素晴らしきヒコーキ野郎 THOSE MAGNIFICENT MEN IN THEIR FLYING MACHINES, OR HOW I FLEW FROM LONDON TO PARIS IN 25 HOURS AND 11 MINUTES
作曲・指揮:ロン・グッドウィン
Composed and Conducted by RON GOODWIN
(米Intrada / Intrada Special Collection Volume 161)
1965年製作のイギリス映画。監督は「史上最大の作戦」(1962)「バルジ大作戦」(1965)「モンテカルロ・ラリー」(1969)「太陽にかける橋/ペーパー・タイガー」(1975)等のケン・アナキン。出演はステュアート・ホイットマン、サラ・マイルズ、ジェームズ・フォックス、アルベルト・ソルディ、ロバート・モーレイ、ゲルト・フレーベ、ジャン=ピエール・カッセル、イリナ・デミック、石原裕次郎、エリック・サイクス、レッド・スケルトン、テリー=トーマス、ベニー・ヒル、フローラ・ロブソン、サム・ワナメイカー、モーリス・デンハム、ゴードン・ジャクソン他。脚本は「泥棒貴族」(1966)「北海ハイジャック」(1980)等のジャック・デイヴィスとケン・アナキン。撮影はクリストファー・チャリス。ライト兄弟による飛行の成功に刺激され、世界中の冒険家たちが空飛ぶ機械に乗ろうとしのぎを削っていた頃の1910年、世界最初のロンドン=パリ間飛行レースが英国の新聞王ローンズリー卿(モーレイ)により開催されることになった。破格の賞金を目当てに、ローンズリーの娘パトリシア(マイルズ)と恋仲のイギリス人リチャード・メイズ(フォックス)、アメリカ西部からやって来たオーヴィル・ニュートン(ホイットマン)、女たらしのフランス人ピエール・デュボワ(カッセル)、激情的なイタリア人貴族エミリオ・ポンティチェリ伯爵(ソルディ)、高慢なドイツ軍人マンフレッド・フォン・ホルシュタイン大佐(フレーベ)、日本人飛行士の山本(石原)たちが、主催地のドーヴァーに集まる。参加者の1人で、目的のためには手段を選ばない狡猾なイギリス人パーシー・ウェア=アーミテイジ卿(テリー=トーマス)は、競争相手を脱落させるために下剤入りの酒を呑ませようとしたり、相手の飛行機に細工したりと姑息な作戦に出るが……。各国の個性派スターたちをキャストした、大らかでのんびりしたスラプスティック・コメディ。1965年度アカデミー賞の脚本賞と英国アカデミー賞の撮影賞(カラー)にノミネートされ、英国アカデミー賞の衣装デザイン賞(カラー)を受賞している。1969年には同じケン・アナキン監督=ジャック・デイヴィス脚本によるカー・レース版の続編「モンテカルロ・ラリー(THOSE DARING YOUNG MEN IN THEIR JAUNTY JALOPIES)」が製作されている。
音楽はイギリスの名手ロン・グッドウィンが作曲しており、彼は続編の「モンテカルロ・ラリー」のスコアも手がけている。138分の映画中に120分近い音楽が、まさに“Wall-to-Wall”という感じで豪快に展開するスコアで、各国のカラーを表現するためにオペラや国歌、マーチ、ウインナワルツ、民謡、ポップソング等の引用が全篇に散りばめられている。冒頭の「Prologue / Titles」は、初期の飛行の試みをドキュメンタリー風にコラージュにした白黒のプロローグと、それに続くメインタイトルの音楽で、場末の小楽団風の演奏による調子のはずれたフォックスのファンファーレで始まり、様々な短い主題がメドレーで展開するコミカルなプロローグ(ここだけモノラル)から、いきなりステレオになり(ここで映画も画面のサイズが変わる)オーケストラによる前奏に続いて男声コーラスによる陽気な主題歌へと展開。この明るくスラプスティックなメインの主題が、いかにもグッドウィンらしく、実に楽しい。「Follow Me / Patricia with Cycle」は、躍動的なタッチからジェントルでロマンティックなラヴテーマ、ウィリアム・ウォルトン風の荘厳なマーチへと展開。このパトリシアとオーヴィルのラヴテーマは、「Orvil's Hangar」「Orvil Romances」等で何度も登場する。「Beach in France / Von Holstein Exits」は、ビジーでダイナミックなマーチからドイツ国家、明るく快活なマーチ、ハーモニカによるのどかなウエスタン調のオーヴィルの主題、舞踏音楽風の主題へとカラフルに展開。