クレオパトラ CLEOPATRA

作曲・指揮:アレックス・ノース
Composed and Conducted by ALEX NORTH

(米Varese Sarabande / 302 066 224 2)

cover
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1963年製作の史劇スペクタクル。監督は「幽霊と未亡人」(1947)「三人の妻への手紙」(1949)「イヴの総て」(1950)「ジュリアス・シーザー」(1953)「大脱獄」(1970)「探偵<スルース>」(1972)等の名匠ジョセフ・L・マンキーウィッツ。出演はエリザベス・テイラー、リチャード・バートン、レックス・ハリソン、パメラ・ブラウン、ジョージ・コール、ヒューム・クローニン、チェザーレ・ダノーヴァ、ケネス・ヘイグ、アンドリュー・キアー、マーティン・ランドー、ロディ・マクドウォール、ロバート・スティーブンス、フランチェスカ・アニス、ハーバート・バーゴフ、マイケル・ホーダーン、ジョン・ホイト、キャロル・オコナー、ジーン・マーシュ他。脚本はマンキーウィッツとシドニー・バックマン、ロナルド・マクドゥガル、撮影はレオン・シャムロイが担当。

当初はジョーン・コリンズ主演の製作費200万ドルの映画として計画されていたのが、エリザベス・テイラー主演で4400万ドルという巨額の製作費(現在価値に換算すると4億ドル近くになり、「タイタニック」を凌ぐ金額)を投じた4時間を超える超大作に発展した作品。紀元前48年頃、エジプトの女王クレオパトラ(テイラー)の野望を主軸に、ローマ帝国の闘将シーザー(レックス・ハリソン)とクレオパトラ、そしてシーザーの腹心マーク・アントニー(リチャード・バートン)とクレオパトラとの恋愛劇を描く。テイラーとバートンとの実生活でのロマンスも話題になった。映画自体の批評は芳しくなく、一般的にも失敗作と考えられているが(何といっても4時間は長すぎる)、それでも当時のアカデミー賞の9部門にノミネートされ、撮影、美術、衣装、特殊効果の4部門で受賞している。

アレックス・ノースによる音楽は、映画の絢爛豪華なスペクタクル性よりは、クレオパトラ、シーザー、アントニーといった登場人物と彼らの関係を中心に描写した、よりパーソナルなスコアとなっている点がいかにもこの作曲家らしい。スコア全体はクレオパトラの野望を表現した第一主題、シーザーとクレオパトラのロマンスを描いた第二主題、そしてアントニーとクレオパトラのラブテーマである第三主題をベースに展開する。第一主題は冒頭の「Overture」で最初に登場するが、これはオーケストラにギター、マンドリン、ハープ等の楽器を組み合わせた躍動的な舞踏音楽風の序曲となっており、アルフレッド・ニューマンやミクロス・ローザのロマンティシズム溢れる史劇音楽よりも現代的でクールな感覚がある。この第一主題は、クレオパトラがシーザーの待つローマに凱旋する豪華なパレードのシーンの音楽「Cleopatra Enters Rome」や、後半の導入部分「Cleopatra's Barge」でも演奏される。「Main Title」では第二主題(シーザーとクレオパトラのラブテーマ)が現れるが、繊細で抑制された美しさが素晴らしい。第三主題は、シーザーが暗殺され、アントニーとクレオパトラの関係がストーリーの主軸となる後半、「Most Becoming」「Antony and Cleopatra's Love」等で登場するが、こちらも独創的なラブテーマ。「Moon Gate」「Interlude / Sea Battle」「Dying Is Less Than Love」等は短いパッセージの積み重ねによるダイナミックな戦闘シーンのスコアで、ノースの個性が強く現われている音楽。こういった戦闘シーンの鋭角的な表現や人間ドラマの部分の微妙なタッチは、後のジェリー・ゴールドスミスのエピック・スコアにも多大な影響を及ぼしていると思う。このスコアは公開当時にサントラLPがリリースされており、その後、音質の悪い海賊盤CDが何度が出ていたが、今回Varese Sarabandeレーベルより150分を超える完全版のサントラCD(2枚組)としてリリースされたもの(収録曲は下記Track Listingの通り)。

アレックス・ノースは、この「クレオパトラ」を含め、「欲望という名の電車」(1951)「セールスマンの死」(1951)「革命児サパタ」(1952)「バラの刺青」(1955)「(未公開)UNCHAINED」(1955)「雨を降らす男」(1956)「スパルタカス」(1960)「華麗なる激情」(1964)「バージニア・ウルフなんかこわくない」(1966)「栄光の座」(1968)「(未公開)SHANKS」(1974)「弾丸を噛め」(1975)「(未公開)ドラゴンスレイヤー」(1981)「火山のもとで」(1984)で、合計15回アカデミー賞の作曲賞にノミネートされている他、1986年度には映画音楽作曲家としては初めてアカデミー賞の名誉賞(Lifetime Achievement Award)を受賞している。その他にも、「悪い種子」(1956)「南海の冒険」(1958)「長く熱い夜」(1958)「悶え」(1959)「噂の二人」(1961)「荒馬と女」(1961)「シャイアン」(1964)「コマンド戦略」(1967)「女と男の名誉」(1985)「ザ・デッド/「ダブリン市民」より」(1987)「グッドモーニング,ベトナム」(1987)「(未公開)愛と哀しみの十字架」(1987)等の音楽を手がけている。

<Track Listing>

  Disc One

1. Overture 2:42
2. Main Title 2:51
3. Pharsalia 1:17
4. Caesar to Egypt 1:57
5. The VIPs / King Ptolemy 0:59
6. Pompey's Ring 2:53
7. A Gift for Caesar 1:51
8. Only Yesterday 1:31
9. Epilepsy 3:20
10. Great Library 2:05
11. Moon Gate 4:20
12. Taste of Death 1:47
13. Sympathy 1:45
14. Coronation 1:51
15. Fertility 4:49
16. Alexander's Tomb 3:45
17. Calpurnia 1:59
18. The Fire Burns / Son of Caesar 3:43
19. Caesar's Departure 3:40
20. Cleopatra Enters Rome 6:49
21. By Divine Right 2:06
22. Death in the Garden 1:44
23. Caesar's Assassination 4:57
24. Requiem 1:32
25. Farewell 1:39
26. Entr'acte (Caesar & Cleopatra) 2:32
27. Hail Antony 3:12
28. Isis 1:23
29. Love Theme (reprise) 0:30
    Total time: 76:12

  Disc Two

1. Cleopatra's Barge 2:54
2. Most Becoming 1:38
3. Food 0:54
4. Antony and Cleopatra in Tarses 3:38
5. Bacchus 2:41
6. Antony and Cleopatra's Love 3:10
7. One Breath Closer 2:40
8. Love and Hate 2:16
9. Athens 2:37
10. Cleopatra's Ambition 1:15
11. War 0:44
12. Interlude / Sea Battle 14.36
13. My Love Is My Master 4:17
14. Two Heads 0:46
15. Better Late Than Never 2:37
16. Cleopatra's Son / Antony's Camp 2:19
17. Never Fear 3:16
18. Grant Me An Honorable Way to Die 2:37
19. Antony's Retreat / Transitions 2:02
20. Dying Is Less Than Love 4:26
21. Octavian the Victor 4:05
22. Antony...Wait 3:55
23. Epilogue 2:25
24. Exit Music (Antony and Cleopatra) 2:26
    Total time: 74:49

(2001年4月)

Alex North

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