エジプト人 THE EGYPTIAN

作曲・指揮:アルフレッド・ニューマンバーナード・ハーマン
Composed and Conducted by ALFRED NEWMAN and BERNARD HERRMANN

(米Film Score Monthly / FSM Vol.4 No.5)


20世紀フォックス社の名プロデューサー、ダリル・F・ザナックが製作し、「ロビンフッドの冒険」(1938)「シー・ホーク」(1940)「カサブランカ」(1942)「俺たちは天使じゃない」(1955)等の職人監督マイケル・カーティスが1954年に撮った歴史ドラマ。出演はエドマンド・パードム、ヴィクター・マチュア、ジーン・シモンズ、ジーン・ティアニー、ベラ・ダルヴィ、マイケル・ワイルディング、ピーター・ユスティノフ、マイケル・アンサラ、ジョン・キャラディーン他。ミカ・ワルタリの原作を基にフィリップ・ダンとケイシー・ロビンソンが脚本を執筆。撮影はレオン・シャムロイ(1954年度アカデミー賞にノミネートされた)。古代エジプトの第十八帝国を舞台に、病弱な国王(ワイルディング)の医者となった男(パードム)が、王室の陰謀に巻き込まれていく様を描くドラマ。ザナックは当初主役にマーロン・ブランドをキャストしようと画策していたが、ブランドが頑なに拒んだため、無名の英国俳優エドマンド・パードムを主役に抜擢した。ザナックの熱意にもかかわらず、脚本がまずかったことと、監督のカーティスにあまりやる気がなかったことで、映画自体の評価は高くない。

映画音楽ファンにとって、この「エジプト人」アルフレッド・ニューマンバーナード・ハーマンという大物作曲家2人が音楽を共作している点で最もよく知られている(今で言えばジェリー・ゴールドスミスとジョン・ウィリアムスが単独の作品で共作するようなものである)。このCDのライナーノーツによると、ザナックはフォックスの音楽部長だったニューマンに作曲を依頼したが、その時点で彼が「ショウほど素敵な商売はない」の音楽をアサインされていたため、急遽ハーマンが作曲家として起用されたらしい。ところが映画の公開日が2週間半前倒しにされたため、100分以上のスコアを5週間半で作曲しなければならないことを知ったハーマンが、ニューマンに共同作業を提案したという。ニューマンはこれを受けて、「ショウほど・・」の作業を終了次第、この「エジプト人」の作曲に参加した。バーナード・ハーマンは強靭なエゴと激しい気性の持ち主として業界でも恐れられていた人物で、その彼が他人と作曲を共同で行うなどちょっと考えられないことだったが、このような共作が実現したのは、彼がアルフレッド・ニューマンとこの時点で11年も一緒に働いており、音楽家としてのニューマンを非常に尊敬していたからだと考えられる。実際にここでハーマンはニューマンの書いたいくつかの主題を自分のスコアに取り込んで作曲しており、ニューマン作曲の部分とハーマン作曲の部分がほぼシームレスにつながっている曲もある(ただこの2人は各自の作曲の作業中、何度かの電話での会話を除いてはたった2回しか会っていないという)。

事前のリサーチと打合せによりスコアに使われる旋法や音階を予め決めておいたため、スコア全体の雰囲気は驚くほど統一されているが、それでもハーマンとニューマンの強い個性はそれぞれの曲に明らかに現われている。ハーマン作曲の「The Chariot Ride / Pursuit」「The Homecoming」等はダイナミックなブラスやパーカッション、豪快なフレーズがいかにも彼らしい。一方、ニューマン作曲の「Valley of the King」「Hymn to Aton」「Death of Akhnaton」等は荘厳で深遠なタッチで、彼が手がけた「聖衣」等のスコアを想起させる。ハーマンによる最も激しいアクションキューの「Danse Macabre」と、ニューマンによるアクションキュー「Death of Merit」が連続する部分は圧巻。冒頭の「Prelude」はニューマンの作曲した主題をベースにハーマンが作曲しているが、神秘的なコーラスが美しい。

このスコアについては、以前に米DeccaレーベルからサントラLPが出ており、これと同じ内容のCDが米Varese Sarabandeレーベルからもリリースされていたが、これはアルフレッド・ニューマンがより小編成のオーケストラを指揮して再録音したもので、サントラ音源ではなかった。サントラの音源は保存状態が悪く、これをアルバム化するのは困難と考えられていたため、ドイツのMarco Poloレーベルではジョン・モーガンがリコンストラクトしたスコアを基に、ウィリアム・T・ストロンバーグ指揮モスクワ交響楽団の演奏で新たに録音したCDがリリースされた。今回FSMが唯一存在している24トラック・テープを再評価したところ、全体で100分以上のスコアの内約72分は鑑賞に耐え得る音質だったため、これをCD化してリリースしたのがここで紹介しているアルバムである。
(2001年6月)

Alfred Newman

Bernard Herrmann

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