ジェリー・ゴールドスミス in Japan 〜20世紀ファイナル・ライブ〜
作曲・指揮:ジェリー・ゴールドスミス Composed and Conducted by JERRY GOLDSMITH 演奏:神奈川フィルハーモニー管弦楽団 |
前回の初来日(1998年12月11日、16日)以来、約2年ぶりのジェリー・ゴールドスミス来日コンサートが実現した。オーケストラは前回と同様神奈川フィル。今回は東京公演と、横浜/横須賀公演の2種類のプログラムによる演奏だが、東京公演はゴールドスミス作曲によるSF&ファンタジー映画を集めたプログラムとなっており、全体に統一感のある選曲となっている。
<東京公演>
2000年10月27日(金)すみだトリフォニーホール
= 「スター・トレック」とファンタジーの世界 = STAR TREK AND THE WORLD OF FANTASY
1.「スター・トレック」:メイン・タイトル
"STAR TREK: THE MOTION PICTURE" Main Title
休憩をはさむまでの前半の7曲は全て「スター・トレック」シリーズにゴールドスミスが作曲した音楽で、冒頭は1作目のメイン・タイトルに「アイリーアのテーマ」を中間にはさんだバージョン。ややゆっくりとしたテンポで、コンサートのオープニングを飾るにふさわしい堂々とした演奏。
2.「スター・トレック5/新たなる未知へ」:バリアー
"STAR TREK: THE FINAL FRONTIER" The Barrier
サスペンスを徐々に盛り上げていく前半から、壮大で流麗な後半へと展開。ストリングスが聴きどころ。
3.「ファースト・コンタクト/STAR
TREK」:ファースト・コンタクト
"STAR TREK: FIRST CONTACT" First Contact
これはシリーズ中でも個人的に好きな曲。雄大で美しいメインテーマが印象的。オーケストラの演奏にもだんだんと余裕が感じられるようになってくる。
4.「スター・トレック/ヴォイジャー」:テーマ
"STAR TREK: VOYAGER" Theme
短い曲だがこれも名曲。堂々とした迫力ある演奏。ゴールドスミスがロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団を指揮したコンピレーション・アルバムでの演奏に近いゆっくりとしたテンポ。
5.「スター・トレック」:U.S.S.エンタープライズ
"STAR TREK: THE MOTION PICTURE" The Enterprise
第1作目の中盤でエンタープライズ号がドックから発進するシーンの音楽。ここまで来るとオーケストラもかなり乗って来ており、後半のメインテーマの演奏も1曲目の時より安定している。
6.「スター・トレック/叛乱」:新たなる天地
"STAR TREK: INSURRECTION" New Sight
叙情的なタッチのゆったりとした曲。前半のフィナーレの前の静かな演奏。
7.「スター・トレック5/新たなる未知へ」:エンド・タイトル
"STAR TREK: THE FINAL FRONTIER" End Credits
これはシリーズ中でも個人的に好きなメインテーマのバージョン。アレクサンダー・カレッジ作曲のオリジナルTVシリーズのファンファーレからゴールドスミスによるメインテーマへと展開。トランペットをはじめとしたブラスの響きがパワフル。中盤のクリンゴンのテーマの部分のブラスも歯切れがよい。
= 休憩 =
8.「カプリコン・1」
"CAPRICORN ONE"
今回のコンサートの目玉。ゴールドスミス自身の指揮によるこの曲の生演奏が聴けるなんて夢のようだ。サントラに近いダイナミックで力のこもった演奏。ブラスとパーカッションのアタックが小気味良い。中盤の「ケイのテーマ」も情感たっぷり。
9.「エイリアン」:テーマ
"ALIEN" Theme
前回の来日公演でも演奏された壮大で美しい曲。トランペット・ソロもよい。
10.「スーパーガール」
"SUPERGIRL"
サントラの演奏よりもかなり速いマーチ的なテンポが快調。華麗なストリングスとブラスのはじけるような高域のサウンドが素晴らしい。サントラでのエンドタイトルと同様のフィナーレもかっこいい。
11.「2300年未来への旅」:自由の世界、シティからの解放
"LOGAN'S RUN" The Monument, End of the City
今回の曲目中でも最も劇伴音楽的で興味深い選曲。全体に様々な表情を見せるが、1曲目前半のフルート・ソロによる美しい愛のテーマや中盤の躍動的なオーケストラ、2曲目のラストの盛り上がりが素晴らしい。
12.「トワイライト・ゾーン/超次元の体験」:組曲
"TWILIGHT ZONE: THE MOVIE" Suite
