ロスト・キング 500年越しの運命 THE LOST KING
作曲・指揮:アレクサンドル・デスプラ
Composed and Conducted by ALEXANDRE DESPLAT
演奏:ロンドン交響楽団
Performed by the London Symphony Orchestra
(米Lakeshore Records /
LKSO369992)
2022年製作のイギリス映画(日本公開は2023年9月)。監督は「マイ・ビューティフル・ランドレット」(1985)「危険な関係」(1988)「靴をなくした天使」(1992)「クィーン」(2006)「あなたを抱きしめる日まで」(2013)「マダム・フローレンス!
夢見るふたり」(2016)「ヴィクトリア女王 最期の秘密」(2017)等のスティーヴン・フリアーズ(1941〜)。出演はサリー・ホーキンス、スティーヴ・クーガン、ハリー・ロイド、マーク・アディ、リー・イングルビー、ジェームズ・フリート、アマンダ・アビントン、ブルース・ファミー、ジェシカ・ハードウィック、ロバート・ジャック、ジョン=ポール・ハーリー、ノマーン・カーン、シニード・マッキネス、フィービー・プライス、アラスデア・ハンキンソン他。フィリッパ・ラングレーとマイケル・ジョーンズの原作『The
King's Grave: The Search for Richard III』を基にスティーヴ・クーガンとジェフ・ポープが脚本を執筆。撮影はザック・ニコルソン。
530年にわたり行方不明だった英国王リチャード3世の遺骨発見の立役者となったフィリッパ・ラングレー(1962〜)の実話の映画化。フィリッパ(ホーキンス)は職場で上司からは理不尽な評価をされ、別居中の夫ジョン(クーガン)からは生活費のために仕事を続けるよう促されていた。そんなある日、彼女は息子の付き添いでシェイクスピアの劇「リチャード3世」を鑑賞するが、劇の主人公である悪名高き英国王リチャードが本当に世間一般に言われているように冷酷非情だったのか、実際は自分と同じように不当に扱われていたのではないかとの疑問を抱き、リチャード3世の研究にのめり込んでいく。そして、1485年に死去した後、川に捨てられたと考えられていた王の遺骨探しを開始する……。
300年以上イングランドを支配していたプランタジネット朝最後の王であるリチャード3世は、即位からわずか2年後の1485年、薔薇戦争の最終決戦となったボズワースの戦いに敗れ、32歳で死亡した。当初、王の遺体は英国中部の町レスターにあった修道院敷地内のグレイフライアーズ教会に葬られたが、1530年代にヘンリー8世が修道院を閉鎖して教会を解体した際に、遺骨は墓から持ち出されて近くの川に投げ込まれたのであろうと長らく考えられていた。リチャード3世は、シェイクスピアの悲劇に描かれているように残忍な王だったと考えられてきたが、王を敬愛する歴史マニアたちによって結成された「リチャード3世協会」は、自らを“リカーディアン”と呼び、王の名誉を回復するために彼の埋葬場所を見つけようとしていた。
熱心なリカーディアンのフィリッパ・ラングレーは、2004年にグレイフライアーズ教会跡地の社会福祉センター駐車場を訪れた際に、リチャード3世の墓の上を歩いているような不思議な感覚にとらわれ、レスター大学の考古学者に連絡を取って調査を提案した。ラングレーがクラウドファンディングで発掘資金の大部分を集めたこともあって調査が開始されたが、2012年8月、発掘が始まってからわずか数時間で、駐車場の下に人骨が眠っていることがほぼ確実となった。ラングレーの予感は的中し、その後、リチャード3世の姉アン・オブ・ヨークの女系子孫であるカナダ人マイケル・イブセンのミトコンドリアDNA鑑定をレスター大学が行った結果、2013年2月に遺骨をリチャード3世のものと断定した。2015年3月26日、調査が終了した遺骨はレスター大聖堂に再埋葬されたが、その際には記念式典が開かれ、詩人のデイム・キャロル・アン・ダフィが書いた詩をベネディクト・カンバーバッチ(遺体のDNA分析で血縁者と判明)が朗読した。
音楽は、スティーヴン・フリアーズ監督と「クィーン」(2006)「わたしの可愛い人―シェリ」(2009)「(未公開)タマラ・ドゥルー〜恋のさや当て〜」(2010)「あなたを抱きしめる日まで」(2013)「マダム・フローレンス!
夢見るふたり」(2016)でも組んでいるフランスの作曲家アレクサンドル・デスプラ(1961〜)。ロンドン交響楽団の演奏に加え、フィリッパの潜在意識の中に登場するリチャード3世を描写するために、エインシャント室内管弦楽団(The
Academy of Ancient Music)のメンバーの演奏によるイギリス中世の楽器を起用しており、ジェームズ・ブラムリーがテオルボ(Theorbo/リュート族の撥弦楽器)、ジル・ケンプがリコーダーを演奏している。「The
Lost King」は、オルガンとオーケストラによる躍動的でダイナミックかつスリリングなメインタイトル。サスペンスフルなタッチが秀逸。「To
Prove a Villain」は、ハープ、ピアノ、ストリングスをフィーチャーしたメランコリックかつリリカルなリチャード3世の主題。「City's
Archives」は、ダイナミックでドラマティックなタッチから後半サスペンスフルな主題へ。「Leicester」は、ドラマティックかつミステリアスなタッチの曲。「The
Ricardians」は、リチャード3世の主題を含む抑制されたサスペンス音楽。「Greyfriars」は、リコーダーをフィーチャーした躍動的なマーチ調の曲。「National
Library」は、ダークでドラマティックかつミステリアスな主題から後半ダイナミックなタッチへ。「New Street」は、リコーダーをフィーチャーしたダークでドラマティックな曲。「Empty
Bench」は、フルートによるダークで不吉なタッチの曲。「The Maps」は、ダークでドラマティックかつミステリアスな曲。「The
Next Morning」「We Found Richard」は、躍動的でスリリングな曲。「Digging The R」は、オルガンをフィーチャーしたミステリアスな主題からオーケストラによるダイナミックなタッチへ。「The
Boar」は、テオルボとリコーダーをフィーチャーした躍動的でドラマティックな曲。「Farewell Richard」は、リチャード3世の主題を含むメランコリックでドラマティックな曲。「Bosworth」は、メランコリックなタッチから後半ドラマティックに盛り上がって締めくくる。
(2023年7月)
Alexandre Desplat
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