素晴らしき哉、人生!
IT'S A WONDERFUL LIFE
作曲:ディミトリ・ティオムキン
Composed by DIMITRI TIOMKIN
クリスマス・キャロル
A CHRISTMAS CAROL
作曲:リチャード・アディンセル
Composed by RICHARD ADDINSELL
三十四丁目の奇蹟
MIRACLE ON 34TH STREET
作曲・シリル・J・モックリッジ
Composed by CYRIL J. MOCKRIDGE
指揮:デヴィッド・ニューマン
Conducted by DAVID NEWMAN
演奏:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
Performed by The Royal Philharmonic Orchestra
アンブロージアン合唱団(コーラス・マスター:ジョン・マッカーシー)
Ambrosian Singers(JOHN McCARTHY, Chorus Master)
(米Telarc/CD-88801)SUNDANCE FILM MUSIC SERIES Vol.1
これは、ロバート・レッドフォードの主宰するサンダンス・インスティテュートが'88年にプロデュースした「SUNDANCE FILM MUSIC SERIES」の記念すべき第一弾で、このシリーズは楽譜が失われてしまった古い映画音楽のスコアを再構築(Reconstruct)し、一流オーケストラの演奏によりデジタル録音で再現していくという、非常に高尚な目的をもったプロジェクトだった。が、残念ながら、古いスコアをリサーチし、リコンストラクトし、新規に録音するという莫大なコストをカバーするほど、このVol.1のアルバムが売れなかったせいか、最初のリリースから10年以上たった今でもVol.2は実現していない(因みに、古いスコアのリコンストラクション・新規録音にはドイツのMarco Poloレーベル等も取り組んでいる)。
このSUNDANCEのシリーズのVol.1はクリスマスをテーマにしたクラシック・フィルム・スコアのコンピレーションで、以下のような曲目となっている。
<収録曲>
Sundance Fanfare (David Newman) (0:40)
It's a Wonderful Life (Dimitri Tiomkin) - Suite of 10 cuts (38:33)
A Christmas Carol (Richard Addinsell) - Suite (14:08)
Miracle on 34th Street (Cyril J. Mockridge) - Suite of 4 cuts (11:00)
オーケストラの指揮を担当しているのはデヴィッド・ニューマンで、このアルバム用に冒頭の「サンダンス・ファンファーレ」も作曲している。的確で職人的な指揮ぶりも良いが、このわずか40秒のファンファーレが、非常に格調高く素晴らしい。彼の父親である巨匠アルフレッド・ニューマンが作曲した有名な20世紀フォックス社のファンファーレも、「三十四丁目の奇蹟」組曲の冒頭に収録されている。
素晴らしき哉、人生! IT'S A WONDERFUL LIFE
作曲:ディミトリ・ティオムキン
Composed by DIMITRI TIOMKIN
「或る夜の出来事」('34)「オペラハット」('36)「スミス都へ行く」('39)「群衆」('41)「毒薬と老嬢」('44)等で知られる名匠フランク・キャプラが'46年に監督した不朽の名作。アメリカでは多くの人々に愛され続けている名画であり、今でも毎年クリスマスシーズンにはTVで放映されている。フィリップ・ヴァン・ドーレン・スターンがクリスマスカード用に書いた短編小説"The Greatest Gift"を、キャプラとフランセス・グッドリッチ、アルバート・ハケット、ジョー・スワーリングが脚色。撮影はジョセフ・ウォーカーとジョセフ・バイロックが担当。出演はジェームズ・ステュワート、ドナ・リード、ライオネル・バリモア、ヘンリー・トラヴァース、トーマス・ミッチェル、ボーラ・ボンディ、フランク・フェイレン、ウォード・ボンド、グロリア・グレアム、H・B・ワーナー、フランク・アルバートソン、トッド・カーンズ、サミュエル・S・ハインズ、メアリー・トリーン、シェルドン・レオナード、エレン・コービー他。