マラソン マン MARATHON MAN
パララックス・ビュー THE PARALLAX VIEW
作曲・指揮:マイケル・スモール
Composed and Conducted by MICHAEL SMALL
(米Film Score Monthly / FSMCD Vol.13 No.5)
アメリカの映画音楽作曲家マイケル・スモール(1939〜2003)が1970年代に手がけた傑作サスペンス・スコア2作品をカップリングにしたCD。いずれもスモールの代表作と言えるスコアだが、パラマウントが権利を許諾したことでようやくサントラ盤がリリースされた。3000枚限定プレス。
「マラソン マン(MARATHON MAN)」は、1976年製作のアメリカ映画。監督は「遥か群衆を離れて」(1967)「真夜中のカーボーイ」(1969)「イナゴの日」(1975)「ヤンクス」(1979)「サンタリア・魔界怨霊」(1987)「パシフィック・ハイツ」(1990)「スウィーニー・トッド」(1997)等のジョン・シュレシンジャー(1926〜2003)。出演はダスティン・ホフマン、ローレンス・オリヴィエ、ロイ・シャイダー、ウィリアム・ディヴェイン、マルト・ケラー、フリッツ・ウィーヴァー、リチャード・ブライト、マーク・ローレンス、アレン・ジョセフ、ティート・ゴヤ、ベン・ドーヴァ、ルー・ギルバート、ジャック・マラン、ジェームズ・ウィン・ウー、トリート・ウィリアムス他。「動く標的」(1966)「明日に向って撃て!」(1969)「ホット・ロック」(1971)「大統領の陰謀」(1976)「マジック」(1978)「プリンセス・ブライド・ストーリー」(1987)「ミザリー」(1990)「マーヴェリック」(1994)「目撃」(1997)「将軍の娘/エリザベス・キャンベル」(1999)等のウィリアム・ゴールドマンが自作の原作小説を基に脚本を執筆。撮影はコンラッド・L・ホール。製作はロバート・エヴァンスとシドニー・ベッカーマン。ニューヨークでマラソンのトレーニング中だった大学院生のベイブ(ホフマン)は、交通事故を目撃する。一方パリでは、アメリカ政府機関のエージェント、ドク(シャイダー)が謎の殺し屋に命を狙われる。ニューヨークで兄が事故死したと知ったナチスの残党ゼル(オリヴィエ)は、南米ウルグアイから米国へと向う。ベイブは大学の図書館でスイス人の女学生エルザ(ケラー)と知り合い、仲良くなるが、公園でデート中に2人の男たちに襲われる……。一見無関係に見えるエピソードの積み重ねにより徐々に陰謀が明らかになっていくウィリアム・ゴールドマンらしい凝りに凝ったストーリー展開が秀逸なサスペンス映画の傑作。第二次大戦中のナチス捕虜収容所で歯科医だったゼル(モデルはヨーゼフ・メンゲレ)が、ベイブの“健康な”歯をドリルで拷問するシーンの「痛さ」の演出は強烈。冷酷な悪役を見事に演じたイギリスの名優サー・ローレンス・オリヴィエは、1976年度アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされ、ゴールデン・グローブの助演男優賞を受賞している(プロデューサーのロバート・エヴァンスは当初からゼル役にオリヴィエを考えていたが、老優が病弱のため保険がかけられないリスクがあった。一方、リチャード・ウィドマークがゼル役を強く希望したが、エヴァンスは保険会社を説得してオリヴィエを確保した)。日本でのテレビ放映時の日本語吹替キャストは、ダスティン・ホフマン(野沢那智)、ローレンス・オリヴィエ(早野寿郎)、ロイ・シャイダー(羽佐間道夫)、ウィリアム・ディヴェイン(中田浩二)、マルト・ケラー(中島 葵)、フリッツ・ウィーヴァー(大木民夫)、マーク・ローレンス(上田敏也)、ジャック・マラン(藤本 譲)他だった。
マイケル・スモールのスコアは、冒頭の「Main Title」が、ストリングスとベル・ツリー、悲鳴のような電子音を組み合わせた不吉なイントロから電子ピアノによるメランコリックなベイブの主題へ展開するメインタイトル。映画のパラノイアックな雰囲気を見事に表現した曲。続く「Tragedy at the Truck」「In Hot Pursuit / Out of the Race」「Bellman and Pram」は、不気味なサスペンス音楽。「The Doll's Demise」は、ドクが爆弾で暗殺されそうになるシーンの不吉な主題。「Biesenthal Flashback」は、抑制されたサスペンス音楽。「Soccer Ball」は、ピアノによる不吉な主題で、この主題は何度も登場する。「Elsa's Intrigue」は、ベイブが図書館でエルザと知り合い、デートの約束をするシーンのベイブの主題による曲。「Szell Arrives」は、ゼルがウルグアイからやって来るシーンのピアノによる不吉な主題。「Love Scene」は、ベイブとエルザのラヴシーンを描写したピアノソロとストリングスによるベイブの主題で、後半ドラマティックに盛り上がる。「The Letter」は、ベイブが兄のドクに手紙を書くシーンのベイブの主題。「Airport」は、ケネディ空港に到着したゼルを部下のカール(ブライト)とエアハルト(ローレンス)が出迎えるシーンのダークでストイックなサスペンス音楽。「Resemble Diamonds / Fountain Appointment」も、不吉なピアノの主題。「Scylla Stabbed」は、ゼルがドクを仕込みナイフで刺すシーンの不気味なサスペンス音楽。「Doc Dies」は、ドクがベイブの腕の中で死ぬシーンのベイブの主題だが、映画では未使用。「Nightmare of the Past」は、殺害現場にやって来たドクの同僚のジェインウェイ(ディヴェイン)がベイブに会うシーンの、ベイブの主題を織り込んだダークで不安定な曲。「Bathroom Terror」は、ベイブが自室で襲われるシーンのサスペンス音楽。