サー・ウィリアム・ウォルトン映画音楽集(リチャード三世、ヘンリィ五世、スピットファイアー)
SIR WILLIAM WALTON: RICHARD III, HENRY V, SPITFIRE

作曲・指揮:サー・ウィリアム・ウォルトン
Composed and Conducted by SIR WILLIAM WALTON

演奏:フィルハーモニア管弦楽団
Performed by the Philharmonia Orchestra

台詞朗読:サー・ローレンス・オリヴィエ
SIR LAURENCE OLIVIER (Speaker)

(英EMI Classics / CDM 5 65007 2)

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<収録曲>

 

これはイギリスのEMI Classicsレーベルによる「British Composers」シリーズの1枚で、クラシックのアルバムとしてリリースされている。ウィリアム・ウォルトンは映画音楽作曲家である以前に、20世紀イギリスを代表するクラシック音楽の作曲家として有名である(彼の交響曲、協奏曲等の作品はイギリスのChandosレーベルから全曲が録音されてリリースされている)。

ウォルトンが手がけた映画音楽の中では、何といってもイギリスの名優ローレンス・オリヴィエとのコラボレーションによるシェークスピア映画の三部作が有名である。いずれもオリヴィエ監督・主演によるイギリス映画で、1作目の「ヘンリィ五世」(1945)にはロバート・ニュートン、レスリー・バンクス、レニー・アシャーソン、エスモンド・ナイト、レオ・ゲン、フェリックス・アイルマー他が共演、2作目の「ハムレット」(1948)にはアイリーン・ハーリー、ベイシル・シドニー、フェリックス・アイルマー、ジーン・シモンズ、スタンリー・ホロウェイ、ピーター・クッシング他が共演、そして3作目の「リチャード三世」(1955)にはジョン・ギールガッド、ラルフ・リチャードソン、クレア・ブルーム、アレック・クルーンズ、セドリック・ハードウィック、スタンリー・ベイカー、マイケル・ゴーフ他が共演した。

このアルバムに収録されている「ヘンリィ五世」と「リチャード三世」の音楽(前奏曲と組曲)は純粋なサントラではないが、作曲家自身の指揮により1963年に録音された貴重な演奏であり、これらの曲の数ある演奏中でも決定版と言える。

栄光に満ちたファンファーレに続く躍動的なイントロダクションから、この上なく優雅で勇壮なマーチへと展開する「リチャード三世」「Prelude」や、「ヘンリィ五世」組曲中の美しい「Touch her soft lips and part」、華麗で荘厳な「Agincourt Song」等、ウォルトンの音楽はどの曲も極めてドラマティックで格調高い。また、最後に収録された「ヘンリィ五世」の映画の抜粋(これのみ1946年の録音)では、ウォルトンの音楽とともにオリヴィエの名調子を聴くことができる。

「"スピットファイア" 前奏曲とフーガ」はコンサート等でよく演奏されるウォルトンの名曲で、個人的にも大好きな曲だが、彼の得意とする優雅なマーチによる前奏曲が素晴らしい。これは「(未公開)スピットファイアー Spitfire/The First of the Few」というレスリー・ハワード監督・主演による1942年製作のイギリス映画のために作曲された音楽だが、この映画は第二次大戦中の「イギリスの戦い」でドイツ空軍の攻撃からイギリス本土を守った名戦闘機スピットファイアの設計者であるR・J・ミッチェルを描いた伝記もの。共演はデヴィッド・ニーヴン、ロザムンド・ジョン、ローランド・カルヴァー、アン・ファース、デヴィッド・ホーン他。

ウォルトンは晩年に、同じ「イギリスの戦い」を題材にしたガイ・ハミルトン監督の戦争映画「空軍大戦略」の音楽も手がけているが、製作者側は彼の作曲したスコアを気に入らず、ロン・グッドウィンを雇って音楽を全て書き直させた。ところがこの映画の出演者の1人であったローレンス・オリヴィエが、ウォルトンのスコアを使用しないのなら自分の名前もクレジットから削除せよと製作者側に迫ったため、空中戦シーンにウォルトンが書いた「Battle in the Air」だけは実際の映画でそのまま使用された(逆にグッドウインは、同じ映画の中でウォルトンの書いたスコアと比較されるのを嫌い、音楽が全てリプレースされることを条件に引き受けたらしいので、双方にとってUnhappyな結果となった)。このグッドウィンのスコアとウォルトンの未使用スコアの両方を収録したCDがRYKOレーベルからリリースされているが、いずれも素晴らしい音楽である。

 

尚、ウォルトンによるシェークスピア映画音楽の新録音には、上述のChandosレーベルからリリースされている「Sir William Walton's Film Music」シリーズに以下の名演がある。

Sir William Walton's Film Music Vol.1(英Chandos / CHAN 8842)(1990)
「ハムレット」(編曲:クリストファー・パルマー/全14曲)
HAMLET - A Shakespeare Scenario (arranged by Christopher Palmer)
台詞朗読:サー・ジョン・ギールガッド
Sir John Gielgud (Narrator)

Sir William Walton's Film Music Vol.3(英Chandos / CHAN 8892)(1990)
「ヘンリィ五世」(編曲:クリストファー・パルマー/全13曲)
HENRY V - A Shakespeare Scenario (arranged by Christopher Palmer)
台詞朗読:クリストファー・プラマー
Christopher Plummer (Narrator)

Sir William Walton's Film Music Vol.4(英Chandos / CHAN 8841)(1991)
「リチャード三世」(編曲:クリストファー・パルマー/全10曲)
RICHARD III - A Shakespeare Scenario (arranged by Christopher Palmer)
台詞朗読:サー・ジョン・ギールガッド
Sir John Gielgud (Narrator)

サー・ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団
Sir Neville Marriner conducting the Academy of St.Martin in the Fields

 

最近では、ケネス・ブラナーが「ヘンリー五世」(1989)や「ハムレット」(1996)を自ら監督・主演により製作し、"オリヴィエの再来"などと呼ばれているが、映画自体の出来はともかく、若き日のオリヴィエはブラナーよりもずっと男前で端整な顔立ちをしており、"再来"という評価はあまりふさわしくないような気がする。ただ、ブラナーの作品に毎回素晴らしい音楽を提供しているパトリック・ドイルは、"ウォルトンの再来"とはいかないまでも、非常に優れた仕事をしていると思う。
(2000年4月)

William Walton

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