続・激突!/カージャック THE SUGARLAND EXPRESS
作曲・指揮:ジョン・ウィリアムス
Composed and Conducted by JOHN WILLIAMS
演奏:ハリウッド・スタジオ交響楽団
Performed by the Hollywood Studio Symphony
(米La-La Land Records /
LLLCD1650)
1974年製作のアメリカ映画。監督は「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(2017)「レディ・プレイヤー1」(2018)「ウエスト・サイド・ストーリー」(2021)「フェイブルマンズ」(2022)等のスティーヴン・スピルバーグ(1946〜)。出演はゴールディ・ホーン、ベン・ジョンソン、マイケル・サックス、ウィリアム・アザートン、グレゴリー・ウォルコット、スティーヴ・カナリー、ルイーズ・レイサム、ハリソン・ザナック、A・L・キャンプ、ジェシー・リー・フルトン、ディーン・スミス、テッド・グロスマン、ビル・サーマン、ケン・ハジンズ、リチャード・ブライト他。「マッカーサー」(1977)「オーケストラ!」(2009)「クリムゾン・ピーク」(2015)「マダムのおかしな晩餐会」(2016)等の脚本や「コルベット・サマー」(1978)「ドラゴンスレイヤー」(1981)「ニューヨーク東8番街の奇跡」(1987)等の監督・脚本を手がけているマシュー・ロビンス(1945〜)、ハル・バーウッドとスティーヴン・スピルバーグの原案を基に、ハル・バーウッドとマシュー・ロビンスが脚本を執筆。撮影は「ロング・グッドバイ」(1973)「愛のメモリー」(1976)「未知との遭遇」(1977)「ディア・ハンター」(1978)「ミッドナイトクロス」(1981)「イーストウィックの魔女たち」(1987)等のヴィルモス・ジグモンド(1930〜2016)。
スティーヴン・スピルバーグの劇場用映画第1作。1969年のテキサスで、ロバート&アイラ・フェイ・デントの若いカップルが、人質を取って警察に追跡されながら300マイルも逃げ回ったという実際の事件を基にしている。テキサス州立刑務所に服役中のクローヴィス・ポプリン(アザートン)に面会しに来た妻のルー・ジーン(ホーン)は、裁判所命令で養育権を取り上げられている1人息子ラングストンが養子に出されてしまうと告げ、面会人たちにまぎれ込んで夫を脱獄させる。老人が運転する車に乗り込んでハイウェイをノロノロ運転していた彼らは、マックスウェル・スライド巡査(サックス)に見つかるが、脱獄がバレたと早合点したルー・ジーンはスライドの拳銃を奪い、赤ん坊が保護されているシュガーランドまで連れていくよう彼を脅迫してパトカーに乗り込む。警官1人を人質にパトカーがハイジャックされたと知ったハイウェイ・パトロール本部は、慌てて道路封鎖と検問所の設置を開始。走り廻るパトカーの後ろを新聞社の車や野次馬の車が追いかける。追跡の陣頭指揮を取るハーリン・タナー警部(ジョンソン)は、道路封鎖を解かないと人質を殺すという夫婦の脅しに屈服し、乗っ取られたパトカーは後ろに14台のパトカーとそれを上回る野次馬の車を従えてハイウェイを一路シュガーランドへ向けて突っ走る。犯人を撃ち殺してやろうと申し出る人間が現れる一方で、夫婦の犯行の動機が子供会いたさのためと知った世間の同情が集まり、激励の言葉が届くが……。夫婦を捕らえようと武装して集まってくる輩たちは「ジョーズ」でサメを捕らえようと爆発物を用意して群がってくるハンターたち、主人公たちを射殺しようとライフルを構えて待ち構えるスナイパーたちは「E.T.」で逃げる少年たちをショットガンで制圧しようとする警官たちに通ずる描写で、こういう高圧的な人々へのスピルバーグの嫌悪感を感じる。製作費は約300万ドル。全世界興行収入は約751万ドル。1974年度カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、脚本賞を受賞している。
