ヘイトフル・エイト  THE HATEFUL EIGHT

作曲・指揮:エンニオ・モリコーネ
Composed and Conducted by ENNIO MORRICONE

演奏:チェコ国立交響楽団
Performed by Czech National Symphony Orchestra

(米Decca / B0024434-02)

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2015年製作のアメリカ映画(日本公開は2016年2月)。監督・脚本は「レザボア・ドッグス」(1991)「パルプ・フィクション」(1994)「フォー・ルームス」(1995)「ジャッキー・ブラウン」(1997)「キル・ビル」(2003)「デス・プルーフ in グラインドハウス」(2007)「イングロリアス・バスターズ」(2009)「ジャンゴ 繋がれざる者」(2012)等のクエンティン・タランティーノ(1963〜)。出演はサミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンズ、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン、ジェームズ・パークス、デイナ・グーリエ、ゾーイ・ベル、リー・ホースリー、ジーン・ジョーンズ、キース・ジェファーソン、クレイグ・スターク、チャニング・テイタム他。撮影はロバート・リチャードソン。猛吹雪によって山の上のロッジに閉じ込められた男7人と1人の女の虚々実々の駆け引きを描くミステリー・タッチのウエスタン。南北戦争後のワイオミング。賞金稼ぎのジョン・ルース(ラッセル)と手錠でつながれた賞金首の女デイジー・ドマーグ(リー)が乗った駅馬車に、レッドロックを目指す元騎兵隊の賞金稼ぎマーキス・ウォーレン少佐(ジャクソン)がお尋ね者たちの死体と共に乗り込んでくる。更にレッドロックの新任保安官だというクリス・マニックス(ゴギンズ)を拾った駅馬車は、猛吹雪を避け道中にある「ミニーの紳士洋品店」に立ち寄る。そこに店主ミニーの姿はなく、メキシコ人のボブ(ビチル)が店番をしていた。店には他に絞首刑執行人のオズワルド・モブレー(ロス)、カウボーイのジョー・ゲイジ(マドセン)、黒人を大量虐殺した南軍の元将軍サンディ・スミザーズ(ダーン)という先客がいた。彼らは成り行きから、この店で一晩を一緒に過ごすことになるが……。6つの章(Chapter)から構成されたドラマで、人種偏見主義者のスミザーズ将軍を黒人のウォーレンが挑発するあたりからの展開がいかにもタランティーノらしい。タランティーノはこの映画で「カーツーム」(1966)以来使われていなかったウルトラパナビジョン70方式(アスペクト比2.75:1)による70mmフィルム撮影を50年ぶりに復活させた(アスペクト比2.35:1のシネマスコープより横長サイズ)。2015年度アカデミー賞の助演女優賞(ジェニファー・ジェイソン・リー)、撮影賞にノミネートされエンニオ・モリコーネが作曲賞を受賞している他、同年のゴールデン・グローブの助演女優賞、脚本賞にノミネートされ音楽賞を受賞している。

音楽はエンニオ・モリコーネ(1928〜)がオリジナルスコアを作曲しており、彼はこの作品で上述の通りアカデミー賞の作曲賞を初受賞している(これまでに「天国の日々」「ミッション」「アンタッチャブル」「バグジー」「マレーナ」で作曲賞にノミネートされ、2006に名誉賞を受賞)。タランティーノは過去に「キル・ビル」(2003)「デス・プルーフ in グラインドハウス」(2007)「イングロリアス・バスターズ」(2009)「ジャンゴ 繋がれざる者」(2012)でモリコーネの楽曲を使用しているが、モリコーネはこういった既成曲の使用に「一貫性が無い」と批判的で、劇中の暴力描写の激しさも観るに耐えないとコメントしていた(「ジャンゴ 繋がれざる者」では、オリジナル曲『アンコラ・キ』を提供している)。今回タランティーノはローマのモリコーネ宅を訪問し、オリジナルスコアの作曲を直接交渉。その時点では主題曲のみを作曲すると合意したモリコーネは、結果として映画全体のスコアを作曲し、プラハで自らオーケストラを指揮して録音した。タランティーノが自作にオリジナルスコアを使用するのは、この作品が初めてで、モリコーネの大ファンである彼にとっては長年の夢が実現した体験だったという。

冒頭の「L'ultima Diligenza Di Red Rock」は、モリコーネが過去に犯罪サスペンス映画等に書いたスコアのタッチ(タランティーノによれば「ウエスタンというよりホラー映画の音楽」)で、押し殺した怒りが暴発に向けてエスカレートしていくように、同じ主題の繰り返しがオーケストラにより徐々に盛り上がっていく曲。ファゴット、コントラファゴット、チューバといった重低音の楽器を主体に演奏されており、モリコーネが過去にセルジオ・レオーネのウエスタンに書いたスコアを思い出させる男声コーラスも入る。この主題がスコア全体を通して様々なバリエーションで繰り返される。「Overture」は、静かなイントロからメインの主題へと展開する序曲(全米で70mmフィルムによるロードショー・バージョンがクリスマスに限定公開された際、本編が始まる前に流れた)。「Narratore letterario」は、メインの主題のバリエーションから後半ドラマティックなサスペンス音楽へと展開。「Neve」は、12分間におよぶダークでドラマティックなサスペンス音楽で、「Sangue E Neve」でも繰り返される。「Sei Cavalli」は、パーカッシヴでダイナミックな曲。「Raggi Di Sole Sulla Montagna」「L'inferno Bianco」は、アブストラクトなタッチのサスペンス音楽。「I Quattro Passeggeri」「La Musica Prima Del Massacro」も、メインの主題のバリエーション。「La Lettera Di Lincoln」は、荘厳なファンファーレ風のトランペット・ソロ(演奏はヤン・ハセノール)。ラストの「La Puntura Della Morte」は、短いクレッシェンド。

その他、ジャクソン、ラッセル、リー、ゴギンズ、ビチル、ロス、マドセン、ダーンによる劇中のセリフ、及び挿入歌としてアメリカのロック/ブルース・デュオ「ザ・ホワイト・ストライプス」による「Apple Blossom」、ジェニファー・ジェイソン・リーが劇中でギターを弾きながら歌うオーストラリア民謡「Jim Jones at Botany Bay」、デヴィッド・ヘスによる「Now You're All Alone」、ロイ・オービソンによる「There Won't Be Many Coming Home」を収録。

尚、劇中ではモリコーネが過去に作曲した「エクソシスト2」(1977)の『リーガンのテーマ』と「遊星からの物体X」(1982)からの数曲が使用されているが、このサントラ盤には収録されていない(せっかくオリジナルスコアを作曲してもらいながらも、結局既成曲を流すところがタランティーノらしいが)。モリコーネにとっては1981年の「(未公開)OCCHIO ALLA PENNA」(監督:ミケレ・ルーポ、出演:バッド・スペンサー)以来34年ぶりのウエスタン・スコア。
(2016年3月)

Ennio Morricone

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