冒頭のTVシリーズのイントロを省略したバージョン。前半のファンタスティックなタッチもよいが、後半のヴァイオリン・ソロを活かしたサスペンスフルでダイナミックな展開が面白い。
13.「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」
"THE MUMMY"
歯切れ良い豪快なマーチから美しく神秘的な砂漠音楽へと展開。やはりブラスのパワーがキーとなる曲。これも好きなスコアなので生演奏で聴けるのは感激。
14.「パウダー」:ノー・ワン・ライク・ユー、大空へ
"POWDER" No One Like You, Going Away
木管楽器のリッチな響きが聴きどころ。エンディングにふさわしい情感豊かで感動的なスコア。オーケストラの演奏にも心がこもっていて良かった。
= アンコール曲 =
15.「トータル・リコール」
"TOTAL RECALL"
これもリクエストの多い曲。サントラではシンセサイザーを主体とした演奏だが、これをアコースティックな演奏にアレンジしており、印象は少し異なるが、ダイナミックなタッチが秀逸。名曲。
16.「スーパーガール」
"SUPERGIRL"
これをアンコール曲にもってきたいがためにマーチ調の速いテンポの演奏にしたのかと納得。もともと神奈川フィルには3人のトランペット奏者がいるが、今回はこれにエリック・宮城と西村浩二という2人の奏者を追加してパワーアップしている。この効果は明らかで、この「スーパーガール」をはじめとしたブラスのパワーが要求される曲では前回の来日コンサートでの演奏に比べて格段に迫力が増している。
ゴールドスミスは、前回同様アンコール時に短いスピーチをしたが、「大変なのは演奏しているオーケストラのメンバーであって、指揮棒を振ってるだけの自分は楽なもんだ」との彼らしい謙虚なセリフが印象的だった。
(2000年10月)
<横浜/横須賀公演>
2000年10月28日(土)よこすか芸術劇場
2000年11月1日(水)横浜みなとみらいホール
今回の来日コンサートのもう一つのプログラムは、ゴールドスミスの自作に加え、フランツ・ワックスマン、アルフレッド・ニューマン、ミクロス・ローザ、アレックス・ノースといった彼の先輩にあたるハリウッドの名作曲家たちの作品も含んだ演目となっている。しかもこの選曲がいかにもゴールドスミスらしい。(以下は11月1日の演奏のレビューです)
1.<映画音楽主題曲メドレー>
「砲艦サンパブロ」「チャイナタウン」「エアフォース・ワン」「いつか見た青い空」「ポルターガイスト」「パピヨン」「氷の微笑」「風とライオン」
Medley of Motion Picture Themes: THE SAND PEBBLES, CHINATOWN, AIR FORCE
ONE, A PATCH OF BLUE, POLTERGEIST, PAPILLON, BASIC INSTINCT, THE WIND AND THE LION
これは前回の来日コンサート時にも演奏されたゴールドスミスの代表作を組み合わせたメドレー。勇壮で男性的な曲とリリカルで美しい曲が絶妙のバランスで並んでおり、彼の作風を知る上では絶好のコンサートピースだと思う。神奈川フィルの演奏も前回のコンサート時と比較すると明らかに優れたものになっている。個人的に大好きな「チャイナタウン」は、エリック・宮城氏のトランペット・ソロにアドリブが入っており、これは好みが分かれると思うが私は気に入った。「エアフォース・ワン」の分厚いブラスの響きにも迫力あり。「いつか見た青い空」のピアノ・ソロ、ヴァイオリン・ソロも美しいが、少しテンポが速めという気がする。逆に「パピヨン」は堂々としたペースで力のこもった演奏が素晴らしい。「氷の微笑」もテンポが速すぎてこの曲のもつセンシュアルな魅力がうまく出ていないように思う。締めくくりの「風とライオン」はほぼ完璧な演奏で、特にホルンのパワーが凄い。
2.「サンセット大通り」(フランツ・ワックスマン作曲)
"SUNSET BOULEVARD" (Franz Waxman)
なんとフランツ・ワックスマンのフィルムスコアを日本で生演奏で聴くことができるとは! しかもドラマティック・アンダースコアの傑作「サンセット大通り」の音楽である(日本初演らしい。そりゃそうだろう)。ダイナミックなイントロダクションから、中盤の官能的なミュート・トランペットのソロ、そしてグロリア・スワンソン扮するノーマ・デズモンドがゆっくりと自宅の階段を降りていくシーンの華麗な音楽へとカラフルに展開していく。「これぞ映画音楽」といった響きのある傑作。演奏も素晴らしい。
3.「ブラジルから来た少年」
"THE BOYS FROM BRAZIL"
この優雅なウィンナワルツをはじめて聴いた人は、ナチスの残党で狂気の医師ヨーゼフ・メンゲレによる生体実験をテーマにしたサスペンス映画の音楽とはとても思えないだろう。曲の中盤ではメンゲレと彼の陰謀を表現したダークなタッチの展開も見せる。名曲。
