10億ドルの頭脳   BILLION DOLLAR BRAIN

作曲:リチャード・ロドニー・ベネット
Composed by RICHARD RODNEY BENNETT

指揮:マーカス・ドッズ
Conducted by MARCUS DODS

(英Movietrack Classics / MTC 4644)


「国際諜報局」「パーマーの危機脱出」に続く、レン・デイトン原作のスパイ小説“ハリー・パーマー”シリーズの第3作で、1967年製作のイギリス映画。監督は「恋する女たち」(1969)「マーラー」(1974)「リストマニア」(1975)「アルタード・ステーツ/未知への挑戦」(1979)等のケン・ラッセルで、この作品が劇場映画メジャー・デビュー作。出演はマイケル・ケイン、エド・ベグリー、フランソワーズ・ドルレアック、オスカー・ホモルカ、スーザン・ジョージ、ガイ・ドールマン、ヴラデク・シェイバル他。脚本はジョン・マクグラス。製作はハリー・サルツマンとアンドレ・ド・トス。撮影はビリー・ウィリアムズ。タカ派将軍ミッドウィンター(ベグリー)率いる過激な反共組織のソ連壊滅計画を阻止しようとする、英国情報部員ハリー・パーマー(ケイン)の活躍を描く。

“ハリー・パーマー”シリーズの音楽は、第1作「国際諜報局」ジョン・バリー、第2作「パーマーの危機脱出」コンラッド・エルファースが担当しているが、この「10億ドルの頭脳」はクラシック音楽の作曲家としても知られるイギリス人のサー・リチャード・ロドニー・ベネットが作曲しており、ピアノとオーケストラを主体としたいかにも彼らしい華麗なサスペンス音楽となっている。冒頭の「Billion Dollar Brain (Main Theme)」はピアノとブラスによるサスペンスフルなイントロから、ピアノ3台が奏でる印象的なメインテーマへと展開。スパイ映画的なダークなタッチながらもロマンティシズムと気品を感じさせるところがベネットらしい。「Anya」「Kaarna」「Love Scene」等では、このメインの主題がフランスの電子楽器オンド・マルトノにより幻想的に演奏される。「The Church」はブラス主体のオーケストラによる威圧的なタッチ。「Ambush」はロシア風のマーチ。「Hoe Down」「Panic in the Brain」はダイナミックなサスペンス音楽。「Car Chase」はややコミカルなタッチ。「Midwinter's Army」はロシア的なタッチを織り込んだ9分半に及ぶハイテンションなサスペンス音楽。このスコアは、公開当時サントラLPがUAレーベルから出ていたが、今回MTCレーベルからリリースされたCDは、バリーの「国際諜報局」とのカップリングになっており、何故か劇中のセリフが独立したトラックとして挿入されている。

ベネットはジョン・バリーによる前作のスコアを聴いたことはなかったらしいが、ミシェル・ルグランが『The Bay of Angels』というギャンブルをテーマにした映画でピアノを多用していたのに感化され、この映画のためにオーケストラとグランド・ピアノ3台によるメインテーマを作曲したと語っている。また、スコア全体の色合いを決定付けるために、ストリングスやフルートといった調和的に聞こえる楽器を避け、パーカッションやブラス、ピアノ、そしてオンド・マルトノを使用したという。ベネットは一時期ルグランの映画音楽に心酔していたようだが、その他の映画音楽作曲家については「ハリウッドの偉大な作曲家たちに興味を持ったことはない。彼らの音楽には多大な敬意を表するが、影響を受けたことはない。自分より前から映画音楽の仕事を手がけていたレナード・ローゼンマン、ローレンス・ローゼンタール、ジェリー・ゴールドスミスといった人々を称賛している。1960年代にはミシェル・ルグランから大いに影響を受けたが、その後彼は自分のパロディを作曲しはじめた。非常に才能豊かな作曲家だったのに残念だ」と語っている。
(2002年4月)

Richard Rodney Bennett

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