パピヨン PAPILLON
作曲・指揮:ジェリー・ゴールドスミス
Composed and Conducted by JERRY GOLDSMITH
(スペインQuartet Records / QR286)
1973年製作のフランス=アメリカ合作映画(日本公開は1974年3月)。監督は「大将軍」(1965)「猿の惑星」(1968)「パットン大戦車軍団」(1970)「ニコライとアレクサンドラ」(1971)等のフランクリン・J・シャフナー(1920〜1989)。出演はスティーヴ・マックィーン、ダスティン・ホフマン、ヴィクター・ジョリイ、ドン・ゴードン、アンソニー・ザーブ、ロバート・デマン、ウッドロー・パーフレリー、ビル・マミー、ジョージ・クーラリス、ラトナ・アッサン、ウィリアム・スミサーズ、ヴァル・アヴェリー、グレゴリー・シエラ、リチャード・ファーンズワース、ダルトン・トランボ他。アンリ・シャリエール(1906〜1973)による自身の体験を基にした実録小説を基に「ローマの休日」(1953)「スパルタカス」(1960)「栄光への脱出」(1960)「いそしぎ」(1965)「ダラスの熱い日」(1973)等の脚本や「ジョニーは戦場へ行った」(1971)等の監督・脚本を手がけたダルトン・トランボ(1905〜1976)と「パララックス・ビュー」(1974)「コンドル」(1975)「キングコング」(1976)「ネバーセイ・ネバーアゲイン」(1983)等のロレンツォ・センプル・Jr(1923〜2014)が脚本を執筆。撮影はフレッド・コーネカンプ。
1930年代初頭。胸に彫られた蝶の刺青から“パピヨン”と呼ばれたアンリ・シャリエール(マックィーン)が、大勢の囚人と共にフランスの刑務所から仏領ギアナの監獄に送られてきた。罪状は殺人だったが、実際には金庫破りしかしていない彼には、国籍剥奪の上に二度と生きては帰れぬ劣悪な環境の監獄に追放されることが納得できなかった。債券偽造で有罪となったルイ・ドガ(ホフマン)と知り合ったシャリエールは、脱走に必要な金を工面するために、ドガの金を狙う囚人から彼の生命を守ることを約束する。サン・ローランの監獄に放り込まれた2人は、ジャングル奥地の強制労働キャンプに送られる。数日後、看守に殴られるドガをかばったシャリエールは、銃弾を浴びせられ、川へ飛び込んで逃亡を図る。だが、無計画だったために捕まり、サン・ローラン西方の沖合いにあるサン・ジョセフ島に2年間の島送りとなった。そこは“人喰い牢”と呼ばれる恐ろしい独房だった……。製作費は約1200万ドル。全世界興行収入は約5327万ドル。1973年度アカデミー賞の作曲賞にノミネートされている。原作者のアンリ・シャリエールは、この映画のジャマイカでの撮影に立ち会っていたが、肺がんのために1973年に亡くなったため、完成した映画を見ることはなかった。
音楽は、フランクリン・J・シャフナー監督と「七月の女」(1963)「猿の惑星」(1968)「パットン大戦車軍団」(1970)「海流のなかの島々」(1977)「(未公開)ブラジルから来た少年」(1978)「(未公開)LIONHEART」(1987)でも組んでいるジェリー・ゴールドスミス(1930〜2004)。彼らが手がけた全7作品は、ヒッチコック=ハーマン、トリュフォー=ドルリュー、スピルバーグ=ウィリアムス等と並ぶ「監督=作曲家」のベスト・コラボレーションの1つと考えられている。ゴールドスミスはシャフナーと組んだ「猿の惑星」「パットン大戦車軍団」「パピヨン」「(未公開)ブラジルから来た少年」で4度アカデミー賞にノミネートされており、彼自身どのスコアも自分の作曲家としての成長におけるターニングポイントになったと述べている。私はUCLAで開催されたシャフナー監督とゴールドスミスの公開講座を聴講する機会があったが、その際の2人の会話からも長年にわたる強い信頼関係が感じられた。
このスコアは、公開当時の1973年に米Capitolレーベルから全10曲/約35分収録のサントラLP(Capitol Records
ST-11260)が出ており、各国で同じ内容のサントラ盤が出ていたが、1988年にイギリスのSilva ScreenレーベルがLPと同内容のCD(Silva
Screen FILMCD 029)、2002年にフランスのUniversalレーベルが全15曲/約45分半収録のCD(Universal Music
France 017
179-2)をリリースした。その後、2017年にスペインのQuartetレーベルがコンプリート・スコアをリミックス/リマスターした全27曲/約71分収録で1000枚限定プレスのCD(Quartet
Records QR286)を出したが、今回同じQuartetレーベルが2024年6月にリリースしたこのCDは、2017年盤の再発盤となっている。
「Theme from Papillon」は、“モンマルトル風”のワルツで、ハープシコードによるイントロからアコーディオンによるメランコリックなメインの主題へと展開し、ストリングス、ホルン、木管楽器が加わってドラマティックに盛り上がっていく。ゴールドスミスが作曲した数多い主題の中でも最もポピュラーな曲の1つだろう。このアコーディオンによるメインの主題は「The
Camp」「The Dream」「Papillon (Theme Variation)」「Cruel Sea」「Farewell—Part 2」等でも繰り返される。「Catching
Butterflies (Extended Version)」は、メインの主題を織り込んだ軽快で快活なタッチの曲。「Hospital」は、静かにドラマティックなタッチからオーボエによるメインの主題へ。「Freedom」は、大らかでドラマティックな主題から重厚でダイナミックなタッチ、メインの主題、ラテン調の明るい主題へと展開。「New
Friend」「Antonio's Death」は、ゴールドスミスらしいハイテンションでダイナミックなサスペンスアクション音楽。「Gift
from the Sea (Film Version)」は、フルートをフィーチャーしたややエキゾチックでジェントルな曲。「The
Pearl」は、ドラマティックなサスペンス音楽。「Reunion」は、静かにドラマティックなタッチからフルートとハープによるメインの主題へ。「The
Garden」「Farewell—Part 1」も、メインの主題のバリエーションで、後者は後半ドラマティックに盛り上がる。「End
Title」は、重厚かつドラマティックでサスペンスフルなエンドタイトル。
この後は、劇中のソース曲として、小太鼓による「Field
Drums」、軽快なマーチ「Triumphant Parade」「Dance of the Nubian Slaves (from Faust
)」「Cleopatra's Variations (from Faust )」「Phryne's Dance (from Faust )」、ソフトなダンスミュージック「J'ai
Deux Amours」「Sous les Toits de Paris」を、ボーナストラックとして「The Dream
(Alternate)」「Freedom (Alternate)」の代替テイク、インド生まれのイギリスの歌手エンゲルベルト・フンパーディンク(1936〜)のヴォーカルによる英語版主題歌「Free
as the Wind」(歌詞:ハル・シェイパー)を収録。
オーケストレーションはアーサー・モートン、ソース曲の編曲はアレクサンダー・カレッジ。
(2024年9月)
Jerry Goldsmith
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