「False Rescue」は、ゼルたちに捕らわれて拷問されていたベイブをジェインウェイが救出するシーンのサスペンスアクション音楽。「Betrayal / Drilling Horror」の後半は、歯にドリルで穴を開ける拷問シーンの音楽。「Escape」「Chase Pt.I」「Chase Pt.II」は、ベイブがゼル一味から逃走するシーンのハイテンションなサスペンスアクション音楽。「Urgent Phone Call」は、逃げ切ったベイブが公衆電話でエルザを呼び出すシーンの、ベイブの主題を織り込んだ抑制されたサスペンス音楽。「Calculated Risk / Gang Moves In」も、抑制されたサスペンス。「House on the Hill / Approaching Showdown」は、ベイブがエルザの車で郊外の別荘へと向うシーンのベイブの主題。「Jewelry Market Pt.I」「Market Continuation」「The Recognition」「Szell Escapes」は、ゼルがダイヤの価値を確かめるためにマンハッタンの宝石商街に行き、過去に収容所にいた街中の老女や店員のユダヤ人たちに正体を見抜かれて逃げ惑うシーンの不気味なサスペンス音楽。老女が「Der Weisse Engel!(白い天使:白髪のゼルの仇名)」と叫びながらゼルを追いかけようとするシーンは強烈。「All That Glitters Pt.I / All That Glitters Pt.II」は、ゼルが貸し金庫の中からダイヤを取り出すシーンの不吉なピアノの主題。「Too Close / Essen」は、銀行を出たゼルをベイブが待ち構えているシーンのサスペンス音楽。「Diamonds of Death」は、ゼルとベイブの対決シーンのダイナミックなサスペンスアクション音楽。「Babe Tosses Gun」は、ストイックなタッチから後半トランペットソロによるベイブの主題へ。「End Credits」は、ピアノ、ストリングス、トランペットによるベイブの主題のエンドクレジット。最後にメインタイトル等の代替テイク3曲のボーナストラック入り。
「パララックス・ビュー(THE PARALLAX VIEW)」は、1974年製作のアメリカ映画。製作・監督は「コールガール」(1971)「大統領の陰謀」(1976)「ソフィーの選択」(1982)「推定無罪」(1990)「隣人」(1992)「ペリカン文書」(1993)「デビル」(1997)等のアラン・J・パクラ(1928〜1998)。出演はウォーレン・ベイティ、ポーラ・プレンティス、ウィリアム・ダニエルズ、ウォルター・マッギン、ヒューム・クローニン、ケリー・ソードセン、チャック・ウォーターズ、アール・ヒンドマン、ウィリアム・ジョイス、ベティー・ジョンソン、ビル・マッキニー、ジョー・アン・ハリス、テッド・ゲーリング、リチャード・ブル、アンソニー・ザーブ他。ローレン・シンガーの原作を基にデヴィッド・ガイラーとロレンツォ・センプル・Jr.が脚本を執筆。撮影はゴードン・ウィリス。次期大統領候補と目されるチャールズ・キャロル上院議員(ジョイス)がシアトルで兇弾に倒れるが、事件の調査委員会は狂信的愛国者の単独犯行であると発表し、事件は忘れ去られる。3年後、ロス・アンジェルスの新聞記者ジョセフ・フレイディ(ベイティ)の自宅に女性ジャーナリストでかつての恋人リー・カーター(プレンティス)がやって来て、自分が上院議員暗殺時の目撃者の1人で、これまでにその内の6人が事故死しており、自分もきっと殺されると言う。フレイディはその話を信じないが、数日後、リーは死体となって発見される。事件を独自に調査し始めたフレイディは、やがて“パララックス・コーポレーション”という暗殺組織の存在を突き止める……。この作品は、1975年度アボリアッツ・ファンタスティック映画祭の批評家賞を受賞している。
マイケル・スモールのスコアは、「Commission
and Main Title」が、不吉で不安定なタッチから荘厳な主題によるメインタイトルへ展開。「Morgue」も、不吉なタッチからメインの主題へ。「Sheriff's
House」は、フルートによる不吉な主題。「Car Chase」は、カントリー調のフィドルを織り込んだビジーでダイナミックなアクション音楽。「Testing
Center」は、バス・フルート、ハープと電子楽器による抑制されたサスペンス音楽。「Out to Sea」は、メインの主題のバリエーション。「Slide
of Art / Austin Sleeps」は、不吉なサスペンス音楽。「Parallax Test」は、身分を偽ってパララックス社に入ったフレイディが視覚反応テストを受けるシーンの、カントリー・ポップ調の明るく爽やかなソース曲。「Art
in Cafeteria / Suitcase Bomb」は、ハイテンションなサスペンス音楽。スモールが得意とするタッチで、職人的な巧さ。「Gunmen
Search」も、抑制されたサスペンス音楽。「Joe's Final Run」は、メインの主題からサスペンスを盛り上げていく。ラストの「End
Title」は、虚ろに響くミリタリー調のマーチによるエンドタイトル。マイケル・スモールは、アラン・J・パクラ監督と「コールガール(Klute)」(1971)「(未公開)カムズ・ア・ホースマン(Comes
a Horseman)」(1978)「(未公開)ドリーム・ラバー(Dream
Lover)」(1986)「(未公開)オーファンズ(Orphans)」(1987)「隣人(Consenting Adults)」(1992)等でもコラボレートしている。
(2010年6月)
Michael Small
Soundtrack Reviewに戻る
Copyright (C) 2010 Hitoshi Sakagami. All Rights Reserved.