トラ・トラ・トラ!
TORA! TORA! TORA! 作曲・指揮:ジェリー・ゴールドスミス
(米Film Score Monthly / FSM Vol.3 No.4) |
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1941年12月8日の日本軍による真珠湾攻撃を恐るべきリアリズムで描いた戦争スペクタクル。1970年製作。監督は、アメリカ軍部分を「海底二万哩」(1954)「バイキング」(1957)「バラバ」(1962)「ミクロの決死圏」(1966)等のリチャード・フライシャーが担当し、日本軍部分を深作欣二と舛田利雄が担当。当初、日本部分を黒澤 明が撮ることになっており、アメリカ部分はフランシス・フォード・コッポラが撮るという話もあったが、黒澤監督が健康上の理由で降板したため実現しなかった。出演は、アメリカ側がマーティン・バルサム、ジェイソン・ロバーズ、ジョセフ・コットン、ジェームズ・ホイットモア、E・G・マーシャル、リチャード・アンダーソン、ネヴィル・ブランド、エドワード・アンドリュース、ジョージ・マクレディ他、日本側が山村 聡、三橋達也、東野英治朗、田村高廣、藤田 進、島田正吾他。製作総指揮は「史上最大の作戦」のダリル・F・ザナック。脚本はラリー・フォレスターと菊島隆三、小国英雄が担当。撮影はチャールズ・F・ホイーラーと姫田真左久、古谷 伸、佐藤昌道。1970年度アカデミー賞の特殊視覚効果賞を受賞している(L・B・アボット、A・D・フラワーズ)。戦争の史実を描いた作品の中でもこれほどの迫真性とドラマティックな緊張感を持った作品はあまりないだろう。特に後半の真珠湾攻撃のシーンのドキュメンタリー的なリアリティと迫力は凄まじい。
20世紀フォックス社は1970年にこの「トラ・トラ・トラ!」と「パットン大戦車軍団」という2本の戦争映画を製作しているが、この2本とも音楽はジェリー・ゴールドスミスが担当している。この「トラ・トラ・トラ!」のスコアについては、昔から映画音楽ファンの間でサントラ盤のリリースが強く望まれていたが、スタジオ側で音源のテープがきちんと保存されておらず、アルバム化はほぼ不可能と考えられていた。このため、ゴールドスミス自身が1997年にロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団を指揮して、このスコアの一部を再録音したCD(「パットン大戦車軍団」とのカップリング)もリリースされている(米Varese Sarabande / VSD-5796)。ところが、Film Score Monthlyのルーカス・ケンドール氏は、この幻の音源をフォックスのアーカイヴから見つけ出し、遂にサントラ盤をリリースしてしまった。音質も極めて良好で、ファンにとってはまさにサプライズ・アタック以外の何ものでもない。
このスコアにはゴールドスミスが得意とするアジア色が強く現れており、特に不協和音で始まるイントロに続いて琴により演奏される「黒田節」に似たメインテーマが印象的。単にメロディが日本的なだけでなく、後半はオーケストラによりダイナミックで荘厳な盛り上がりを見せるところが上手い。スコア全体は、日本軍を描写したこの琴によるメインテーマのバリエーションと、より西洋的なオーケストラによるアメリカ軍の描写の組合わせにより進行し、ラストの攻撃に近づくにつれてテンションが高まって行く。「The Chancellery」「Mt.Niitaka」「Pre-Flight Countdown」といった曲は、いつものゴールドスミスらしいシャープでサスペンスフルなタッチだが、何といってもこの映画における彼の音楽的な判断の正しさは、ラストの延々と続く攻撃シーンに全くスコアを付けなかったことだと思う。尚、このCDには劇中で流れる日米双方の軍隊音楽のソースミュージック等がボーナストラックとして収録されている。
ゴールドスミスは、この「トラ・トラ・トラ!」や「パットン大戦車軍団」以外にも、「危険な道」「脱走特急」「ブルー・マックス」「マッカーサー」等の戦争映画の音楽を手がけているが、いずれも優れた映画音楽である。
(2000年7月)
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