小さな町で父の営む零細金融会社を継いで倹しく暮らすジョージ・ベイリー(ステュワート)には、町を飛び出してもっと大きな仕事を手がけてみたいという夢があるが、人生の様々な転機でツキに見放され実現できないでいる。善意に溢れたジョージは町の人々からも愛されるが、逆境は続き、ついに会社の経営に破綻をきたすほどの大金を失った彼は、絶望のどん底に落ち、雪の降る中を冷たい河に身を投げて自殺を図ろうとする。一方で、天国から彼の生涯を見ていた天使たちは、見習い中の天使クラレンス(トラヴァース)を地上に送り込み、ジョージを助けることが出来れば、真の天使の証である羽根を与えてやるという。ジョージを自殺から救ったクラレンスは、「自分など存在している意味はない」と投げやりになるジョージを説得するために、あることを思い付く・・・。
この映画の音楽を担当したのは、ハリウッドの黄金期を支えた大作曲家の一人、ディミトリ・ティオムキン(1899〜1979)である。キャプラ監督とは、「失はれた地平線」('37)「我が家の楽園」('38)「スミス都へ行く」('39)「群衆」('41)等でも組んでおり、その他にも、アルフレッド・ヒッチコック監督の「疑惑の影」('42)「見知らぬ乗客」('51)「私は告白する」('53)「ダイヤルMを廻せ!」('54)、ハワード・ホークス監督の「赤い河」('48)「遊星よりの物体X」('51/ホークスが製作)「ピラミッド」('55)「リオ・ブラボー」('59)や、「真昼の決闘」('52)「紅の翼」('54)「ジャイアンツ」('56)「友情ある説得」('56)「OK牧場の決斗」('57)「世界の楽園」('57)「老人と海」('58)「アラモ」('60)「ナバロンの要塞」('61)「北京の55日」('63)「ローマ帝国の滅亡」('64)等の名作を多数手がけている。
この「素晴らしき哉、人生!」にティオムキンの書いたスコアは、公開直前に映画会社(RKO)によって大幅に削除され、一部はロイ・ウェッブ、リー・ハーライン、アルフレッド・ニューマン等の書いた既製のライブラリー・ミュージックに置き換えられてしまった。このアルバムに収録されているのは、ティオムキン自身の指揮者用楽譜からリコンストラクトされたコンプリート・スコアで、最終的に映画では使用されなかった音楽も含んでいる。有名なクリスマスソングや「バッファロー・ギャルズ」等の既製曲を巧みに組込んだティオムキンらしいドラマティック・スコアで、特にメインタイトルやラブ・シークエンスに流れるラブ・テーマが実にロマンティックで美しい。ジョージの運命が暗転し、奈落の底に落ちて行くシーンでは、音楽は不吉に暴力的に響く。ラストで見習い天使のクラレンスは、ジョージを説得するために「彼が生まれてこなかった世界」を再現してみせる。子供の頃に命を助けたはずの弟が死んでおり、彼の金融会社もなく、誰も彼のことを知らない墜落した町をジョージがさまよい歩くシーンでは、音楽は幻想的に響く。自分の存在意義を再認識した彼は、クラレンスに元の世界に戻してもらうように言い、懐かしい家族の待つ自宅へと走る。ラストはかつてジョージに助けられた町の人々が彼の危機を知って駆け付け、全員が少しずつ献金して彼を窮地から救うという極めて感動的なシーンとなる。このラストシーンにティオムキンが書いた音楽は、彼自身の作曲によるラブ・テーマと、「きよしこの夜」「ジングルベル」といったクリスマスソングを交互に組合わせ、最後にベートーベンの第九交響曲「歓喜の歌」の有名なフレーズで締めくくるという、この上なく感動的なフィナーレとなっている。
作曲:リチャード・アディンセル
Composed by RICHARD ADDINSELL
チャールズ・ディケンズの有名な原作小説はこれまでに何度も映画化されているが、この'51年製作のイギリス映画(イギリスでの原題名は「SCROOGE」)は、映画化作品中の最高傑作と言われている。監督はブライアン・デズモンド・ハースト。脚本はノエル・ラングレイが担当。出演はアリステア・シム、ジャック・ワーナー、キャサリーン・ハリソン、メルヴィン・ジョンズ、ハーミオン・バッデリー、クリフォード・モリソン、マイケル・ホーダーン、ジョージ・コール、キャロル・マーシュ、マイルス・マルソン、アーネスト・テシガー、ハティ・ジャックス、ピーター・ブル、ヒュー・デンプスター、パトリック・マクニー他。
