アイガー・サンクション THE EIGER SANCTION
作曲・指揮:ジョン・ウィリアムス
Composed and Conducted by JOHN WILLIAMS
演奏:ハリウッド・スタジオ交響楽団
Performed by the Hollywood Studio Symphony
(米Intrada / Intrada Special
Collection Volume 465)
1975年製作のアメリカ映画。監督・主演は「アメリカン・スナイパー」(2014)「ハドソン川の奇跡」(2016)「15時17分、パリ行き」(2018)「運び屋」(2018)「リチャード・ジュエル」(2019)「クライ・マッチョ」(2021)等、90歳を超えた現在でもコンスタントに監督作を発表し続けているクリント・イーストウッド(1930〜)。共演はジョージ・ケネディ、ヴォネッタ・マギー、ジャック・キャシディ、ハイディ・ブリュール、セイヤー・デヴィッド、ライナー・ショーン、マイケル・グリム、ジャン=ピエール・ベルナール、ブレンダ・ヴィーナス、グレゴリー・ウォルコット、キャンディス・リアルソン、エレイン・ショア、ダン・ハワード、ジャック・コスリン他。トレヴェニアン(ロッド・ホイテカー)の原作『The
Eiger Sanction』を基にハル・ドレスナー、ウォーレン・B・マーフィとロッド・ホイテカーが脚本を執筆。撮影はフランク・スタンリー。製作総指揮はリチャード・D・ザナックとデヴィッド・ブラウン。
アイガー登頂に2度挑戦したが失敗した登山家で、美術史の大学教授ジョナサン・ヘムロック(イーストウッド)は、かつては国際的に暗躍していたプロの殺し屋だった。稼いだ金の殆どを名画の蒐集につぎ込み、殺し屋稼業から足を洗って静かに暮らしていた彼のもとに、政府機関のチーフ“ドラゴン”(デヴィッド)の使者が訪れ“制裁(サンクション)”の仕事を依頼した。チューリッヒでの殺しの仕事を終えたヘムロックは約束の報酬を受け取るが、帰途の飛行機内で客室乗務員に扮した諜報員のジェマイマ(マギー)に誘惑されて一夜を共にし、報酬を奪われてしまう。ドラゴンの思惑通り、ヘムロックは第二の仕事を引き受けることになるが、ターゲットの名前や人相は不明で、その男が近々アイガーに挑戦する国際登山チームの一員であり、片足が不自由だということだけがわかっていた。ヘムロックは、昔の登山仲間で牧場の経営者である旧友ベン・ボウマン(ケネディ)を誘って国際登山チームに参加することにしたが……。製作費は約900万ドル。全世界興行収入は約1420万ドル。
危険なスタントが多いアクション映画を監督する自信がなかったイーストウッド(これが監督4作目だった)は、本作の監督を師匠のドン・シーゲルに依頼したが、シーゲルとじっくり話し合った末に、やはり自ら監督することにしたという。彼は登山シーンのスタントのほぼ全てを自分でこなしている。製作途中で登山家のデヴィッド・ノウルズが落石事故で死亡したことで、イーストウッドは製作中止を考えたが、ノウルズの死を無駄にしないために完成させることにした。
音楽はジョン・ウィリアムス(1932〜)。本作のプロデューサーであるリチャード・D・ザナックとデヴィッド・ブラウンが「ジョーズ」(1975)でも組んでいるウィリアムスを起用したもので、これは彼が手がけた唯一のクリント・イーストウッド作品。イーストウッドがジャズのファンであると知っていたウィリアムスは、スコアにジャズの要素を採り入れている。
このスコアは公開当時の1975年に米MCAレーベルが全13曲/約34分半収録のサントラLP(MCA Records
MCA-2088/アルバム用に再録音されたもの)を出しており、その後同内容のCDを1991年に米Varese Sarabandeレーベル(Varese
Sarabande VSD-5277)、1993年に日本のMCAレーベル(MCA Records
MCVM-423)が出しているが、このIntradaレーベルが2021年8月にリリースしたCDは2枚組(全46曲/128分)で、1枚目に初収録となるフル・スコア、2枚目に1975年アルバムの内容のリマスター版とソース音楽3曲、未発表のエクストラ3曲を収録したエクスパンデッド盤。限定プレス。
CD1枚目の冒頭「Main Title (From The Motion Picture The Eiger Sanction)」は、荘厳な鐘の音のイントロに続いてピアノとストリングスにハープシコードを加えたメランコリックでドラマティックなタッチのメインの主題へと展開するメインタイトル。寂寥感を帯びたタッチが秀逸な名曲。「The
Microfilm Killing (Film Version)」は、暗殺シーンのダイナミックなサスペンス音楽。「To the
Dragon」「The Eiger (Film Version)」「Sunrise」は、メインの主題のバリエーション。「Felicity」は、メランコリックなタッチのギターによる曲。「Up
the Drainpipe (Film Version)」は、抑制されたサスペンス調から後半ダイナミックなアクション音楽へ。「Love
Scene」は、フリューゲルホルンをフィーチャーしたメインの主題のジャズ・アレンジメント。「Art Masterpieces」は、静かにメランコリックなタッチの曲。「Hemlock
and Jemima」「The Unlocked Safe」も、メインの主題のジャズ・アレンジメント。「Friends and
Enemies (Film Version)」は、メインの主題のバリエーションから後半リズミックなアレンジメントに。「Montage
ー Running with Georg」は、ギターをフィーチャーした躍動的でドラマティックなタッチの曲。「The Top
of the World (Film Version)」は、ウィリアムスの個性が表れた大らかでヒロイックなタッチの曲。「George
Reveals Herself」「Down the Ice Face」「Hanging by a Thread」は、サスペンス音楽。「The
Car Chase (Fifty Miles of Desert)」「Hemlock's Bonus」は、パーカッシヴなサスペンスアクション音楽。「Hotel
Bellevue」は、アコーディオンをフィーチャーしたメインの主題のライトなアレンジメント。「Anna on the
Stairs」「Leading the Climb」「Falling and Swinging」「Freytag onto Ice」は、メインの主題を織り込んだサスペンス音楽。「The
First Sunset」「The Icy Ascent (Film Version)」は、ドラマティックなタッチの曲。「End
Title (From The Motion Picture The Eiger Sanction)」は、メインの主題のジャズ・アレンジメントによるエンドタイトル。
ジョン・ウィリアムスが1970年代に「ポセイドン・アドベンチャー」(1972)「大地震」(1974)「タワーリング・インフェルノ」(1974)といったディザスター映画の後に手がけた傑作スコアで、この直後の「JAWS/ジョーズ」(1975)でアカデミー賞の作曲賞を受賞し、「ヒッチコックのファミリー・プロット」(1976)「ミズーリ・ブレイク」(1976)「ミッドウェイ」(1976)「(未公開)ブラック・サンデー」(1977)を経て、「スター・ウォーズ」(1977)で再度同賞を受賞している。
(2021年12月)
John Williams
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