「Japan Theme」は、オリエンタルなタッチの山本の主題。「Patricia and Orvil with Cycle」は、メインのマーチからオーヴィルの主題へ。「Rawnsley Drives Off / Ornithopter / Telescope」は、大らかな主題から明るく快活なマーチ、メインの主題のビジーなバリエーションへと展開。「“Frere Jacques”」は、フランスの民謡『フレール・ジャック』の引用。「Richard's Hangar」は、ラヴテーマからオーヴィルの主題へ。「“Dolly Gray”」は、オッフェンバックの『天国と地獄』。「Patricia in Restaurant」は、オーヴィルの主題のバリエーション。「Demoiselle Take-Off」は、躍動的かつコミカルなアクション音楽。「Runaway Plane」は、ビジーでダイナミックなアクション音楽で、途中でワーグナーの『ワルキューレの騎行』が登場。「Cliffs of Dover / Strauss Waltz」は、メインの主題からコミカルなタッチ、シュトラウスの『美しく青きドナウ』へ。「Von Holstein Into Sea」も、ウインナワルツから快活なマーチへ。「It's Yamamoto」は、荘厳な山本の主題。「The Marseillaise / Balloon Sequence」は、『ラ・マルセイエーズ』からサスペンス調へと展開。「End Act I」は、メインの主題による第1幕の終曲。CD2の冒頭の「Intermission Music」は、様々な主題がメドレーで展開するインターミッションの音楽で、最後に主題歌がリプライズされる。グッドウィンがコンサートでよく演奏した曲で、彼の自作自演アルバムにも含まれている。「Crowds Arrive」は、メインのマーチ。「The Competitors」は、ジョン・フィリップ・スーザ作曲の『自由の鐘』。「Yamamoto Crash / Demoiselle Takes Off / Ponticelli at Convent」は、山本の主題からメインのビジーなバリエーション等へと展開。「Unloading Boat / All Ashore」は、大らかな主題。「Von Holstein and Seagull / Sir Percy Away / Boxkite / Avro with Train / Pierre Through Haystack」は、ビジーでダイナミックなアクション音楽から大らかな主題、オーヴィルの主題、メインの躍動的なバリエーション等へと展開。「“Rule Britannia”/ Ponticelli Rolls Plane / Band: The Marseillaise」は、『ルール・ブリタニア』から明るく躍動的な主題、『ラ・マルセイエーズ』へと展開。「Pierre Sees Betty / Finish of Race / End of Picture」は、ジェントルな主題からラヴテーマ、オーヴィルの主題と展開し、最後は主題歌のリプライズで締めくくる。最初から最後まで豪快かつパワフルな、まさに“ヴィンテージ・グッドウィン”。
このスコアは公開当時にサントラLPがリリースされていたが、これは映画の台詞を含んだアルバムでグッドウィンの音楽は30分未満しか収録されておらず、またステレオ盤とモノラル盤の2種類が発売されていたにもかかわらず、中身の大半はモノラル音源だった。この米IntradaレーベルによるCDは、フォックスのアーカイヴとロン・グッドウィン財団の提供によるステレオのサントラ音源を利用したコンプリート・スコアの初リリース。CD2枚組で2時間近い音楽を収録。オリジナルのサントラLPと同じロナルド・シアールのコミカルなイラストによるジャケットが楽しい。2000枚限定プレス。
ところで、この映画のタイトルの前半「THOSE MAGNIFICENT MEN IN THEIR FLYING
MACHINES」は、このサイトのタイトル「THOSE MAGNIFICENT FILM MUSIC COMPOSERS」の元ネタで、「素晴らしき映画音楽作曲家たち」というタイトルもこの映画の邦題から取ったもの。
(2011年4月)
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