キング・ラット KING RAT

作曲・指揮:ジョン・バリー
Composed and Conducted by JOHN BARRY

(米Intrada / Intrada Special Collection Volume 434)

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1965年製作のアメリカ映画(日本公開は1966年3月)。監督は「雨の午後の降霊祭」(1964)「シャイヨの伯爵夫人」(1969)「シンデレラ」(1976)「インターナショナル・ベルベット/緑園の天使」(1978)「(未公開)ホップスコッチ/或るエリート・スパイの反乱」(1980)等のブライアン・フォーブス(1926〜2013)。出演はジョージ・シーガル、トム・コートネイ、ジェームズ・フォックス、パトリック・オニール、デンホルム・エリオット、ジェームズ・ドナルド、トッド・アームストロング、ジョン・ミルズ、ジェラルド・シム、レナード・ロシター、ジョン・スタンディング、アラン・ウェブ、ジョン・ロネイン、ジェフリー・ベイルドン、島田輝、他。「大脱走」(1963)「633爆撃隊」(1964)「サタンバグ」(1964)「(TV)将軍 SHOGUN」(1980)「タイパン」(1986)等のジェームズ・クラヴェル(1921〜1994)が自身の戦時中の捕虜体験をベースに書いた原作小説を基にブライアン・フォーブスが脚本を執筆。撮影は「地上より永遠に」(1953)「ボニーとクライド/俺たちに明日はない」(1967)等のバーネット・ガフィ。1945年、シンガポールの日本軍管理下チャンギ捕虜収容所には、英、米、オーストラリアの捕虜たち1万人が収容されていた。日本軍は捕虜自身に内部を統制させていたが、英軍の憲兵司令官ロビン・グレイ中尉(コートネイ)は、痩せこけて餓死寸前の捕虜たちの中でひとり悠然と構えた米軍伍長キング(シーガル)を疑っていた。彼はいつも清潔な服を着て、栄養を取っている。要領良く立ち回り、さまざま闇物資を扱うことで収容所を支配下に置いていたのだ。グレイはキングの不正の証拠をつかもうとするが、いつも誰かに阻まれるのだった……。1965年度アカデミー賞の撮影賞(白黒)と美術監督・装置賞(白黒)にノミネートされている。

音楽は「雨の午後の降霊祭」「(未公開)恐怖の落し穴」等でもブライアン・フォーブス監督と組んでいるジョン・バリー(1933〜2011)。このスコアは公開当時の1965年に米Mainstreamレーベルから全12曲/35:43収録のサントラLP(Mainstream 56061)がリリースされており、同じ内容が1995年にColumbia/LegacyレーベルによりCD化(502389 2)されているが、これはバリー自身がアルバム用に大幅に編曲し直した再録音盤だった。このIntradaレーベルのCDには、前半に新たに発見されたオリジナル音源(映画で使用されたコンプリートスコア)、後半に上記アルバム盤のリマスター音源が収録されている。

オリジナル音源の冒頭「Emblem & Main Title」は、重厚なイントロからメランコリックかつドラマティックなメインの主題へと展開するメインタイトル。このメインの主題は「Larkin Visits」「Grey Pangs」「Bored to Death」「It's the Bunk」「Captain Grey」「We've Done It」「It's Over」で繰り返し登場する。「King Spots Marlowe」は、メランコリックなタッチの曲。「A Close One」「There Is a Radio in This Hut」「Grey Again」「Touch and Go」「Welcome to Changi」は、静かにドラマティックな曲。「Tuned in」「Courage Please」「The Boots」は、抑制されたタッチの曲。「Dog Meat」「Delicious」は、ドラマティックなタッチのマーチ。「The First One」「Caught」「Have a Listen」「Bad News」は、ダークなタッチの曲。「End Titles」は、メインの主題によるエンドタイトル。捕虜収容所の絶望感と閉塞感を表現した重苦しくダークなタッチのスコア。

後半の再録音アルバム音源の冒頭「King Rat March」は、オリジナル音源でサブの主題だったマーチを拡張させた曲で、バリー特有のドラマティックでストイックなアレンジメントが秀逸。彼が作曲した数多くの主題中でもベストの1つだろう。名曲。「Main Title」は、メインの主題によるメインタイトルで、この主題をドラマティックかつ情感豊かなワルツにアレンジした「Just As You Were」も素晴らしい。「Tuned in at Changi」は、ダークで抑制されたタッチ。「There Is a Radio in This Hut」は、メインの主題を織り込んだダークでドラマティックな曲。「Touch and Go」「The End Is at Hand」は、重厚なタッチの曲。「Grey's Day」「The Recovery of Marlowe」は、メインの主題を織り込んだ静かにドラマティックな曲。ラストの「King Rat March」は、マーチの主題のバリエーションで締めくくる。全37曲/71:90収録で限定プレス。

ジョン・バリー「007/ゴールドフィンガー」(1964)「ジャングル・モーゼ」(1965)「ナック」(1965)「国際諜報局」(1965)「007/サンダーボール作戦」(1965)といった傑作を立て続けに手がけていた時期のスコア。バリーは捕虜たちの苦悩を表現するためにツィンバロム(cimbalom/ハンガリー等中欧・東欧地域の打弦楽器)の使用をフォーブス監督に提案し、イギリス人の演奏家ジョン・リーチ(バリー作曲の「国際諜報局」のスコアでもこの楽器を演奏している)を起用してロンドンで録音しようとしたが、米国音楽家連盟(the American Federation of Musicians/演奏家の労働組合)がこれを拒否して、スコアをアメリカで録音することを要求した。この映画はイギリス人が監督し、多数のイギリス人俳優が出演しているが、100%アメリカ資本の映画で、全編がカリフォルニアで撮影されており、製作会社のコロンビアが米国音楽家連盟に加盟していたため、そのルールに従う必要があったもの。
(2019年12月)

John Barry

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