ネレトバの戦い BITKA NA NERETVI

作曲・指揮:バーナード・ハーマン
Composed and Conducted by BERNARD HERRMANN

演奏:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
Performed by the London Philharmonic Orchestra

欧州版組曲作曲:ウラジミール・クラウス=ライテリッチ
European Suite Composed by VLADIMIR KRAUS-RAJTERIC

(米Dragon's Domain Records / DDR878)

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1969年製作のユーゴスラヴィア=西ドイツ=アメリカ=イタリア=フランス=クロアチア合作映画(英語題名は「THE BATTLE OF NERETVA」)。監督は「夕焼けの戦場」(1962)等を手がけたユーゴスラヴィア出身のヴェリコ・ブライーチ(1928〜2024)。出演はユル・ブリンナー、ハーディ・クリューガー、フランコ・ネロ、シルヴァ・コシナ、オーソン・ウェルズ、クルト・ユルゲンス、アンソニー・ドーソン、ミレナ・ドラヴィッチ、セルゲイ・ボンダルチュク、リュビシャ・サマルディッチ、バタ・ジヴォイノヴィッチ、ボリス・ドヴォルニク、オレグ・ヴィドフ、シャルル・ミヨー他。ステバン・ブライッチとラトコ・デュロヴィッチの原案を基に、ラトコ・デュロヴィッチ、ステバン・ブライッチ、ヴェリコ・ブライーチとウーゴ・ピロが脚本を執筆。撮影はトミスラフ・ピンター。

第二次世界大戦中の1943年、ユーゴスラヴィアでは人民解放軍(パルチザン)の激烈な抵抗が続いていた。これに業をにやしたドイツのアドルフ・ヒトラー総統は、ユーゴ・パルチザン壊滅の“ワイス作戦”を命じ、ローリング将軍(ユルゲンス)とイタリアのモレッリ将軍(ドーソン)が作戦の指揮を執ることになった。これにセルビア王党派(チェトニック)の評議員(ウェルズ)が組織した部隊も加わり、総勢約15万人の軍隊による総攻撃が始まった。ドイツ軍のクランツァー大佐(クリューガー)の巧みな戦術によって、パルチザンの主力は後退をよぎなくされた。約3万人のパルチザンと避難民たちは、砲兵隊の指揮官マルチン(ボンダルチュク)、工兵隊の指揮官ヴラド(ブリンナー)、イタリア軍から加わったリヴァ大尉(ネロ)たちの活躍によって、どうにか壊滅をまぬがれていた。全力の抵抗にかかわらず、ネレトバ河流域に追いつめられたパルチザン軍は、唯一残された退路である鉄橋を爆破するのだった……。ユーゴスラヴィアが国家的規模で製作した戦争映画で、当時のヨシップ・ブロズ・チトー大統領が個人的に製作費(約12百万ドル)を承認したという。

175分のオリジナル版(ディレクターズ・カット版)には、「夕焼けの戦場」(1963)「集団突撃」(1965)等のユーゴスラヴィア出身の作曲家ウラジミール・クラウス=ライテリッチ(1924〜1996)によるスコアがつけられていたが、海外配給用に大幅に再編集された102分のバージョンには、アルフレッド・ヒッチコック監督作品とのコラボレーション等で知られるアメリカの作曲家バーナード・ハーマン(1911〜1975)が全く新しいスコアを作曲し、120人編成のロンドン・フィルハーモニーを指揮して録音した。ハーマン作曲のスコアは、1975年に米Entr'acteレーベルから全11曲/約31分収録のサントラLP(Entr'acte ERS 6501-ST)が出ており、その後、1987年にオーストラリアのSouthern Crossレーベルからボーナストラック1曲を追加したCD(Southern Cross SCCD 5005)が出ていたが、2025年5月にDragon's DomainレーベルがリリースしたこのCDには、ハーマン作曲の11曲、Southern Cross盤と同じボーナストラック1曲、ウラジミール・クラウス=ライテリッチ作曲による欧州版組曲3曲の全15曲/約46分を収録。限定プレス。

バーナード・ハーマンによる「Prelude」は、激しいパーカッションの連打によるイントロから東欧調でストイックかつダイナミックなメインの主題へと展開する前奏曲。「The Retreat」は、ファンファーレ風のブラスからダークでトラジックなマーチ調の主題へと展開。「Separation」「Farewell」「The Death of Danica」は、ドラマティックでトラジックなタッチの曲。「From Italy」「Pastorale」は、ジェントルでリリカルなタッチの曲。「Chetniks' March」「Partisan March」は、いずれもストイックでダイナミックなマーチで、まさに“ヴィンテージ・ハーマン”。「The Turning Point」は、パーカッシヴでパワフルかつダイナミックなアクション音楽から後半メインの主題へと展開する曲で、ハーマンの真骨頂。「Victory」は、ダークでトラジックなマーチ調の主題からメインの主題へと展開する終曲。

ボーナス・トラックは、ローランド・ショー・オーケストラの演奏によるパルチザン兵士ダニカ(コシナ)の主題「Danica's Theme」で、アコーディオンをフィーチャーしたトラジックな主題のポップなアレンジメント。

ウラジミール・クラウス=ライテリッチ作曲による欧州版組曲(BATTLE OF NERETVA EUROPEAN SUITE)は、「Part 1」「Part 3」がメランコリックでドラマティックなタッチ、「Part 2」がダークでストイックなマーチ調の曲。劇中ではアクション・シーンよりも人間ドラマの描写を主体に音楽がつけられており、全体に陰鬱なタッチ。音質はあまりよくない。

ウラジミール・クラウス=ライテリッチは、ユーゴスラヴィとクロアチアの映画やテレビシリーズの音楽を手がけた作曲家で、彼は1943年から1948年にかけて作曲家のイヴォ・キリギンに個人的に師事した。多数のドキュメンタリーやアニメーション映画に加え、1972年までに16本の長編映画のスコアを手がけた。また、Jadran Filmのサウンドスタジオで長年音楽監督を務めていた。

(2025年9月)

Bernard Herrmann

Vladimir Kraus-Rajterić

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