A.I.
A.I. ARTIFICIAL INTELLIGENCE 作曲・指揮:ジョン・ウィリアムス (米Warner Bros. / 9 48096-2) |
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イギリスのSF作家ブライアン・オールディスの短編小説『スーパートイズ いつまでもつづく夏』を基に、スティーヴン・スピルバーグが自ら脚本を執筆し監督した作品(2001年製作)。出演はハーレイ・ジョエル・オスメント、ジュード・ロウ、フランシス・オコナー、サム・ロバーズ、ジェイク・トーマス、ブレンダン・グリーソン、ウィリアム・ハート、ジャック・エンジェル他。撮影はヤヌス・カミンスキー、ロボットの特殊メイクはスタン・ウィンストンが担当。近未来を舞台に、人を“愛する”という感情をインプット可能なロボットの少年デヴィッド(オスメント)が、自分を養子にした母親(オコナー)から愛してもらうために“本物の人間になる”方法を探し求めて旅に出る、というファンタジー(映画自体のレビューは「Quick! Film Review」をご参照)。
音楽は、この作品がスピルバーグとの17回目のコラボレーションとなるジョン・ウィリアムス。この映画の題名とテーマを最初に知った時には、スピルバーグが最も得意とする「E.T.」のようなエモーショナルでファンタスティックな映画を想像し、ドラマティックでスケールの大きいウィリアムスの音楽を期待したが、実際に映画を見てみるとかなり想像したものと違っていた。この作品はもともと故スタンリー・キューブリックが長年暖めていた企画であり、彼が残した約90ページのトリートメントをベースにスピルバーグが映画化したものである。つまりストーリー自体はキューブリックが書いたものであり、結局は“純正スピルバーグ印”の映画ではないということだろう(彼自身は「自分の集大成だ」と言っているが・・)。スピルバーグはこの映画に関するインタビューで、「キューブリックは知性面からアプローチするが、自分は感情面からアプローチする」と演出の手法の違いを語っているが、これはクリエイティヴなスタンスとしては大きな相違であり、そもそも一方が書いたストーリーを他方が演出するということ自体に無理があったような気がする。
ジョン・ウィリアムスのスコアも、このジャンルでのスピルバーグとのコラボレーション作品としては最も抑制された音楽の1つだろう。「The Mecha World」はロボットの世界を描いた躍動的でダイナミックな音楽だが、全体のトーンは非常にダークである。「Abandoned in the Woods」は主人公のデヴィッドが彼を養子にした母親のモニカに置き去りにされるシーンのトラジックなタッチの音楽で、力強い盛り上がりをみせる。「Replicas」「Cybertronics」等は非常に抑制された繊細な音楽。「Hide and Seek」はデヴィッドがモニカと隠れんぼをするシーンの音楽で、明るくファンタスティックなタッチの小品。「The Moon Rising」はデヴィッドたちがロボットのハンターに襲われるシーンのサスペンス音楽。「Stored Memories and Monica's Theme」の後半と「Where Dreams Are Born」で登場する“モニカのテーマ”は素朴でリリカルな曲で、バーバラ・ボニーの女声ソロが幻想的。彼女のヴォーカル・ソロは、デヴィッドが自分を本物の人間にしてくれると信じる“青い妖精”を捜し求めるシーンの「The Search for the Blue Fairy」でもフィーチャーされており、非常に美しい。ララ・ファビアンのヴォーカル、及び彼女とジョッシュ・グローバンのデュエットによる「For Always」という挿入歌は、“モニカのテーマ”のヴォーカル版。
全体として「シンドラーのリスト」や「ブライベート・ライアン」ほどの感動はないが、スピルバーグがこの映画で描こうとしたことを的確にサポートしているスコアで、ベテランらしい仕事だと思う。
(2001年7月)
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