4.「イヴの総て」(アルフレッド・ニューマン作曲)
"ALL ABOUT EVE" (Alfred Newman)
アルフレッド・ニューマンの映画音楽で、「西部開拓史」でも「征服への道」でも「偉大な生涯の物語」でもなく「イヴの総て」を選曲するところがゴールドスミスらしい。まさにハリウッド黄金時代の栄光の輝きを持ったドラマティック・スコアで、演奏もエナジェティックで良い。
5.「ルディ/涙のウィニング・ラン」
"RUDY"
私の大好きなスコア。前回のコンサートでも演奏された名曲(今回の演奏では冒頭と最後にフットボールの試合のシーンのフレーズが引用されている)。非常に心のこもった感動的な演奏。
6.将軍たち−「マッカーサー」&「パットン大戦車軍団」
The Generals - Themes from "MacARTHUR" and "PATTON"
これも前回のコンサートで演奏されたミリタリー・マーチのメドレーだが、明らかに今回の方がパワーアップしている。「パットン」の音楽のトレードマークであるトランペットによるエコー風のソロや、パワフルなホルンの響きも良い。
= 休憩 =
7.「ベン・ハー」(ミクロス・ローザ作曲)より
<愛のテーマ><二輪戦車のパレード>
"BEN-HUR" (Miklos Rosza) Love Theme, Parade of the
Charioteers
ミクロス・ローザの代表作であり、映画音楽史上に残る名曲。1曲目の愛のテーマでのストリングスが深遠でこの上なく美しい。2曲目のパレードもトランペットをはじめとしたブラス・セクションの迫力が素晴らしい。
8.「海流のなかの島々」より
<カジキ釣り>
"ISLANDS IN THE STREAM" The Marlin
ゴールドスミスお気に入りのスコア。今回の演目中でも最も劇伴音楽的なカラフルな表情を見せる曲で、演奏時間も長く非常に面白い。特殊な打楽器による味付けも良い。
9.「革命児サパタ」(アレックス・ノース作曲)より
<結集>
"VIVA ZAPATA!" (Alex North) Gathering Forces
ゴールドスミスが個人的にも親しくしていた先輩作曲家アレックス・ノースの傑作スコア。明るいラテン・フレーバーを帯びたリッチで美しい音楽。ノースの音楽が日本で演奏されることは珍しいと思うが、この曲もやはり初演らしい。
10.「フォーエヴァー・ヤング/時を越えた告白」
"FOREVER YOUNG"
メル・ギブソン主演のファンタジー・ラブストーリーだが、前回のコンサートでも演奏されたのでよほど気に入っている曲なのだろう。ゴールドスミス流のアメリカーナが美しい佳作。
11.「インビジブル」より
<メイン・タイトル>
"HOLLOW MAN" Main Title
ポール・ヴァーホーヴェン監督の新作の音楽だが、同監督と組んだ「氷の微笑」に少し似たセンシュアルでサスペンスフルなタッチ。短いが印象的な曲。
12.ファイヤーワークス(ロサンゼルス祝賀曲)
"FIREWORKS" (A CELEBRATION OF LOS ANGELES)
ゴールドスミスが1999年8月にハリウッド・ボウルでロサンゼルス・フィルを振ったコンサートにおいて初演した祝賀曲(フィルムスコアではない)。題名通り花火の打ち上げに合わせた音楽だが、快調なタッチは「バッド・ガールズ」での追跡シーンのスコアを想わせる。要するにウエスタン調である。全編を通してのダイナミックな展開はロサンゼルスという都市のバイタリティを感じさせる。
= アンコール曲 =
13.「スーパーガール」
"SUPERGIRL"
東京公演に続いての登場。なんだか更にスピードアップしているような気がする。ビジーなストリングスの演奏が見ていて大変そう。極めて熱のこもった演奏。
14.「トータル・リコール」
"TOTAL RECALL"
これも東京公演でのアンコール曲の再演。やはりゴールドスミスらしいダイナミックな名曲。
15.「革命児サパタ」より
<結集>
"VIVA ZAPATA!" (Alex North) Gathering Forces
観客の鳴り止まぬ拍手に応えて最後に再演奏したのは、彼の尊敬するアレックス・ノースの音楽。この曲を演奏する前に、プレゼントをくれた観客のひとりに指揮棒をあげてしまったので、指揮棒なしでの演奏だった。
今回のコンサートでは、ゴールドスミス自身が「もはや家族のようだ」と絶賛する神奈川フィルとの息の合った演奏を堪能することができた。これからも定期的に日本にやってきて、素晴らしいフィルムスコアの演奏でファンを魅了してもらいたいものである。
(2000年11月)
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