本作は長年コラボレーションを続けてきたスティーヴン・スピルバーグと作曲家ジョン・ウィリアムス(1932〜)が初めて組んだ作品で、これまで正規のサントラ盤が出ていなかったスコア。彼らのコラボレーションの50周年を記念するとともに、ユニヴァーサルによる本作の4Kレストレーションに合わせて遂にアルバム化されたもので、5000枚限定プレス。スピルバーグは初の長編監督作にスケールの大きいスコアを望んでいたが、ウィリアムスは、よりインティメートなスコアが本作にはふさわしいと監督を説得し、ベルギー出身のハーモニカ奏者トゥーツ・シールマンス(ジャン=バティスト・フレデリク・イジドール・"トゥーツ"・シールマンス/1922〜2016)の演奏をメインに、ギター、パーカッションと小編成のストリングスによるスコアを作曲。
「The Sugarland Express – Main Title」は、ギター、ハーモニカ、ストリングスによるジェントルなタッチのメインタイトル。「Freedom
at Last」「Open Highway」は、ハーモニカによる快活なタッチの曲。「The First Chase」「The
Onlookers」は、ハーモニカとエレキギターをフィーチャーしたリズミックで軽快なタッチの曲。「Taking the
Jump」は、ハーモニカとエレキギターをフィーチャーしたジェントルなタッチの曲。「The Caravan Forms」「To
the Roadblock」「Police Cars Move」は、パーカッシヴでミリタリスティックなタッチのサスペンス音楽。「Road
Ballad」は、ハワイアン風の軽快でリズミックな曲。「Out of Gas」「Sugarland Dance」は、ハーモニカとギターをフィーチャーしたジェントルな曲。「Trading
Stamps」「Man and Wife」は、ハーモニカによるメインの主題のバリエーション。「Along the
Route」「Over the Next Hill」は、ハーモニカをフィーチャーしたリズミックな曲。「Franklyn
Falls」「Sealing the Bargain」「Setting the Trap」「Last Conversation」は、不吉なサスペンス音楽。「The
Deputies Arrive」は、重厚なサスペンス音楽。「Pursuit」は、ティンパニによるリズミックな追跡音楽。「The
Final Ride」は、ドラマティックに盛り上がる。「The Sugarland Express – End Title」は、メインの主題のリプライズによるエンドタイトル。
ピアノの演奏はマイケル・ラング、ギターはトミー・テデスコ、アルトン・ヘンドリクソン、キャロル・ケイとバディ・エモンズ、パーカッションはエミル・リチャーズ、ジョー・ポーカロ、ジェリー・ウィリアムスとケニー・ワトソン。
ジョン・ウィリアムスは、当時ユニヴァーサルの副社長だったジェニングス・ラングから頼まれて1972年終盤に初めてスティーヴン・スピルバーグに会った時のことを、あるインタビューで次のように語っている
――当時仕事をしていたユニヴァーサルのある重役から電話を受けた私は、自作の音楽を担当してもらいたいと考えている若い監督に会ってほしいと言われた。彼はランチを設定してくれて、私はスティーヴン・スピルバーグとベヴァリー・ヒルズの洒落たレストランで会うことになった。店に着き、案内係に「スピルバーグさんと会うことになっています」と言うと、「すでにいらしています」とテーブルまで案内してくれたが、そこには17〜18歳ぐらいにしか見えない青年が座っていた。私は「彼はきっとスピルバーグ氏の息子に違いない」と思った。私が座ると給仕長がやって来て、スティーヴンにワインリストを差し出したが、彼はそれをまるで火星からの物体のように取り上げた。明らかにあまりワインリストというものを見たことがないようだった。しかし、彼と数分話したところで、この青年がいかに頭脳明晰で、私よりも映画音楽についてよく知っているらしいことが、すぐにわかった。私は大いに感銘を受け、彼は私にこの映画の音楽を作曲してほしい、と依頼してきた。
(2024年8月)
John Williams
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