アーネスト・ゴールド映画音楽集
ERNEST GOLD: FILM MUSIC Vol.1

作曲・指揮:アーネスト・ゴールド
Composed and Conducted by ERNEST GOLD

演奏:ロンドン交響楽団
Performed by the London Symphony Orchestra

(英Artemis / ART-F 001)


<収録曲>

1. おかしなおかしなおかしな世界 It's a Mad Mad Mad Mad World
2. 都会のジャングル The Young Philadelphians
3. ニュールンベルグ裁判 Judgement at Nuremburg
4. ガン・ファイター The Last Sunset
5. (未公開)聖書への反逆 Inherit the Wind
6. (未公開)Pressure Point
7. 愛の奇跡 A Child Is Waiting
8. 渚にて On the Beach
9. (未公開)Saddle Pals
10. 栄光への脱出 Exodus
11. (未公開)Too Much, Too Soon

 

これは、オーストリア出身の映画音楽作曲家アーネスト・ゴールド(1921〜1999)の作品を集めた自作自演コンピレーションで、かつてイギリスのLondonレーベルから「The Great Film Themes of Ernest Gold」というタイトルで出ていたLPを、イギリスのArtemisレーベルが2000年にCD化したものである。オリジナルのLPでは演奏がLondon Festival Orchestraだったので、最初は別の録音かと思ったが、聴いてみると全く同じ音源だった。LPでは契約上の理由からロンドン交響楽団の表記がLondon Festival Orhcestraになっていたらしいが、かつて同じLondonレーベルでスタンリー・ブラックが指揮したLondon Festival Orchestraの演奏による映画音楽の優れたカバー・アルバムがいつか出ていたので、これらは全てロンドン交響楽団の演奏だったということだろう(これは余談)。

ゴールドは1999年3月に他界しており、最近の映画音楽ファンにはあまり知られていないと思うが、「栄光への脱出」を始めとする優れたフィルムスコアの作曲家として知られている名手である。同じオーストリア出身の巨匠マックス・スタイナー等のクラシカルな作風と、アレックス・ノース、エルマー・バーンステイン等の純アメリカ的な作風が混在した、独特のタッチの正統派劇音楽を書く作曲家だが、彼のスコアには陽性の個性が出たものと陰性の個性が出たものがあり、このコンピレーションCDでは比較的陽性のスコアを集めている。

個人的にはむしろ彼の陰性の個性が出たスコア、特に「戦争のはらわた」「さよならミス・ワイコフ」「愚か者の船」がベストスコアだと思うが、ここに収録された陽性のスコアも彼の作風を知る上では非常に重要である。

 

1. おかしなおかしなおかしな世界 It's a Mad Mad Mad Mad World

ゴールドとのコラボレーションの多いスタンリー・クレイマーが1963年に製作・監督したオールスターキャストによるスラプスティック・コメディ。出演はスペンサー・トレイシー、ミッキー・ルーニー、ジェリー・ルイス、シド・シーザー、ミルトン・バール、ジョナサン・ウィンタース、ディック・ショーン、ピーター・フォーク、エセル・マーマン、バスター・キートン、ジョー・E・ブラウン、ポール・フォード他。ここに収録された曲はウィーン出身の作曲家らしいクラシカルで優雅なワルツ。このスコアには1枚もののサントラCDが存在する。

2. 都会のジャングル The Young Philadelphians

ヴィンセント・シャーマンが1959年に監督したドラマ。出演はポール・ニューマン、バーバラ・ラッシュ、ブライアン・キース、アレクシス・スミス、ロバート・ヴォーン他。ニューマンがトップを目指す貧しい弁護士を演じる。ここでのゴールドのスコアはマックス・スタイナーやエリッヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの作風にも通ずるロマンティックで美しい音楽。

3. ニュールンベルグ裁判 Judgement at Nuremburg

連合軍によるナチスドイツ戦犯の裁判を描いたスタンリー・クレイマー製作・監督によるドラマ。1961年製作。原作・脚本はアビー・マン。出演はスペンサー・トレイシー、バート・ランカスター、リチャード・ウィドマーク、モンゴメリー・クリフト、マクシミリアン・シェル、マレーネ・ディートリッヒ、ジュディ・ガーランド、ウィリアム・シャトナー他。この映画の音楽は「リリー・マルレーン」が劇中で効果的に使われていることで有名だが、ここではダンス音楽風の曲が収録されている。このスコアにも劇中のダイアローグを含んだ1枚もののサントラCDが存在する。

