アベル・コルジェニオウスキ初期演劇音楽集 ABEL KORZENIOWSKI: EARLY WORKS

作曲・指揮:アベル・コルジェニオウスキ
Composed and Conducted by ABEL KORZENIOWSKI

(独Caldera Records / C6013)

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<収録曲>

1. わたしは英国王に給仕した I Served the King of England
2. オデュッセイア The Odyssey
3. カフカ Kafka
4. アンティゴネー Antigone
5. テンペスト The Tempest


「シングルマン」(2009)「ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋」(2011)
でゴールデン・グローブの音楽賞にノミネートされたポーランド出身の作曲家アベル・コルジェニオウスキ(1972〜)が、キャリアの初期に手がけた舞台演劇のスコアを集めたコンピレーション(CD2枚組)。

1. わたしは英国王に給仕した(I SERVED THE KING OF ENGLAND)

2003年にポーランドのワルシャワで初演された演劇で、演出はピョートル・チェシュラク。20世紀後半のチェコ文学を代表する小説家ボフミル・フラバル(1914〜1997)の原作『わたしは英国王に給仕した』を基にしており、この原作は日本で2008年に劇場公開されたチェコ=スロヴァキア合作映画「英国王 給仕人に乾杯!(OBSLUHOVAL JSEM ANGLICKEHO KRALE)」(2006/監督・脚本:イジー・メンツェル、出演:イヴァン・バルネフ、音楽:アレシュ・ブジェジナ)として映画化もされている。百万長者になることを夢見てホテルの給仕見習いとなったチェコ人の若者の波瀾の人生を、ナチス占領から共産主義へと移行するチェコを舞台に描く。
アベル・コルジェニオウスキのスコアは、ハンマード・ダルシマー(打弦楽器)とアコーディオンをフィーチャーしており、チェコ出身の作曲家アントニン・レオポルト・ドヴォルザーク(1841〜1904年)とベドルジハ・スメタナ(1824〜1884)の音楽にインスパイアされているという。「Danube River」は、リズミックでスリリングな曲。「Dumka」は、メランコリックなタッチ。「Tango」は、躍動的でドラマティックなタンゴ。「Cenacle」は、ジェントルな曲。「Slava」も、躍動的なタッチ。

2. オデュッセイア(THE ODYSSEY)

2005年にポーランドのワルシャワで初演された演劇で、演出はキリアン・ヤロスラフ。詩人ホメーロスの作として紀元前8世紀頃より伝承された古代ギリシアの長編叙事詩で、イタケーの王である英雄オデュッセウスがトロイア戦争の勝利の後に凱旋する途中の10年間におよぶ漂泊を描く『オデュッセイア』を基にしている。
コルジェニオウスキのスコアは、トランペットのような音色の木製のパイプ「Zink」等の中世楽器や、爆発・叫びといった効果音を織り込んだもので、このスコアの作曲のために古代ギリシャ音楽の理論を深く研究したという。「Odysseus' Theme」は、静かにメランコリックなメインテーマ。「Athena」は、民族音楽風の美しい曲。「Circe」は、パーカッションをフィーチャーしたストイックなタッチの曲。「Maenads」は、躍動的でスリリングなタッチ。「The Cows of Helios」は、効果音を織り込んだリズミックでダイナミックな曲。「Penelope's Theme」は、民族楽器をフィーチャーしたペネロペ王妃の主題。「Sirens」「The Trojans」は、メランコリックなタッチ。「Orgy」は、リズミックでダイナミックな曲。

3. カフカ(KAFKA)

2001年にポーランドのクラクフで初演された演劇で、演出はトマシュ・ヴィソツキー。『変身』『審判』『城』等で知られるチェコ出身のドイツ語作家フランツ・カフカ(1883〜1924)をテーマにした演劇。
コルジェニオウスキのスコアは、「Memoirs」が、ピアノ、ギター、アコーディオン、サックス等をフィーチャーした静かにメランコリックな曲。「Dance Obscene」は、アブストラクトでやや調子のはずれた舞踏音楽で、実際の舞台では役者たちによるおならの“効果音”が付加されていたという(この録音には入っていないが)。「Amalia」は、ピアノ、アコーディオン等によるメランコリックな曲。「Intermezzo」は、ややダークで不吉なタッチの曲。

4. アンティゴネー(ANTIGONE)

1996年にポーランドのクラクフで初演された演劇で、演出はヴウォジミェシュ・ヌルコフスキーソポクレース作のギリシア悲劇『アンティゴネー』を基にしており、ギリシア神話に登場するテーバイの王女の生涯を描く。
コルジェニオウスキのスコアは、全編がギリシャ語のコーラスで演奏されており、「Stasimon I」は、幻想的で荘厳なタッチ。「Stasimon II」は、ダークで不気味なタッチから荘厳な主題へと展開。「Stasimon III」「Stasimon V」は、躍動的でダイナミック。

5. テンペスト THE TEMPEST

2003年にポーランドのワルシャワで初演された演劇で、演出はスタニスラフ・バランチャック。イギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピア(1564〜1616)の最後の作品とされるロマンス劇で、孤島に追放された前ミラノ大公プロスペローの孤独と復讐を描くドラマ。
コルジェニオウスキのスコアは、ストリングスにコーラスを加えた演奏で、「Song of Time」「Song of Time II」は、ダークでメランコリックなタッチ。「Dance of Tempest」「Arliel's Dance」「Dance of Fertility」は、躍動的でドラマティック。「Ding-Dong」「Ariel's Tears」「Dance of Love」「Love Theme」は、メランコリックな曲。「Song of Light」は、荘厳でドラマティックなコーラス曲。

ボーナスとしてアベル・コルジェニオウスキのインタビュー音源(約22分)へのリンクが含まれており、ここで彼は作曲家から見た演劇の音楽と映画音楽との違いについてや、初めて映画音楽の仕事をオファーされた経緯等について語っている。飽くまで映画音楽作曲家になることが最終目標だったらしく、今ではロス・アンジェルスに移住し、ハリウッドのサインが窓から見える家に住んでいる、と話しているのが印象的。

(2016年5月)

Abel Korzeniowski

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