氷の微笑 BASIC INSTINCT
作曲・指揮:ジェリー・ゴールドスミス
Composed and Conducted by JERRY GOLDSMITH
演奏:ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団
Performed by the National Philharmonic Orchestra
(スペインQuartet Records /
QR460)
1992年製作のアメリカ=フランス合作映画。監督は「ロボコップ」(1987)「トータル・リコール」(1990)「ショーガール」(1995)「スターシップ・トゥルーパーズ」(1997)「ブラックブック」(2006)「ポール・ヴァーホーヴェン/トリック」(2012)「エル
ELLE」(2016)等のポール・ヴァーホーヴェン(1938〜)。出演はマイケル・ダグラス、シャロン・ストーン、ジョージ・ズンザ、ジーン・トリプルホーン、デニス・アーント、レイラニ・サレル、ブルース・A・ヤング、チェルシー・ロス、ドロシー・マローン、ウェイン・ナイト、ダニエル・フォン・バーゲン、スティーヴン・トボロウスキー、ベンジャミン・ムートン、ビル・ケーブル、ジェームズ・レブホーン他。脚本は「白と黒のナイフ」(1985)「背信の日々」(1988)「硝子の塔」(1993)「ショーガール」(1995)等のハンガリー出身のジョー・エスターハス(1944〜)で、彼はこの脚本で当時として史上最高額の300万ドルのフィーを得た。撮影は「ダイ・ハード」(1988)「ブラック・レイン」(1989)「レッド・オクトーバーを追え!」(1990)等の撮影や「スピード」(1994)「ツイスター」(1996)「トゥームレイダー2」(2003)等の監督を手がけているヤン・デ・ボン(1943〜)。特殊メイクは「遊星からの物体X」(1982)「ロボコップ」(1987)「トータル・リコール」(1990)「セブン」(1995)等のロブ・ボッティン(1959〜)。1980〜90年代に「ランボー」シリーズや「トータル・リコール」(1990)「ターミネーター2」(1991)「クリフハンガー」(1993)といったブロックバスター作品を多数手がけたカロルコ・ピクチャーズの製作。
元ロックスターのジョニー・ボズ(ケーブル)が、ベッドの上でアイスピックにより惨殺された。サンフランシスコ市警察殺人課のニック・カラン刑事(ダグラス)と相棒のガス・モーラン(ズンザ)は、ボズのガールフレンドで小説家のキャサリン・トラメル(ストーン)を訪ねた。彼女は数ヵ月前に今回の事件そっくりのミステリ小説を発表していることから嫌疑がかかるが、警察の尋問を軽くかわしてしまう。キャサリンは、過去に誤って観光客を射殺してしまったことで“シューター”のあだ名を付けられたニックをモデルに小説を書くという。ニックの恋人で警察付の心理学者ベス・ガーナー(トリプルホーン)の心配をよそに、ニックは次第にキャサリンに惹かれていくが……。ヴァーホーヴェン監督による過激な暴力描写とセックス描写が話題になって大ヒットした作品だが、劇中で何度か展開するセックスシーンは全て俳優本人が演じており、ボディダブルは使われていないという。キャサリン役は当初デミ・ムーアやミシェル・ファイファーといった主役級の女優にオファーされたが、全裸シーンがあることを理由に断られた。ヴァーホーヴェン監督は「トータル・リコール」にも出演し、当時はまださほど売れていなかったストーンを大役に起用し、これは彼女の出世作になった。結末で誰が殺人犯だったのか明確でない終わり方をするが、後にヴァーホーヴェンは殺人犯を明示するシーンが劇中に含まれていると解説している。また、脚本家のエスターハスは、DNA鑑定により犯人が容易に特定できる点を無視していることがプロット上の大きな穴であると、後に認めている。製作費は約4900万ドル。全世界興行収入は約3億5293万ドル。
音楽は「トータル・リコール」(1990)「インビジブル」(2000)でもポール・ヴァーホーヴェン監督と組んでいるジェリー・ゴールドスミス(1930〜2004)。このスコアは、公開当時の1992年に、ゴールドスミス自身がプロデュースした全10曲/約44分収録のサントラCDを米Vareseレーベルが出しており(Varese
Sarabande VSD-5360)、2004年にベルギーのPrometheusレーベルが全26曲/約73分収録のエクスパンデッド盤(Prometheus
XPCD 154)を、2015年にスペインのQuartetレーベルがCD2枚組で全36曲/約125分収録の完全盤(Quartet Records
QR203)をリリースしているが、今回2021年9月に同じQuartetレーベルが出したCDは2015年盤の再発で、2000枚限定プレス。CD1枚目にコンプリートスコア、2枚目に1992年Varese盤の内容(リミックス/リマスター済)とボーナストラックを収録。
CD1枚目の冒頭「Main Title / The First Victim」は、センシュアルでサスペンスフルなメインの主題から、徐々にサスペンスが盛り上がるアイスピック殺人シーンの音楽に展開。「Catherine
and Roxy」は、抑制されたタッチからサスペンスフルな主題へ。「Shadows / Profile」は、不吉なサスペンス音楽。「I
Don't Smoke」「Crossed Legs」「Beth and Nick」「Home Visit」「Your Wife Knew」「What's
Between You?」「One Shot」「Wrong Name」「The Games Are Over」「Evidence」は、抑制されたタッチのサスペンス音楽。「Night
Life」は、ダイナミックなサスペンス音楽。「Kitchen Help」「Morning After」「It Won't
Sell」は、メインの主題のバリエーション。「Pillow Talk」は、メインの主題を織り込んだ抑制されたタッチからサスペンスが徐々に盛り上がる曲。「Roxy
Loses」は、ダイナミックなサスペンスアクション音楽。「Catherine's Sorrow」「She's Really
Sick」は、ドラマティックでサスペンスフルな主題。「An Unending Story / End Titles」は、ドラマティックでサスペンスフルな主題から、徐々にサスペンスが盛り上がり、エンディングのショック音楽に続いて、メインの主題によるエンドタイトルへ展開。CD2枚目の最後のボーナストラックには、R指定版の代替テイク「The
First Victim (R rated alternate)」「Beth and Nick (R rated alternate)」「Pillow Talk
(R rated alternate)」と、ダイナミックな「That's Real Music」を収録。
ジェリー・ゴールドスミスが1990年代に手がけた傑作スコアの1つで、特にミステリアスかつエロティックなタッチのメインの主題が素晴らしく、彼にしか書けない曲だろう。ゴールドスミスは、このスコアで1992年度アカデミー賞の作曲賞と同年のゴールデン・グローブの音楽賞にノミネートされている。オーケストレーションはアレクサンダー・カレッジ。
(2022年1月)
Jerry Goldsmith
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