ラフ・カット ROUGH CUT
作曲・指揮:ネルソン・リドル
Composed and Conducted by NELSON RIDDLE
(スペインQuartet Records / QR3820)
1980年製作のアメリカ映画(日本公開は1981年1月)。監督は「殺人者たち」(1964)「刑事マディガン」(1967)「マンハッタン無宿」(1968)「真昼の死闘」(1970)「白い肌の異常な夜」(1971)「ダーティハリー」(1971)「突破口!」(1973)「テレフォン」(1977)「アルカトラズからの脱出」(1979)等の犯罪アクション映画の名手ドン・シーゲル(1912〜1991)。出演はバート・レイノルズ、レスリー=アン・ダウン、デヴィッド・ニーヴン、ティモシー・ウェスト、パトリック・マギー、アル・マシューズ、スーザン・リトラー、ジョス・アックランド、イザベル・ディーン、ウォルフ・カーラー、アンドリュー・レイ、ジュリアン・ホロウェイ、ダグラス・ウィルマー、ジェフリー・ラッセル、ローランド・カルヴァー他。デレク・ランバートの原作『Touch
the Lion's Paw』を基にフランシス・バーンズが脚本を執筆。撮影は「アラビアのロレンス」(1962)「ドクトル・ジバゴ」(1965)「007は二度死ぬ」(1967)「空軍大戦略」(1969)「ライアンの娘」(1970)等のフレディ・ヤング(1902〜1998)。製作は「ハロー・ドーリー!」等でトニー賞を何度も受賞している著名なミュージカルのプロデューサーで「華麗なるギャツビー」(1974)「タッチダウン」(1977)等の映画も製作しているデヴィッド・メリック(1911〜2000)。実業家を装うプロの宝石泥棒と彼を追うロンドン警視庁の主任警部、そして謎の美女の3人のかけ引きを描くコメディ・タッチの犯罪映画(シーゲルは常々コメディを撮りたがっていた)。ロンドンのとある大富豪の結婚記念パーティに現れた中華料理店を経営する実業家ジャック・ローズ(レイノルズ)は、実はその名の知れた宝石泥棒だった。そんな彼の前に神秘的な美女ジリアン・ブロムリー(ダウン)が現われ、2人は意気投合する。ジリアンはローズに3000万ドル相当のダイヤを輸送時に強奪する計画を持ちかけるが、実は彼女はローズの逮捕を狙うロンドン警視庁のシリル・ウィリス主任警部(ニーヴン)が送り込んだ囮だった……。
本作はもともと「ティファニーで朝食を」(1961)「ピンクの豹」(1963)「グレートレース」(1965)等のブレイク・エドワーズ(1922〜2010)が監督することになっていたが、彼が撮影前に降板したため、プロデューサーのデヴィッド・メリックはドン・シーゲルを起用。撮影開始から1ヶ月経過した時点で、エンディングについての意見の相違からメリックはシーゲルを解雇し、「女王陛下の007」(1969)「ゴールド」(1974)「(未公開)ワイルド・ギース
II」(1985)等のピーター・R・ハント(1925〜2002)を代わりに起用したが、ハントも1週間でクビになり、シーゲルが連れ戻されて映画を完成させた。その後ハントはメリックを訴え、監督料として13万4000ドルを請求した。シーゲルは3通りのエンディングを撮ったが、それでもメリックは納得せず、最後に「愛すれど心さびしく」(1968)「きんぽうげ」(1970)等のロバート・エリス・ミラー(1932〜2009)が起用されて4通り目のエンディングを監督した。本作の脚本は「オー!ゴッド」(1977)「トッツィー」(1982)等のラリー・ゲルバート(1928〜2009)が執筆しているが、彼もメリックに途中で解雇されたり再起用されたりしたため、クレジットへの名前の表記を拒否し、(ゲルバートが製作・脚本を担当した「(TV)マッシュ」(1972〜1983)のキャラクター名から取った)“フランシス・バーンズ”という別名でクレジットされている。また、本作のアクション・シーンの演出は、「トランザム7000」(1977)「グレートスタントマン」(1978)「キャノンボール」(1980)等の監督で、バート・レイノルズのスタントマンであり盟友だったハル・ニーダム(1931〜2013)が第二班監督として(クレジットなしで)担当している。
製作費は約1400万ドル、全世界興行収入は約1666万ドル。日本でのテレビ放映時の日本語吹替キャストはバート・レイノルズ(津嘉山正種)、レスリー=アン・ダウン(吉田理保子)、デヴィッド・ニーヴン(千葉耕市)、ティモシー・ウエスト(池田
勝)、パトリック・マギー(北村弘一)他。
音楽は「オーシャンと十一人の仲間」(1960)「七人の愚連隊」(1963)「エル・ドラド」(1966)「華麗なるギャツビー」(1974)等のネルソン・リドル(1921〜1985)。ボッサ・ノーヴァやジャズをベースとしたスコアで、(20世紀最大のジャズ・ポピュラー界の音楽家とされる)デューク・エリントン(1899〜1974)のスタンダード曲(編曲は全てネルソン・リドル)をスコア全体にシームレスに織り込んでいる。「Fanfare
/ Sophisticated Lady」は、明るく軽快なファンファーレから、エリントン作曲のジェントルな「ソフィスティケイテッド・レディ」へ展開する曲。「Something
for Gil」「Bossa at the Mansion」「Jack and Gil」は、ライトなタッチのボッサ・ノーヴァ。「Satin
Doll」「C Jam Blues」「Mood Indigo」「I've Got It Bad and That Ain't Good」「Prelude to
a Kiss」「Don't Get Around Much Anymore」も、エリントン作曲のジャズのスタンダード曲。「Disco
Shmisko」は、リズミックなディスコ曲。「Chief Inspector Cyril Willis」は、クールなジャズによるウィリス主任警部の主題。「Hold
It! (Revised)」は、ややコミカルなタッチのジャズによるサスペンス音楽。「Midnight Caller /
Sophisticated Lady / Nice to See You, Inspector」「He Waits」は、ライトなタッチのサスペンス音楽。「String
Quartet (Haydn)」は、ハイドン作曲の優雅な弦楽四重奏。「Deadly Weapon / Tennis
Match」は、ライトなジャズから軽快なマーチへ。「Sentimental News」は、抑制されたサスペンス音楽から後半ジェントルでリリカルなタッチへ。「Osthofen」は、ストイックなタッチのマーチ。「Dutch
Treat」は、ヴァイオリンとギターをフィーチャーした優雅でリリカルなワルツ。「Tango」は、ジェントルなタッチのタンゴ。これ以降は、ジャズ・ベースのリズミックなサスペンス音楽「Rough
Cut」「Antwerp Arab / Camouflage」「One More Thing」「Jet Set」「Amsterdam or
Antwerp」「Amsterdam」「Final Chase」が連続する。「Goodbyes」は、ジェントルで優雅な曲。ラストの「End
Credits」も、リズミックなジャズ・ベースのエンドクレジット。最後にボーナストラックとして代替テイク等7曲を収録。
当初の監督としてアサインされていたブレイク・エドワーズの「ピンク・バンサー」シリーズにヘンリー・マンシーニが作曲したスコアのイメージに近い。このスコアの初CD化で1000枚限定プレス。
(2020年1月)
Nelson Riddle
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