音楽は「ワルソー・コンチェルト」で有名なイギリスの作曲家リチャード・アディンセル(1904〜1977)が担当。元々はクラシック音楽の作曲家だが、「無敵艦隊」('37)「陽気な幽霊」('45)「山羊座の下に」('49)「王子と踊り子」('57)「二都物語」('57)「ローマの哀愁」('61)「女になる季節」('61)「戦う翼」('62)等の映画音楽も手がけている。「ワルソー・コンチェルト」は、アディンセルが「(未公開)Dangerous Moonlight」('41)という映画の為に書いたピアノ協奏曲で、これまでにも様々な演奏が録音されているが、この曲以外の映画音楽はほとんどアルバムになっていない。
この「クリスマス・キャロル」のスコアは、ディケンズ的なダークな雰囲気の劇伴音楽に、「Hark the Herald Angels Sing」や「きよしこの夜」等のクリスマスソングを散りばめたクラシカルな傑作。因みにアディンセルの音楽は下記のコンピレーション・アルバム(新規録音)でも聴くことができる。
「British Light Music: Richard Addinsell」 (独Marco Polo / 8.223732)'94
Kenneth Alwyn conducts BBC Concert Orchestra
(Goodbye Mr. Chips, Ring Round the Moon, The Smokey Mountains, The Isle of Apples, The Price and the Showgirl, Tune in G, Tom Brown's Schooldays, Festival, Journey to Romance, Fire Over England, A Tale of Two Cities)
「Music of Richard Addinsell」 (英ASV / CD WHL 2108)'97
Kenneth Alwyn conducts Royal Ballet Sinfonia
(Warsaw Concerto, Sea Devils, The Day Will Dawn, Blithe Spirit, Highly Dangerous, Greengage Summer, Invocation, The Lion Has Wings, The Passionate Friends, Under Capricorn, Out of the Clouds, March of the United Nations)
三十四丁目の奇蹟 MIRACLE ON 34TH STREET
作曲:シリル・J・モックリッジ
Composed by CYRIL J. MOCKRIDGE
ヴァレンタイン・デイヴィスの原作を基にした、ジョージ・シートン監督・脚本による'47年製作の名作。撮影はチャールズ・クラークとロイド・エイハーンが担当。出演はモーリン・オハラ、ジョン・ペイン、エドマンド・グウェン、ナタリー・ウッド、ジーン・ロックハート、ポーター・ホール、ウィリアム・フローリイ、セルマ・リッター、ジャック・アルバートソン、ジェフ・コーリイ、ジェローム・コーワン他。ニューヨークのメイシー百貨店の感謝祭パレードでサンタクロースの役を演じるクリス・クリングル老人(グウェン)を描いた心温まる感動作。'94年にはリチャード・アッテンボロー主演でリメイクされた(こちらのスコアはブルース・ブロートン)。
音楽を担当したシリル・J・モックリッジ(1896〜1979)はイギリス出身の作曲家で、ハリウッドでは永年20世紀フォックスで活躍したベテラン。'39年にバシル・ラスボーン主演のシャーロック・ホームズ映画の音楽を書いたりしているが、有名な作品にはジョン・フォード監督の「荒野の決闘」('46)「リバティ・バランスを射った男」('62)「ドノバン珊瑚礁」('63)や、「彼女は二挺拳銃」('50)「帰らざる河」('54)等がある。
この「三十四丁目の奇蹟」の音楽は、アルフレッド・ニューマン作曲の20世紀フォックスのファンファーレに続いて、軽快なタッチのメインタイトルで始まる。「ジングルベル」を主人公のクリングル老人のテーマとして効果的に使用した、非常にオーソドックスなドラマティック・アンダースコアで、ベテラン作曲家らしい職人的な手堅い仕事ぶりである。
('99年12月24日)
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