2009年に英マンチェスターの名門オーケストラ、ハレ管弦楽団(The Halle
Orchestra)が、アメリカ出身でイギリスを拠点に活動する映画音楽作曲家カール・デイヴィス(1936〜)に、少年少女合唱団用の楽曲を委託し、これを受けてデイヴィスが兼ねてから関心のあった実話をテーマに作曲した作品(映画音楽ではない)。第二次世界大戦中の1938〜1939年にイギリスが行った、約1万のユダヤ人の子供たちをイギリスに疎開させる一時的里親政策、いわゆる“Kindertransport(子供輸送)”を、子供たちのセリフと歌とオーケストラによる演奏に描いた作品。子供たちは、ナチスドイツの脅威から逃れるため、ベルリン(ドイツ)、ウィーン(オーストリア)、プラハ(チェコスロヴァキア)から列車に乗せられ、ロンドンのリヴァプール・ストリート駅へと移送され、それぞれの里親のもとへと送られた。戦争が終わり、多くの子供たちが生き延びた実の両親のもとへ、また、アメリカをはじめとする各国に散っていったという。子供たちの視点から語られるセリフは、『ぼくはおこった』でイギリスのマザーグース賞と日本の絵本にっぽん賞特別賞を受賞し、『アナグマのもちよりパーティ』『アナグマさんはごきげんななめ』『はじめましてスミレひめよ』『スミレひめのにわづくり』『魔女ネコ日記』シリーズ等の作品が日本を含めた26言語に翻訳されて出版されているイギリスの児童文学作家ハーウィン・オラムが執筆。
カール・デイヴィスの音楽は、白黒の感覚を出すために、木管楽器、金管楽器を排し、弦楽器と打楽器、ピアノにより演奏されている。楽曲は、全編がナレーションとコーラス、オーケストラの演奏により構成されており、CDに付属のブックレット(全80頁)には全てのセリフと歌詞を収録。「Prelude」は、静かにメランコリックな前奏曲。「Before
This」は、ドラマティックな曲。「Night of Breaking
Glass」は、ヨハン・シュトラウス2世作曲の有名なワルツ『美しく青きドナウ』を織り込んだスリリングでドラマティックな曲。「Train
Rumours」は、メランコリックなタッチ。「A Big
Adventure」は、ジェントルなタッチ。「The Journey
Begins」は、荘厳で大らかな曲。「A Ring in the Heel of a Shoe」「Goodbye to Our
Treasures」「Sudden Love and Kindness」は、ストイックでドラマティックな曲。「Sun
Rising on Another World」は、ジェントルで感動的な曲。「English
Trains」は、明るく快活なタッチ。「Finale: Sun Rising on Another World
(reprise)」は、明るく大らかで感動的なコーラスにより締めくくる。本作品は2012年にマンチェスターで初演され、2013年にチェコ語に翻訳されてプラハでも演奏されたが、これはその際のチェコ国立交響楽団と合唱団を起用して、英語により再録音されたもの(2013年10月、2014年1月録音)。
続く「Liberation」全7曲は、1994年にカール・デイヴィスが米ロス・アンジェルスのサイモン・ウィーゼンタール・センター(ホロコーストの記録保存や反ユダヤ主義の監視を行う非政府組織)から委託されてアーノルド・シュワルツマン監督の第二次大戦ドキュメンタリー映画「LIBERATION」のために作曲したスコア。スコアの録音の時点で映画の編集が完了していなかったため、映画のテーマに合わせてライブラリー・ミュージック的に自由に作曲したという。「Overlord」は、明るく勇壮なマーチ。「Annihilation」は、ダークでトラジックな曲。「German
Aggression」は、ストイックなミリタリスティックマーチで後半ダイナミックなタッチへ。「Massacre of
Children」は、繊細でメランコリックな曲。「Gathering
Forces」は、ストイックで荘厳な曲。「The Death
Camps」は、静かにメランコリックな曲。「Free at Last:
Liberation」は、静かに荘厳な曲。「La Marseillaise
(France)」は、フランスの国歌『ラ・マルセイエーズ』で、シャルル・ドゴール大統領が解放されたパリの街を歩くシーンに流れる。「Rule
Britannia: United
Kingdom」は、トマス・アーン作曲によるイギリスの愛国歌『ルール・ブリタニア』で、バッキンガム宮殿のバルコニーから戦争の勝利を祝うチャーチル首相のシーンに流れる。「Israel
[Hatikvah (The Hope), "While yet within the
heart?"]」は、イスラエルの国歌『ハティクヴァ(希望)』で、モシュ・シュルスタインの詩『トレブリンカの靴』の朗読に重なって流れる。
(2015年2月)
Carl Davis
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