4. ガン・ファイター The Last Sunset

男性的で骨太なアクション映画で知られるロバート・アルドリッチが1961年に監督したウエスタン。出演はロック・ハドソン、カーク・ダグラス、ドロシー・マローン、キャロル・リンレー、ジョセフ・コットン、ジャック・イーラム、ネヴィル・ブランド他。脚本はダルトン・トランボ。活劇よりは濃厚な愛憎劇を主軸とした異色西部劇で、ゴールドの音楽も活劇調ではなく、ストイックで静かなタッチのウエスタン・スコア。

5. (未公開)聖書への反逆 Inherit the Wind

スタンリー・クレイマー製作・監督による法廷ドラマ。1960年製作。出演はスペンサー・トレイシー、フレデリック・マーチ、ジーン・ケリー、フローレンス・エルドリッジ、ディック・ヨーク、クロード・エイキンズ他。ダーウィンの進化論を教えたことで逮捕された学校教師を巡る1925年の裁判を描いた実話に基づくドラマ。ここでのゴールドのスコアは、彼の個性がよく出た繊細で内省的な音楽。

6. (未公開)Pressure Point

ハバート・コーンフィールド監督による1962年製作のドラマ。出演はシドニー・ポワティエ、ボビー・ダーリン、ピーター・フォーク、カール・ベントン・リード他。ポワティエ扮する監獄の精神科医とダーリン扮する患者を描いた実話に基づくドラマ。音楽はビッグバンドによるジャズ。

7. 愛の奇跡 A Child Is Waiting

スタンリー・クレイマーが製作し、ジョン・カサヴェテスが監督したドラマ。1963年製作。脚本はアビー・マン。出演はバート・ランカスター、ジュディ・ガーランド、ジーナ・ローランズ、スティーヴン・ヒル他。ランカスターが運営する精薄児の私設にやってきたガーランド扮する音楽教師が、一人の少年を精神的に自立させるまでを描く。クラシカルなロマンティック・スコア。

8. 渚にて On the Beach

核戦争後の放射能汚染の恐怖を描いたネヴィル・シュートの有名なSF小説を、スタンリー・クレイマーが製作・監督したドラマ。1959年製作。出演はグレゴリー・ペック、エヴァ・ガードナー、フレッド・アステア、アンソニー・パーキンス、ドナ・アンダーソン他。オーストラリアのメルボルンが舞台になっており、音楽にもオーストラリア民謡の「ワルツィング・マチルダ」が効果的に使われている。このスコアにも1枚もののサントラアルバム(LPのみ)があり。

9. (未公開)Saddle Pals

レスリー・セランダーが監督した1947年製作のB級西部劇。明るく豪快なウエスタン・スコアで、「ガン・ファイター」の音楽とは対照的。

10. 栄光への脱出 Exodus

第二次大戦後のパレスチナによるイスラエル建国を描いたオットー・プレミンジャー製作・監督による3時間半に及ぶ大作。出演はポール・ニューマン、エヴァ・マリー・セイント、ラルフ・リチャードソン、リー・J・コッブ、ピーター・ローフォード、サル・ミネオ、ジョン・デレク、ヒュー・グリフィス他。レオン・ユリスの原作を基にダルトン・トランボが脚本を執筆。ゴールドの作品中でもおそらく最も有名なスコアで、数多くのカバーバージョンが存在する映画音楽のスタンダードとなっている。ストイックでエモーショナルなメインテーマが極めて感動的。このスコアにはもちろん1枚もののサントラアルバムが存在する。

11. (未公開)Too Much, Too Soon

ダイアナ・バリモアの生涯を描いたアート・ナポレオン監督による1958年製作のドラマ。出演はドロシー・マローン、エロール・フリン(ジョン・バリモア役)、エフレム・ジンバリストJr.、レイ・ダントン、ネヴァ・パターソン、マーティン・ミルナー、マーレィ・ハミルトン他。これもスタイナーやコルンゴルトの系譜のロマンティックなクラシック・フィルムスコア。

 

アーネスト・ゴールドが手がけたその他の作品には、「手錠のまゝの脱獄」(1958)「叫ぶ頭蓋骨」(1959)「愚か者の船」(1965)「サンタ・ビットリアの秘密」(1969)「戦争のはらわた」(1975)「おかしな泥棒ディック&ジェーン」(1976)「さよならミス・ワイコフ」(1978)「トム・ホーン」(1979)等がある。彼は1959年の「渚にて」、1963年の「おかしなおかしなおかしな世界」、1969年の「サンタ・ビットリアの秘密」で3度アカデミー賞にノミネートされ、1960年に「栄光への脱出」で音楽賞を受賞している。
(2000年7月)

Ernest Gold

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