ピックアップ・アーチスト THE PICK-UP ARTIST

作曲・指揮:ジョルジュ・ドルリュー
Composed and Conducted by GEORGES DELERUE

(未公開/TV)ロジャー・ムーア/シャーロック・ホームズ・イン・ニューヨーク SHERLOCK HOLMES IN NEW YORK

作曲:リチャード・ロドニー・ベネット
Composed by RICHARD RODNEY BENNETT

指揮:レナード・ローゼンマン
Conducted by LEONARD ROSENMAN

(米Intrada / Intrada Special Collection Volume 37)


20世紀フォックス社製作という以外に何の関連性もない2作品のスコアをカップリングにしたCD。ライナーノーツによれば、2作品とも「あまり出来のよくない映画に付けられた優れたスコアの例」とのことだが、かなり強引な理由による組み合わせである。また、私個人的には、「(未公開/TV)ロジャー・ムーア/シャーロック・ホームズ・イン・ニューヨーク」は、ムーアによる魅力的なホームズ像とベテラン俳優たちの共演が楽しめる映画で、好きな作品でもある。各々のスコアの収録時間が短く、1枚のアルバムとして出せる長さには足りなかったので、単純に一緒にしただけ、というのが実情だろう。

「ピックアップ・アーチスト(THE PICK-UP ARTIST)」は、1987年製作のアメリカ映画で、監督・脚本は「マッド・フィンガーズ」(1978)「(未公開)愛と死の天使」(1983)「(未公開)マンハッタン恋愛事情」(1997)等のジェームズ・トバック。出演はモリー・リングウォルド、ロバート・ダウニー・Jr.、デニス・ホッパー、ダニー・アイエロ、ミルドレッド・ダンノック、ハーヴェイ・カイテル、ブライアン・ハミル、タマラ・ブルーノ、ヴァネッサ・ウィリアムズ、アンジー・ケンプ、ポリー・ドレイパー、フレデリック・ケーラー、ロバート・タウン、ヴィクトリア・ジャクソン、ロレイン・ブラッコ、ボブ・ガントン、レニー・サントーニ他。撮影はゴードン・ウィリス。プレイボーイのジャック(ダウニー・Jr.)は、ギャングに命を狙われているアル中の父親(ホッパー)をもつ若い娘ランディ(リングウォルド)に一目惚れしたことで、父娘のトラブルに巻き込まれていく……、という青春コメディ。

いかにも他愛ないストーリーのラブ・コメだが、ジョルジュ・ドルリューのスコアは、例によって心を洗われるような美しい音楽。「New York」は、フルートとストリングス、ハープによる、ジェントルでリリカルかつ躍動的なメインの主題。「A Thing of Beauty」は、ピアノとストリングスによるジェントルな主題。「Happiness」は、リリカルでロマンティックなラウンジ・ジャズ。「The Loss」は、ややトラジックなタッチ。「The Win」は、メインの主題の静かなアレンジメントで、「The Theme」はトラジックなアレンジメント。「Together at Last」もメインの主題で締めくくる。

「(未公開/TV)ロジャー・ムーア/シャーロック・ホームズ・イン・ニューヨーク(SHERLOCK HOLMES IN NEW YORK)」は、1976年製作のアメリカのTV映画(日本では劇場未公開でビデオ発売済)で、監督は「モスキート爆撃隊」(1969)「地球最後の男 オメガマン」(1971)「(TV)刑事コロンボ/野望の果て」(1973)「(TV)リッチマン・プアマン/青春の炎」(1977)「(TV)炎の砦マサダ」(1981)等のボリス・セイガル。出演はロジャー・ムーア、ジョン・ヒューストン、パトリック・マクニー、シャーロット・ランプリング、デヴィッド・ハドルストン、シーヌ・ハッソ、ギグ・ヤング、レオン・エイムズ、ジョン・アボット、ジャッキー・クーガン、ジェフリー・ムーア他。脚本はアルヴィン・サピンスレイ。撮影はマイケル・D・マーグリーズ。世紀の銀行強盗を企てる宿敵モリアーティ教授(ヒューストン)を追ってニューヨークへとやって来たシャーロック・ホームズ(ムーア)とワトソン博士(マクニー)は、教授の犯罪を阻止すると共に、アイリーン・アドラー(ランプリング)を誘拐の危機から救う。ロジャー・ムーアは、イギリスが生んだ2大ヒーローであるジェームズ・ボンドとホームズの両方を演じたことがある唯一の俳優で、この映画ではヒューストン扮するモリアーティと対峙する場面でも、老優に全く引けを取らない風格を感じさせる名演を見せている。パトリック・マクニーは、クリストファー・リーがホームズを演じた「新シャーロック・ホームズ/ホームズとプリマドンナ(Sherlock Holmes and the Leading Lady)」「新シャーロック・ホームズ/ヴィクトリア瀑布の冒険(Sherlock Holmes and the Incident at Victoria Falls)」でもワトソン博士を演じており、ムーアとは「007/美しき獲物たち」でも共演している。ホームズがかつて愛したアドラーとの間に生まれた息子、スコット・アドラーをムーアの実子であるジェフリー・ムーアが演じている。

アメリカ製のTV映画に、イギリス人のリチャード・ロドニー・ベネットが、適切な英国調のスコアを提供。「Main Title」は、躍動的でクラシカルなタッチのメインタイトル。ジョン・アディスン作曲の傑作スコア「探偵・スルース」に少し似たタッチの主題。「Moriarty」は、シニスターなモリアーティ教授の主題で、カラフルに展開するサスペンス音楽。「Irene」は、チェロとヴァイオリン・ソロをフィーチャーしたロマンティックなアイリーン・アドラーの主題。「Holmes」は、メインの主題を織り込んだ曲。「The Boy」は、ミステリアスなタッチで、後半メインの主題が登場。「The Vaults」は、サスペンス調。「Irene and Sherlock」は、アイリーンの主題のバリエーション。「Finale & End Credits」は、アイリーンの主題からメインの主題へと展開して締めくくる。最後にボーナス・トラックとして、メインタイトルの映画で使われたやや短いバージョンが収録されている。アメリカ人のベテラン作曲家レナード・ローゼンマンがオーケストラの指揮を担当。シャーロック・ホームズ映画のスコアとしては、ミクロス・ローザ作曲の「シャーロック・ホームズの冒険(The Private Life of Sherlock Holmes)」(1970)ジョン・アディスン作曲の「シャーロック・ホームズの素敵な挑戦(The Seven-per-cent Solution)」(1976)ジョン・スコット作曲の「(未公開)恐怖の研究(A Study in Terror)」(1965)パトリック・ゴワーズ作曲の「(TV)シャーロック・ホームズの冒険(Sherlock Holmes)」(1980)マイケル・J・ルイス作曲の「(未公開/TV)シャーロック・ホームズ/バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」(1983)ブルース・ブロートン作曲の「ヤング・シャーロック ピラミッドの謎(Young Sherlock Holmes)」(1985)等と並ぶ傑作だろう。
(2006年10月)

Georges Delerue

Richard Rodney Bennett

Leonard Rosenman

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