八甲田山 HAKKODASAN(MT.HAKKODA)
作曲:芥川也寸志
Composed by YASUSHI AKUTAGAWA
(CINEMA-KAN Label / CINK 78-79)
1977年製作の日本映画。監督は「潮騒」(1971)「日本沈没」(1973)「聖職の碑」(1978)「動乱」(1980)「海峡」(1982)「小説吉田学校」(1983)等の森谷司郎(1931〜1984)。出演は高倉
健、北大路欣也、三國連太郎、加山雄三、緒形 拳、栗原小巻、加賀まりこ、秋吉久美子、丹波哲郎、小林桂樹、神山 繁、森田健作、東野英心、樋浦 勉、前田
吟、島田正吾、大滝秀治、藤岡琢也、加藤 嘉、田崎 潤、浜村 純、他。新田次郎の原作『八甲田山死の彷徨』を基に、「羅生門」(1950)「生きる」(1952)「七人の侍」(1954)「蜘蛛巣城」(1957)「隠し砦の三悪人」(1958)「私は貝になりたい」(1959)「日本のいちばん長い日」(1967)「日本沈没」(1973)「砂の器」(1974)「八つ墓村」(1977)等の橋本
忍(1918〜2018)が脚本を執筆。撮影は木村大作。製作は橋本
忍、野村芳太郎、田中友幸。日露戦争開戦を目前にした明治34年末、徳島大尉(高倉)率いる弘前第三十一連隊と神田大尉(北大路)率いる青森第五連隊は、寒冷地訓練のために八甲田山を雪中行軍することになった。行軍は双方が青森と弘前から出発、八甲田山ですれ違うという大筋で決った。第三十一連隊は雪に慣れた27名の少数編成で自然に逆らわず行軍するが、210名の大編成で真っ向から八甲田に挑んだ第五連隊は、目的地を見失い吹雪の中で遭難する。傲慢な上司・山田少佐(三國)の采配ミスで部下が四苦八苦する第五連隊のドラマは、現代サラリーマン社会の構図にも通ずるものがある。第五連隊の生存者は山田少佐以下12名のみで、山田少佐は後に拳銃自殺。徳島隊は全員生還したが2年後の日露戦争で全員が戦死した。出演者の中に脱走者が出たとも伝えられる極寒の八甲田で長期撮影を敢行。当時「洋高邦低」と呼ばれて久しかった日本映画界で配給収入27億円の大ヒットとなり、高倉
健が第1回日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を受賞。個人的にも劇場で初めて見た邦画のドラマ作品で、非常に印象に残っている。
音楽は「砂の器」(音楽監督)「八つ墓村」等の芥川也寸志(1925〜1989)で、この「八甲田山」は彼のキャリア後期の代表作。公開当時にワーナー・パイオニアから発売されたLPは、邦画のアンダースコアのサントラ盤として画期的なものだったが、これはサントラ音源ではなく、芥川自身の指揮による東京交響楽団の演奏により再録音されたものだった(2009年に富士キネマレーベルによりCD化されている)。このCINEMA-KAN
LabelのCDは2枚組となっており、1枚目には現存する映画用の音源(1977年4月18、19日収録)を劇中での使用順で構成したものを初収録。2枚目には富士キネマレーベルのCDと同内容を収録。
1枚目の冒頭「メインタイトル」は、叙情的で美しいメインの主題で、製作・脚本の橋本
忍がイメージとして芥川に伝えたとされる「月の砂漠」から着想を得ている。「徳島と神田・二人の大尉」は、メインの主題から、神田隊の行軍を描写したメランコリックでドラマティックな主題B、メインの主題へと展開。「八甲田連峰〜後悔と決断」は、ドラマティックなイントロからメインの主題、主題Bへ。「徳島大尉からの手紙」は、徳島と神田の関係を描写したトラジックな主題E、マーチ調のメインの主題へ。「雪の進軍」は、男声コーラスによる勇壮な軍歌。「徳島隊の行軍
小国村〜唐竹村〜琵琶の平」は、メインの主題から、主題Eへ。「徳島隊の行軍 切明より白地山を登頂、銀山へ〜黒い湖」は、主題Bから、厳しい自然を描写したストイックなタッチの主題D、主題Bへ。「神田隊の出発」は、ダークでサスペンスフルなタッチから、神田隊の行軍を描写したメランコリックで美しい主題Cへ。「神田隊の行軍
田茂木野村から小峠〜ふたつの幻想」は、主題Cの力強いタッチから、幻想的でジェントルな主題、ダークなサスペンス調の主題へ。「神田隊の行軍
小峠から大峠、賽の河原」は、リズミックなタッチの主題Bと主題C。「苦難の神田隊 馬立場〜鳴沢・平沢の森」は、主題Bのストイックなタッチから、主題B〜主題Dへと展開。「氷の絶壁」は、厳粛なタッチの主題Dから、主題Bをはさんで主題Dへ。「白い地獄」は、重厚なタッチの主題Cからサスペンス調の主題へ。「犬吠峠の案内人」は、徳島隊の案内人の若い娘・滝口さわ(秋吉)を描写した美しくリリカルな主題。「微かな希望〜徳島大尉の回想(少年時代)」は、メインの主題。「天は我々を見放した…」は、主題Dと主題Cの組み合わせから、主題E〜D〜Cメドレー、主題C、主題Bと展開。「二人の思い〜死の行軍」は、幻想的な主題から主題C、主題C〜Dのメドレーへ。「雪原にただ一人〜八甲田の全容〜神田大尉は何処に」は、主題Cからメインの主題へ。「悲しみの兄弟」と「八甲田を踏破する!」は、メインの主題。「津軽の四季」は、主題Cの感動的な演奏。「徳島と神田・八甲田での再会」は、メインの主題から主題Eをはさんでメインの主題へ戻る。「徳島と神田・別れ」は、主題Eが完全な形で演奏される悲劇的な曲。「エンディング」は、主題Cによるエンドクレジット。最後にボーナストラックとして「八甲田山
アウトテイク集」「雪の進軍 (現実音 音楽素材集)」「軍隊ラッパ (現実音 音楽素材集)」の3曲を収録。
2枚目に収録された「第一部
白い地獄」「第二部 大いなる旅」「春には花の下で」「大いなる旅」については、富士キネマCDのレビューを参照。
制作当時に、芥川は作曲に取り組む抱負として次のように語っている。「この映画には『人間と自然』という大きなテーマが背景にある。そのテーマに結びつく音楽を…。ただ音楽は、言葉と違って観念表現は出来ない。資本主義とか社会主義の表現は出来ない。だが、人間の感情、例えば、うれしいとか悲しいとかは表現しやすい。『人間と自然』は、観念ではない感情だから、その感情の高まるもので映画を包むことが出来れば成功です。具体的には、映画音楽は出だしが大事ですね。そこから展開してゆく映画音楽は純音楽とは違うから、映像と相互効果がでればいい」(東奥日報「映画
八甲田山 取材ノートから・第7回 音楽」より)
芥川也寸志は本作で第1回日本アカデミー賞の最優秀音楽賞を受賞している。
(2019年6月)
Yasushi
Akutagawa
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