女狐 THE FOX

作曲・指揮:ラロ・シフリン
Composed and Conducted by LALO SCHFRIN

演奏:シンフォニア・オブ・ロンドン管弦楽団
Performed by the Sinfonia of London Orchestra

(米Aleph / 017)

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「チャタレー夫人の恋人」で知られるD・H・ローレンスの小説「狐」を、「華麗なる週末」(1969)「11人のカウボーイ」(1971)「黄昏」(1981)「わかれ路」(1994)等のマーク・ライデル監督が1968年に映画化した作品。出演はサンディ・デニス、アン・ヘイウッド、ケア・デュリア、グリン・モリス他。脚本はハワード・コーホとジョン・ルイス・カリーノ、撮影は名手ウィリアム・A・フレイカーが担当。同性愛者の女性2人(デニス、ヘイウッド)が、カナダに農場を買って一緒に生活を始めるが、そこへ元の所有者の孫(デュリア)が現われ、2人のうちの片方と愛し合うようになったことで、男女の奇妙な三角関係から悲劇へと発展する。

これはラロ・シフリンの作品中でも、最も複雑で微妙なタッチのスコアで、小編成のオーケストラによる心理描写を中心とした極めて上質な映画音楽となっている。暗めの内省的な曲と、明るめの温和な曲が混在しているが、全体はインティメートなトーンで統一されている。冒頭の「The Fox, Main Title」は、ピアノの強打による不協和音のイントロからフルートのソロによる物憂げで繊細なメインテーマへと展開する。この印象的な主題が何度もアレンジを変えて登場するが、特にストリング・カルテットによる「Fox Variation #1」「Fox Variation #2」が実に美しい。「Reflections」「Lovers」「Minuet in C」はピアノ、ストリングス等によるクラシカルなタッチの明るめの曲。「Paul's Memories」「Desperate Interlude」「The Foxhole」等は暴力的なピアノや不安定なストリングスによる心理サスペンス音楽で、シフリンの得意とするハイテンションなスコア。最後に収録された「The Fox Symphony」は、メインテーマのジャズによるアレンジメントにオーケストラを加えた演奏で、この曲だけ全体と印象が異なるが、この主題はフランスで女性用ストッキングのCMに流用されたことがあり、その際のジャズ風のタッチを再現したものらしい。このCDはシフリン自身によるAlephレーベルからリリースされたものだが、1999年10月に作曲者自演の指揮によりイギリスで再録音されたもので、音質は極めてクリアかつシャープである。シフリンはこのスコアで1968年度アカデミー賞の作曲賞にノミネートされている。

ラロ・シフリン「ブリット」(1968)「マンハッタン無宿」(1968)「ダーティハリー」(1971)「突破口!」(1973)「燃えよドラゴン」(1973)「ジェット・ローラー・コースター」(1977)「テレフォン」(1977)「オフサイド7」(1979)「(未公開)第四の核」(1986) 等、ジャズ/オーケストラによる切れ味のよいサスペンス・アクションスコアを得意としており、私もこれらの音楽が大好きだが、この「女狐」のようなシリアスなスコアも時々書いている。特にリリアーナ・カヴァーニ監督の「(未公開)La pelle」(伊Cinevox / CD-CIA 5095)に作曲した音楽は、実にしっとりとしたドラマティックスコアで素晴らしかった。また、ベルギーのPrometheusレーベルが、「(未公開/TV)A.D./Anno Domini」(Prometheus / PCD112)「(未公開/TV)Don Quixote」(Prometheus / PCD132)といったシフリンによるエピックスコアのCDをリリースしており、これらもベテランらしい正統派の劇伴音楽となっている。シフリンは最近でも「ラッシュアワー」(1998)での「燃えよドラゴン」をパロディにした軽快なアクション音楽や、「タンゴ」(1998)での重厚で情熱的な舞踏音楽など、精力的に作曲活動を続けている。
(2000年6月)

Lalo Schifrin

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