアとなっている。
「(未公開)フォックス・バット/NATO CODE NAME MIG-25」 FOXBAT(9曲)
「ザ・ポップマン」(1979)「風の輝く朝に」(1984)「上海1920/あの日みた夢のために」(1991)等のレオン・ポーチ(梁普智)が1977年に監督した香港製スパイアクション。出演はヘンリー・シルヴァ、ロイ・チャオ、ヴォネッタ・マギー、ジェームス・イ・ルイ、リック・ヴァン・ヌッター他。撮影はアンソニー・ホープ。函館空港に強行着陸した(旧)ソ連空軍のミグ25を、CIAの諜報員(シルヴァ)が自分の義眼に組込んだ小型カメラで撮影するが、そのマイクロフィルムをめぐって、日本と香港を舞台に各国のスパイが争奪戦を繰り広げる。脚本に007シリーズで有名なテレンス・ヤング監督が参加しているらしい。音楽は、バッド得意のシャープなアクションスコアで、「太陽にかける橋」「ワイルド・ギース」等に通ずるオーケストラ曲と、「シンジケート」「Mr.ダイヤモンド」等に通ずるジャズのコンビネーションになっている。ストーリーの舞台に合わせたアジア風のフレーバーも少し加えているが、何といってもストレートなアクション音楽としてのバッド独特のセンスが秀逸。映画はいかにもB級だが、音楽は第一級の出来。
「(未公開)新ドミノ・ターゲット/恐るべき相互殺人」 THE INTERNECINE PROJECT(7曲)
「人間の絆」(1961)「007/カジノ・ロワイヤル」(1967)「チキ・チキ・バン・バン」(1968)「クロムウェル」(1970)等で知られるイギリス人のケン・ヒューズ監督が1974年に撮ったサスペンス。出演はジェームズ・コバーン、リー・グラント、ハリー・アンドリュース、マイケル・ジェイストン、キーナン・ウィン、イアン・ヘンドリー、クリスチャン・クリューガー、テレンス・アレクサンダー、フィリップ・アンソニー、ジュリアン・グローヴァー、メアリー・ラーキン他。モート・W・エルキンドの原作「Internecine」を基に、「ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎」(1985)「レインマン」(1988)「ディスクロージャー」(1994)「ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ」(1997)等の監督バリー・レヴィンソンとジョナサン・リンが脚本を担当。撮影は「オリエント急行殺人事件」「スーパーマン」等の名手ジェフリー・アンスワース。産業スパイの経歴を持つアメリカ人の実業家(コバーン)が、政界での地位を確保するために自分の暗い過去を知る4人の男(アンドリュース、ジェイストン、ヘンドリー、クリューガー)を罠にはめ、互いに殺害させようとする。バッド作曲のメインテーマは、ジョン・バリーの作風に少し似たセンシュアスなタッチだが、その他の劇伴音楽は例によって緊張感に満ちたジャズ・ベースのサスペンス・スコア。
「(未公開)囁く砂」 SOMETHING TO HIDE(2曲)
ニコラス・モンサラットの原作を基にしたアラステア・リード監督・脚本による1971年製作のイギリス映画(リードはTVの「モース警部シリーズ」で「ジェリコ街の女」と「消えた装身具」を監督している)。出演はピーター・フィンチ、シェリー・ウィンタース、コリン・ブレイクリー、ジョン・ストライド、リンダ・ヘイドン、ハロルド・ゴールドブラット、ローズマリー・ダンハム、ヘレン・フレイザー、ジャック・シェパード他。撮影はウォルフガング・サシツキーが担当。地方の中小企業に勤めるハリー・フィールズ(フィンチ)を主人公に、アル中の妻(ウィンタース)との葛藤と、彼が妊娠した少女(ヘイドン)と関係したことから精神錯乱に陥る過程を描くサスペンスドラマ。この映画のためにバッドが作曲した約9分に及ぶ「Concerto
for Harry」は、このアルバム全体の白眉であり、バッド自身のピアノとロイヤル・フィルの演奏による華麗でスタイリッシュなピアノ協奏曲となっている。ラフマニノフのコンチェルトを想わせるドラマティックな寂寥感と、バッドによるジャズ風のピアノが素晴らしい。
(2000年6月)
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